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耳飾りの力
バルコニーに出て、少し進んだところで足を止めたフローラ様の姉様は、僕へと振り向いたあと少ししてから「お名前は?」と聞いてきた。
「あ、アルシエ⋯です⋯」
「そう。私はディアナですわ。フローラの姉、というのはご存知?」
「は、はい」
「そうよね、フローラと仲がよろしいんですもの」
話し方はフローラ様と同じなのに、どこか冷たく感じるのは僕が怖いって思ってるからかな。
それより早く終わらせて戻らないと⋯絶対に動かないでって言われたし、いないって分かったらルディウス様もフローラ様も心配する。
ディアナ様は短く息を吐くと、不意にドレスに触れて微笑んだ。
「この色、素敵だと思いません?」
「そう、ですね⋯」
「あのお方をイメージしましたの。やっぱり人目のある場所では、お慕いする方の色を纏いたいですもの」
という事は、ディアナ様は意図的にルディウス様の色を選んだんだ。でも、結婚してる人の色を身に着けるって、貴族のマナー的にいいのかな。
被るのは仕方なくても、わざとっていうのはちょっと⋯僕としても嫌だ。
「私ね、一度結婚したのだけれど、相手が思っていた感じと違ってすぐに離縁したんです。フローラの輿入れについて来たのは、どなたかいい人が見つかれば、という思いからでしたが、まさかあんなに素敵な方がいらっしゃるなんて思いもしませんでしたわ」
「⋯⋯⋯」
「強くて逞しくて、それでいて驕らず部下の方たちからも慕われていて。何よりお顔が好みだったからすぐに惹かれたの。あの方こそ私の運命の人だと。⋯⋯それなのに、彼には奥様がいた」
途端に低くなった声に背中がゾワリとした。
話を聞いてるうちに俯いてしまったけど、こっちを見ているのは何となく分かる。
「私がどれだけ心を寄せても奥様を愛しているからの一点張りで⋯あんなに素敵な方がここまでおっしゃるのだからさぞやお美しい奥様なのだろうと思ったら⋯⋯どうして? どうして貴方なの?」
ヒールの音がして、ディアナ様が一歩ずつ近付いてくる。
それに合わせるように後ずさってたら手摺りにぶつかって、逃げ道さえなくなってしまった事に僕は身体を震わせた。
ディアナ様はどんどん近付いてきて、僕のすぐ前でピタッと止まる。
「綺麗でも美しくもない⋯小さくてひ弱そうで、まるで子供のよう」
「⋯⋯⋯」
「何より気に入らないのが男だという事ですわ。同性なんて有り得ない⋯貴方のような人があのお方の妻だなんて間違ってるもの。ねぇ、ご自分でも相応しくないって分かっているのでしょう? もし貴方から言えないなら、私が進言して差し上げてもよろしくてよ?」
「⋯⋯⋯⋯」
「私の方がお似合いですし、何より私はアムネスティアの王族。彼と私が婚姻を結べば、両国の絆はもっと堅固になりますもの。ね、いい案だと思わない?」
ディアナ様の言う事は正しい。
僕はセレーナ姉様のように美しくもないし、ディアナ様のように綺麗でもない。同じ歳の子より小さくて細くて、傍から見れば子供と変わらない。
ルディウス様には相応しくないって何度も思った。
でも、ルディウス様はそんな事関係なく僕を愛してるって言ってくれる。その言葉に嘘はないし、だからこそ僕だってこんなに好きになったんだから。
例え他の誰が有り得ないって思っても、僕はルディウス様の奥さんである事に誇りを持ってる。
「確かに⋯両国にとってはいい事なのかもしれません。ですが、僕とルディウス様は愛し合ってちゃんと夫婦になりました。相応しいとか相応しくないとか、関係ありません」
僕はぐっと拳を握って言葉を返す。
怖いけど、ここで言えなかったら僕はずっと弱虫のままだ。
だけどディアナ様は僕を冷たく見下ろすと、おもむろに耳飾りへと触れて溜め息をついた。
「貴方はもう充分に愛されたでしょう? でしたらもういいじゃない。離縁して、第二の人生を歩んでみてはいかが?」
「い、嫌です⋯」
「頑固ねぇ。こんな物までつけて⋯⋯優位に立ってるつもり?」
「そんなつもりは⋯」
「あの方が貴方に贈った物はすべて私の物よ。返して!」
「⋯いっ⋯」
ぐっと耳飾りが握られ軽く引かれる。
金具で耳たぶを挟んでるだけとはいえ、何をされるか分からなくてビクビクしてしまう僕を睨んだディアナ様は、言葉と共にそれを思いっきり引っ張った。
ピリッとした痛みが走って思わず耳を押さえたら肩が押され、視界がディアナ様から夜空に変わり背中が手摺りを滑る。全部がスローモーションで過ぎて、落ちるって気付いた瞬間眩しいくらいの光がディアナ様の持つ耳飾りから放たれた。
「きゃああぁぁあ!!」
「アルシエ!」
劈くような悲鳴とルディウス様の声が同時にして、腕が掴まれて引き上げられる。呆然とする僕の身体が、いつもの温もりと香りに包まれた。
落ちたと思った。もうダメだって。
「良かった⋯間に合った⋯」
「⋯⋯ルディウス⋯様⋯」
「いやぁあ! 消して! 早く消してぇ!」
「!」
だけどホッとしたのも束の間、ディアナ様の悲痛な叫びに顔を上げた僕は目の前の光景に息を飲んだ。
ディアナ様の腕が燃えて、顔にまで迫ってる。
な、何⋯? どうしてこんな事になってるの⋯?
