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おめでたい日
今日は僕が十八歳になる日。
魔力がほとんどないと言われてから十年、あっという間だった。
まさか自分がこんなに幸せになれるなんて⋯二年前は想像もつかなかったな。本当なら、今頃は農村地で働いてるはずだったから。
自分の意思なんて必要ない、全部誰かの言葉通りにしていればいい。それが僕の当たり前で、ただ一つの生きていく術だった。
抵抗しなければ、歯向かわなければ、それなりに暮らしていけるって。
うっかり死んだら、その時はその時って思ってたし。
でも、今はちゃんと生きたいって思ってるんだ。他の誰でもない、大好きなルディウス様とずっと一緒にいたいから。
もう僕は、ルディウス様がいない日々になんて戻れないもん。
公爵家の庭の開けた場所にいくつかのテーブルがセットされ、中でも一番広くて長いテーブルには飲み物や食べ物がたくさん並んでいる。
全てのテーブルには植木鉢に見えないデザインの鉢が置かれてて、そこにはピンク色の花が植えられてた。この子は殿下からいただいた種から育った子で、花びらがグラデーションになっているのが特徴だ。
初めて見る色合いだなって思ってたら、殿下が僕の為に配合してくださったみたい。
殿下も本当にお優しいよね。
「奥様、旦那様がいらっしゃいましたよ」
「あ、はい」
前よりも広くなった花壇を眺めてたらリーネさんに呼ばれて、振り返った僕はその向こうにルディウス様を見つけると一も二もなく駆け出した。
迎え入れるように広げられた腕に飛び込むとすぐに抱き締められる。
「主役がいないと始まらないぞ」
「ごめんなさい。花壇が見たくなって」
「屋敷の周りの木も移植しないと、すぐに植える場所がなくなりそうだな」
「確かに⋯。でも、木もあんまり狭いのは嫌だと思うので、今は新しい子たちには我慢して貰います」
種ならしばらくは置いておけるから、今は蕾だったり咲いてる子たちを大事にしようと思ってる。寂しいけど、どんな花でもいつか絶対お別れは来るって分かってるし。
ルディウス様が「行こうか」と僕の肩を抱いて歩き出し、みんなが待っている場所へと向かう。
僕の成人をお祝いしたいからってみんなが開いてくれた誕生日パーティには、オルウェンさんやリーネさんを始めとする使用人一同と、仕事をお休みしてくれたルディウス様が参加してくれてた。
七歳の誕生日を祝って貰ったのが最後だけど、その時よりも豪華で何だか照れ臭い。
「全員揃っております」
「ああ。ほら、アルシエ」
「あ、は、はい」
背中をトンと押され、少しだけ前に出た僕はお腹の前で両手を握り合わせ、数回深呼吸してから口を開いた。
「えっと⋯今日は、僕の誕生日パーティを開いてくださってありがとうございます。こんなにたくさんの人に祝って貰えるなんて思ってなかったから⋯凄く嬉しいです。⋯成人って言っても僕はまだ全然子供で、知らない事も多いし話すのだってまだ下手で、ダメなところの方がまだまだ多いです。でもみんなに迷惑をかけたくないし、困らせたくないから⋯いつかみんなに頼って貰えるような大人になれるよう頑張ります」
ルディウス様のようにとは言わないけど、それなりに年を重ねれば〝大人〟にはなれる気がするんだ。
せめてリトルハイムの公爵夫人として恥ずかしくないくらいには成長したい。
言い終わって顔を上げたらみんな優しい顔をしてて、リーネさんが拍手をすると少しずつ広がって大きくなった。
「頑張ってくださいね」
「微力ながらお手伝いしますので、何でもお申しつけください」
「奥様なら絶対なれますよ」
「もちろん、そのままの奥様でも充分素敵ですからね」
「ありがとうございます⋯」
優しい言葉ばかりで胸がじんわりと温かくなる。
不意にルディウス様に頭を撫でられ見上げると微笑んでて、僕は思わず照れ笑いを浮かべた。
すぐには無理だろうけど、少しでもルディウス様に近付けたらいいな。
パーティも終盤に差し掛かってきた頃、祝ってくれる花たちにお礼を言っていたらルディウス様に呼ばれてガゼボに連れて行かれた。
