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番外編
幸せ(アンジェラ視点)
生まれ育った国を離れ、西の国ラングリーズに嫁いで来た私はお庭の噴水に腰掛け花壇を眺めていた。
アルシエのおかげですっかり花を見る癖がついて、今では暇さえあれば話しかけたりしてる。お兄様が配合してくれた私だけの花も、旦那様である陛下がこのお庭に植え替えてくださりいつでも会えるようになっていた。
元気に咲いてるなら花たちも幸せな証拠だってアルシエが教えてくれたから、今は通訳がなくても分かるのが嬉しい。
本当に、アルシエを選んでくれたルディウスには感謝よね。
「アンジェラ」
そろそろ戻ろうかと腰を上げたら声がかかり、振り向くとこの国の王であり私の旦那様でもあるギルベルト・ロイ・ミュゼリア・ラングリーズ陛下がこちらへ歩いて来ていた。
御歳二十四歳。精悍なお顔立ちと、お兄様と同じ鮮やかなブルーの瞳。日に焼けたような肌の色と真っ白な髪はこの国の人々なら当たり前に持つもので、陛下はいつも軍服をラフにしたような衣装を身に着けている。
陛下は私のところに来ると、節榑た手で私の頬に触れ微笑んだ。
「ここにいたのか、捜したよ」
「あら、私にご用ですか?」
「少し城を離れる。何かあったら、ファルドに言ってくれ」
「分かりました。お気を付けて」
「ああ、ありがとう。行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
使用人に頼むのではなく、わざわざ私を捜してご自分のお口から伝えてくださる陛下の誠実さが私は好きなのよね。
小国故に領主はおらず、王族が国全体を纏めているためこうして陛下は定期的に街や村の様子を見に出掛けられる。視察とは違うのかしらって思ってたら、建物や道に破損や劣化があればその場で直してしまうから見回りのようなものらしい。
だからご帰宅も当日だったり三日後だったりとマチマチだ。
唇を重ね、手を振って見送ったあとほぅっと息を吐く。
あんなに素敵な方の奥様になれるなんて、私は本当に幸せだわ。アルシエが良く、「ルディウス様が僕を好きでいてくださる事は奇跡です」って言っていたけど、正しくその通りだと思った。
好きな人が自分を好きでいてくれるって、私の身分からしたら奇跡よね。
お国の為の愛のない結婚なんて、王族には当たり前だから。
「さて、お部屋に戻ってアルシエにお手紙を書こうかしら」
私にとって変わらず可愛い弟であるアルシエとは手紙のやりとりをしている。
私が嫁ぐ日、寂しいと泣いたアルシエと約束したからというのもあるけど、何より私があの子と疎遠になりたくなかった。
本当は連れて行きたかったのに、ルディウスがダメって言うから。
つい最近の手紙でアルシエが懐妊したと知り、私は一人飛び跳ねるくらい嬉しかった。いつかはとは思っていたけど、まさかこんなに早く聞けるなんて思わなかったわ。
産まれたら会いに行ってもいいか、陛下にお伺いしてみようかしら。
陛下が街へ向かわれて二日目。
お昼頃に戻られた陛下は湯浴みをし、バルコニーで編み物をしていた私の元へといらしてくださった。
てっきりお休みになると思っていたから目を瞬くと、陛下は私の隣に腰を下ろして肩へと寄り掛かる。
「お疲れですね」
「⋯疲れた。女というものはどうしてああも積極的なのか⋯」
「あら、またお声をかけられました?」
「ああ。あの甘ったるい匂いはいつ嗅いでも慣れない」
「ふふ、陛下は匂いに敏感ですものね」
陛下は十代の頃、メイドからちょっとしたイタズラをされてしまい、以来女性に対して苦手意識を持つようになった。
それ故に結婚には後ろ向きだったのだけど、あの日のパーティで私との会話が弾み結婚したいと思ってくださったそう。私もいずれはどこかに嫁ぐと思っていたから、そのお相手が彼ならむしろ嬉しいってお引き受けしたけど本当に良かったって思ってる。
顔を引き攣らせる陛下を思い浮かべて笑っていたら、髪が一房掬われて口付けられた。
「アンジェラはこんなにいい香りなのにな」
「陛下のお好きな匂いですか?」
「一番好きな匂いだ」
柔らかな声で答えてくれた陛下が身体を起こし、私の腰を抱き寄せ頬へと口付けてくる。
端正な顔が間近で微笑み、私の胸が柄にもなくときめいた。
「俺を癒せるのはアンジェラだけだよ」
「陛下」
「君と出会えて良かったと、心から思っている」
「私も同じ気持ちです。陛下と出会えて良かった⋯」
アルシエとルディウスを羨ましいと思った事もあった。
たった一人の人と特別に愛し愛されるってどんな感じなんだろうって。
こうして陛下と向かい合ってるとよく分かる。あの子があんなに幸せそうだったのも納得だわ。
陛下の背中に腕を回し身体を擦り寄せれば、陛下の逞しい腕がしっかりと抱き締めてくれる。
「そうだ。明日はアンジェラが行きたがっていたカフェに行こうか」
「よろしいのですか?」
「もちろん。明日は一日、アンジェラと過ごすつもりだから」
「でしたらお買い物もしたいですわ」
「好きなだけ買うといい」
「陛下も選んでくださいね」
「ぜ、善処はする」
今まで避けて来たから、陛下は女性への贈り物さえ苦手分野になってしまったのよね。それでもこう言ってくださるんだから、それ以上は我儘というもの。
少しずつお互いの事を知っていけばいいのよ。
ルディウスがゆっくりとアルシエとの関係を育んだように、焦らず、お互いのペースで。
FIN.