「お姉様!」
騒ぎを聞き付けたのか駆け付けたフローラ様が悲鳴を上げ、その後ろから来た殿下が眉を顰めながらも氷の魔法を使って火を包むように消しディアナ様はその場に崩れ落ちた。
殿下の指示で運び出されたけど、ホールにいた貴族たちも何事かとザワついていてもうパーティどころじゃなくなってる。
「ルディウス、アルシエ。何があったのか、あとで説明してくれるね」
「⋯⋯⋯」
「は、はい」
ルディウス様は僕を抱き締めたまま、殿下の言葉にも返事をしない。
でも僕の背中に触れてる腕が微かに震えている事には気付いているみたいで、いつもみたいに呆れた顔はしなかった。
「お姉様⋯」
「フローラ、君は部屋に戻りなさい。あとで話すから」
「⋯⋯分かりましたわ」
「君たちも、落ち着いたら私の書斎に来るように」
「はい」
炎に包まれたディアナ様を見てさぞかし怖かっただろうな。
それでも僕と目が合い微笑んだフローラ様は俯く事なくホールをあとにし、殿下はルディウス様の背中を軽く叩いてから中へと戻って行った。
「心臓が止まるかと思った」
「⋯ごめんなさい⋯」
「おおかたあの女に連れ出されたんだろうが⋯まさか発動するような事態になるとはな。ダリスが教えてくれなければどうなっていたか⋯」
そっか、ダリスさんがルディウス様に僕がいる場所を伝えてくれたんだ。
また心配をかけて、パーティまでめちゃくちゃにしてしまった。
「あの⋯ルディウス様⋯」
「ん?」
「ごめんなさい⋯勝手にあそこを離れたりして⋯」
「いや、アルシエは悪くない。相手は腐っても王族だからな。断れないだろ」
それもあるけど、断れる雰囲気でもなかったというか⋯。
いつもよりも強く抱き締めてくれるルディウス様の背中に腕を回し、頬を寄せた僕は目を閉じて考える。
優しいこの人をちゃんと安心させてあげたい。
身を守る術が、僕にもあればいいのに。
「あ、アルシエ⋯です⋯」
「そう。私はディアナですわ。フローラの姉、というのはご存知?」
「は、はい」
「そうよね、フローラと仲がよろしいんですもの」
話し方はフローラ様と同じなのに、どこか冷たく感じるのは僕が怖いって思ってるからかな。
それより早く終わらせて戻らないと⋯絶対に動かないでって言われたし、いないって分かったらルディウス様もフローラ様も心配する。
ディアナ様は短く息を吐くと、不意にドレスに触れて微笑んだ。
「この色、素敵だと思いません?」
「そう、ですね⋯」
「あのお方をイメージしましたの。やっぱり人目のある場所では、お慕いする方の色を纏いたいですもの」
という事は、ディアナ様は意図的にルディウス様の色を選んだんだ。でも、結婚してる人の色を身に着けるって、貴族のマナー的にいいのかな。
被るのは仕方なくても、わざとっていうのはちょっと⋯僕としても嫌だ。
「私ね、一度結婚したのだけれど、相手が思っていた感じと違ってすぐに離縁したんです。フローラの輿入れについて来たのは、どなたかいい人が見つかれば、という思いからでしたが、まさかあんなに素敵な方がいらっしゃるなんて思いもしませんでしたわ」
「⋯⋯⋯」
「強くて逞しくて、それでいて驕らず部下の方たちからも慕われていて。何よりお顔が好みだったからすぐに惹かれたの。あの方こそ私の運命の人だと。⋯⋯それなのに、彼には奥様がいた」
途端に低くなった声に背中がゾワリとした。
話を聞いてるうちに俯いてしまったけど、こっちを見ているのは何となく分かる。
「私がどれだけ心を寄せても奥様を愛しているからの一点張りで⋯あんなに素敵な方がここまでおっしゃるのだからさぞやお美しい奥様なのだろうと思ったら⋯⋯どうして? どうして貴方なの?」
ヒールの音がして、ディアナ様が一歩ずつ近付いてくる。
それに合わせるように後ずさってたら手摺りにぶつかって、逃げ道さえなくなってしまった事に僕は身体を震わせた。
ディアナ様はどんどん近付いてきて、僕のすぐ前でピタッと止まる。
「綺麗でも美しくもない⋯小さくてひ弱そうで、まるで子供のよう」
「⋯⋯⋯」
「何より気に入らないのが男だという事ですわ。同性なんて有り得ない⋯貴方のような人があのお方の妻だなんて間違ってるもの。ねぇ、ご自分でも相応しくないって分かっているのでしょう? もし貴方から言えないなら、私が進言して差し上げてもよろしくてよ?」
「⋯⋯⋯⋯」
