身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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一番望む形

 今日は僕の十九歳の誕生日。
 リーネさんが朝からいろいろしてくれて、いつもよりはちゃんとした格好の僕はみんなの準備が出来るまで部屋で待機している。
 窓からその様子が見えてしまうからソファに座って本を読んでたんだけど、その内容は全然入って来なくて、読むのを諦めた僕は溜め息をついて閉じた。
 その理由はただ一つ。今日の誕生日パーティにはルディウス様がいないから。

『すまない、アルシエ。誕生日には一緒にいられそうにない』

 そう言われた時、やっぱりって気持ちと残念だなって気持ちが混じって複雑な心境になってた。
 フローラ様のお輿入れの日が近付くんだから忙しさは増すのは当然だし、殿下の専属護衛であるルディウス様がいないと意味はないから。
 ルディウス様はギリギリまで頑張ってくれたみたいだけど、やっぱり国の一大事だからこればかりはどうにも出来なかったんだよね。
 分かってる、仕方がない。
 ただ気持ちは、どうしようもなく寂しかった。

「奥様、準備が出来ましたのでお庭に行きましょう」
「あ、はい」

 ぼんやりと窓から見える空を見ていたらリーネさんがやってきて、僕の手を引いて一緒に庭へと向かう。
 庭に続く扉を出ると、去年と同じように白いカバーがかけられた長テーブルが両側に並んでて、その上にはマーディンさんの手によって剪定された花がご馳走を囲うように綺麗に飾られてた。
 僕が美味しいとか、好きって言ったものばかり。
 中央には、下から大中小で重ねられた三段のケーキが乗った台があって、フルーツもたくさんな上に、一段ずつ周りをピンク色の生クリームで絞った花やリボンで彩られてた。

「奥様、私たちが旦那様の分までお祝いしますからね」
「ありがとうございます」
「さぁ奥様、こちらへ⋯⋯あら」
「アルシエ」

 リーネさんがケーキの傍に僕を連れて行こうとした時、ふと何かに気付いて動きを止めた。どうしたのか聞こうとしたんだけど、それより前に柔らかい声に呼ばれて後ろからふわりと抱き締められる。
 驚いて見上げたらルディウス様がいて、僕のおでこに口付けて微笑んだ。

「間に合った」
「⋯ど、どうして⋯」

 ルディウス様は今までにないくらい忙しくて、今日は無理だって言ってたのに。
 目を瞬く僕の頭を撫でてから腕を離したルディウス様は、肩を竦め僕の背を押してケーキまで寄せる。

「どうやら、殿下が私の部下と結託したようでな。今日一日私がいなくとも何とかなると言われ、城から追い出されたよ」
「追い出された⋯?」
「妻の誕生日を祝ってやるべきだと。ただ、殿下はアルシエへの礼だとも言っていたが、何かあったのか?」

 不思議そうなルディウス様に聞かれてハッとする。
 僕が一番望む形でお礼をするって、この事だったんだ。たった一日だって大事な時期で、しかもルディウス様は重要な位置にいる人なのに、誕生日だからって送り出してくれるなんて⋯殿下は優し過ぎるよ。
 胸がいっぱいになって答えられずにいたら、ルディウス様の手が頬に触れて名前が呼ばれる。
 フローラ様の話はしてもいい、よね?

「えっと⋯少し前に殿下がお屋敷に来られて、ご婚約者様の話し相手になってくれないかって言われたんです」
「は?」
「あ、もちろん、最初は僕だとお役に立てないからってお断りしました。でも殿下に凄くお願いされて、ご婚約者様を想う殿下のお気持ちを聞いてるうちに、少しでも助けになれるなら引き受けたいって思ったんです。それに、ご家族と離れて慣れない国に来られるご婚約者様のお気持ちを考えたら⋯とても他人事とは思えなくて」
「⋯⋯⋯」

