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音楽と歌と睡魔と
工芸市場を抜けて少し歩いた先には広場があり、そこでは色んな楽器を手にした人たちが明るい音楽を奏でていた。
周りには観客がたくさんいて、手拍子をしたり身体を揺らしたりしてる。
みんなが楽しそうにしてるから興味が引かれて、人の間から覗くように見てたらルディウス様に抱き上げられた。驚いたけど、目線が高くなったおかげで演奏してる人たちが良く見えるようになった。
「わぁ⋯」
「音楽団だな。世界各国を旅しながら収入を得ているんだろう」
「世界各国なんて、凄いですね」
「楽器を持っての移動だから、大変だろうな」
僕は楽器にも音楽にも詳しくないけど、あの太鼓とか大きいから準備も片付けも一苦労だろうな。でも叩いてる人も他の人も笑顔だから、そういうの苦じゃないくらい楽しいのかもしれない。
一際背が高いルディウス様に抱っこされてる僕を周りの人がチラチラ見てる事なんて気付かずに音楽団を見てたら、曲が一段落したあと髪の長い綺麗な女の人が出て来て頭を下げた。
胸に手を当てて何かを呟いたあと、息を吸って歌い始める。
澄んだ歌声が広場に広がり、さっきまでの賑やかさが嘘みたいに静まり返った。
「綺麗⋯⋯」
「ああ、素晴らしいな」
ルディウス様に買って貰ったオルゴールみたいに心が安らいで、あろう事かさっきまでどこかにいっていた眠気が戻ってきた。
特に今はルディウス様に抱っこされてるし、ゆっくりで綺麗な歌声にちょっとでも気を抜いたら寝てしまいそう。
「どうした?」
「⋯いえ⋯」
閉じそうになる目を瞬きで誤魔化してたら、気付いたルディウス様に聞かれて慌てて首を振る。
せっかくルディウス様と街に来てるのに、寝落ちるなんて絶対やだ。
「眠そうな顔をしているな」
「ね、眠くないです」
「そんな目で言われても、説得力がないぞ」
そう言ってルディウス様が僕の目元を親指で撫でるからそのまま目を閉じてしまいそうになり、止める為に手を握ると目が細められて軽く唇が触れ合った。
一瞬何が起こったのか分からなかったけど、ハッとして手で口を押さえたらクスリと笑われる。
「る、ルディウス様⋯」
「手を握られたからな」
「あ⋯」
そ、そういえば、手を握ったらいつもの、頬に触れたらあのドキドキする口付けをする合図って昨日決めたんだった。
こういうのもその合図になるのは予想外だったけど。
他の人の視線が恥ずかしくて俯いていたら、ルディウス様の唇が目蓋に触れてぎゅって抱き締められた。
「眠いなら寝ればいい。こうしていてやるから」
「でも⋯僕が寝たらルディウス様、退屈じゃないですか?」
「アルシエの寝顔が見られるんだ、退屈はしないな」
「お、重いし⋯」
「アルシエが重い訳ないだろう。むしろ軽過ぎて心配になる」
それはルディウス様が鍛えている騎士様だからだと思うけど⋯意識のない人間は重いって何かの本に書いてあったし。
でもルディウス様は本当に僕を寝かせるつもりらしく、昨日みたいに頭を撫で始めたから僕の目蓋がいよいよ重くなってきた。
「おやすみ、アルシエ」
寝たくないのに、そんな風に優しく囁かれてルディウス様の手に目元が覆われた僕は、抵抗なんて出来ずにあっさりと意識を手放した。
やっぱりルディウス様の手からは、睡眠魔法が出てるのかもしれない。
〈ルディウス視点〉
歌はまだ続いているが、アルシエは船の時のように私に抱かれ眠っている。
アルシエはどうもベッドが変わると眠れないタイプのようだな。可哀想だとは思うが、アルシエの寝顔が見られる事は素直に嬉しかったりする。
この街にも殿下と共に視察には訪れた事があり、その時ちょうど酒場で暴れていた男を捕らえたのだが、多少手荒にしてしまったせいか住人にはその時のイメージが残っているらしく向けられる視線は負の感情がこもったものばかりだ。
出来ればアルシエには気付かれたくないのだが。
「あの⋯」
