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嬉しい事
一緒に雪の夜市に行けなかった代わりにルディウス様とお出かけする。そう約束してからあっという間に月日が経った。
外では花たちが綺麗に咲き誇り、みんなの楽しいお喋りを聞きながら花壇の世話をして、合間でオルウェンさんの仕事を手伝ってるから僕自身それなりに充実した日々を過ごしてる。
そんな中で、何度かルディウス様からどこに行きたい? って聞かれてるけど、この国以外を知らない僕は答えあぐねてた。
そもそもルディウス様といられるならどこでもいいんだよね。
でも僕の行きたいところって言ってくれたんだから、ちゃんと僕が決めないと。
『それなら、東にあるシュレリアの街はどう?』
あれから考えたり本で探したりしても見つけられなかった僕は、久し振りにお屋敷に遊びに来てくれたミアに思い切って相談してみた。
ミアは少し考えたあとそう答えてくれたんだけど、聞いた事ないからどんな街か分からなくて首を傾げたらくあっと欠伸をしたあと教えてくれる。
『シュレリアではもうすぐ花祭りが開催されるんだよ。恋人や夫婦は揃いの花冠をつけて、街を歩いたり音楽に合わせて踊ったりするんだ。花が好きなアルシエなら、楽しくて仕方ない場所だと思うよ』
「花祭り⋯」
名前の響きだけで楽しそう。
それにお揃いの花冠なんてそんなお祭りでもないとつける事ないし、シュレリアは本当にありかもしれない。
「ありがとう、ミア。今日さっそくルディウス様に聞いてみる」
『即決だと思うけどね』
「ミアに聞いて正解だったよ」
『力になれて何より』
凄くいい案を出してくれたから何かお礼をしたいけど、飼い猫だし勝手にあげたりしちゃダメだよね。
仕方ないけど諦めて、僕は耳をピクピクさせるミアの身体を撫で微笑む。
「本当に、いつもありがとう。ミア」
その日の夜、帰って来たルディウス様を出迎えた僕はさっそくミアから聞いた事を話した。
「花祭りか⋯確かに、今から計画するなら間に合うな」
「一緒に行けますか?」
「行けるよ。花祭りまで二週間あるから、その間に必要な事は終わらせる」
快い返事にホッと胸を撫で下ろす。
待ちに待ったルディウス様とのお出かけだ、嬉しい。
着替える為に部屋へと向かうルディウス様について行き、邪魔をしないようベッドに座って終わるのを待つ。
足をブラブラさせていたら、シャツの襟元を緩めたルディウス様が僕を挟むようにベッドに両手をついて、コツンとおでこを合わせてきた。視線だけで見上げると目が合って細められる。
「行きたい場所、考えてくれてありがとう」
「結局自分では見つけられませんでしたけど⋯」
「だが、話を聞いて行きたいと思ったのはアルシエだろう? それを私に言ってくれた事が嬉しいよ」
まさかお礼を言われるとは思ってなかった。
何となく照れ臭くて視線を下げた僕は、膝に置いていた手を伸ばしてルディウス様の服を摘む。
もう最近は、『言ったら怒られるかも』って思わなくなった。
「僕の話を、優しい顔で聞いてくださるから⋯」
「アルシエの話なら何でも聞きたいに決まってる」
そう言っておでこを離したルディウス様は服を摘んでいた手を握ると、隣に腰を下ろして僕を抱き寄せた。
ルディウス様は、いつも答えを求めてくれるから。
「だから、言ってもいいんだって思えるようになったんです。目を合わせられなかった頃も、上手に話せなかった時も、ルディウス様は笑ったり急かしたりしなかったし出来たら笑ってくれた。僕、それが凄く嬉しかったんです」
父様は話す事自体許してくれなかったけど、ルディウス様やルディウス様の周りにいる人たちはみんな聞いてくれる。
それに、言葉もそうだけど、僕から手を伸ばしても振り払われない事が何よりも嬉しかった。
