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小さな存在
僕のお腹に子供が来てくれるまでいろいろあった。
使用人のみんながお守りを作ってくれたり子供部屋を仕上げてくれたり、たまーにフローラ様にお会いした時、殿下との距離が縮んでるかもって思う時があったり、なぜか僕を口説いてくる人がいてルディウス様が怒ったり⋯本当にたくさんあったけど、その中でも大きな出来事はやっぱりアンジェラ様が嫁いで行ってしまった事。
出発の数日前、最後の挨拶をする時、僕はあまりにも寂しくて泣いてしまいなかなかアンジェラ様から離れられなかった。アンジェラ様の目も潤んでて、「一生会えない訳じゃないから」って慰めてくれたけど分かっていても涙は止まらなくて、僕の人生でこんなに泣いた事あるかなってくらい泣いてた。
『ねぇ、ルディウス。アルシエ連れて行ってもいい?』
『駄目に決まっているでしょう』
なんて二人がやり取りしてたのはどうしてか覚えてる。
僕を本当の弟のように大切にしてくれたアンジェラ様。大好きな姉様が幸せであるように、僕はいつまでも願い続けてる。
明け方の公爵邸に、新しい命の誕生を告げる産声が響いた。
「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」
ぼんやりとした視界の中、産婆さんの声がして僕は安堵の息を吐く。
午前中から断続的な痛みに見舞われ、それがだんだんと強くなっていくから不安で怖くて、ずっとリーネさんの手を握ってた。
知らせを受けて帰ってきたルディウス様は、本格的な陣痛が始まると慌ただしくなる部屋から追い出されてずっと廊下をウロウロしてたってリーネさんがあとから教えてくれた。
見た事ないくらいソワソワして落ち着きなかったって。
時間はかかったし叫びたくなるくらい痛かったけど、ようやく産まれてくれて子供の顔を見た瞬間涙が溢れた。
お腹の中で元気いっぱいに動いていた子にやっと会えたから。
後処理が終わるとルディウス様が入ってきて、疲れて微睡んでいる僕の傍まできて頭を撫でてくれた。
「お疲れ、アルシエ。頑張ったな」
「⋯ルディウス様⋯」
「今はゆっくり休むといい」
「はい⋯」
「旦那様、お子様を抱っこされませんか?」
気を抜けばすぐにでも寝てしまいそうだけど、ルディウス様が子供を抱っこしてる姿は見たくて目を瞬いたらルディウス様が苦笑する。
それでもおくるみに包まれた子供を見たルディウス様はハッとし、恐る恐るリーネさんから受け取ると震える息を吐いた。
「⋯そうか⋯私の色を継いでくれたのか⋯」
ぽつりと呟かれた言葉には言い表せないほどの嬉しさが含まれていて、僕は自然と笑みが零れた。
子供の薄い毛は赤色で、目の色は分からないけど何となくルディウス様と同じ色なんじゃないかなと思ってる。きっと顔立ちもルディウス様似で、ご令嬢からモテまくるんだろうな。
微笑んで子供を抱くルディウス様を見ていたら、僕の方を向いて床に膝をつき頬に触れてきた。
「ありがとう、アルシエ⋯」
「それは僕のセリフです。ルディウス様がいなかったら、子供を産みたいなんて思いもしなかったですもん」
「私こそ、アルシエと出会わなければ誰かを愛する気持ちさえ知り得なかった。こうして、子を抱く喜びも」
そう言って眠ってる我が子に頬を寄せるルディウス様は凄く優しい顔をしていて、僕は嬉しくて胸がいっぱいになる。
最初はどうなるかと思ったけど、お腹が膨れて中で動いているのを感じられるたび愛おしさが増して、ルディウス様も毎日話しかけてくれて、死ぬほど痛い思いをしたけど本当に無事に産まれてくれて良かった。
ルディウス様の手に触れ、僕は子供の顔を覗き込む。