歌よりもアルシエの寝顔に意識を向けていたら不意に声をかけられ、警戒しながら振り向いた私はそこに立つ怯えた女性を見て眉を顰めた。
見覚えのない女性は小刻みに震えている指を喧騒から外れた場所へ向け口を開く。
「あ、あそこのベンチ⋯空いてますので良ければ⋯」
「⋯ああ、ありがとう」
「い、いえ⋯」
アルシエは羽根のように軽いから立ったままでもいられるが、せっかく勧めてくれたのだから座るか。
頭を下げ走り去って行く女性の背中を見送り、示されたベンチへと腰を下ろす。
ストンと膝へ重みが落ち、小さく唸ったアルシエの手が私の服を掴んできた。
下ろされると思ったのかもしれないな。
「⋯アルシエが望まない限り、離したりはしないさ」
例え望んだとしても手放せる気はしないが。
それにしても、こうして公務関係なく街を歩くのは久し振りだ。アルシエがいなければ船旅などしようとも思わなかったから、今の状況は新鮮でそれなりに面白い。
結局アルシエは小さなオルゴール一つしか欲しいと言わなかったが、それでも意思表示が出来たのだから彼にとっては僥倖だろう。
そうしてどんどん我儘になればいい。
しばらくベンチから音楽団を眺めていた私だったが、このままアルシエの寝顔を晒していたくない私は立ち上がり宿へと向けて歩き出した。
リーネに任せて、私は少しばかり街の情勢確認でもして殿下に報告しておこう。
「ねぇ、あの方、リトルハイム公爵様よね?」
「ええ。確か、酒場のゴロツキの腕を折ったとか⋯」
「あれはでも、ゴロツキが子供を人質に取ろうとしたから⋯」
「恐ろしい方って噂もあるけど、奥様の前ではあんなに柔らかい顔をされるのね」
「意外だわ⋯もっとこう、亭主関白なタイプだと思ってた」
「何にせよ、思ったよりも怖くない方みたい」
「夫婦仲が良好なのはいい事よ」
こうして、眠るアルシエをお姫様抱っこで大事に連れ帰るルディウスの姿に、本人の預かり知らぬところで、アルシエが望んだように彼の株が上がっていくのだった。
周りには観客がたくさんいて、手拍子をしたり身体を揺らしたりしてる。
みんなが楽しそうにしてるから興味が引かれて、人の間から覗くように見てたらルディウス様に抱き上げられた。驚いたけど、目線が高くなったおかげで演奏してる人たちが良く見えるようになった。
「わぁ⋯」
「音楽団だな。世界各国を旅しながら収入を得ているんだろう」
「世界各国なんて、凄いですね」
「楽器を持っての移動だから、大変だろうな」
僕は楽器にも音楽にも詳しくないけど、あの太鼓とか大きいから準備も片付けも一苦労だろうな。でも叩いてる人も他の人も笑顔だから、そういうの苦じゃないくらい楽しいのかもしれない。
一際背が高いルディウス様に抱っこされてる僕を周りの人がチラチラ見てる事なんて気付かずに音楽団を見てたら、曲が一段落したあと髪の長い綺麗な女の人が出て来て頭を下げた。
胸に手を当てて何かを呟いたあと、息を吸って歌い始める。
澄んだ歌声が広場に広がり、さっきまでの賑やかさが嘘みたいに静まり返った。
「綺麗⋯⋯」
「ああ、素晴らしいな」
ルディウス様に買って貰ったオルゴールみたいに心が安らいで、あろう事かさっきまでどこかにいっていた眠気が戻ってきた。
特に今はルディウス様に抱っこされてるし、ゆっくりで綺麗な歌声にちょっとでも気を抜いたら寝てしまいそう。
「どうした?」
「⋯いえ⋯」
閉じそうになる目を瞬きで誤魔化してたら、気付いたルディウス様に聞かれて慌てて首を振る。
せっかくルディウス様と街に来てるのに、寝落ちるなんて絶対やだ。
「眠そうな顔をしているな」
「ね、眠くないです」
「そんな目で言われても、説得力がないぞ」
そう言ってルディウス様が僕の目元を親指で撫でるからそのまま目を閉じてしまいそうになり、止める為に手を握ると目が細められて軽く唇が触れ合った。
一瞬何が起こったのか分からなかったけど、ハッとして手で口を押さえたらクスリと笑われる。
「る、ルディウス様⋯」