「私の方がお似合いですし、何より私はアムネスティアの王族。彼と私が婚姻を結べば、両国の絆はもっと堅固になりますもの。ね、いい案だと思わない?」
ディアナ様の言う事は正しい。
僕はセレーナ姉様のように美しくもないし、ディアナ様のように綺麗でもない。同じ歳の子より小さくて細くて、傍から見れば子供と変わらない。
ルディウス様には相応しくないって何度も思った。
でも、ルディウス様はそんな事関係なく僕を愛してるって言ってくれる。その言葉に嘘はないし、だからこそ僕だってこんなに好きになったんだから。
例え他の誰が有り得ないって思っても、僕はルディウス様の奥さんである事に誇りを持ってる。
「確かに⋯両国にとってはいい事なのかもしれません。ですが、僕とルディウス様は愛し合ってちゃんと夫婦になりました。相応しいとか相応しくないとか、関係ありません」
僕はぐっと拳を握って言葉を返す。
怖いけど、ここで言えなかったら僕はずっと弱虫のままだ。
だけどディアナ様は僕を冷たく見下ろすと、おもむろに耳飾りへと触れて溜め息をついた。
「貴方はもう充分に愛されたでしょう? でしたらもういいじゃない。離縁して、第二の人生を歩んでみてはいかが?」
「い、嫌です⋯」
「頑固ねぇ。こんな物までつけて⋯⋯優位に立ってるつもり?」
「そんなつもりは⋯」
「あの方が貴方に贈った物はすべて私の物よ。返して!」
「⋯いっ⋯」
ぐっと耳飾りが握られ軽く引かれる。
金具で耳たぶを挟んでるだけとはいえ、何をされるか分からなくてビクビクしてしまう僕を睨んだディアナ様は、言葉と共にそれを思いっきり引っ張った。
ピリッとした痛みが走って思わず耳を押さえたら肩が押され、視界がディアナ様から夜空に変わり背中が手摺りを滑る。全部がスローモーションで過ぎて、落ちるって気付いた瞬間眩しいくらいの光がディアナ様の持つ耳飾りから放たれた。
「きゃああぁぁあ!!」
「アルシエ!」
劈くような悲鳴とルディウス様の声が同時にして、腕が掴まれて引き上げられる。呆然とする僕の身体が、いつもの温もりと香りに包まれた。
落ちたと思った。もうダメだって。
「良かった⋯間に合った⋯」
「⋯⋯ルディウス⋯様⋯」
「いやぁあ! 消して! 早く消してぇ!」
「!」
だけどホッとしたのも束の間、ディアナ様の悲痛な叫びに顔を上げた僕は目の前の光景に息を飲んだ。
ディアナ様の腕が燃えて、顔にまで迫ってる。
な、何⋯? どうしてこんな事になってるの⋯?
「お姉様!」
騒ぎを聞き付けたのか駆け付けたフローラ様が悲鳴を上げ、その後ろから来た殿下が眉を顰めながらも氷の魔法を使って火を包むように消しディアナ様はその場に崩れ落ちた。
殿下の指示で運び出されたけど、ホールにいた貴族たちも何事かとザワついていてもうパーティどころじゃなくなってる。
「ルディウス、アルシエ。何があったのか、あとで説明してくれるね」
「⋯⋯⋯」
「は、はい」
ルディウス様は僕を抱き締めたまま、殿下の言葉にも返事をしない。
でも僕の背中に触れてる腕が微かに震えている事には気付いているみたいで、いつもみたいに呆れた顔はしなかった。
「お姉様⋯」
「フローラ、君は部屋に戻りなさい。あとで話すから」
「⋯⋯分かりましたわ」
「君たちも、落ち着いたら私の書斎に来るように」
「はい」
炎に包まれたディアナ様を見てさぞかし怖かっただろうな。
それでも僕と目が合い微笑んだフローラ様は俯く事なくホールをあとにし、殿下はルディウス様の背中を軽く叩いてから中へと戻って行った。
「心臓が止まるかと思った」
「⋯ごめんなさい⋯」
「おおかたあの女に連れ出されたんだろうが⋯まさか発動するような事態になるとはな。ダリスが教えてくれなければどうなっていたか⋯」
そっか、ダリスさんがルディウス様に僕がいる場所を伝えてくれたんだ。
また心配をかけて、パーティまでめちゃくちゃにしてしまった。
「あの⋯ルディウス様⋯」
「ん?」
「ごめんなさい⋯勝手にあそこを離れたりして⋯」
「いや、アルシエは悪くない。相手は腐っても王族だからな。断れないだろ」
それもあるけど、断れる雰囲気でもなかったというか⋯。
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※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。