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涙よりも
次の日、アンジェラ様を伴ってフローラ様がお屋敷に訪れ、僕を見るなり頭を下げてきた。
ぎょっとした僕は慌てて頭を上げて欲しいって言ったんだけど、フローラ様はそのまま泣きそうな声で「ごめんなさい」と零す。
「私の姉がとんでもない事を⋯謝って許される事ではありませんけれど、本当にごめんなさい」
「フローラ様のせいではないですから⋯っ。あの、頭を⋯」
「いいえ。私の輿入れを手伝いたいという姉の言葉を信じた私が悪いのです。元より仲は良くなかったのに⋯そう申し出てくれた事が嬉しくて⋯⋯連れて来てしまった私の責任ですわ」
フローラ様は殿下の話ばかりだったから、ディアナ様が一緒に来ていた事はアンジェラ様に聞いて知ったけど⋯仲が良い訳じゃなかったんだ。
それでも血の繋がった姉様だからこそ、手伝いたいって言われて嬉しくなる気持ちは分かる。
僕はセレーナ姉様に嫌われていたから仲の良さは関係ないけど。
でも、だとしてもフローラ様は悪くない。
僕は白くなるほど強くスカートを握っている手に触れ、そっと自分の方へと引き寄せた。
「フローラ様は、ディアナ様と仲良くなりたかったのではないですか? 輿入れを機に話せるようになれたらって」
「⋯⋯ええ⋯そう思ってましたわ⋯」
「だったらやっぱりフローラ様が謝る必要はありません。だって、歩み寄ろうとしただけですから。先にそっぽを向いたのはディアナ様ですよ」
フローラ様の想いは真っ直ぐで切実なだけ。
少しでも望みを感じたら、それに縋りたいって僕だって思うもん。
「それに、殿下もルディウス様もフローラ様には怒ってないですよね? それって僕と同じように思ってるからですよ」
殿下は分からないけど、ルディウス様が怒ってたらきっとここにも来させないはず。だから少なくともルディウス様と僕の考えは一緒って事だ。
それでも不安げなフローラ様に笑い、小さな手を両手でぎゅっと握る。
「もう謝らないでください。悪くない事でフローラ様の笑顔が見られなくなるの、悲しいです」
殿下の話をされる幸せそうなフローラ様も好きだし、殿下の為に努力出来るところは尊敬出来るし、何より明るくて優しいところがフローラ様らしさだと思ってる。
だからそう言えば、フローラ様はまた泣きそうな顔をしてしまった。
「⋯アルシエ⋯」
「それにほら、僕はどこも怪我してないですし元気なので」
「耳が切れたと聞きましたわ」
「あ⋯えっと⋯も、もう治りました!」
「⋯⋯⋯」
切れたといってもほんの少しだし、治癒士さんのおかげで傷跡も残らなかったから切ってなかったのと同じだ。
耳を指差して言うと、フローラ様はくしゃりと顔を歪ませて勢いよく僕に抱き着いてきた。驚いたけど、しゃくり上げる声が聞こえて胸が痛くなる。
フローラ様は、高貴な方なのに僕に親切にしてくれてた。仲良くしてくれただけなのに。
その様子を見ていたアンジェラ様が柔らかく微笑み、僕とフローラ様の頭を撫でてそっと抱き締めてくれた。
ディアナ様との仲はもう無理かもしれないけど、きっとアンジェラ様が傍で寄り添ってくれるから大丈夫。
立場的には妹だとしても、誰よりも優しい姉様だから。
ただほんのちょっとだけ、本当にちょっとだけ、二人が僕よりもずっと仲良くなったら寂しいかも⋯とは思ったりもした。
子供みたいだから言わないけど。
ディアナ様の件は、比較的早くどうするかが決まったってルディウス様が教えてくれた。
自分の国に戻ったあとは、ゼルディアに来る事も近付く事も一切禁止。もし殿下やフローラ様、ルディウス様がアムネスティアに行く事があっても、絶対に姿を見せてはいけない。
アムネスティアではどうなるのか分からないけど、きっともうお城から出られないだろうって殿下も言ってた。
「本当に良かったのか、アルシエ」
久し振りにお休みを貰ったルディウス様と温室でお茶をしていたら、不意にルディウス様がそう聞いてきた。
「何がですか?」
「ディアナ様の事だ。本当に罰も何もなくて良かったのか?」
