身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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フローラの不安

 僕が子供産んだ次の年、殿下がゼルディア国王に即位されてすぐ、フローラ様がご懐妊され国中が沸き立った。
 男児か女児か、まだ初期なのに街中はその話で盛り上がってる。
 そんな中、相談に乗って欲しいと言われて久し振りに登城した僕は、お部屋に案内されるなりフローラ様に抱き着かれた。

「アルシエ~⋯」

 情けない声に戸惑いつつも「どうしたんですか?」と問いかければ、フローラ様は涙目になってお腹を撫でる。

「私が妊娠した事はアルシエも知っていますわよね?」
「は、はい。おめでとうございます」
「ありがとう。でもね、ここにきて不安な気持ちが出てきてしまって⋯どうしたらいいと思います⋯?」
「どう、したら⋯」

 これはもしや、リーネさんが言っていたマタニティブルーというやつでは?
 僕はなかったけど、妊娠したら普段よりもマイナスな感情が出やすくなるって聞くし、殿下⋯じゃなかった、陛下の子を身篭るって物凄くプレッシャーだろうから、もしかしたら一気に押し寄せて来ちゃったのかも。
 とりあえず大事に至ったら大変だとソファに座らせ、僕も隣に腰を下ろす。

「お、落ち着いてください」
「そうしたいのは山々なんですけど⋯」
「どういう不安があるんですか?」

 気持ちがソワソワしてしまうのは分かる。
 でも肝心の不安の内容が分からないから尋ねれば、フローラ様は眉尻を下げて両手を握り込んだ。

「⋯この先、本当に大丈夫かなって⋯」
「この先?」
「クロード様に大切にされて、クロード様のお子を身篭れて幸せですのに⋯産まれたら今までと変わらずにいられるのか、クロード様は本当にお気持ちが変わらないか⋯⋯考え出したらキリがないですわ」

 その不安は僕にも少なからずあった。でもそのたびにルディウス様は気付いてくれて、一つ一つ解消してくれたけど⋯陛下はお忙しい方だからなぁ。
 どう答えたらいいか悩んでたら、フローラ様が小さな声で「それに」と付け足した。

「⋯もし女の子だったら⋯⋯ガッカリされるんじゃないかと⋯」
「え! そ、そんな事ありませんよ! 魔力がほとんどない僕でも受け入れてくれた方ですよ?」
「アルシエはルディウスの奥さんですもの。でも後継でもあるご自分の子供だから⋯」
「お二人は、お一人しかお子様を産まない予定なのですか?」

 いろいろな理由で何人までって決める人がいるのは知ってるけど、陛下とフローラ様の仲睦まじさで一人なんてないと思う。
 だからそう聞けば、フローラ様はキョトンとしたあと緩く首を振った。

「いいえ⋯そんな話はクロード様とは⋯」
「ですよね? だったら、二人目三人目で男の子でもいいじゃないですか。大好きな人との子供には変わりないんですから」

 これはリーネさんとの話で思った事。
 魔力がなくてもルディウス様との子に変わりはない。それに拘るとよけいに不安になるから、最初から考えないようにしようって。

「もし周りに何か言われたら僕が怒ります。お二人の子なんだからって」

 せっかく陛下との子がお腹に来てくれて幸せなはずなのに、今はまだ分からない事で悲しい顔のままいさせたくない。
 ムッとして拳を握った僕に目を瞬いたフローラ様は、一転してクスクスと笑い始めた。

「アルシエに怒れるんですの? 貴方ほど優しい人、私見た事ありませんもの」
「いざとなったら怒れますよ」
「ふふ、本当? それは見ものですわね」

 良かった。フローラ様、ちょっとは元気出たみたい。
 ホッとして笑顔になると、フローラ様は両手で僕の手を握り微笑んだ。

「ありがとう、アルシエ。貴方がいてくれて良かった」
「少しでも解消されましたか?」
「ええ。でももしまた不安になったら、相談に乗ってくれる?」
「もちろん。僕でよければいつでも乗ります」

 フローラ様の望む言葉は返せないかもしれないけど、愚痴ったり話したり出来る相手がいるだけで気持ちも楽になると思うんだ。
 相談とかじゃなくて、お茶をしたいとかでもいいんだし。

「そういえば、アルシエの子は今はどこにいらっしゃるの?」
「お屋敷でリーネさんが面倒を見てくれてます」
「そう。みんな可愛くて仕方ないでしょうね」
「はい、毎日遊んでくれます」

 僕は子育てに関しては今だに分からない事もあるから助かってるけど、仕事の合間にセルティスに会いに来るのは大変じゃないのかなって思ってしまう。
 でもおかげでセルティスはたくさんの愛情に囲まれて育ってるから、僕としても嬉しいんだけどね。
 フローラ様がテーブルの上の通信機に触れてから少しして扉がノックされ、メイドさんがワゴンを押しながら入ってきた。この人はフローラ様専属の侍女さんで、名前をレミリアさんって言う。
 レミリアさんは僕を見てにこりと笑うと、さっそくテーブルの上にお茶の準備をしてくれた。

「アルシエ様、姫様に無理難題を押し付けられたりしていませんか?」
「大丈夫ですよ」
「ひどいわ、レミリア。まるで私がいつも無理難題を言っているようではありませんの」
「姫様、アルシエ様には遠慮がありませんから」
「それはそうだけと⋯」

 レミリアさんは、フローラ様が小さい頃から傍でお世話をしてくれていたらしくとても仲がいい。親子ほどは離れてないけど親子みたいな関係だって。
 だから王妃陛下になった今でも〝姫様〟呼びが抜けないそう。
 ケーキを僕たちの前に置き、一歩下がったレミリアさんは僕へと頭を下げてきた。

「アルシエ様、これからも姫様をよろしくお願いしますね」

 それは僕の方が言うべきなのに。
 フローラ様を見るとにっこり笑ってこくこくと頷いてて、それに思わず笑顔を浮かべた僕は二人を見て頭を下げた。

「こちらこそお願いします」
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