 僕は一人で嫁いで来たけど、ミアがいてくれたからまだマシだった。
 自分がミアのように出来るとは思わないけど、殿下のおっしゃったようにほんの少しでも寂しさを紛らわせられたらいいなって思ったんだ。
 ルディウス様はしばらく複雑そうな顔をして考えたあと、息を吐いて僕をケーキの前で反転させた。
 見上げた顔はいつも通りで、怒ってはないんだってホッとする。

「私がここにいられるのはアルシエのおかげなんだな」
「いいえ、殿下の優しさのおかげです」

 殿下なら命令だって出来たのに、あくまで僕には〝お願い〟としか言わなかった。本当に僕に選ばせてくれたんだよね。

「アルシエが決めた事だから何も言わないが、あまりフローラ王女殿下ばかりに構わないでくれ」
「⋯⋯ヤキモチ、ですか?」
「ああ。狭量だと思うか?」
「思いません。ルディウス様のヤキモチ、嬉しいです」

 ヤキモチは好きだからするって知ってる。
 僕はまだちょっと分からないけど、ルディウス様が妬くと子供みたいになるから可愛くてきゅんってなるんだ。
 ルディウス様の手を握って笑うと、ルディウス様も表情を緩めて僕の頭にこつんと額を当ててきた。

「誕生日おめでとう、アルシエ」
「ありがとうございます」
「当日に言えて良かった」

 僕も、ルディウス様に祝って貰えて良かった。
 殿下には、また今度お礼を言わなきゃ。



 ルディウス様がいてくれたおかげで、僕はモヤモヤもなく誕生日パーティを思いっきり楽しむ事が出来た。
 途中で誕生日プレゼントを渡されたんだけど、みんなからは、見る角度によって柄の変わる不思議な絵の本と小さな兎のぬいぐるみを、ルディウス様からは、雫の形をした透明な宝石の耳飾りを貰った。
 この耳飾りにはルディウス様の魔力が込められているらしく、迷子になっても居場所が分かるんだって。
 嬉しくてすぐに着けて貰ったけど、慣れてないからしばらくは違和感があったな。これだけは毎日着けて当たり前にしないと。

「面白いか?」

 入浴を終え、ルディウス様のベッドの上で貰った本を右に左に傾けながら見てたら、同じく湯浴みから戻ってきたルディウス様が覗き込んできた。

「はい。凄いですよ、これ。こっちだとお姫様なのに、こっちだと魔女になるんです」
「どういう仕組みなんだろうな」
「きっとたくさん考えて作ったんでしょうね」

 ルディウス様にも分かるように角度を変えて見せたけど、ルディウス様も不思議なのか眉を顰めて表面を撫でる。
 特別な仕組みなんてなさそうだけどな。
 ベッドに腰を下ろし、手櫛で髪を整えたルディウス様は僕から本を取り上げると、おもむろに肩を抱いて口付けてきた。

「ん」
「⋯そろそろ、私にも構ってくれないか?」
「はい」

 本にまで妬いてるって、笑いながら腕を伸ばしてルディウス様の首に抱き着いたら、すぐ唇が塞がれてそのまま押し倒されて深くなる。
 音を立てながら離れたりくっついたりを繰り返したあと舌が入ってきて、僕の舌をつつくから応えたらチュッと吸われて軽く歯を立てられた。ゾワゾワってして小さく声を漏らすと、大きな手が脇腹から胸元へと上がってきて唇が離れる。

「アルシエ、もし嫌だと思ったら⋯」
「ルディウス様」
「ん?」
「ルディウス様は僕の嫌がる事なんてしませんし、僕は何をされても嫌だなんて思いません。だから、それはもう言わないでください」
「アルシエ⋯」

 ルディウス様は優しいから気にし過ぎなくらい気にしてくれてるんだろうけど、僕は本当にそう思ってるから不安にならなくてもいいんだよ。
 それに僕、三年前に比べてわりと強くなったし。
 ルディウス様の唇に人差し指を当ててそう言えば、ルディウス様は目を細めたあと身体の力を抜くように息を吐いた。

「アルシエには敵わないな」
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