身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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隣国の王女

 国全体がソワソワし始めてどれくらい経ったのか、ようやくフローラ様がお輿入れされる日が来た。
 フローラ様は転移装置ではなく馬車で来られるそうで、国の正門から入りメインストリートを通って殿下方の待つお城に行くらしい。街の人が通りに並んでお出迎えするそうだけど、僕はルディウス様に危ないから行かないで欲しいって言われた為お留守番だ。
 人で溢れる場所はな事を考える人もいて心配だからって。
 ⋯〝ふらち〟ってなんだろう。
 どのみち、ルディウス様の奥さんである僕にもお目通りの機会はあるみたいだし、挨拶もその時で大丈夫だよって殿下もおっしゃってたから問題はないはず。
 結婚式自体はフローラ様が成人してからだそうだけど、それはもう盛大な式になるんだろうな。


 そうしてフローラ様が国へ来て数日、僕は緊張で固まってた。

「大丈夫か、アルシエ」
「だ、だい、じょぶ、です」
「そうは見えないが⋯」
「僕は、ルディウス様の奥さんなので、頑張ります」
「頑張らせる為に嫁にした訳ではないんだがな」

 何を言われようと、僕は今から行う事を全力でやり切るだけだ。
 とりあえず名前だけは噛まないようにしたい。
 息を吸って吐いてしてたら不意にルディウス様の手が肩に触れ、抱き寄せられて口付けられた。
 誰もいないからって大胆な事をするルディウス様を驚いて見上げたら扉が開いて殿下が入ってきて、見つめ合う僕たちに気付くなり片眉を跳ね上げる。

「こらこら、イチャつくなら家でやりなさい」
「アルシエの緊張を解していただけです」
「それは建前だろう」
「⋯⋯⋯」

 半目の殿下から視線を逸らして黙り込んだルディウス様は、肩から手を離すと今度は僕の手を取って自分の腕へと寄せる。
 見上げる僕に微笑んだあと、真面目な顔になり殿下へと頷いた。
 表情を緩めた殿下が同じように頷いて扉を開け、誰かの手を取り口付けてから部屋へと招き入れる。
 現れたのは、薄黄色の華やかなドレスを着た可愛らしいお姫様だった。
 僕より二つ下で、明るくて元気いっぱいな隣国の王女様。

「紹介するよ。私の婚約者である、アムネスティア王国第一王女フローラだ」
「フローラですわ。貴方とはご挨拶しましたけど、彼とは初めましてですわね」
「あ⋯」

 ルディウス様が頭を下げたから僕も慌てて下げたんだけど、フローラ様と目が合って頭が真っ白になり一瞬言葉を見失う。
 そんな僕を助けるようにルディウス様が口を開いた。

「こちらもご紹介致します。私の最愛の妻、アルシエです。以後お見知り置きいただけますと幸いです」
「あ、アルシエ・ヴァン・リトルハイムです。お目にかかれて光栄です、フローラ王女殿下」
「⋯妻⋯」

 とりあえずご挨拶だと自分の名前を告げもう一度頭を下げたんだけど、フローラ様はポツリと零して口元へと手を当てた。
 やっぱり男が〝妻〟って変、かな。

「この国では同性婚も認められていると聞きましたけど、本当にいらっしゃるんですのね⋯何だかドキドキしますわ」
「失礼だよ、フローラ」
「ごめんなさい、偏見がある訳ではないの。ただ私の国では珍しいものですから⋯」
「いえ。お気になさらないでください」

 あ、妻に引っ掛かってたんじゃなくて、僕とルディウス様が結婚してる事が気になったんだ。
 この国ではもう当たり前だから気にしてなかったけど⋯そうだよね、よその国からしたら驚きだよね。
 殿下に窘められ、申し訳なさそうだったフローラ様はルディウス様の返事にホッとすると、僕の方へと近付いて顔を覗き込んできた。
 身長があんまり変わらないから、思った以上に近くなって内心焦る。

「それにしても貴方⋯変わった瞳の色をしていらっしゃるのね」
「⋯そう、ですね⋯」
「色は魔力値に比例すると言いますけれど⋯不思議な感覚ですわ」
「分かるのかい?」
「ええ。決して攻撃性のない、全てを包み込むような優しい魔力⋯貴方、相当な魔力の持ち主ですわよ」
「え?」

 今まで一度も言われた事のない言葉に驚きルディウス様を見上げると、ルディウス様も目を見瞠ってフローラ様を見てた。
 殿下が戸惑いつつフローラ様に声をかける。

「フローラ、彼は魔力のほとんどない子なんだ。何かの間違いじゃ⋯」
「当然、この国の測定方法なら数値は出ませんわ。彼の魔力は、この世界の誰とも違いますもの」
「違う?」
「どちらかと言えば、自然界に近い⋯⋯このような方は初めてですわ」

 自分の事なのに理解が出来なくて、困惑する僕にフローラ様がますます近付いてくる。
 まるで瞳の奥の奥まで見ようとしてるみたいって思ってたら、いきなり目の前に大きな手が現れて遮られた。

「失礼。あまり妻に近付かないでいただけますか」
「はい?」
「フローラ、ルディウスはアルシエ限定で嫉妬深いんだ」
「まあ」

 僕の視界はルディウス様の手で埋め尽くされてるからフローラ様がどんな顔をしてるのか分からないけど、どうしてか声音が弾んでてワクワクしたような反応だった。
 ルディウス様の手が引かれ、殿下の隣に戻ったフローラ様と目が合う。

「それにしても、なぜ王女殿下はそのような事が分かるのですか?」
「フローラは〝心眼〟の持ち主なんだ。普通の人なら感じ取れない事も気付くし、その人の嘘も見抜いたりする。特に、悪意には敏感だよ」
「なるほど⋯」

 しんがん⋯初めて聞く言葉に目を瞬いてる間に話が進み、殿下が難しい顔で顎に手を当てうーんと唸った。

「でもそうか。アルシエの魔力は少ないのではなく、性質自体が違う為測定しきれなかっただけなのか」
「とはいえ、この世界にある物ではどのみち測定自体出来ないと思いますわ。ですが特に危険もありませんし、ここだけに留めておくのがよろしいかと」
「そうだね。みんな、この件は外部には漏らさないように」
「はい」

 僕の事を話してるのに僕には全然ピンとも来なくて、どれだけ集中しても誰かの魔力すら感じられない。
 この世界の誰とも違う魔力。
 でも行き着くのは、〝どうして僕だけ〟って気持ち。

「⋯⋯⋯」

 ルディウス様の腕に身を寄せるとすぐに頭を撫でてくれる。
 そうだよね。〝僕だけ〟だったから、今こうして好きな人といられるんだよね。

「仲がよろしいんですのね」
「恐らく、国一番のおしどり夫婦だよ」
「私も、クロード様とそんな夫婦になりたいですわ」
「そうだね」

 キラキラし目で殿下を見上げるフローラ様が恋する乙女で可愛い。
 そういえば元気な方だって聞いてたけど、年下とは思えないほど所作とか話し方とか落ち着いてる。
 もしかして、初めましてだから気を遣ってくださったのかな。
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