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雪で覆われた土地(ルディウス視点)
北には、私たちが暮らす中央部に在するような市街地はなく、小さな村が転々と営まなれている国の管理地がある。
ここには領主はおらず、年老いた村人が力を合わせて細々と暮らしているのだが、元々が不作の多い土地であり寒冷期には蓄えがない状態になる為、食料など魔法で賄えない部分は国が支援していた。
視察も普段なら通い慣れた者が行っていたのだが、今年はあまりにも雪がひどく、魔力値の高い殿下が行く事になり必然として私も護衛に付く事になったはいいが⋯ここまで日数がかかるとは思わなかった。
昼間でも前が見えないほど吹雪いて外出もままならず、気温の低さも例年以下となり暖炉を用いても底冷えするほど過酷な環境だ。
それでも生まれた地だからと暮らし続ける村人は尊敬するが⋯おかげで滞在期間が伸びており、私は窓の外を見て溜め息をついた。
「来年さらに悪化するようなら、北に人は住めないように制定するべきかもね」
「今いる者たちは、首を縦に振らないのでは?」
「でも今年でこんなに厳しいんだから、これ以上だと国としても支援より新しい場所での生活を推したくなるよ」
殿下の言い分は最もだが、今日まで捨てなかった地を果たして手放すだろうか。
ここ一帯で唯一の宿屋に身を寄せている私たちだが、貴族用とは違いやはり隙間風は入るし、吹雪で窓どころか建物自体が揺れるしでどうにも落ち着かない。
私の属性が炎だからいいものの、下手をすれば殿下がお風邪を召されてしまうかもしれない状況も不満だ。殿下は気にしていないが。
とはいえ、このままだといずれは雪の重さで建物自体が潰れてしまいそうだ。
「代表を交えて話す必要がありますね」
「そうだね。ここにいる間に少しでも話が進めばいいんだけど」
「村か自分の命か、選ばせれば良いのでは?」
「うーん⋯そういうのはあまり気が乗らないな」
「甘過ぎます」
こちらがより良い暮らしを提案しても突っぱねる者は、いっそ支援する必要もないのではと思ってしまうのだが⋯殿下は、自国民には須らく手を差し伸べるべきと思っているのだろう。
未来の国王陛下としては、やはり甘い。
溜め息をつき、扉まで下がった私は部屋を囲う結界をより強固にする為魔力を込めた。
「殿下、そろそろお休みになってください」
「結界を張ってるんだから、ルディウスも眠ればいいのに」
「万が一があってはいけませんから」
ただでさえ不慣れな地なのだから用心するに越した事はない。
やれやれと肩を竦めベッドへと入った殿下は、少しして「すまないね」と謝ってきた。
「何がです?」
「こんなに長い時間、アルシエと離れ離れにしてしまって」
「殿下をお守りする事の方が大事ですので」
「でも、アルシエは寂しがってるんじゃないかい?」
「⋯⋯⋯」
殿下がおっしゃるように、きっと寂しい思いをさせている。そういった言葉は口にしないアルシエだが、私を見送る表情は悲しそうだった。
雪の夜市も⋯。
「連れて行ってやりたかったな⋯」
「うん?」
「あ、いえ。⋯少し前、アルシエが初めて私と雪の夜市に行きたいと言ってくれたんです。ですが私には殿下の護衛という任務がありましたから⋯」
「あぁ⋯それは申し訳ない」
「タイミングが噛み合わなかっただけですから。その代わり、帰宅したらアルシエの行きたい場所へ連れて行くつもりです」
アルシエの事だから他の街や国に何があるのかは知らないだろうが、それこそ私が説明して選んで貰えばいい。
少し遅らせて、温暖期に我が家所有の避暑地に行っても構わないのだし。
「なら、その時は私に言ってくれ。休暇をあげるから」
「ありがとうございます」
「さて、私はそろそろ寝るが、ルディウスも少しでもいいから休みなね」
「お心遣い痛み入ります」
