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殿下とフローラ
いつものガゼボにお茶の準備をして貰い、向かいに座った僕にアンジェラ様はさっそくプレゼント袋を差し出しきた。
大きさは僕の頭くらいで、受け取った感触は柔らかい。
開けてもいいって言われたからリボンを解いて口を広げた僕は、中を覗き込んで目を瞬く。
持ち手があって、チャックがついてるこれは⋯鞄?
「それね、魔法鞄」
「え?」
サラッと言われたけど、とんでもない物がプレゼントとして渡されて僕は目を見瞠って固まる。
魔法鞄って⋯そう簡単には手に入らない物なのに。
「あんまり使う機会はないかもしれないけど、あって困るものでもないから」
「ぼ、僕にはもったいないです」
「そんな事ないわ。私からすれば足りないくらいなのに」
「僕からしたら、温室より凄い物ですよ⋯」
温室は貴族なら建てる事は出来るけど、魔法鞄は高位貴族でさえ簡単には手に入らないから、こうして今手に持ってるのでさえ恐ろしい。
中身は無尽蔵。取り出したい物を思い浮かべて鞄に手を入れればそれだけが現れる優れもの。食べ物だって腐らないし、割れ物を入れても壊れない。しかも鞄の大きさは関係ない上に、どれだけ入れても重さは一グラムも変わらないという。
ルディウス様と花祭りに行った日に実感したけど、この鞄一つあれば本当にどこにでも行けるんだよね。
「⋯本当にいいんですか? こんなに貴重な物⋯」
「私がアルシエに贈りたいと思ったから、貰ってくれないとむしろ困るわ」
「じゃあお言葉に甘えて⋯ありがとうございます、アンジェラ様」
「あら、違うでしょう?」
お礼を言っただけなのに何が違うんだろうって目を瞬いたら、アンジェラ様がにこっと笑って自分を指差す。
あ、そういう事か。
クスリと笑い、僕は魔法鞄を抱き締めた。
「ありがとうございます、姉様」
弟だと思ってくださってたとしても過ぎた物だとは思うけど、せっかくいただいたんだから大事にしよう。
「なくしたり壊したりしたら言って」
「いいえ。百年経っても綺麗って思われるくらい大切に使います」
「気にしなくていいのに。でも、それがアルシエなのよね」
魔法鞄は魔法がかかってるだけに丈夫だって聞くし、手入れとかちゃんとすればそれこそ百年以上だって現状維持は出来ると思うんだ。
アンジェラ様は頬杖をついて微笑み、ボックスクッキーをつまみ上げる。
「ねぇ、アルシエはフローラ様と、普段どんな話をしているの?」
「そうですね⋯フローラ様が殿下のお話をされるので、それを聞いてます」
「お兄様の話?」
「はい。フローラ様、殿下の事が大好きみたいで、今日はこんな話をしたとか、こんな事をして貰ったとか、嬉しそうに話してくれますよ」
最初は話し相手だったはずなのに、今の僕は聞いてばかりでフローラ様の弾丸のような話に相槌を打つ事しか出来ない。
数回目を瞬いたアンジェラ様は、少し眉尻を下げてクッキーを戻す。
「フローラ様、そんなにお兄様の事が好きなの。何だか気の毒ね⋯」
「⋯もしかして、殿下はフローラ様の事⋯」
「婚約者以上の感情はないんじゃないかしら。正直、私でもたまにお兄様の事分からない時あるし」
少し前にルディウス様が同じような事を言ってた。アンジェラ様もそう思うって事は、殿下が本心を見せないっていうのは本当なんだろうな。
でも、どうして家族なのに隠すのかな。
「欺くにはまず味方からとは言うから、次期国王として律してる部分だとは思うんだけどね。何かあった時、冷徹になれるように」
「冷徹にならないとダメなんですか?」
「王は誰よりも国と民を一番に考えなければいけないの。もし身内の裏切りに遭った時、少しでも情があったらちゃんと裁けないでしょ? お父様でもお母様でも私でも、いざという時は切り捨てる覚悟が必要なの」
切り捨てる。その言葉を聞いた瞬間、僕の頭にマルグリアでの生活が蘇った。
ルディウス様のおかげで考えなくなってたけど、僕も父様には切り捨てられたようなものだ。役に立たないんだから当然だけど。
「寂しくないですか?」
「もう割り切れてる。お兄様は優しいもの。それだけで充分よ」
一国を背負うって、僕には計り知れないほどの重圧があるんだろうな。色んなしがらみとか周りからの期待とか、全部王様の肩に乗せられるんだもんね。
大事な物や人がたくさんだと、弱点にもなるし。
「殿下は⋯寂しくないのかな⋯」
「分からないわ。でももしかしたら、フローラ様がお兄様の気持ちを変えられるかもしれないわね。そうしたらお兄様も、甘えられる人が出来て今よりもっと充実した日々を送れるでしょうね」
「変えられるといいな⋯僕、殿下も好きなので、心の底から幸せになって欲しいです」
「ルディウスが聞いたら、またヤキモチ妬くわよ」
「ルディウス様への好きと、殿下への好きは違いますから」
触れて触れたくて、ずっと傍にいたいし、僕だけを見て欲しい。そんな気持ち、殿下には抱かないもん。
アンジェラ様はクスリと笑うと、またクッキーを手に取り今度こそ齧った。
「ルディウスほどとは言わないけど、お兄様もフローラ様を愛せるようになれればいいわね」
他の誰を信じられなくても、フローラ様だけ。
そんな日が来れば、フローラ様も、今よりもっと幸せに狎れるだろうな。
大きさは僕の頭くらいで、受け取った感触は柔らかい。
開けてもいいって言われたからリボンを解いて口を広げた僕は、中を覗き込んで目を瞬く。
持ち手があって、チャックがついてるこれは⋯鞄?