「いや、私も相当ひどかったが⋯」
「最初だけじゃないですか」
「アルシエは優し過ぎる」
「今が幸せだからいいんです」
「アルシエが一番文句言っていいんだがな」
苦笑して僕の頬を撫でるルディウス様に首を振り、腕をいっぱい伸ばして抱き着く。
あの頃の僕には全部を受け入れる選択しかなかったけど、今思い返しても文句なんてない。だって今、こんなにも大切にしてくれてるから。
「アルシエが怒ったら、どんな風になるんだろうな」
「うーん⋯黙っちゃうかもです」
「ああ、確かに。アルシエが怒鳴る姿は想像出来ないな」
言われてつい眉を吊り上げて怒ってる自分を想像してしまい、それがおかしくて思わず笑った僕は、口元に手を当て声も出さずに肩を震わせる。
それを見ていたルディウス様が不意にこめかみに口付けてきた。
「もう一つ嬉しい事があった」
「何ですか?」
「アルシエが笑えるようになった事だよ」
「え?」
頬から顎に手が滑り、上向かされて目が合う。
瞬く僕の顔をまじまじと見たルディウス様は、軽く頬を摘んで微笑んだ。
「アルシエを好きだと気付いてから、ずっと笑った顔が見たかった。だから、それが当たり前のようになってる今にホッとしてる」
「ルディウス様も、笑顔が増えましたよね」
「アルシエの前でだけだ」
そう答えて僕を抱き締めたルディウス様は、そのまま倒れ込むといつもより少しだけ乱暴に頭を撫でてきた。
その手で前髪が掻き上げられおでこに口付けられる。
「アルシエがいれば、私は笑っていられるから」
唇が触れたまま、柔らかな声でそう言われて胸がじんわりと温かくなった。
父様や姉様からはあんなに疎まれてたのに、今は僕がいて良かったって言ってくれる人がいる。こんな未来が待ってるなんて想像さえも出来なかった。
気持ちがぎゅーってなった僕は、片腕をルディウス様の背中に回して力いっぱい抱き着く。
もっともっと笑って欲しい。
僕に出来る精一杯で、ルディウス様を笑顔に出来るといいな。
外では花たちが綺麗に咲き誇り、みんなの楽しいお喋りを聞きながら花壇の世話をして、合間でオルウェンさんの仕事を手伝ってるから僕自身それなりに充実した日々を過ごしてる。
そんな中で、何度かルディウス様からどこに行きたい? って聞かれてるけど、この国以外を知らない僕は答えあぐねてた。
そもそもルディウス様といられるならどこでもいいんだよね。
でも僕の行きたいところって言ってくれたんだから、ちゃんと僕が決めないと。
『それなら、東にあるシュレリアの街はどう?』
あれから考えたり本で探したりしても見つけられなかった僕は、久し振りにお屋敷に遊びに来てくれたミアに思い切って相談してみた。
ミアは少し考えたあとそう答えてくれたんだけど、聞いた事ないからどんな街か分からなくて首を傾げたらくあっと欠伸をしたあと教えてくれる。
『シュレリアではもうすぐ花祭りが開催されるんだよ。恋人や夫婦は揃いの花冠をつけて、街を歩いたり音楽に合わせて踊ったりするんだ。花が好きなアルシエなら、楽しくて仕方ない場所だと思うよ』
「花祭り⋯」
名前の響きだけで楽しそう。
それにお揃いの花冠なんてそんなお祭りでもないとつける事ないし、シュレリアは本当にありかもしれない。
「ありがとう、ミア。今日さっそくルディウス様に聞いてみる」
『即決だと思うけどね』
「ミアに聞いて正解だったよ」
『力になれて何より』
凄くいい案を出してくれたから何かお礼をしたいけど、飼い猫だし勝手にあげたりしちゃダメだよね。
仕方ないけど諦めて、僕は耳をピクピクさせるミアの身体を撫で微笑む。
「本当に、いつもありがとう。ミア」
その日の夜、帰って来たルディウス様を出迎えた僕はさっそくミアから聞いた事を話した。
「花祭りか⋯確かに、今から計画するなら間に合うな」
「一緒に行けますか?」
