身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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アルシエの好きなもの

 ルディウス様に頭を撫でられるのが好き。大きな身体に包まれるみたいに抱き締められるのも好き。僕の名前を呼んでくれる声も、優しい微笑みも好き。
 抱っこされるのも好きだし、寝ちゃう事も多いけど膝の上に座るのも好き。
 それに口付けだって、舌と舌を触れ合わせるのだって、まだ恥ずかしいしドキドキするし頭がふわふわするけど好きなんだ。
 本当にルディウス様が大好き。
 この気持ちがちゃんと、ルディウス様に伝わってるといいんだけどな。



 寝る前の一時間は、僕とルディウス様が二人だけで過ごすまったりタイムだ。
 他愛ない話をしたり、疲れてるルディウス様に膝枕をしたり、よく眠れるようにってリーネさんが淹れてくれたお茶を飲んだり。その日によっていろいろだけど、近頃はそれに口付けが加わるようになった。
 触れ合うだけだった時はそれぞれの部屋に戻る時にしてたのに、あの旅行以降はくっついてる時間の方が長い気がする。
 自分で合図を出してるから嫌じゃないしむしろ嬉しいんだけど、その分寝る時が寂しくて⋯もっと触れ合っていたいなって思うのは悪い事じゃないよね?

「本当に奥様はお可愛らしいですね」

 旅行に行く前、リーネさんから悩みがあるなら遠慮しないでと言われた事もあって、寂しいとかどれだけくっついてても物足りないとか思ってる事を相談したらクスリと笑ってそう返された。
 意味が分からなくて目を瞬くと、紅茶のお代わりを注いで新しいケーキをお皿に乗せてくれる。

「物足りないなんて、旦那様が聞いたら喜びますよ」
「でも、それって僕だけなのかなって⋯」

 ルディウス様はいつも落ち着いてて、僕が何をしても笑って受け入れてくれるくらい大人で⋯だから時々、自分が凄く子供っぽいって思う時がある。
 好きって気持ちも、僕の方が大きいだろうし。
 本当に自分だけだったらどうしようって落ち込む僕の肩にリーネさんの手が触れ、優しく撫でてくれる。

「有り得ません。私が思うに、旦那様は奥様を怖がらせたくないのですよ」
「怖がる? 僕、もうルディウス様を怖いなんて思ってませんよ?」
「それは旦那様も分かっていらっしゃると思います。ですが、ご夫婦の在り方には奥様がご存知ない事もまだありますから⋯」

 確かに、僕は人を好きになったのも初めてだし、誰かにドキドキしたりちょっとした事で幸せを感じたりするのも初めてだから、新しい事には少しだけ不安はあるけど⋯。

「でも、ルディウス様になら⋯何をされても怖くないです」

 何も知らなかった僕は、ルディウス様のおかげで愛されて、大事にされてるって気付けるようになった。
 優しくて温かいルディウス様だからこそ、もし今追い出されたとしても自分が悪いんだろうなって思うくらい、ルディウス様の事を信頼してる。
 例え剣を向けられたって怖くない。

「奥様、今の言葉はぜひ旦那様にお伝えするべきです」
「え?」
「もちろん、奥様のお気持ちも全部」
「ぜ、全部?」
「はい。奥様の話を聞いたら、旦那様も何かしらのお答えはくださると思いますから」

 全部なんてそれこそルディウス様の迷惑になるんじゃ⋯そう返したけど、「そんな事ありませんよ」って力強く言ってくれるリーネさんに背中を押され、僕はちゃんと伝えてみる事に決めた。
 夫婦だもん。言葉にしないとダメだよね。


 その日の夜。
 お屋敷の屋根裏部屋でルディウス様と星を眺めていた僕は、いつ話を切り出そうかとずっとタイミングを伺っていた。

「今日は静かだな」
「え? あ、えっと⋯」
「眠いなら部屋に戻ろうか」

 ぐるぐると考えていたせいでいつも以上に喋らないでいたから、ルディウス様に気を遣わせてしまい僕はしまったと口を押さえる。
 立ち上がろうとするルディウス様の腕に抱き着き慌てて首を振ったら、頭が撫でられ様子を伺うように顔が覗き込まれた。