元より休むつもりはない私の返事に苦笑した殿下は仰向けになって目を閉じ、数分後には寝息を立て始めた。
何度も、「私は護衛ですから」とお伝えしているのに。
それにしても、いくら寒冷期とはいえよくもまぁここまで降るものだ。
(アルシエはちゃんと暖かくしているだろうか)
リーネがいるのだから心配はないとはいえ、あの子は自分に対しては無頓着過ぎて心配になる。風邪でも引いていなければいいが。
あともう一つ気になると言えば、アルシエの睡眠問題だな。
私がいれば眠れると言っていた通り、ベッドを共にするようになってからアルシエが途中で目を覚ました事はない。だが、私の帰宅が遅くなった時には起きている事が多かったから、恐らく今もそうなんだろう。
帰ってまずする事は、思う存分寝かせてやる事だな。
翌日は比較的緩やかな―それでも中央部よりは多い―降雪となり、私と殿下は村の裏手にある山の麓へと訪れていた。
山の頂上には魔法具が置いてあり一昨年までは正常に機能していたのだが、去年から降雪量が増え込められた魔力では対応しきれなくなってしまい、どうやら現状雪に完全に埋まってしまっているようだ。
それをどうにかしなければ、本当に村人全て移住という事になるらしい。
「⋯どこが道なんだか⋯」
「私が溶かしましょうか? これだけ気温が低ければ、水になってもすぐ凍るでしょうし」
「いや、私が氷で道を作るよ。靴底が吸着するようにしておくから、雪は踏まないように」
「はい。ありがとうございます」
殿下が私の足元に魔力を注ぎ、頂上に向かって雪が積もらないよう少しずつ階段を作って行く。いくらか登ったところで振り向くと階段はすでに白くなっていて、試しに燃やしてみたら歪な形で固まった。
「ルディウス」
「はい?」
この状況下だからこそ殿下が氷属性で良かったと思っていたら殿下に呼ばれ、振り向くと神妙な顔をしていて私は眉を顰めた。
「滞在期間、延びそうだね」
「⋯⋯⋯」
頂上まではまだまだある。しかも数箇所。
いっそ山ごと燃やしてやろうかと思った事は、殿下にも言わないでおくか。
ここには領主はおらず、年老いた村人が力を合わせて細々と暮らしているのだが、元々が不作の多い土地であり寒冷期には蓄えがない状態になる為、食料など魔法で賄えない部分は国が支援していた。
視察も普段なら通い慣れた者が行っていたのだが、今年はあまりにも雪がひどく、魔力値の高い殿下が行く事になり必然として私も護衛に付く事になったはいいが⋯ここまで日数がかかるとは思わなかった。
昼間でも前が見えないほど吹雪いて外出もままならず、気温の低さも例年以下となり暖炉を用いても底冷えするほど過酷な環境だ。
それでも生まれた地だからと暮らし続ける村人は尊敬するが⋯おかげで滞在期間が伸びており、私は窓の外を見て溜め息をついた。
「来年さらに悪化するようなら、北に人は住めないように制定するべきかもね」
「今いる者たちは、首を縦に振らないのでは?」
「でも今年でこんなに厳しいんだから、これ以上だと国としても支援より新しい場所での生活を推したくなるよ」
殿下の言い分は最もだが、今日まで捨てなかった地を果たして手放すだろうか。
ここ一帯で唯一の宿屋に身を寄せている私たちだが、貴族用とは違いやはり隙間風は入るし、吹雪で窓どころか建物自体が揺れるしでどうにも落ち着かない。
私の属性が炎だからいいものの、下手をすれば殿下がお風邪を召されてしまうかもしれない状況も不満だ。殿下は気にしていないが。
とはいえ、このままだといずれは雪の重さで建物自体が潰れてしまいそうだ。
「代表を交えて話す必要がありますね」
「そうだね。ここにいる間に少しでも話が進めばいいんだけど」
「村か自分の命か、選ばせれば良いのでは?」
「うーん⋯そういうのはあまり気が乗らないな」
「甘過ぎます」
こちらがより良い暮らしを提案しても突っぱねる者は、いっそ支援する必要もないのではと思ってしまうのだが⋯殿下は、自国民には須らく手を差し伸べるべきと思っているのだろう。
