身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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番外編

居場所

※75話『一緒にいたい』の翌日の話となります※


 女神様を信仰する教団の本部からルディウス様が助け出してくれて一夜が明けた。こんなにぐっすりと、夢も見ないくらい寝たのは初めてかも。
 目を覚ました時ルディウス様はもう起きててベッドの上で何か紙を見ていたんだけど、僕が起きた事に気付くと微笑んで頭を撫でてくれた。

「おはよう。よく寝ていたな」
「お、おはようございます⋯」

 寝起きにルディウス様の綺麗な顔は眩し過ぎる。
 僕は照れくささを誤魔化すように目を擦り、起き上がって窓の外を見た。日はそんなに高くないから、今は十時くらいかな。
 欠伸を零したら不意に肩が抱き寄せられ、おでこにルディウス様の唇が触れた。

「さて、昨日私が言った事は覚えているか?」
「昨日言った事⋯?」
「したい事、して欲しい事があるなら教えてくれと。何かあるか?」

 そういえばそんな事言われてたっけ。でもその時に答えた通り、ルディウス様がいてくださるなら他にはないんだけどな。
 考え込む僕にふっと笑ったルディウス様は、紙を置くとベッドから降りてベルを鳴らした。少しして繋がってる扉が開いてリーネさんが現れ、朝の挨拶をしてくれる。

「なら昼までは一緒にいようか。着替えて談話室においで」
「は、はい」
「アルシエを頼む」
「お任せください」

 僕もベッドから降りてリーネさんの方へ行こうとしたんだけど、それより前に腕が掴まれてルディウス様に抱き締められて耳元に唇が寄せられた。

「アルシエが喜ぶ物を準備しているよ」
「え?」
「そうだな、朝食もそこで食べようか」
「はい⋯」

 喜ぶ物ってなんだろう。
 首を傾げる僕の背中を押して夫人部屋へと入れて、ルディウス様は微笑んでから扉を閉めた。
 リーネさんが僕の肩に手を置き、洗面所へと移動させる。

「まずはお顔を洗って、それからお着替えしましょうか」
「はい」

 今はとりあえずリーネさんの言う通り、身支度を整える事から始めよう。


 それから二十分後、談話室に行くとすでにルディウス様はいて、壁際に置かれた棚の上にある物を見てた。
 リボンがかかった大きな箱。
 ルディウス様は僕を見て「おいで」と手招きしてきた。

「これが君が喜ぶ物だ」
「大きいですね⋯何が入ってるんだろう」
「開けてごらん」

 近付いて思ったけど、僕が抱えたら前が見えなくなるくらい高さがある。
 言われてリボンを解き、蓋を持ち上げると箱が四方に倒れて現れた物に僕は目を見開いた。
 もしかしてこれ、本屋さんにあった小さい家? あれ、でもちょっと違うかな。
 可愛いなとは思ってたけど、どうしてここにあるんだろう。
 驚きと何でって気持ちで呆然と見てたら、ルディウス様がそれを持ち上げて食事が並んでいるテーブルへと運んでくれた。

「アルシエが夢中になって見ていたからと、リーネが店主に引き取れないか聞いてくれたそうだ。飾ってある物は無理だったが、これならと譲って貰ったらしい」
「⋯僕が⋯見てたから⋯?」
「ああ。リーネが、これは絶対にアルシエが好きな物だから絶対欲しいと」

 リーネさんにも誰にも、どんなものでもだけど〝これが好き〟って言った事はないのに。ただ見てただけなのに好きな物って気付いてくれたの?
 僕より僕の事、分かってくれてるんだ。
 ソファに座り、小人サイズの家具に触れてみたら、固定されていないみたいで軽く動いた。凄い、配置変えられるようになってるんだ。
 ちょっと弄ってみようかなっていろいろ動かしてたら、隣からふって笑い声が聞こえてハッとした。
 子供みたいな事をしてしまったと慌てて手を引っ込めると、覗いてきたルディウス様が二階にあるベッドを手に取ってくるくると回す。手が大きいルディウス様が持つともっと小さく見える。

「家具だけ別で購入出来るとしたらどうする?」
「⋯いえ、ここにある物だけで充分です。あんまり多いとごちゃってなっちゃうと思うから⋯」
「そうだな。確かにこれくらいがちょうどいいか」

 たくさん家具があるのも素敵かもしれないけど、今の二人暮らしって感じの静かな空間の方がいい。
 渡されたベッドを戻しながら答えたら、ルディウス様は納得したように頷いてテーブルから小さな家を下ろし、湯気の立つ料理を指差した。
 食べやすいように全部切られてて、スープは深めの器に入ってる。
 いつもより品数や量が多いのはルディウス様がいるからかな。

「温かいうちに食べようか」
「はい」
「この際マナーは気にするな。食べやすい方法でいい」

 教団では初日以外摂る気にはならなかった食事も、ここでならお腹も空くし食べたいと思う。何といってもルディウス様が隣にいるんだもん。
 僕はスープの器を持ち上げ、縁に口を付けてゆっくりと傾けた。
 火傷しない程度に冷まされたスープは口触りも優しくて、変わらない味が心の底から染み入る。

「美味いか?」

 豪快に二切れのステーキを食べていたルディウス様が、不意に僕の頭を撫でながら聞いてきた。
 スープでしみじみとしていた僕は笑顔で頷く。

「はい、とっても」

 ここが僕のいたい場所。いてもいいんだよって言って貰える場所。

 大好きなルディウス様がいる、幸せで溢れる場所なんだ。





FIN.
感想 86

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