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花祭り②
パンを完食したあともアイスティーを飲みながら露店を覗きつつ歩いて奥に向かっていた僕は、ルディウス様がふと足を止めた事に気付いて振り向いた。
ルディウス様は一つの露店を見てて、近付いた僕にちょうど手にした物を差し出す。
「⋯しおり?」
「本が好きなアルシエには、ちょうどいい物じゃないか?」
ルディウス様が渡してきたのはピンク色の押し花のしおりで、他にも赤とか白とか青とかいろんな色の花で作られてた。
確かに、厚みのある本を読む時にはあると有り難いかも。
じっと見てる間にルディウス様は支払いを済ませ、白と水色の花のしおりも追加で持たせてきた。
「あとで本屋にも寄ってみるか」
いつもそうだけど、ルディウス様、僕といる時は僕の事ばっかり考えてくれてる。
僕の好きな物を覚えて、僕よりも早く気付いてくれて、一緒に大切にしてくれて⋯そんな人、他にいない。
胸がぎゅってなって、僕はルディウス様の人差し指を握る。
「⋯ありがとうございます、ルディウス様」
「喜んで貰えたなら何よりだ」
ルディウス様がしてくれた事で、嬉しくなかった時なんてない。
ここがお屋敷だったらすぐにでも抱き着いてるのに。
「広場まではまだある。気になった物があったら教えてくれ」
「はい」
手をちゃんと握り直してそう言ってくれるルディウス様に頷き、僕は三枚のしおりを見下ろす。
お屋敷に帰ったらもっと勉強を頑張ろう。
甘くないお菓子にも挑戦して、お茶もリーネさんに教えて貰って、少しでもルディウス様の為に出来る事を増やしたい。
甘やかされるばっかりは自分の為にも良くないしね。
とりあえず今は、ルディウス様と花祭りを楽しむ事を考えよう。
広場にはお揃いの花冠を乗せたカップルがたくさんいて、中には僕たちとおなじように同性同士の人もいた。
踊る気はないから人波から外れたところにいるんだけど、花が連なって出来た木は思ったより大きくて離れててもよく見える。花は虹色で、風に乗ってゆらゆら揺れてた。
「不思議な木ですね」
「そうだな。ここでしか見られないのも納得だ」
「どんな子たちなんだろう」
木というよりも本当に花の集合体みたいな感じで、幹はなくて茎が纏まってその役割をしている。でも花の茎一本一本は細いから、力を入れたら簡単に折れちゃうだろうな。
これだけ人がいたら無理だろうけど、ちょっとだけでも話せたらいいのに。
『去年より人が多いんじゃないか?』
『今年も賑やかで何よりだ』
少しでも声が聞こえるところに行けないかなって広場の端の方を歩いてたら、後ろから会話が聞こえて僕は振り向いた。
一輪ずつしか咲けないほど細い花壇にオレンジ色の花が咲いていて、見下ろしてる僕に気付かずお喋りを続けてる。しゃがむとピタッと止まったけど、僕が小さな声で「こんにちは」って言ったら『おや』って驚いた声を上げた。
『坊や、ワシらの声が聞こえるのかい?』
「聞こえますよ」
『これは珍しい。名前を教えてくれるかい?』
「アルシエです」
『良い名だ』
賑やかだから周りの人には聞こえないと思うけど、なるべく声を押さえて話せば花を眺める人にしか見えないよね。
『まさか、ワシらと話せる子がいるとは⋯長生きしてみるもんだね』
『坊やは初めて見るが、花祭りに参加しに来たのかい?』
「はい。お友達に聞いて、連れてきて貰いました」
『そうかそうか』
『花冠を乗せているという事は、坊やにはパートナーがいるんだね』
「います、すっごく素敵な人なんですよ。あそこに⋯⋯」
頷いてパッとルディウス様がいる方を見た僕は、目に入ってきた光景に思わず固まってしまった。
ルディウス様が、女の人に囲まれてる。
「よろしければこちらをどうぞ」
「私たち、向こうの通りでカフェをしているんです」
「軽食からデザートまであるので、ぜひいらしてくださーい」
三女の人はエプロンのついたお揃いのウェイトレス服を着てる三人組で、一人は紙束を、一人は編みカゴを、一人は小さな看板みたいな物を持ってる。
そんなに離れてないから話し声は聞こえてて、ルディウス様は紙を受け取ると目を走らせ小さく頷いた。ふって笑った姿に三人が頬を染める。
編みカゴを下げた一人がその中から小袋を取り出しルディウス様へと差し出した。
「あ、あの、こちらもどうぞ」
「これは?」
「焼き菓子の試食詰め合わせです」
「ああ、ありがとう。妻が喜ぶ」
「いえいえ」
焼き菓子の詰め合わせ⋯美味しそう。
そろそろ話は終わるかなって思ったけど、三人はなかなか離れようとせず看板を持った子がルディウス様に一歩近付いた。