未来の国王陛下としては、やはり甘い。
溜め息をつき、扉まで下がった私は部屋を囲う結界をより強固にする為魔力を込めた。
「殿下、そろそろお休みになってください」
「結界を張ってるんだから、ルディウスも眠ればいいのに」
「万が一があってはいけませんから」
ただでさえ不慣れな地なのだから用心するに越した事はない。
やれやれと肩を竦めベッドへと入った殿下は、少しして「すまないね」と謝ってきた。
「何がです?」
「こんなに長い時間、アルシエと離れ離れにしてしまって」
「殿下をお守りする事の方が大事ですので」
「でも、アルシエは寂しがってるんじゃないかい?」
「⋯⋯⋯」
殿下がおっしゃるように、きっと寂しい思いをさせている。そういった言葉は口にしないアルシエだが、私を見送る表情は悲しそうだった。
雪の夜市も⋯。
「連れて行ってやりたかったな⋯」
「うん?」
「あ、いえ。⋯少し前、アルシエが初めて私と雪の夜市に行きたいと言ってくれたんです。ですが私には殿下の護衛という任務がありましたから⋯」
「あぁ⋯それは申し訳ない」
「タイミングが噛み合わなかっただけですから。その代わり、帰宅したらアルシエの行きたい場所へ連れて行くつもりです」
アルシエの事だから他の街や国に何があるのかは知らないだろうが、それこそ私が説明して選んで貰えばいい。
少し遅らせて、温暖期に我が家所有の避暑地に行っても構わないのだし。
「なら、その時は私に言ってくれ。休暇をあげるから」
「ありがとうございます」
「さて、私はそろそろ寝るが、ルディウスも少しでもいいから休みなね」
「お心遣い痛み入ります」
元より休むつもりはない私の返事に苦笑した殿下は仰向けになって目を閉じ、数分後には寝息を立て始めた。
何度も、「私は護衛ですから」とお伝えしているのに。
それにしても、いくら寒冷期とはいえよくもまぁここまで降るものだ。
(アルシエはちゃんと暖かくしているだろうか)
リーネがいるのだから心配はないとはいえ、あの子は自分に対しては無頓着過ぎて心配になる。風邪でも引いていなければいいが。
あともう一つ気になると言えば、アルシエの睡眠問題だな。
私がいれば眠れると言っていた通り、ベッドを共にするようになってからアルシエが途中で目を覚ました事はない。だが、私の帰宅が遅くなった時には起きている事が多かったから、恐らく今もそうなんだろう。
帰ってまずする事は、思う存分寝かせてやる事だな。
翌日は比較的緩やかな―それでも中央部よりは多い―降雪となり、私と殿下は村の裏手にある山の麓へと訪れていた。
山の頂上には魔法具が置いてあり一昨年までは正常に機能していたのだが、去年から降雪量が増え込められた魔力では対応しきれなくなってしまい、どうやら現状雪に完全に埋まってしまっているようだ。
それをどうにかしなければ、本当に村人全て移住という事になるらしい。
「⋯どこが道なんだか⋯」
「私が溶かしましょうか? これだけ気温が低ければ、水になってもすぐ凍るでしょうし」
「いや、私が氷で道を作るよ。靴底が吸着するようにしておくから、雪は踏まないように」
「はい。ありがとうございます」
殿下が私の足元に魔力を注ぎ、頂上に向かって雪が積もらないよう少しずつ階段を作って行く。いくらか登ったところで振り向くと階段はすでに白くなっていて、試しに燃やしてみたら歪な形で固まった。
「ルディウス」
「はい?」
この状況下だからこそ殿下が氷属性で良かったと思っていたら殿下に呼ばれ、振り向くと神妙な顔をしていて私は眉を顰めた。
「滞在期間、延びそうだね」
「⋯⋯⋯」
頂上まではまだまだある。しかも数箇所。
いっそ山ごと燃やしてやろうかと思った事は、殿下にも言わないでおくか。
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