「もしや体調でも崩したか? すぐに医者の手配を⋯」
「だ、大丈夫です⋯っ」
「だが⋯」
「ほ、ほんとに⋯⋯考え事してただけですから⋯」
「考え事?」

 心配そうな声が怪訝なものに変わり、腕が解かれて抱き込まれるように膝の上へと移動させられた。そのまま肩と腰が押さえられ動けなくなる。

「何かあったのか?」
「⋯⋯あった、というか⋯僕の気持ちというか⋯」
「私に言える事なら話して欲しい」

 宝石みたいに綺麗な黒い瞳に真っ直ぐ見つめられ、僕はドキドキしながらも今がチャンスだと小さく頷く。
 他の誰でもない、ルディウス様に伝えたい事だから。

「あの、ルディウス様⋯」
「ん?」
「僕⋯⋯ルディウス様になら、何されてもいいです⋯」
「⋯⋯ん?」

 一回目と二回目で「ん?」の言い方が違う事あるんだ。
 しかも何だかさっきよりも怪訝そうに眉を顰めてるし。

「ルディウス様が大好きだから、何をされても嫌じゃないんです」
「⋯⋯⋯」
「なので、僕を怖がらせたくないとか、思わなくてもいいですからね?」
「⋯⋯なぜ急にそんな事を」
「寝る前、いつもこうしてるじゃないですか。でも寝る時間になってルディウス様と離れたあと物足りないとか、もっとくっつきたいって思うの僕だけなのかなってリーネさんに話したら、リーネさんが、ルディウス様は僕を怖がらせたくないんだって⋯」

 とりあえず伝えなきゃって思って言いたい事を言ったけど、どうしてかルディウス様は額を押さえ深く息を吐いた。何か、予想と違う⋯。
 困らせたのかと不安になってたら、顔を上げたルディウス様が苦笑を漏らした。

「確かにアルシエを怖がらせたくないのは大前提だが⋯他にも理由はあるんだ。だが、私も同じ気持ちだという事は忘れないで欲しい」
「⋯はい」

 他の理由も知りたかったけど、同じって聞けただけで充分だ。
 頷いてルディウス様に寄りかかったら、すぐおでこに薄い唇が触れる。でも僕はそれだけじゃ嫌で、いつものようにルディウス様の頬へと手を当てると微笑んで口付けてくれた。
 数回触れ合わせたあと、そっと舌が入ってくる。

「ん⋯」

 最初はこの口付けにも固まるくらい緊張してたのに、今は少しだけだけど応えられるようになってきた。それでもすぐいっぱいいっぱいになって頭がふわふわするんだけど、口の中をルディウス様の舌で撫でられると気持ち良くてゾワゾワする。
 お腹の下がぎゅってなるこの感覚って何なんだろう。

「⋯っ、ぁ⋯」
「⋯参ったな。そんな顔をされると、止まれなくなりそうだ」

 そんな顔って⋯僕、今どんな顔してるの?
 困ったように微笑むルディウス様の顔がまた近付いて、目を閉じたら今度は軽くチュッてされた。今日はもうおしまいって合図だ。
 そのあとは少し話して、僕の部屋の前でおやすみの挨拶をするのがいつもの事。
 だけどまだ離れたくなくて、ルディウス様の背中に腕を回して抱き着いたら、僕の耳にふって吐息が聞こえ温かい腕に抱き締め返された。
 花たちのお世話をする時間も、リーネさんやみんなとお喋りする時間も好きだけど、やっぱり僕はルディウス様とこうしてる時間が一番好き。
 これから先もずっと、こんな穏やかな時間を過ごせたらいいな。
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