「この子は男の子なので、セルティスに決まりですね」
「そうだな。⋯⋯アルシエ」
「はい?」
「オリヴィエ夫人に、無事産まれた事だけは伝えてもいいだろうか」
あの時、ちゃんとルディウス様には確認しなかったけど、あの後ろ姿が母様である事を僕は知っている。
伯爵家にいる時、ずっと背中ばかり見ていたから間違いない。あの頃と身なりが違っても髪の色や雰囲気は変わってないし。
子供心に、僕から顔を背けるだけだった母様の事は不思議だった。どうして僕に何もしないし言わないんだろうって。
僕にとって母様は、ただそこにいる人だった。
だけどあの手紙で本心が知れた今は納得してる。母様にとってあれが最善だったんだって。
だから子供について教えるのは、むしろ大歓迎だった。
「はい、お願いします。もし母様が子供にだけでも会いたいって言ったら、会わせてあげてくださいね」
「分かった⋯⋯っと、どうした、セルティス」
「お腹が空いたのかもしれませんね。お預かりしますよ」
ちょうど話が終わったところで子供が泣き出し、焦るルディウス様にリーネさんがそう言いながら手を出し受け取る。
僕もそうだけど、ルディウス様も手探りだからいきなり泣かれると戸惑うみたい。百戦錬磨の団長様も、自分の子には弱いのかも。
「赤子があんなに小さい存在だとは思わなかった⋯少しの事で壊れてしまいそうで心配になるな」
「ルディウス様は心配性ですからね。でもルディウス様の子だから、 きっと丈夫な子になりますよ」
「だといいがな。ほら、そろそろ休め」
「傍にいてくれますか?」
「いるよ。アルシエは私がいないと眠れないからな」
結局、何年経ってもこれだけは治らなかった。
僕の手を握ってくれるルディウス様にホッとし、それを頬に寄せた僕は骨張った手から感じる温もりに目を閉じる。
今はゆっくり休んで、明日からたくさんセルティスと一緒にいよう。
あの子が寂しくないように、悲しくて泣かないように。
使用人のみんながお守りを作ってくれたり子供部屋を仕上げてくれたり、たまーにフローラ様にお会いした時、殿下との距離が縮んでるかもって思う時があったり、なぜか僕を口説いてくる人がいてルディウス様が怒ったり⋯本当にたくさんあったけど、その中でも大きな出来事はやっぱりアンジェラ様が嫁いで行ってしまった事。
出発の数日前、最後の挨拶をする時、僕はあまりにも寂しくて泣いてしまいなかなかアンジェラ様から離れられなかった。アンジェラ様の目も潤んでて、「一生会えない訳じゃないから」って慰めてくれたけど分かっていても涙は止まらなくて、僕の人生でこんなに泣いた事あるかなってくらい泣いてた。
『ねぇ、ルディウス。アルシエ連れて行ってもいい?』
『駄目に決まっているでしょう』
なんて二人がやり取りしてたのはどうしてか覚えてる。
僕を本当の弟のように大切にしてくれたアンジェラ様。大好きな姉様が幸せであるように、僕はいつまでも願い続けてる。
明け方の公爵邸に、新しい命の誕生を告げる産声が響いた。
「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」
ぼんやりとした視界の中、産婆さんの声がして僕は安堵の息を吐く。
午前中から断続的な痛みに見舞われ、それがだんだんと強くなっていくから不安で怖くて、ずっとリーネさんの手を握ってた。
知らせを受けて帰ってきたルディウス様は、本格的な陣痛が始まると慌ただしくなる部屋から追い出されてずっと廊下をウロウロしてたってリーネさんがあとから教えてくれた。
見た事ないくらいソワソワして落ち着きなかったって。
時間はかかったし叫びたくなるくらい痛かったけど、ようやく産まれてくれて子供の顔を見た瞬間涙が溢れた。
お腹の中で元気いっぱいに動いていた子にやっと会えたから。