殿下に、ディアナ様にどんな罰を与えたいかって聞かれた時、僕は必要ないですって首を振ってた。
「ルディウスは納得しないよ」って言われたけど、ディアナ様の状況を考えたらそれ以上は酷だと思ったから。
「殿下が、ディアナ様は手首から顔の半分まで火傷の痕が残ったって言ってましたよね。女性が顔に傷を負うと、もうお嫁には行けないって聞きました。だからもう、充分罰は受けてるんです」
「それは自業自得であって、アルシエにした事は許されていない」
「僕はルディウス様のおかげで無事でした。それだけでいいんです」
耳がちょこっと切れただけ。手も足も顔も身体も、僕は何もなってない。
女性にとって見た目って凄く大切なものだろうから、一番見られる顔に隠せない傷跡を負ったのは本当にショックだと思うんだ。
特にディアナ様は、とても綺麗なお顔をしていたから。
ルディウス様の手を握りにこっと笑って言えば、ルディウス様は溜め息をついて僕の頭を抱き寄せた。
おでこ同士が合わさって、黒い瞳と目が合う。
「アルシエは優し過ぎる」
「⋯優しさとかじゃないです。ただ、フローラ様にこれ以上悲しい思いはして欲しくないから⋯」
「本当に人の事ばかりだな」
ルディウス様の両手で頬が挟まれ、柔くムニムニされる。
そんなに言うほど人の事ばかりじゃないと思うんだけどな。どちらかと言えばルディウス様の事を考える方が多い気がする。
揉まれながらもじっと見てたらルディウス様は気の抜けた笑みを浮かべ、僕の顔を少しだけ上向かせて口付けてきた。
「アルシエが笑ってくれるならいいが、私にとって君は己よりも大切な存在だ。それをくれぐれも忘れないように」
「は、はい」
自分を大事にしてない訳じゃないんだけど、ルディウス様はもっと大事にして欲しいみたい。
真剣な顔で言われて小さく頷いた僕は、頬を挟んだままのルディウス様の手に自分の手を重ねて目を閉じた。
でもね、ルディウス様。
ルディウス様がそう言ってくれるように、僕だって自分よりルディウス様の方が大切なんですよ。
ぎょっとした僕は慌てて頭を上げて欲しいって言ったんだけど、フローラ様はそのまま泣きそうな声で「ごめんなさい」と零す。
「私の姉がとんでもない事を⋯謝って許される事ではありませんけれど、本当にごめんなさい」
「フローラ様のせいではないですから⋯っ。あの、頭を⋯」
「いいえ。私の輿入れを手伝いたいという姉の言葉を信じた私が悪いのです。元より仲は良くなかったのに⋯そう申し出てくれた事が嬉しくて⋯⋯連れて来てしまった私の責任ですわ」
フローラ様は殿下の話ばかりだったから、ディアナ様が一緒に来ていた事はアンジェラ様に聞いて知ったけど⋯仲が良い訳じゃなかったんだ。
それでも血の繋がった姉様だからこそ、手伝いたいって言われて嬉しくなる気持ちは分かる。
僕はセレーナ姉様に嫌われていたから仲の良さは関係ないけど。
でも、だとしてもフローラ様は悪くない。
僕は白くなるほど強くスカートを握っている手に触れ、そっと自分の方へと引き寄せた。
「フローラ様は、ディアナ様と仲良くなりたかったのではないですか? 輿入れを機に話せるようになれたらって」
「⋯⋯ええ⋯そう思ってましたわ⋯」
「だったらやっぱりフローラ様が謝る必要はありません。だって、歩み寄ろうとしただけですから。先にそっぽを向いたのはディアナ様ですよ」
フローラ様の想いは真っ直ぐで切実なだけ。
少しでも望みを感じたら、それに縋りたいって僕だって思うもん。
「それに、殿下もルディウス様もフローラ様には怒ってないですよね? それって僕と同じように思ってるからですよ」
殿下は分からないけど、ルディウス様が怒ってたらきっとここにも来させないはず。だから少なくともルディウス様と僕の考えは一緒って事だ。
それでも不安げなフローラ様に笑い、小さな手を両手でぎゅっと握る。
「もう謝らないでください。悪くない事でフローラ様の笑顔が見られなくなるの、悲しいです」
殿下の話をされる幸せそうなフローラ様も好きだし、殿下の為に努力出来るところは尊敬出来るし、何より明るくて優しいところがフローラ様らしさだと思ってる。
