身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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緋炎の騎士団(ルディウス視点)

 これまで一夜を共にした相手はいれど、同性との経験がない私は少しでもアルシエの負担を軽減しようと調べられる事はとことんまで調べた。
 知り合いの同性夫婦に話を聞いたり、関連書物を読んだりと仕事の合間ながらに得た情報は、とにかく〝慣らす時間〟が必要だという事。特に私とアルシエには明確な体格差がある為、なるべくなら数日前から始めた方がいいそうだ。
 何も知らないアルシエは、口付けや胸や性器への刺激を気持ちいいと感じられるようにはなったものの知識としてはそれだけで、行為の名さえ知らず、まっさらなままなのは変わっていない。
 だからこそ慎重にはなるしその為の言い方にも悩んでいたのだが⋯何というか、行動に起こしてしまえばすぐだった。
 ただ指一本でさえあんなにもキツいとは思ってもいなくて、調べた通り前準備には時間をかけるべきだと改めて感じた。
 前戯を長くするとか、そういう事じゃない。
 だが最初こそ眉根を寄せていたアルシエの表情が次第に切ないものになり、声にも甘さが増してきた時には胸を撫で下ろした。このまま違和感だけだったら辛いだろうと心配だったから、あの反応には本当に安堵したんだ。
 前立腺を見つけられた際も、困惑しながらも上手に快感を追えていたし、前と同時に刺激してやればちゃんと達する事も出来たから、慣れて―しまえばアルシエ自身もどこが気持ちいいか分かるようになるだろう。
 ただ、そこは私の技量によるのだが⋯。
 とにかく、可能な限りアルシエに痛みや苦しみを感じさせたくない。誕生日にとは言ったが、アルシエが無理だと言うなら先延ばしにしてもいいしな。
 何においても、アルシエの気持ちが最優先なのだから。



 木製の刀身がぶつかり合う音が鍛錬場に響いている。
 今日は団員たちの成長を測るという名目で、私は片手のみというハンデを背負い一人一人と木剣を合わせていた。
 正直、チラチラと過ぎる煩悩が吹き飛んでちょうどいい。

「重心が偏っているぞ!」
「はい!」
「恐れるな! 踏み込め!」
「はい!」

 人数自体は三十人にも満たない少数部隊だが、魔力値の高い精鋭揃いで有事の際には私たちが前線に立ち指揮を取る。
 その為の鍛錬は毎日かかさず、時折こうして団員たちと手合わせもしていた。

「団長、さすがだなぁ」
「片手持ちな上に、俺たちの悪いとこ指摘しながらだしな」
「しかも、あれで半分も力出してないっていう」
「俺たちの団長、マジでつえぇ」
「でも、ダリス副団長も負けてないよな」

 私との手合わせを終えた部下たちがそんな話をしていたとは知らず、私は自身の右腕とも言えるダリスと対峙していた。
 部下たちよりも重みのある剣撃に口端が上がる。
 ダリスは誰よりも研鑽に励み、日々の鍛錬以上に己と戦ってきた。それを一番近くで見ていた私は、ダリスになら背中を任せられると本気で思っている。いざという時は、アルシエを預ける事さえ出来ると。
 特に大きな問題点はなく、私がダリスの木剣を弾いたところで終了だ。

「やはり、団長には敵いませんね」
「お前もなかなかだぞ。ただやはり、ここぞという時に力み過ぎる癖が治らないな」
「意識してはいるのですが⋯」
「ダリスなら必ず克服出来る。頑張れ」
「ありがとうございます」

 私の部下は努力家で鍛錬を楽しめる者ばかりだから、どれだけ時間がかかろうともいずれはそれを乗り越えまた強くなるだろう。

「そういえば先日の護衛の際、団長の奥様にご挨拶させていただきましたが、とても小柄な方なのですね」

 汗をタオルで拭い水分補給をしていたら、当日護衛の一人だった団員にそんな事を言われた。
 子供の頃からもろもろ不足していたせいで成長は止まり、我が家に来てからもほんの少し背が伸びたくらいで変わらず小さいアルシエは、成人した今でも子供と間違われる事がある。

「きちんとお話は出来ませんでしたが、雰囲気の柔らかい方ですよね」
「王女殿下とお話されてる姿が微笑ましくて、和んでしまいました」
「団長、奥様と目が合うたびにお優しい顔をされて⋯何だか嬉しかったです」
「なぜだ?」
「団長にも、人を愛する心があるのだと」
「⋯お前⋯」

 何とも失礼な事を嬉々として口にする団員に溜め息をつき、近付いて拳骨をお見舞いしておく。
 確かにこれまでの私は相手に対して思いやりも何もなかったが、そこまで大袈裟にする話でもないだろうに。

「ひどいです⋯団長⋯」
「自業自得だ」

 涙目で頭を押さえる団員に吐き捨て、時間を確認した私は片付けるよう指示をし、手合わせの際に折れた木剣を広い魔力を込めて燃やす。
 模擬戦用の剣よりはお手頃とはいえ、やはり木製は脆いな。

「団長の奥様だから勝手に綺麗な人かなと思ってたんだけど、びっくりするくらい可愛らしい人だったな」
「な。小さくて華奢でこう⋯守ってあげたくなる感じ?」
「分かる。庇護欲をそそるってやつな」
「俺もあんな奥さんが欲しい」

 燃えカスが風に乗っていく様を眺めていた私の後ろで、同じく護衛だった団員がヒソヒソとそう話し始める。
 小声だろうと、アルシエの話が私の耳に入らない訳がない。
 手を動かしながらも会話を続ける二人の背後に立ち、低い声で「お前たち」と声をかければ大きく肩が跳ねた。

「!?」
「だ、団長⋯」
「アルシエをおかしな目で見たら⋯分かっているだろうな?」
「も、もちろんです!」
「見ません! 見ませんとも!」
「ならいい」

 青褪める二人に手を払いて片付けをせっつき、私はやれやれと息を吐いた。
 見る目は褒めてやるが、アルシエが可愛らしい事など、私だけが知っていればいいのだ。
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