身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

文字の大きさ
58 / 133

音楽と歌と睡魔と

 工芸市場を抜けて少し歩いた先には広場があり、そこでは色んな楽器を手にした人たちが明るい音楽を奏でていた。
 周りには観客がたくさんいて、手拍子をしたり身体を揺らしたりしてる。
 みんなが楽しそうにしてるから興味が引かれて、人の間から覗くように見てたらルディウス様に抱き上げられた。驚いたけど、目線が高くなったおかげで演奏してる人たちが良く見えるようになった。

「わぁ⋯」
「音楽団だな。世界各国を旅しながら収入を得ているんだろう」
「世界各国なんて、凄いですね」
「楽器を持っての移動だから、大変だろうな」

 僕は楽器にも音楽にも詳しくないけど、あの太鼓とか大きいから準備も片付けも一苦労だろうな。でも叩いてる人も他の人も笑顔だから、そういうの苦じゃないくらい楽しいのかもしれない。
 一際背が高いルディウス様に抱っこされてる僕を周りの人がチラチラ見てる事なんて気付かずに音楽団を見てたら、曲が一段落したあと髪の長い綺麗な女の人が出て来て頭を下げた。
 胸に手を当てて何かを呟いたあと、息を吸って歌い始める。
 澄んだ歌声が広場に広がり、さっきまでの賑やかさが嘘みたいに静まり返った。

「綺麗⋯⋯」
「ああ、素晴らしいな」

 ルディウス様に買って貰ったオルゴールみたいに心が安らいで、あろう事かさっきまでどこかにいっていた眠気が戻ってきた。
 特に今はルディウス様に抱っこされてるし、ゆっくりで綺麗な歌声にちょっとでも気を抜いたら寝てしまいそう。

「どうした?」
「⋯いえ⋯」

 閉じそうになる目を瞬きで誤魔化してたら、気付いたルディウス様に聞かれて慌てて首を振る。
 せっかくルディウス様と街に来てるのに、寝落ちるなんて絶対やだ。

「眠そうな顔をしているな」
「ね、眠くないです」
「そんな目で言われても、説得力がないぞ」

 そう言ってルディウス様が僕の目元を親指で撫でるからそのまま目を閉じてしまいそうになり、止める為に手を握ると目が細められて軽く唇が触れ合った。
 一瞬何が起こったのか分からなかったけど、ハッとして手で口を押さえたらクスリと笑われる。

「る、ルディウス様⋯」
「手を握られたからな」
「あ⋯」

 そ、そういえば、手を握ったらいつもの、頬に触れたらあのドキドキする口付けをする合図って昨日決めたんだった。
 こういうのもその合図になるのは予想外だったけど。
 他の人の視線が恥ずかしくて俯いていたら、ルディウス様の唇が目蓋に触れてぎゅって抱き締められた。

「眠いなら寝ればいい。こうしていてやるから」
「でも⋯僕が寝たらルディウス様、退屈じゃないですか?」
「アルシエの寝顔が見られるんだ、退屈はしないな」
「お、重いし⋯」
「アルシエが重い訳ないだろう。むしろ軽過ぎて心配になる」

 それはルディウス様が鍛えている騎士様だからだと思うけど⋯意識のない人間は重いって何かの本に書いてあったし。
 でもルディウス様は本当に僕を寝かせるつもりらしく、昨日みたいに頭を撫で始めたから僕の目蓋がいよいよ重くなってきた。

「おやすみ、アルシエ」

 寝たくないのに、そんな風に優しく囁かれてルディウス様の手に目元が覆われた僕は、抵抗なんて出来ずにあっさりと意識を手放した。
 やっぱりルディウス様の手からは、睡眠魔法が出てるのかもしれない。