不思議に思ってたら膝の上に座らされて、プレゼントだと小さな四角い箱が渡される。
白いリボンがかけられていたから解いて蓋を開けると、透明な虹色の宝石が真ん中に埋められた指輪が出てきて僕は目を瞬いた。
ポカンとしてる間にその指輪をルディウス様が取って、僕の左手を取り薬指に嵌める。
凄い、ピッタリだ。
「他国には、こうして互いの左手薬指に指輪を嵌めて夫婦の証とする習わしがあるそうだ。これならアルシエは私の妻だと分かるし、装飾品を好まずともずっとつけていてくれるだろうと思ってな」
「夫婦の証⋯⋯でも、ルディウス様の指にはついてない⋯」
「ここにある。アルシエがつけてくれるか?」
「はい」
チラリと見えたルディウス様の指には何もなくてシュンとしてたら、輪が広めだけど同じ指輪を懐から出して僕へと渡してきた。それをルディウス様の左手薬指に嵌めた僕は、自分の左手と交互に見て嬉しさから口元を緩める。
ブレスレットと指輪、この短い期間で二つもお揃いが出来るなんて。
そのまましばらく眺めてたら、ルディウス様の手が頬を撫でておでこに唇が触れた。視線を上げると目が合って、今度は鼻の頭に口付けられる。
「アルシエ」
「はい?」
「誕生日おめでとう。君と出会えて良かった。この時代を選んでくれて、生まれてきてくれてありがとう」
ルディウス様の言葉に僕は一瞬固まり、震え始めた唇をぐっと噛む。鼻の奥がツンとして、涙が零れそうで俯いたらルディウス様に抱き締められた。
〝生まれてきてくれてありがとう〟なんて、僕と血が繋がった人たちにさえ言われた事ないのに⋯。
僕は握っていた手を上げルディウス様の頬へと当てて微笑んだ。
「僕も⋯ルディウス様と出会えて良かったです」
同じように微笑んだルディウス様の顔が近付いて唇が重なる。
今この時ほど、自分がこの世界に存在出来て良かったって思えた日はない。
「ルディウス様⋯大好き」
「私もだ。愛してる、アルシエ」
触れ合う唇も舌も息も、全部が僕の幸せになる。
ルディウス様がくれるみたいに、僕ももっとたくさん気持ちを伝えなきゃ。
同じように幸せだって感じて欲しいから。
魔力がほとんどないと言われてから十年、あっという間だった。
まさか自分がこんなに幸せになれるなんて⋯二年前は想像もつかなかったな。本当なら、今頃は農村地で働いてるはずだったから。
自分の意思なんて必要ない、全部誰かの言葉通りにしていればいい。それが僕の当たり前で、ただ一つの生きていく術だった。
抵抗しなければ、歯向かわなければ、それなりに暮らしていけるって。
うっかり死んだら、その時はその時って思ってたし。
でも、今はちゃんと生きたいって思ってるんだ。他の誰でもない、大好きなルディウス様とずっと一緒にいたいから。
もう僕は、ルディウス様がいない日々になんて戻れないもん。
公爵家の庭の開けた場所にいくつかのテーブルがセットされ、中でも一番広くて長いテーブルには飲み物や食べ物がたくさん並んでいる。
全てのテーブルには植木鉢に見えないデザインの鉢が置かれてて、そこにはピンク色の花が植えられてた。この子は殿下からいただいた種から育った子で、花びらがグラデーションになっているのが特徴だ。
初めて見る色合いだなって思ってたら、殿下が僕の為に配合してくださったみたい。
殿下も本当にお優しいよね。
「奥様、旦那様がいらっしゃいましたよ」
「あ、はい」
前よりも広くなった花壇を眺めてたらリーネさんに呼ばれて、振り返った僕はその向こうにルディウス様を見つけると一も二もなく駆け出した。
迎え入れるように広げられた腕に飛び込むとすぐに抱き締められる。
「主役がいないと始まらないぞ」
「ごめんなさい。花壇が見たくなって」
「屋敷の周りの木も移植しないと、すぐに植える場所がなくなりそうだな」
「確かに⋯。でも、木もあんまり狭いのは嫌だと思うので、今は新しい子たちには我慢して貰います」
種ならしばらくは置いておけるから、今は蕾だったり咲いてる子たちを大事にしようと思ってる。寂しいけど、どんな花でもいつか絶対お別れは来るって分かってるし。
ルディウス様が「行こうか」と僕の肩を抱いて歩き出し、みんなが待っている場所へと向かう。
