身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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よく分からないこと

 用事があるからって一旦お屋敷に帰ったルディウス様を見送り、僕は再びアンジェラ様と庭園にあるガゼボへと戻った。でも空がどんよりしてきて、雨が降りそうだからと屋根付きのバルコニーに案内されて一時間、ポツポツと降り始めた雨は今ではサーッと音を立てて土や草花を濡らしてる。
 柵から向こうを眺めていたら、隣にアンジェラ様が立って溜め息をついた。

「さっきまで晴れてたのに」
「そうですね。でも僕、雨も嫌いじゃないです」
「そうなの? 私はお城にこもる事になるからあんまりだわ」
「お城の中のお散歩も楽しそうですけど、これだけ広いと迷子になりそうですね」

 一階部分だけでも当然だけど公爵邸より広くて、僕だったら確実に自分がどこにいるか分からなくなる。今だにお屋敷の中も全部把握出来てないし。
 そう言えばアンジェラ様は目を瞬いたあと、クスリと笑って僕の頭を撫でてきた。

「私は大丈夫けど、確かにアルシエはすぐ迷子になりそうだわ」
「ここからエントランスにも行けないと思います」
「一人にはしないから安心して」

 それは本当に有り難い。
 アンジェラ様とテーブルにつき、湯気の立つカップに口を付けたら頬杖をついたアンジェラ様が「そういえば」と口を開いた。

「アルシエは、ルディウスと〝ちゃんと〟夫婦になってどれくらい経つの?」
「えっと⋯一年は経ちました」
「まだ一年なのね。あんまりにも仲がいいから、もっと経ってると思ってた」

 姉様の代わりを含めてなら二年過ぎてるけど、その時は僕もルディウス様もお互いに気持ちはなかったら入れない方がいいよね。
 でもそっか、まだ一年しか経ってないんだ。いろいろあったからもっと時間が過ぎてると思ってた。良く考えたら誕生日お祝いして貰ったばかりだし。

「こんな事を聞くのは無粋だと思うんだけど⋯アルシエ的には男の子と女の子、どっちが欲しいとかあるの?」
「? 男の子と女の子?」

 欲しいってどういう意味だろう。使用人を増やすならって事?
 何を言いたいのか分からなくて首を傾げたら、アンジェラ様はチョコクッキーとイチゴクッキーをそれそれの手で摘み上げた。

「ルディウスとの子供よ。お世継ぎを考えるなら男の子だけど、そういうのナシなら女の子も絶対可愛いと思うの。何せルディウスとアルシエの子だし」

 男の子でチョコクッキーを、女の子でイチゴクッキーを置いたアンジェラ様にぽかんとしてしまう。

「⋯⋯⋯ルディウス様との⋯子供⋯?」
「? 今の時代は、男性でも出産出来るのは知ってるわよね?」

 それは八歳までの教育の中で習ったからもちろん知ってて、僕は不思議そうなアンジェラ様に「はい」と答える。
 ⋯⋯あれ? という事は、ルディウス様の奥さんは僕だから⋯僕が産む?
 ルディウス様の子を?

「⋯⋯!」
「あら」

 全然考えていなかった僕は、初めて〝ルディウス様との子供〟を意識して一気に顔の熱が上がった。それを見たアンジェラ様が柔らかく微笑んだけど、僕の頭は『子供』って単語で埋め尽くされていっぱいいっぱいになってる。
 そっか、そうだよね。しかもリトルハイムはこの国唯一の公爵家だし、もちろん跡取りはいた方がいいもんね。
 でも、一つだけ疑問がある。

「⋯⋯子供って、どうやって生まれるんですか?」
「え」
「お母さんが産むのは知ってるんですけど、どうしてお父さんと半分血が繋がるのか分からなくて⋯直接血をあげるのかな」

 お母さんは、お腹の中で育てるからそこで繋がりが出来るのは理解できる。ただ本当にお父さんだけが謎で⋯血縁関係なんて、魔法では出来ないもんね。
 ん? そもそもどうやってお母さんのお腹に赤ちゃんが来るんだろう。
 唸る僕にアンジェラ様は呆気に取られた顔をしたあと、初めて見るくらい困った様子で額を押さえた。

「⋯思った以上に真っ白なのねぇ⋯」
「あ⋯⋯ふ、不勉強ですみません⋯」
「いいのよ。アルシエはそれでいいの。ただ⋯そうね⋯⋯私が言える事は、子供は愛し合うからこそ出来る⋯くらいかしら」
「愛し合うからこそ⋯」

 いつもはハキハキと話されるアンジェラ様が凄く言いにくそうに教えてくれる。でもお父さんの繋がりについては答えて貰えなくて、僕はますます分からなくなってしまった。
 だってそうなると、ルディウス様の子供ってどうやって証明するの?

「ねぇ、二人ってまったく触れ合いをしていない、なんて事ないわよね?」
「えっと⋯⋯はい⋯」

 抱き締め合うのも口付けも毎日してるから全然って訳でもないし、こくりと頷けばアンジェラ様はどうしてかホッと息を吐いた。

「なら、血の繋がりはルディウスに聞くといいわ」
「わ、分かりました」
「はぐらかすならグイグイいってもいいわよ。アルシエには絶対怒らないから」
「そ、そうでしょうか⋯」
「そうよ。ルディウス、アルシエにはびっくりするくらい甘いもの」

 確かに、帰って来てからは凄く甘やかされてる。
 公爵家のご当主だし、騎士団の団長だから仕事がたくさんあって然りなのに絶対僕との時間を作ってくれるし、今だと僕の方を優先してくれてるから優しいなぁって。
 そろそろ大丈夫ですよって言おうとは思ってるんだけど⋯そうなるときっと寂しいんだろうな。
 ふと外を見ると雨足は弱まってて、遠くの方に陽が差し込んでた。

「⋯ルディウス様、遅いですね」
「そうね」

 用事って何だったんだろう。
 少しぬるくなった紅茶に口を付けゆっくりと飲んだ僕は、早くルディウス様の顔が見たいなって思った。
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