身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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目が覚めて

 遠くで賑やかな声が聞こえる。
 寝返りを打ったら顔に日差しが当たって、眩しさで目を覚ました僕はぼんやりと天井を見上げたあと、起き上がろうとしてまたベッドに突っ伏した。
 何だか力が入らないし、腰とか足の付け根とか痛いし、お尻に何かが挟まってるような感覚がある。
 どうしてだろうって考えた僕の頭に、昨日の光景が蘇った。
 そうだ、僕、ルディウス様と凄い事したんだ。

「あんなところにルディウス様のが入るなんて⋯あ!」

 指の時は大丈夫だったけど、あまりにもルディウス様のが大きかったからもしかしたら拡がったままなんじゃないかって慌ててお尻に触ってみたけど、ピリッとしたくらいでちゃんと閉じてた。
 ホッとしたものの、今度はどうやって起き上がろうかって考える。
 頑張れば起き上がれるかな。
 気合いを入れて起き上がろうとしたら、扉がノックされてリーネさんの声がした。応えるとワゴンを押しながら入ってきて、僕を見て頭を下げる。

「おはようございます、奥様」
「お、おはようございます」
「どうぞ、そのままでいらしてください」

 急いで起き上がろうとする僕に首を振り、ベッドの傍まで来たリーネさんは湯気の立つタオルを手にすると僕の顔を優しく拭い始めた。
 ちょうどいい温かさに身体から力が抜ける。

「少し身体を起こさせていただきますね」

 そう言って僕の背中を起こして支え、間にクッションをいくつか差し込んだあと小さいテーブルみたいな台が前に置かれる。
 その上にマットが敷かれ、パンやスープ、一口サイズに切られたお肉、カット済みのフルーツが並べられた。カトラリーと紅茶が置かれたところでようやく朝食だって気付く。
 いつもよりは少なめだ。

「奥様、食べられる分だけで構いませんから、ゆっくりお召し上がりください」
「ありがとうございます。いただきます」

 どうしてベッドの上なのか、どうしていつも以上に気を遣われてるのか、分からないながらもパンを取ってちぎって口に入れる。
 ほんのり温かくて柔らかくて、ちょっぴり甘さのあるパンは僕のお気に入りだ。
 このまま食べたり、焼いてもらったり、ジャムをつけたり、スープに浸したり、色んな食べ方が出来るから飽きもこないし何より美味しい。
 スープも優しい味付けでほっこりする。

「奥様。旦那様より言伝がございます」
「言伝?」
「はい。本日はお身体を第一に考え、なるべくベッドから動かないように、との事です」
「え」
「私だけが事情を知っておりますので、気になる事があったらおっしゃってくださいね」

 確かに怠さや痛みはまだあるけど、少しずつマシになってるから食べて休憩したらお家の仕事をしようと思ってたのに。
 花壇のお世話とか、花たちへの挨拶とかもしに行こうって。
 目を瞬く僕の口元を拭い、リーネさんはにこっと笑った。

「今日だけ、我慢してくださいね」
「⋯はい」

 ルディウス様に言われたのなら仕方ない。
 きっと心配で言ってくれたんだと思うから、今日はベッドでゆっくりしよう。
 味わいながら食べ進め、フルーツまで完食したところでリーネさんが片付けてくれて、何かを手にまた傍まで来るとそれを見せて首を傾げた。

「念の為、お尻に軟膏を塗りたいのですが⋯」
「え!? や、あの⋯っ」
「ご自分でされますか?」
「じ、自分でします⋯」

 ルディウス様には何度も見られてるからまだいいけど、さすがにリーネさんに見せるのは恥ずかし過ぎる。
 軟膏と鏡を受け取ったら、リーネさんは「片付けてきますね」と言ってワゴンを押しながら部屋から出て行き、僕は台を横にズラして下履きを脱ぐ。そこで気付いたけど、僕が着てるの、ルディウス様のシャツだ。
 袖に鼻を寄せるとルディウス様の匂いがして、胸がぎゅってなった。
 朝のお見送りしたかったな。
 しばらく袖口に鼻先を当てたままぼんやりしていた僕はハッとして鏡を置き、足を開いて自分のお尻を写した。赤くなって、ちょっとぷっくりしてる。
 ここに、ルディウス様のが入ったんだよね。人間の身体って凄い。
 軟膏を指で掬って恐る恐る塗ったあと急いで下履きを身に着ける。ちょっとぬるぬるして気持ち悪かったけど、軟膏の蓋を閉めたところでリーネさんが戻ってきた。

「奥様、先ほど王女殿下からの使いの方がいらして、お手紙を置いて行かれましたよ」
「お手紙?」
「はい。どうぞ」

 タオルで手を拭いて差し出された封筒を受け取った僕は、王紋の蝋封を見てからリーネさんに開けて貰い中を取り出す。
 ふわりとアンジェラ様の香りが舞って、何だかホッとした。
 アンジェラ様にもしばらく会えてないから、香りだけでも感じられて嬉しい。
 手紙を開いた僕は、内容を読んでクスリと笑う。

『アルシエ、久し振りの手紙ね。今は城内が慌ただしいせいで会えないから寂しいわ。落ち着いたらまた、一緒にお菓子作りしましょうね。そうそう、本題に入るけど、十九歳のお誕生日おめでとう。今度会えたらプレゼントを渡すから楽しみにしていて。あ、今回は持ち帰れるサイズだから大丈夫よ。それじゃ、またね』

 短いけど、アンジェラ様らしさがたっぷり詰まったお手紙だ。
 丁寧に封筒に戻し、じっと見てたらリーネさんがベッドに数冊の本を乗せてきた。

「奥様がお好きそうな本を持ってきましたので、よろしければお読みくださいね」
「ありがとうございます」
「私は別で仕事をしておりますので、御用の際はいつものようにこちらを鳴らしてください。遠慮なんてしてはいけませんよ?」
「はい」

 僕があまり呼ぶ事がないからか、言われるたびにこうして念を押されてる。
 そのやり取りさえ楽しくて笑いながら頷いたら、鈴を置いたリーネさんは困ったような笑顔を浮かべて僕に上掛けをかけてくれた。
 水差しと一口サイズの個包装されたチョコをサイドテーブルに用意し、会釈して部屋を出るリーネさんを見送って本を手に取る。
 こんな風に、一日ベッドでゴロゴロなんて初めてだ。
 開いた窓からは、風に乗って花たちの声が聞こえてくる。
 和むなぁって思いながら本を抱き締めた僕は、また袖を鼻に寄せて寝転ぶと背中を丸めて目を閉じた。
 ルディウス様、今日は何時に帰ってくるのかな。
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