だからそう言えば、フローラ様はまた泣きそうな顔をしてしまった。
「⋯アルシエ⋯」
「それにほら、僕はどこも怪我してないですし元気なので」
「耳が切れたと聞きましたわ」
「あ⋯えっと⋯も、もう治りました!」
「⋯⋯⋯」
切れたといってもほんの少しだし、治癒士さんのおかげで傷跡も残らなかったから切ってなかったのと同じだ。
耳を指差して言うと、フローラ様はくしゃりと顔を歪ませて勢いよく僕に抱き着いてきた。驚いたけど、しゃくり上げる声が聞こえて胸が痛くなる。
フローラ様は、高貴な方なのに僕に親切にしてくれてた。仲良くしてくれただけなのに。
その様子を見ていたアンジェラ様が柔らかく微笑み、僕とフローラ様の頭を撫でてそっと抱き締めてくれた。
ディアナ様との仲はもう無理かもしれないけど、きっとアンジェラ様が傍で寄り添ってくれるから大丈夫。
立場的には妹だとしても、誰よりも優しい姉様だから。
ただほんのちょっとだけ、本当にちょっとだけ、二人が僕よりもずっと仲良くなったら寂しいかも⋯とは思ったりもした。
子供みたいだから言わないけど。
ディアナ様の件は、比較的早くどうするかが決まったってルディウス様が教えてくれた。
自分の国に戻ったあとは、ゼルディアに来る事も近付く事も一切禁止。もし殿下やフローラ様、ルディウス様がアムネスティアに行く事があっても、絶対に姿を見せてはいけない。
アムネスティアではどうなるのか分からないけど、きっともうお城から出られないだろうって殿下も言ってた。
「本当に良かったのか、アルシエ」
久し振りにお休みを貰ったルディウス様と温室でお茶をしていたら、不意にルディウス様がそう聞いてきた。
「何がですか?」
「ディアナ様の事だ。本当に罰も何もなくて良かったのか?」
殿下に、ディアナ様にどんな罰を与えたいかって聞かれた時、僕は必要ないですって首を振ってた。
「ルディウスは納得しないよ」って言われたけど、ディアナ様の状況を考えたらそれ以上は酷だと思ったから。
「殿下が、ディアナ様は手首から顔の半分まで火傷の痕が残ったって言ってましたよね。女性が顔に傷を負うと、もうお嫁には行けないって聞きました。だからもう、充分罰は受けてるんです」
「それは自業自得であって、アルシエにした事は許されていない」
「僕はルディウス様のおかげで無事でした。それだけでいいんです」
耳がちょこっと切れただけ。手も足も顔も身体も、僕は何もなってない。
女性にとって見た目って凄く大切なものだろうから、一番見られる顔に隠せない傷跡を負ったのは本当にショックだと思うんだ。
特にディアナ様は、とても綺麗なお顔をしていたから。
ルディウス様の手を握りにこっと笑って言えば、ルディウス様は溜め息をついて僕の頭を抱き寄せた。
おでこ同士が合わさって、黒い瞳と目が合う。
「アルシエは優し過ぎる」
「⋯優しさとかじゃないです。ただ、フローラ様にこれ以上悲しい思いはして欲しくないから⋯」
「本当に人の事ばかりだな」
ルディウス様の両手で頬が挟まれ、柔くムニムニされる。
そんなに言うほど人の事ばかりじゃないと思うんだけどな。どちらかと言えばルディウス様の事を考える方が多い気がする。
揉まれながらもじっと見てたらルディウス様は気の抜けた笑みを浮かべ、僕の顔を少しだけ上向かせて口付けてきた。
「アルシエが笑ってくれるならいいが、私にとって君は己よりも大切な存在だ。それをくれぐれも忘れないように」
「は、はい」
自分を大事にしてない訳じゃないんだけど、ルディウス様はもっと大事にして欲しいみたい。
真剣な顔で言われて小さく頷いた僕は、頬を挟んだままのルディウス様の手に自分の手を重ねて目を閉じた。
でもね、ルディウス様。
ルディウス様がそう言ってくれるように、僕だって自分よりルディウス様の方が大切なんですよ。
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三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。