「ちなみに、チラシの目玉商品は新作ケーキなんですよ」
「ケーキか。テイクアウトも出来るのか?」
「はい!」
「アルシエが喜びそうだな」
「結構人気店なんですよ」
立ち上がったもののあの輪には入れなくて、楽しそうに話してる光景に胸がチクッとする。何だかルディウス様が遠い。
どうしようって目を伏せてたら名前を呼ばれて、顔を上げたらルディウス様が僕に向かって手を差し出してた。少しだけ迷ったけど、花に『行っておいで』って言われて小走りで駆け寄りルディウス様に抱き着く。
「アルシエ、ここ、どう思う?」
「ここ?」
僕の肩を軽く叩き、ルディウス様はそう聞いて手にしていた紙―チラシを見せてくれた。カフェの売れ筋メニューらしく、チラシには言ってた目玉商品や他の食べ物とかが凄く上手な絵で表現されてる。
どれもこれも僕が好きな物ばかりでさっきまでのモヤモヤが吹き飛んだ。
このパンケーキっていうの、初めて見るけど美味しそう。
「美味しそう⋯」
「どうやらお気に召したようだな。明日立ち寄らせて貰うよ」
「あ、ありがとうございます!」
「ご来店、お待ちしております!」
「ではでは!」
じっとチラシを見てる間に話は終わり、三人ははしゃぎながら立ち去り人波の向こうへと消えていった。
それにしても、ここまで絵で食べ物を表現出来るなんて⋯匂いが漂ってきそうなくらい本物に近い。
「アルシエ、ダンスはどうする?」
「え? あ⋯僕、踊れないので⋯」
「そうか。ならこっちへおいで」
「?」
そろそろ始まるのか、気付いたらみんなが木の方を向いて円状になってた。
ダンスなんてもちろんした事ないから首を振ったら、ルディウス様に手を引かれて建物の影に連れて行かれる。ここに何かあるのかと思ってると花冠が取られ、二つともルディウス様の手首にかけられた。
その行動の意味が分からなくて目を瞬く僕の頬にルディウス様の手が触れ、軽く上向かされて唇が触れ合う。
「る、ルディウス様⋯」
「誰も見ていないよ。少しだけ、アルシエに触れさせてくれ」
「あ⋯」
そうしてまた重なって、下唇が軽く食まれてゾクッとした。
音楽が鳴り始めて、広場にいるみんなの楽しそうな声が聞こえてくる。
それを聞きながら、僕とルディウス様は何度も口付けを交わしてた。
少しだけって言ってたはずなのに、おかしいな。
ルディウス様は一つの露店を見てて、近付いた僕にちょうど手にした物を差し出す。
「⋯しおり?」
「本が好きなアルシエには、ちょうどいい物じゃないか?」
ルディウス様が渡してきたのはピンク色の押し花のしおりで、他にも赤とか白とか青とかいろんな色の花で作られてた。
確かに、厚みのある本を読む時にはあると有り難いかも。
じっと見てる間にルディウス様は支払いを済ませ、白と水色の花のしおりも追加で持たせてきた。
「あとで本屋にも寄ってみるか」
いつもそうだけど、ルディウス様、僕といる時は僕の事ばっかり考えてくれてる。
僕の好きな物を覚えて、僕よりも早く気付いてくれて、一緒に大切にしてくれて⋯そんな人、他にいない。
胸がぎゅってなって、僕はルディウス様の人差し指を握る。
「⋯ありがとうございます、ルディウス様」
「喜んで貰えたなら何よりだ」
ルディウス様がしてくれた事で、嬉しくなかった時なんてない。
ここがお屋敷だったらすぐにでも抱き着いてるのに。
「広場まではまだある。気になった物があったら教えてくれ」
「はい」
手をちゃんと握り直してそう言ってくれるルディウス様に頷き、僕は三枚のしおりを見下ろす。
お屋敷に帰ったらもっと勉強を頑張ろう。
甘くないお菓子にも挑戦して、お茶もリーネさんに教えて貰って、少しでもルディウス様の為に出来る事を増やしたい。
甘やかされるばっかりは自分の為にも良くないしね。
とりあえず今は、ルディウス様と花祭りを楽しむ事を考えよう。
広場にはお揃いの花冠を乗せたカップルがたくさんいて、中には僕たちとおなじように同性同士の人もいた。
踊る気はないから人波から外れたところにいるんだけど、花が連なって出来た木は思ったより大きくて離れててもよく見える。花は虹色で、風に乗ってゆらゆら揺れてた。
「不思議な木ですね」
「そうだな。ここでしか見られないのも納得だ」
「どんな子たちなんだろう」
木というよりも本当に花の集合体みたいな感じで、幹はなくて茎が纏まってその役割をしている。でも花の茎一本一本は細いから、力を入れたら簡単に折れちゃうだろうな。
これだけ人がいたら無理だろうけど、ちょっとだけでも話せたらいいのに。
『去年より人が多いんじゃないか?』
『今年も賑やかで何よりだ』