「手を握られたからな」
「あ⋯」
そ、そういえば、手を握ったらいつもの、頬に触れたらあのドキドキする口付けをする合図って昨日決めたんだった。
こういうのもその合図になるのは予想外だったけど。
他の人の視線が恥ずかしくて俯いていたら、ルディウス様の唇が目蓋に触れてぎゅって抱き締められた。
「眠いなら寝ればいい。こうしていてやるから」
「でも⋯僕が寝たらルディウス様、退屈じゃないですか?」
「アルシエの寝顔が見られるんだ、退屈はしないな」
「お、重いし⋯」
「アルシエが重い訳ないだろう。むしろ軽過ぎて心配になる」
それはルディウス様が鍛えている騎士様だからだと思うけど⋯意識のない人間は重いって何かの本に書いてあったし。
でもルディウス様は本当に僕を寝かせるつもりらしく、昨日みたいに頭を撫で始めたから僕の目蓋がいよいよ重くなってきた。
「おやすみ、アルシエ」
寝たくないのに、そんな風に優しく囁かれてルディウス様の手に目元が覆われた僕は、抵抗なんて出来ずにあっさりと意識を手放した。
やっぱりルディウス様の手からは、睡眠魔法が出てるのかもしれない。
〈ルディウス視点〉
歌はまだ続いているが、アルシエは船の時のように私に抱かれ眠っている。
アルシエはどうもベッドが変わると眠れないタイプのようだな。可哀想だとは思うが、アルシエの寝顔が見られる事は素直に嬉しかったりする。
この街にも殿下と共に視察には訪れた事があり、その時ちょうど酒場で暴れていた男を捕らえたのだが、多少手荒にしてしまったせいか住人にはその時のイメージが残っているらしく向けられる視線は負の感情がこもったものばかりだ。
出来ればアルシエには気付かれたくないのだが。
「あの⋯」
歌よりもアルシエの寝顔に意識を向けていたら不意に声をかけられ、警戒しながら振り向いた私はそこに立つ怯えた女性を見て眉を顰めた。
見覚えのない女性は小刻みに震えている指を喧騒から外れた場所へ向け口を開く。
「あ、あそこのベンチ⋯空いてますので良ければ⋯」
「⋯ああ、ありがとう」
「い、いえ⋯」
アルシエは羽根のように軽いから立ったままでもいられるが、せっかく勧めてくれたのだから座るか。
頭を下げ走り去って行く女性の背中を見送り、示されたベンチへと腰を下ろす。
ストンと膝へ重みが落ち、小さく唸ったアルシエの手が私の服を掴んできた。
下ろされると思ったのかもしれないな。
「⋯アルシエが望まない限り、離したりはしないさ」
例え望んだとしても手放せる気はしないが。
それにしても、こうして公務関係なく街を歩くのは久し振りだ。アルシエがいなければ船旅などしようとも思わなかったから、今の状況は新鮮でそれなりに面白い。
結局アルシエは小さなオルゴール一つしか欲しいと言わなかったが、それでも意思表示が出来たのだから彼にとっては僥倖だろう。
そうしてどんどん我儘になればいい。
しばらくベンチから音楽団を眺めていた私だったが、このままアルシエの寝顔を晒していたくない私は立ち上がり宿へと向けて歩き出した。
リーネに任せて、私は少しばかり街の情勢確認でもして殿下に報告しておこう。
「ねぇ、あの方、リトルハイム公爵様よね?」
「ええ。確か、酒場のゴロツキの腕を折ったとか⋯」
「あれはでも、ゴロツキが子供を人質に取ろうとしたから⋯」
「恐ろしい方って噂もあるけど、奥様の前ではあんなに柔らかい顔をされるのね」
「意外だわ⋯もっとこう、亭主関白なタイプだと思ってた」
「何にせよ、思ったよりも怖くない方みたい」
「夫婦仲が良好なのはいい事よ」
こうして、眠るアルシエをお姫様抱っこで大事に連れ帰るルディウスの姿に、本人の預かり知らぬところで、アルシエが望んだように彼の株が上がっていくのだった。
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※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。