僕の成人をお祝いしたいからってみんなが開いてくれた誕生日パーティには、オルウェンさんやリーネさんを始めとする使用人一同と、仕事をお休みしてくれたルディウス様が参加してくれてた。
七歳の誕生日を祝って貰ったのが最後だけど、その時よりも豪華で何だか照れ臭い。
「全員揃っております」
「ああ。ほら、アルシエ」
「あ、は、はい」
背中をトンと押され、少しだけ前に出た僕はお腹の前で両手を握り合わせ、数回深呼吸してから口を開いた。
「えっと⋯今日は、僕の誕生日パーティを開いてくださってありがとうございます。こんなにたくさんの人に祝って貰えるなんて思ってなかったから⋯凄く嬉しいです。⋯成人って言っても僕はまだ全然子供で、知らない事も多いし話すのだってまだ下手で、ダメなところの方がまだまだ多いです。でもみんなに迷惑をかけたくないし、困らせたくないから⋯いつかみんなに頼って貰えるような大人になれるよう頑張ります」
ルディウス様のようにとは言わないけど、それなりに年を重ねれば〝大人〟にはなれる気がするんだ。
せめてリトルハイムの公爵夫人として恥ずかしくないくらいには成長したい。
言い終わって顔を上げたらみんな優しい顔をしてて、リーネさんが拍手をすると少しずつ広がって大きくなった。
「頑張ってくださいね」
「微力ながらお手伝いしますので、何でもお申しつけください」
「奥様なら絶対なれますよ」
「もちろん、そのままの奥様でも充分素敵ですからね」
「ありがとうございます⋯」
優しい言葉ばかりで胸がじんわりと温かくなる。
不意にルディウス様に頭を撫でられ見上げると微笑んでて、僕は思わず照れ笑いを浮かべた。
すぐには無理だろうけど、少しでもルディウス様に近付けたらいいな。
パーティも終盤に差し掛かってきた頃、祝ってくれる花たちにお礼を言っていたらルディウス様に呼ばれてガゼボに連れて行かれた。
不思議に思ってたら膝の上に座らされて、プレゼントだと小さな四角い箱が渡される。
白いリボンがかけられていたから解いて蓋を開けると、透明な虹色の宝石が真ん中に埋められた指輪が出てきて僕は目を瞬いた。
ポカンとしてる間にその指輪をルディウス様が取って、僕の左手を取り薬指に嵌める。
凄い、ピッタリだ。
「他国には、こうして互いの左手薬指に指輪を嵌めて夫婦の証とする習わしがあるそうだ。これならアルシエは私の妻だと分かるし、装飾品を好まずともずっとつけていてくれるだろうと思ってな」
「夫婦の証⋯⋯でも、ルディウス様の指にはついてない⋯」
「ここにある。アルシエがつけてくれるか?」
「はい」
チラリと見えたルディウス様の指には何もなくてシュンとしてたら、輪が広めだけど同じ指輪を懐から出して僕へと渡してきた。それをルディウス様の左手薬指に嵌めた僕は、自分の左手と交互に見て嬉しさから口元を緩める。
ブレスレットと指輪、この短い期間で二つもお揃いが出来るなんて。
そのまましばらく眺めてたら、ルディウス様の手が頬を撫でておでこに唇が触れた。視線を上げると目が合って、今度は鼻の頭に口付けられる。
「アルシエ」
「はい?」
「誕生日おめでとう。君と出会えて良かった。この時代を選んでくれて、生まれてきてくれてありがとう」
ルディウス様の言葉に僕は一瞬固まり、震え始めた唇をぐっと噛む。鼻の奥がツンとして、涙が零れそうで俯いたらルディウス様に抱き締められた。
〝生まれてきてくれてありがとう〟なんて、僕と血が繋がった人たちにさえ言われた事ないのに⋯。
僕は握っていた手を上げルディウス様の頬へと当てて微笑んだ。
「僕も⋯ルディウス様と出会えて良かったです」
同じように微笑んだルディウス様の顔が近付いて唇が重なる。
今この時ほど、自分がこの世界に存在出来て良かったって思えた日はない。
「ルディウス様⋯大好き」
「私もだ。愛してる、アルシエ」
触れ合う唇も舌も息も、全部が僕の幸せになる。
ルディウス様がくれるみたいに、僕ももっとたくさん気持ちを伝えなきゃ。
同じように幸せだって感じて欲しいから。
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