「それね、魔法鞄」
「え?」
サラッと言われたけど、とんでもない物がプレゼントとして渡されて僕は目を見瞠って固まる。
魔法鞄って⋯そう簡単には手に入らない物なのに。
「あんまり使う機会はないかもしれないけど、あって困るものでもないから」
「ぼ、僕にはもったいないです」
「そんな事ないわ。私からすれば足りないくらいなのに」
「僕からしたら、温室より凄い物ですよ⋯」
温室は貴族なら建てる事は出来るけど、魔法鞄は高位貴族でさえ簡単には手に入らないから、こうして今手に持ってるのでさえ恐ろしい。
中身は無尽蔵。取り出したい物を思い浮かべて鞄に手を入れればそれだけが現れる優れもの。食べ物だって腐らないし、割れ物を入れても壊れない。しかも鞄の大きさは関係ない上に、どれだけ入れても重さは一グラムも変わらないという。
ルディウス様と花祭りに行った日に実感したけど、この鞄一つあれば本当にどこにでも行けるんだよね。
「⋯本当にいいんですか? こんなに貴重な物⋯」
「私がアルシエに贈りたいと思ったから、貰ってくれないとむしろ困るわ」
「じゃあお言葉に甘えて⋯ありがとうございます、アンジェラ様」
「あら、違うでしょう?」
お礼を言っただけなのに何が違うんだろうって目を瞬いたら、アンジェラ様がにこっと笑って自分を指差す。
あ、そういう事か。
クスリと笑い、僕は魔法鞄を抱き締めた。
「ありがとうございます、姉様」
弟だと思ってくださってたとしても過ぎた物だとは思うけど、せっかくいただいたんだから大事にしよう。
「なくしたり壊したりしたら言って」
「いいえ。百年経っても綺麗って思われるくらい大切に使います」
「気にしなくていいのに。でも、それがアルシエなのよね」
魔法鞄は魔法がかかってるだけに丈夫だって聞くし、手入れとかちゃんとすればそれこそ百年以上だって現状維持は出来ると思うんだ。
アンジェラ様は頬杖をついて微笑み、ボックスクッキーをつまみ上げる。
「ねぇ、アルシエはフローラ様と、普段どんな話をしているの?」
「そうですね⋯フローラ様が殿下のお話をされるので、それを聞いてます」
「お兄様の話?」
「はい。フローラ様、殿下の事が大好きみたいで、今日はこんな話をしたとか、こんな事をして貰ったとか、嬉しそうに話してくれますよ」
最初は話し相手だったはずなのに、今の僕は聞いてばかりでフローラ様の弾丸のような話に相槌を打つ事しか出来ない。
数回目を瞬いたアンジェラ様は、少し眉尻を下げてクッキーを戻す。
「フローラ様、そんなにお兄様の事が好きなの。何だか気の毒ね⋯」
「⋯もしかして、殿下はフローラ様の事⋯」
「婚約者以上の感情はないんじゃないかしら。正直、私でもたまにお兄様の事分からない時あるし」
少し前にルディウス様が同じような事を言ってた。アンジェラ様もそう思うって事は、殿下が本心を見せないっていうのは本当なんだろうな。
でも、どうして家族なのに隠すのかな。
「欺くにはまず味方からとは言うから、次期国王として律してる部分だとは思うんだけどね。何かあった時、冷徹になれるように」
「冷徹にならないとダメなんですか?」
「王は誰よりも国と民を一番に考えなければいけないの。もし身内の裏切りに遭った時、少しでも情があったらちゃんと裁けないでしょ? お父様でもお母様でも私でも、いざという時は切り捨てる覚悟が必要なの」
切り捨てる。その言葉を聞いた瞬間、僕の頭にマルグリアでの生活が蘇った。
ルディウス様のおかげで考えなくなってたけど、僕も父様には切り捨てられたようなものだ。役に立たないんだから当然だけど。
「寂しくないですか?」
「もう割り切れてる。お兄様は優しいもの。それだけで充分よ」
一国を背負うって、僕には計り知れないほどの重圧があるんだろうな。色んなしがらみとか周りからの期待とか、全部王様の肩に乗せられるんだもんね。
大事な物や人がたくさんだと、弱点にもなるし。
「殿下は⋯寂しくないのかな⋯」
「分からないわ。でももしかしたら、フローラ様がお兄様の気持ちを変えられるかもしれないわね。そうしたらお兄様も、甘えられる人が出来て今よりもっと充実した日々を送れるでしょうね」
「変えられるといいな⋯僕、殿下も好きなので、心の底から幸せになって欲しいです」
「ルディウスが聞いたら、またヤキモチ妬くわよ」
「ルディウス様への好きと、殿下への好きは違いますから」
触れて触れたくて、ずっと傍にいたいし、僕だけを見て欲しい。そんな気持ち、殿下には抱かないもん。
アンジェラ様はクスリと笑うと、またクッキーを手に取り今度こそ齧った。
「ルディウスほどとは言わないけど、お兄様もフローラ様を愛せるようになれればいいわね」
他の誰を信じられなくても、フローラ様だけ。
そんな日が来れば、フローラ様も、今よりもっと幸せに狎れるだろうな。
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