〈ルディウス視点〉

 歌はまだ続いているが、アルシエは船の時のように私に抱かれ眠っている。
 アルシエはどうもベッドが変わると眠れないタイプのようだな。可哀想だとは思うが、アルシエの寝顔が見られる事は素直に嬉しかったりする。
 この街にも殿下と共に視察には訪れた事があり、その時ちょうど酒場で暴れていた男を捕らえたのだが、多少手荒にしてしまったせいか住人にはその時のイメージが残っているらしく向けられる視線は負の感情がこもったものばかりだ。
 出来ればアルシエには気付かれたくないのだが。

「あの⋯」

 歌よりもアルシエの寝顔に意識を向けていたら不意に声をかけられ、警戒しながら振り向いた私はそこに立つ怯えた女性を見て眉を顰めた。
 見覚えのない女性は小刻みに震えている指を喧騒から外れた場所へ向け口を開く。

「あ、あそこのベンチ⋯空いてますので良ければ⋯」
「⋯ああ、ありがとう」
「い、いえ⋯」

 アルシエは羽根のように軽いから立ったままでもいられるが、せっかく勧めてくれたのだから座るか。
 頭を下げ走り去って行く女性の背中を見送り、示されたベンチへと腰を下ろす。
 ストンと膝へ重みが落ち、小さく唸ったアルシエの手が私の服を掴んできた。
 下ろされると思ったのかもしれないな。

「⋯アルシエが望まない限り、離したりはしないさ」

 例え望んだとしても手放せる気はしないが。
 それにしても、こうして公務関係なく街を歩くのは久し振りだ。アルシエがいなければ船旅などしようとも思わなかったから、今の状況は新鮮でそれなりに面白い。
 結局アルシエは小さなオルゴール一つしか欲しいと言わなかったが、それでも意思表示が出来たのだから彼にとっては僥倖だろう。
 そうしてどんどん我儘になればいい。
 しばらくベンチから音楽団を眺めていた私だったが、このままアルシエの寝顔を晒していたくない私は立ち上がり宿へと向けて歩き出した。
 リーネに任せて、私は少しばかり街の情勢確認でもして殿下に報告しておこう。



「ねぇ、あの方、リトルハイム公爵様よね?」
「ええ。確か、酒場のゴロツキの腕を折ったとか⋯」
「あれはでも、ゴロツキが子供を人質に取ろうとしたから⋯」
「恐ろしい方って噂もあるけど、奥様の前ではあんなに柔らかい顔をされるのね」
「意外だわ⋯もっとこう、亭主関白なタイプだと思ってた」
「何にせよ、思ったよりも怖くない方みたい」
「夫婦仲が良好なのはいい事よ」

 こうして、眠るアルシエをお姫様抱っこで大事に連れ帰るルディウスの姿に、本人の預かり知らぬところで、アルシエが望んだように彼の株が上がっていくのだった。
感想 86

あなたにおすすめの小説

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

何もしない悪役令息になってみた

ゆい
BL
アダマス王国を舞台に繰り広げられるBLゲーム【宝石の交響曲《シンフォニー》】 家名に宝石の名前が入っている攻略対象5人と、男爵令息のヒロイン?であるルテウスが剣と魔法で、幾多の障害と困難を乗り越えて、学園卒業までに攻略対象とハッピーエンドを目指すゲーム。 悪役令息として、前世の記憶を取り戻した僕リアムは何もしないことを選択した。 主人公が成長するにつれて、一人称が『僕』から『私』に変わっていきます。 またしても突発的な思いつきによる投稿です。 楽しくお読みいただけたら嬉しいです。 誤字脱字等で文章を突然改稿するかもです。誤字脱字のご報告をいただけるとありがたいです。 2025.7.31 本編完結しました。 2025.8.2 番外編完結しました。 2025.8.4 加筆修正しました。 2025.11.7 番外編追加しました。 2025.11.12 番外編追加分完結しました。 第13回BL大賞で奨励賞を賜りました。お読みくださった方、投票してくださった方、本当に、本当にありがとうございます。 2026.1.11 ムーンライトノベル様に投稿しました。細かい箇所は改稿しているので、アルファポリスとは多少内容が変わっています。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。