後処理が終わるとルディウス様が入ってきて、疲れて微睡んでいる僕の傍まできて頭を撫でてくれた。
「お疲れ、アルシエ。頑張ったな」
「⋯ルディウス様⋯」
「今はゆっくり休むといい」
「はい⋯」
「旦那様、お子様を抱っこされませんか?」
気を抜けばすぐにでも寝てしまいそうだけど、ルディウス様が子供を抱っこしてる姿は見たくて目を瞬いたらルディウス様が苦笑する。
それでもおくるみに包まれた子供を見たルディウス様はハッとし、恐る恐るリーネさんから受け取ると震える息を吐いた。
「⋯そうか⋯私の色を継いでくれたのか⋯」
ぽつりと呟かれた言葉には言い表せないほどの嬉しさが含まれていて、僕は自然と笑みが零れた。
子供の薄い毛は赤色で、目の色は分からないけど何となくルディウス様と同じ色なんじゃないかなと思ってる。きっと顔立ちもルディウス様似で、ご令嬢からモテまくるんだろうな。
微笑んで子供を抱くルディウス様を見ていたら、僕の方を向いて床に膝をつき頬に触れてきた。
「ありがとう、アルシエ⋯」
「それは僕のセリフです。ルディウス様がいなかったら、子供を産みたいなんて思いもしなかったですもん」
「私こそ、アルシエと出会わなければ誰かを愛する気持ちさえ知り得なかった。こうして、子を抱く喜びも」
そう言って眠ってる我が子に頬を寄せるルディウス様は凄く優しい顔をしていて、僕は嬉しくて胸がいっぱいになる。
最初はどうなるかと思ったけど、お腹が膨れて中で動いているのを感じられるたび愛おしさが増して、ルディウス様も毎日話しかけてくれて、死ぬほど痛い思いをしたけど本当に無事に産まれてくれて良かった。
ルディウス様の手に触れ、僕は子供の顔を覗き込む。
「この子は男の子なので、セルティスに決まりですね」
「そうだな。⋯⋯アルシエ」
「はい?」
「オリヴィエ夫人に、無事産まれた事だけは伝えてもいいだろうか」
あの時、ちゃんとルディウス様には確認しなかったけど、あの後ろ姿が母様である事を僕は知っている。
伯爵家にいる時、ずっと背中ばかり見ていたから間違いない。あの頃と身なりが違っても髪の色や雰囲気は変わってないし。
子供心に、僕から顔を背けるだけだった母様の事は不思議だった。どうして僕に何もしないし言わないんだろうって。
僕にとって母様は、ただそこにいる人だった。
だけどあの手紙で本心が知れた今は納得してる。母様にとってあれが最善だったんだって。
だから子供について教えるのは、むしろ大歓迎だった。
「はい、お願いします。もし母様が子供にだけでも会いたいって言ったら、会わせてあげてくださいね」
「分かった⋯⋯っと、どうした、セルティス」
「お腹が空いたのかもしれませんね。お預かりしますよ」
ちょうど話が終わったところで子供が泣き出し、焦るルディウス様にリーネさんがそう言いながら手を出し受け取る。
僕もそうだけど、ルディウス様も手探りだからいきなり泣かれると戸惑うみたい。百戦錬磨の団長様も、自分の子には弱いのかも。
「赤子があんなに小さい存在だとは思わなかった⋯少しの事で壊れてしまいそうで心配になるな」
「ルディウス様は心配性ですからね。でもルディウス様の子だから、 きっと丈夫な子になりますよ」
「だといいがな。ほら、そろそろ休め」
「傍にいてくれますか?」
「いるよ。アルシエは私がいないと眠れないからな」
結局、何年経ってもこれだけは治らなかった。
僕の手を握ってくれるルディウス様にホッとし、それを頬に寄せた僕は骨張った手から感じる温もりに目を閉じる。
今はゆっくり休んで、明日からたくさんセルティスと一緒にいよう。
あの子が寂しくないように、悲しくて泣かないように。
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