少しでも声が聞こえるところに行けないかなって広場の端の方を歩いてたら、後ろから会話が聞こえて僕は振り向いた。
一輪ずつしか咲けないほど細い花壇にオレンジ色の花が咲いていて、見下ろしてる僕に気付かずお喋りを続けてる。しゃがむとピタッと止まったけど、僕が小さな声で「こんにちは」って言ったら『おや』って驚いた声を上げた。
『坊や、ワシらの声が聞こえるのかい?』
「聞こえますよ」
『これは珍しい。名前を教えてくれるかい?』
「アルシエです」
『良い名だ』
賑やかだから周りの人には聞こえないと思うけど、なるべく声を押さえて話せば花を眺める人にしか見えないよね。
『まさか、ワシらと話せる子がいるとは⋯長生きしてみるもんだね』
『坊やは初めて見るが、花祭りに参加しに来たのかい?』
「はい。お友達に聞いて、連れてきて貰いました」
『そうかそうか』
『花冠を乗せているという事は、坊やにはパートナーがいるんだね』
「います、すっごく素敵な人なんですよ。あそこに⋯⋯」
頷いてパッとルディウス様がいる方を見た僕は、目に入ってきた光景に思わず固まってしまった。
ルディウス様が、女の人に囲まれてる。
「よろしければこちらをどうぞ」
「私たち、向こうの通りでカフェをしているんです」
「軽食からデザートまであるので、ぜひいらしてくださーい」
三女の人はエプロンのついたお揃いのウェイトレス服を着てる三人組で、一人は紙束を、一人は編みカゴを、一人は小さな看板みたいな物を持ってる。
そんなに離れてないから話し声は聞こえてて、ルディウス様は紙を受け取ると目を走らせ小さく頷いた。ふって笑った姿に三人が頬を染める。
編みカゴを下げた一人がその中から小袋を取り出しルディウス様へと差し出した。
「あ、あの、こちらもどうぞ」
「これは?」
「焼き菓子の試食詰め合わせです」
「ああ、ありがとう。妻が喜ぶ」
「いえいえ」
焼き菓子の詰め合わせ⋯美味しそう。
そろそろ話は終わるかなって思ったけど、三人はなかなか離れようとせず看板を持った子がルディウス様に一歩近付いた。
「ちなみに、チラシの目玉商品は新作ケーキなんですよ」
「ケーキか。テイクアウトも出来るのか?」
「はい!」
「アルシエが喜びそうだな」
「結構人気店なんですよ」
立ち上がったもののあの輪には入れなくて、楽しそうに話してる光景に胸がチクッとする。何だかルディウス様が遠い。
どうしようって目を伏せてたら名前を呼ばれて、顔を上げたらルディウス様が僕に向かって手を差し出してた。少しだけ迷ったけど、花に『行っておいで』って言われて小走りで駆け寄りルディウス様に抱き着く。
「アルシエ、ここ、どう思う?」
「ここ?」
僕の肩を軽く叩き、ルディウス様はそう聞いて手にしていた紙―チラシを見せてくれた。カフェの売れ筋メニューらしく、チラシには言ってた目玉商品や他の食べ物とかが凄く上手な絵で表現されてる。
どれもこれも僕が好きな物ばかりでさっきまでのモヤモヤが吹き飛んだ。
このパンケーキっていうの、初めて見るけど美味しそう。
「美味しそう⋯」
「どうやらお気に召したようだな。明日立ち寄らせて貰うよ」
「あ、ありがとうございます!」
「ご来店、お待ちしております!」
「ではでは!」
じっとチラシを見てる間に話は終わり、三人ははしゃぎながら立ち去り人波の向こうへと消えていった。
それにしても、ここまで絵で食べ物を表現出来るなんて⋯匂いが漂ってきそうなくらい本物に近い。
「アルシエ、ダンスはどうする?」
「え? あ⋯僕、踊れないので⋯」
「そうか。ならこっちへおいで」
「?」
そろそろ始まるのか、気付いたらみんなが木の方を向いて円状になってた。
ダンスなんてもちろんした事ないから首を振ったら、ルディウス様に手を引かれて建物の影に連れて行かれる。ここに何かあるのかと思ってると花冠が取られ、二つともルディウス様の手首にかけられた。
その行動の意味が分からなくて目を瞬く僕の頬にルディウス様の手が触れ、軽く上向かされて唇が触れ合う。
「る、ルディウス様⋯」
「誰も見ていないよ。少しだけ、アルシエに触れさせてくれ」
「あ⋯」
そうしてまた重なって、下唇が軽く食まれてゾクッとした。
音楽が鳴り始めて、広場にいるみんなの楽しそうな声が聞こえてくる。
それを聞きながら、僕とルディウス様は何度も口付けを交わしてた。
少しだけって言ってたはずなのに、おかしいな。
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三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。