身代わりの伯爵令息は冷徹公爵の寵愛を得る

ミヅハ

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番外編

アルシエの思うところ(ルディウス視点)

「あの⋯ルディウス様⋯」
「ん?」
「どうしていつも、僕の胸を揉むんですか?」

 みなが寝静まったある日の夜。
 いつものようにアルシエへと口付け、寝衣の裾から差し込んだ手でうっすらと盛り上がっている胸を軽く揉んでいたら不意にそう聞かれ、私は思わず固まってしまった。
 どうしてと言われてもそうしたいからとしか言えないのだが。
 主張する尖りを人差し指の腹で擦ると、アルシエがビクリと首を竦めた。

「嫌か?」
「ん⋯っ、や、じゃないん、ですけど⋯女の人みたいに膨らんでないから⋯」
「そうだな」

 むしろ男のアルシエに豊満な胸がある方が驚きだが⋯そういう事ではないんだろうな。
 考えて手を引き、身体を起こして「なぜだ」と聞けば、アルシエは恥ずかしそうにしながら寝衣の裾を握り込む。

「⋯女の人の胸は柔らかいけど、僕のは骨がすぐ当たるから硬くて触り心地良くないんじゃないかなって⋯」
「触り心地は抜群にいいが⋯ちょっと待て、どうして女性の胸が柔らかい事を知っている?」

 当然、アルシエは女性とどころかそういった経験は私以外とはないし、今さらながらに触った事すらないはずだ。
 若干焦りつつ聞けば、アルシエは赤くなり言いにくそうに口をパクパクさせたあと、私から顔を背けて横向きになった。

「⋯⋯あ、アンジェラ様や王妃陛下にぎゅってされた時に⋯当たるから⋯」
「ああ⋯」

 そういえば、アンジェラ様は遠慮なくアルシエを抱き締める方だった。加えてお二方とも確かに⋯いや、この先はやめておこう。
 とにかくアルシエは不可抗力的に知っていたという事か。
 もじもじしているアルシエに被さり、赤くなっている耳へと口付ければ小さく声を上げる。
 腕と身体の隙間から手を入れまた揉んでみるが、やはり私はこの僅かな肉付きが好きだ。特にアルシエは筋肉がない分柔らかくて、何と言っても肌の弾力と吸い付きが堪らない。
 夫としての欲目と言われればそれまでだが、妻の身体を愛して何が悪いのか。

「どれだけ柔らかろうと、私にとってはアルシエの胸が至高だよ。こんなにが二つもついているしな」
「んん⋯っ」
「アルシエは全てが愛らしいのだから、何も気にする事はない」
「ルディウス、様⋯」
「愛してるよ」

 こんな睦言、アルシエでなければ言わない。
 これ以上ないほど赤くなった頬に口付けるとアルシエはそろそろと私の方へと向き、腕を伸ばして首へと抱き着いてきた。
 何年経ってもウブな反応を見せる妻の可愛らしさに笑みを浮かべ、私はその細い身体へと再び手を滑らせたのだった。


 それから数日が経ち、団員たちの鍛錬メニューを考えていた私の元に、胡乱げな顔をしたアンジェラ様が訪れ声を潜めて聞いてきた。

「ルディウス、あなた、アルシエに胸を求めてるの?」
「はい?」

 珍しくこんなところまでいらっしゃったと思ったら意味の分からない事を言われ、私は眉を顰める。
 胸を求めるってなんだ。

「アルシエがね、〝僕にもアンジェラ様のような胸があったら、ルディウス様もたくさん揉めて楽しいのに〟って言ってたの」
「⋯⋯⋯」

〝たくさん揉めて楽しい〟? いや、確かにアルシエの胸は揉んでいる自覚はあるが、それはあくまでアルシエの胸だからであって、大きくある必要はないと伝えたはずなのだが。

「人の性癖に口を挟むつもりはないけど、アルシエは男の子なんだからなくて当たり前なんだからね?」

 それこそ忙しくなければ毎日のように見ている私の方が分かっている。
 おかしいな、アルシエはどこを取って私が大きな胸を求めてるいると思ったんだ?

「そりゃ、男性は胸が大きければ大きいほどいい、というのはよく聞くわよ。でもルディウスはアルシエを選んだのだから、今さら女性のような胸を求めるのは違うんじゃないかしら」
「⋯⋯⋯」
「アルシエは胸なんてなくても魅力的だし、何より可愛いじゃない? 存在してるだけで尊いというか」
「⋯⋯アンジェラ様」
「⋯でもそうね、アルシエの細い身体に豊満な胸があればさぞかしそそる⋯」
「アンジェラ様」

 何をおっしゃっているんだ、この方は。
 少し強めに名前を呼べばアンジェラ様はピタッと止まり、自分の発言を思い返したのか口元に手を当てわざとらしく微笑んだ。
 アンジェラ様、アルシエと仲良くなってからどんどん新しい一面が見えてくるな。

「誓って言いますが、私は一度も、アルシエに女性のような胸を求めた事はございません。むしろあの平らさこそがアルシエの良さなのに、それを私が台無しにするはずないでしょう」
「⋯なら、どうしてアルシエはあんな事を言ったのかしら」
「アルシエの事ですから、私がどうすれば喜のかを考えての発言でしょう」

 自分の楽しいも嬉しいも後回しで、人の事ばかりなアルシエの思考はわりと分かりやすい。
 ただ、今回ばかりはさずかに面食らってしまったな。
 私の返事に納得したのか、アンジェラ様は苦笑し肩を竦める。

「何というか、アルシエらしいわね」
「真っ白だからこそ、そういった発想も出るんでしょうね。ですが、何でもアンジェラ様に話してしまうのは困りものです」
「ふふ。アルシエは素直だから、私が聞いたら答えてくれるの」
「臣下夫婦の性事情を聞くのは淑女としてどうかと」
「あ、失礼ね。今回は私からじゃないわよ」
「今回?」

 嘘のつけないアルシエは、恥ずかしくとも聞かれた事には答えてしまう。特に姉としても信頼しているアンジェラ様から問われれば、私がどんな風に抱いているかまで言ってしまいそうだ。
 しかも今回は別としても、本当に聞いているようだし。
 私が目を細めるとアンジェラ様はわざとらしく瞬きをし、「あ、用事を思い出したわ」と言ってそそくさと去って行った。
 まったく⋯殿下もそうだが、あの方も妹君なだけあって油断ならない。

(アルシエとは、アンジェラ様の質問に答えていい内容について、一度話し合わないといけないな)

 自由でいて欲しいが、こればかりは仕方ない。
 ひとまず帰ったら、私がいかにアルシエのそのままの胸がいいかを分かって貰わなければいけないな。





FIN.
感想 86

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