アルシエのおかげですっかり花を見る癖がついて、今では暇さえあれば話しかけたりしてる。お兄様が配合してくれた私だけの花も、旦那様である陛下がこのお庭に植え替えてくださりいつでも会えるようになっていた。
元気に咲いてるなら花たちも幸せな証拠だってアルシエが教えてくれたから、今は通訳がなくても分かるのが嬉しい。
本当に、アルシエを選んでくれたルディウスには感謝よね。
「アンジェラ」
そろそろ戻ろうかと腰を上げたら声がかかり、振り向くとこの国の王であり私の旦那様でもあるギルベルト・ロイ・ミュゼリア・ラングリーズ陛下がこちらへ歩いて来ていた。
御歳二十四歳。精悍なお顔立ちと、お兄様と同じ鮮やかなブルーの瞳。日に焼けたような肌の色と真っ白な髪はこの国の人々なら当たり前に持つもので、陛下はいつも軍服をラフにしたような衣装を身に着けている。
陛下は私のところに来ると、節榑た手で私の頬に触れ微笑んだ。
「ここにいたのか、捜したよ」
「あら、私にご用ですか?」
「少し城を離れる。何かあったら、ファルドに言ってくれ」
「分かりました。お気を付けて」
「ああ、ありがとう。行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
使用人に頼むのではなく、わざわざ私を捜してご自分のお口から伝えてくださる陛下の誠実さが私は好きなのよね。
小国故に領主はおらず、王族が国全体を纏めているためこうして陛下は定期的に街や村の様子を見に出掛けられる。視察とは違うのかしらって思ってたら、建物や道に破損や劣化があればその場で直してしまうから見回りのようなものらしい。
だからご帰宅も当日だったり三日後だったりとマチマチだ。
唇を重ね、手を振って見送ったあとほぅっと息を吐く。
あんなに素敵な方の奥様になれるなんて、私は本当に幸せだわ。アルシエが良く、「ルディウス様が僕を好きでいてくださる事は奇跡です」って言っていたけど、正しくその通りだと思った。
好きな人が自分を好きでいてくれるって、私の身分からしたら奇跡よね。
お国の為の愛のない結婚なんて、王族には当たり前だから。
「さて、お部屋に戻ってアルシエにお手紙を書こうかしら」
私にとって変わらず可愛い弟であるアルシエとは手紙のやりとりをしている。
私が嫁ぐ日、寂しいと泣いたアルシエと約束したからというのもあるけど、何より私があの子と疎遠になりたくなかった。
本当は連れて行きたかったのに、ルディウスがダメって言うから。
つい最近の手紙でアルシエが懐妊したと知り、私は一人飛び跳ねるくらい嬉しかった。いつかはとは思っていたけど、まさかこんなに早く聞けるなんて思わなかったわ。
産まれたら会いに行ってもいいか、陛下にお伺いしてみようかしら。
陛下が街へ向かわれて二日目。
お昼頃に戻られた陛下は湯浴みをし、バルコニーで編み物をしていた私の元へといらしてくださった。
てっきりお休みになると思っていたから目を瞬くと、陛下は私の隣に腰を下ろして肩へと寄り掛かる。
「お疲れですね」
「⋯疲れた。女というものはどうしてああも積極的なのか⋯」
「あら、またお声をかけられました?」
「ああ。あの甘ったるい匂いはいつ嗅いでも慣れない」
「ふふ、陛下は匂いに敏感ですものね」
陛下は十代の頃、メイドからちょっとしたイタズラをされてしまい、以来女性に対して苦手意識を持つようになった。
それ故に結婚には後ろ向きだったのだけど、あの日のパーティで私との会話が弾み結婚したいと思ってくださったそう。私もいずれはどこかに嫁ぐと思っていたから、そのお相手が彼ならむしろ嬉しいってお引き受けしたけど本当に良かったって思ってる。
顔を引き攣らせる陛下を思い浮かべて笑っていたら、髪が一房掬われて口付けられた。
「アンジェラはこんなにいい香りなのにな」
「陛下のお好きな匂いですか?」
「一番好きな匂いだ」
柔らかな声で答えてくれた陛下が身体を起こし、私の腰を抱き寄せ頬へと口付けてくる。
端正な顔が間近で微笑み、私の胸が柄にもなくときめいた。
「俺を癒せるのはアンジェラだけだよ」
「陛下」
「君と出会えて良かったと、心から思っている」
「私も同じ気持ちです。陛下と出会えて良かった⋯」
アルシエとルディウスを羨ましいと思った事もあった。
たった一人の人と特別に愛し愛されるってどんな感じなんだろうって。
こうして陛下と向かい合ってるとよく分かる。あの子があんなに幸せそうだったのも納得だわ。
陛下の背中に腕を回し身体を擦り寄せれば、陛下の逞しい腕がしっかりと抱き締めてくれる。
「そうだ。明日はアンジェラが行きたがっていたカフェに行こうか」
「よろしいのですか?」
「もちろん。明日は一日、アンジェラと過ごすつもりだから」
「でしたらお買い物もしたいですわ」
「好きなだけ買うといい」
「陛下も選んでくださいね」
「ぜ、善処はする」
今まで避けて来たから、陛下は女性への贈り物さえ苦手分野になってしまったのよね。それでもこう言ってくださるんだから、それ以上は我儘というもの。
少しずつお互いの事を知っていけばいいのよ。
ルディウスがゆっくりとアルシエとの関係を育んだように、焦らず、お互いのペースで。
FIN.
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