「行けるよ。花祭りまで二週間あるから、その間に必要な事は終わらせる」
快い返事にホッと胸を撫で下ろす。
待ちに待ったルディウス様とのお出かけだ、嬉しい。
着替える為に部屋へと向かうルディウス様について行き、邪魔をしないようベッドに座って終わるのを待つ。
足をブラブラさせていたら、シャツの襟元を緩めたルディウス様が僕を挟むようにベッドに両手をついて、コツンとおでこを合わせてきた。視線だけで見上げると目が合って細められる。
「行きたい場所、考えてくれてありがとう」
「結局自分では見つけられませんでしたけど⋯」
「だが、話を聞いて行きたいと思ったのはアルシエだろう? それを私に言ってくれた事が嬉しいよ」
まさかお礼を言われるとは思ってなかった。
何となく照れ臭くて視線を下げた僕は、膝に置いていた手を伸ばしてルディウス様の服を摘む。
もう最近は、『言ったら怒られるかも』って思わなくなった。
「僕の話を、優しい顔で聞いてくださるから⋯」
「アルシエの話なら何でも聞きたいに決まってる」
そう言っておでこを離したルディウス様は服を摘んでいた手を握ると、隣に腰を下ろして僕を抱き寄せた。
ルディウス様は、いつも答えを求めてくれるから。
「だから、言ってもいいんだって思えるようになったんです。目を合わせられなかった頃も、上手に話せなかった時も、ルディウス様は笑ったり急かしたりしなかったし出来たら笑ってくれた。僕、それが凄く嬉しかったんです」
父様は話す事自体許してくれなかったけど、ルディウス様やルディウス様の周りにいる人たちはみんな聞いてくれる。
それに、言葉もそうだけど、僕から手を伸ばしても振り払われない事が何よりも嬉しかった。
「いや、私も相当ひどかったが⋯」
「最初だけじゃないですか」
「アルシエは優し過ぎる」
「今が幸せだからいいんです」
「アルシエが一番文句言っていいんだがな」
苦笑して僕の頬を撫でるルディウス様に首を振り、腕をいっぱい伸ばして抱き着く。
あの頃の僕には全部を受け入れる選択しかなかったけど、今思い返しても文句なんてない。だって今、こんなにも大切にしてくれてるから。
「アルシエが怒ったら、どんな風になるんだろうな」
「うーん⋯黙っちゃうかもです」
「ああ、確かに。アルシエが怒鳴る姿は想像出来ないな」
言われてつい眉を吊り上げて怒ってる自分を想像してしまい、それがおかしくて思わず笑った僕は、口元に手を当て声も出さずに肩を震わせる。
それを見ていたルディウス様が不意にこめかみに口付けてきた。
「もう一つ嬉しい事があった」
「何ですか?」
「アルシエが笑えるようになった事だよ」
「え?」
頬から顎に手が滑り、上向かされて目が合う。
瞬く僕の顔をまじまじと見たルディウス様は、軽く頬を摘んで微笑んだ。
「アルシエを好きだと気付いてから、ずっと笑った顔が見たかった。だから、それが当たり前のようになってる今にホッとしてる」
「ルディウス様も、笑顔が増えましたよね」
「アルシエの前でだけだ」
そう答えて僕を抱き締めたルディウス様は、そのまま倒れ込むといつもより少しだけ乱暴に頭を撫でてきた。
その手で前髪が掻き上げられおでこに口付けられる。
「アルシエがいれば、私は笑っていられるから」
唇が触れたまま、柔らかな声でそう言われて胸がじんわりと温かくなった。
父様や姉様からはあんなに疎まれてたのに、今は僕がいて良かったって言ってくれる人がいる。こんな未来が待ってるなんて想像さえも出来なかった。
気持ちがぎゅーってなった僕は、片腕をルディウス様の背中に回して力いっぱい抱き着く。
もっともっと笑って欲しい。
僕に出来る精一杯で、ルディウス様を笑顔に出来るといいな。
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