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番外編
思い出(ルディウス視点)
「あの、いきなり聞くのも失礼とは思うんですけど、ルディウス様のご両親は今どちらにいらっしゃるんですか?」
ある日の午後、屋敷での仕事を終えアルシエとバルコニーでまったりしていた時、何度か逡巡したあとアルシエがそう聞いてきた。
そういえば、両親の話はした事がないな。
本来なら嫁ぐ際に前当主夫妻への挨拶は必要不可欠だが、それどころか姿さえ一度も見た事ないから気になっていたのだろう。
私はアルシエの髪を撫で表情を緩める。
「両親とも、私が五歳の時に事故で他界している。だが爵位を継ぐには早過ぎる為、私が成長するまでは陛下と王妃陛下が面倒を見てくださったんだ」
「あ、だから兄弟同然」
「元より母と王妃陛下が友人だったからこそだな。本当にお二方には良くしていただいて、頭が上がらないよ」
私よりあとに産まれたクロード殿下と共に学ばせてくれ、叱る時は叱り、何かをやり遂げれば褒めてくれた。
分け隔てなく、父と母のように接してくれたお二方には感謝がつきない。
まぁおかげで、〝公爵家は王族に媚びを売ってる〟だの〝王家は公爵家に忖度してるだの〟、事情も関係値も知らない貴族どもが酒の肴に話していたようだが、ただの僻みにしか聞こえないのはその貴族たちが王家から厄介者として見られているからだろう。
そもそもリトルハイムは代々から筆頭貴族としてその地位を認められてきたのだ。周りからとやかく言われる筋合いはない。
「ルディウス様と王族のご関係って本当に素敵ですね」
「そうだな。だがアルシエは私と違い、その人柄で愛されているぞ」
「え?」
「王族の方々は、君が可愛くて仕方ないようだ」
アンジェラ王女殿下を筆頭に、あの殿下でさえアルシエには甘い。
陛下は関わる機会がなくとも様子を聞いてくるし、王妃陛下は高位貴族の夫人を招いたお茶会ではアルシエ必ずの話題を出すと聞く。
マルグリアでの生活が異常だっただけで、素直で控えめで優しい性格を嫌う者はいないだろう。
アルシエは目を瞬いた後、どこか照れ臭そうな顔をして目を伏せた。
(本当に表情豊かになったな)
今だに怒った顔は見た事ないが、それ以外の感情は自然と出てくるようになった。笑って拗ねて落ち込んで、くるくると変わる表情が可愛くて仕方ない。
私はアルシエを抱き寄せ、柔らかな髪に鼻先を埋めて目を閉じた。
アルシエはいつもひだまりのような、優しいいい匂いがする。
「この際だ、聞きたい事があるなら言ってみろ」
「そうですね⋯」
自然と寄り掛かり考え始めたアルシエは、少ししてそれならと見上げて来た。
「ルディウス様と殿下の、子供の頃のお話が聞きたいです。たくさん遊んだっておっしゃってたので」
「私と殿下の? そうだな⋯」
聞かれて、何から話せばいいかと考える。
私が三つの時に殿下が誕生し、すぐに両親と共にお会いする事なった。すでに陛下の専属護衛である近衛騎士となっていた父からは「将来ルディウスがお守りする方だよ」と言われたが、その時の私は遊び相手になってくれるかもしれないとワクワクしていたくらいで騎士になる事さえ考えてもいなかった。
城への出入りは自由だったが、私が本格的に足を運ぶようになったのは両親が亡くなってからだ。
精神的に参っていた私を救ってくださったのは他でもない殿下で、それ故に今でも私は殿下に忠誠を誓っている。もちろん両陛下も王女殿下も敬愛はしているが、我が身を盾にしてお守りするなら殿下だった。
ただ子供の頃はそういった考えがあるはずもなく、私と殿下は城の中や敷地内、周辺にある野山を駆け回ったりして毎日を過ごしていた。
「ルディウス、今日は薬草を探しに行くよ!」
「クロード様、王妃様に呼ばれていませんでしたか?」
「どうせお説教だからいいよ」
「お城の壁に落書きするからですよ」
「あんなに真っ白だったら、落書きもしたくなるでしょ」
「⋯⋯⋯」
今でこそ次期国王としてその辣腕ぶりを遺憾なく発揮している殿下だが、子供時分はこのようにたいそう悪戯っ子で、仕立てたばかりの衣装で木に登ったり飾太刀を振り回したりして、使用人を困らせたり王妃陛下に叱られたりしていた。
本当にあの頃はやんちゃをしていたというか⋯今思い返しても、王妃陛下には申し訳なさしかない。
「ルディウスはどんな子が好き?」
「どんな⋯優しい子、でしょうか」
「勝手に決められた婚約って、相手は嫌じゃないのかな」
「私からは何とも⋯」
殿下が十歳の時にフローラ王女殿下との婚姻が決まったのだが、王女は当時三歳で、殿下はあまりの幼さに可哀想だと零したそうだ。それでも国の為と言われるとどうにも出来ず、せめて幸せにしてあげたいと隣国へ足を運んで仲を深め、生涯フローラ王女殿下のみを傍に置くとお決めになったらしい。まぁ、これはあとから聞いた事だが。
だが最近の殿下を見ていると、最初こそそれだけだった気持ちが変化しているように思う。真っ直ぐな想いを素直に向けられて、フローラ王女殿下を愛しいと思い始めたのではないかと。
それはアルシエの願いでもあったから、私としても喜ばしい事だった。
自国の君主が奥方と仲睦まじければ、国民にとってもこの国にとってもいい事しかないからな。
そこまで話して一旦区切りを入れ、紅茶に口を付けた私にアルシエが楽しそうにクスリと笑った。
「ルディウス様も殿下も、今では想像出来ないくらい元気なお子だったんですね」
「子供なんてそんなものだ」
「その頃のルディウス様に会ってみたかったなぁ」
「勘弁してくれ。君に泥に塗れた姿など見られたくない」
愛する者の前ではいつだって格好よくいたいという男心なのだが、アルシエには分からないのかクスクスと笑っている。
それに釣られるように笑い、頬を撫でればその手がアルシエの腹へと当てられた。
ここには私とアルシエの子がいて、すでに胎動を感じられるほどに成長している。
「この子も、ルディウス様のように元気に育って欲しいですね」
「元気なのはいいが、あまりアルシエに負担がかかるのは良くないな」
「僕、一緒に走り回りますよ」
「子供の体力は無尽蔵だぞ。⋯ああそうだ、あとは落書き用の壁を用意しないといけないかもな」
「楽しそう。好きにお絵描き出来るなんて、嬉しいね」
大きな病気もなく育ってくれる事は親の本願でもあるが、やはり私としてはアルシエが大変な思いをしないかが心配だった。
だがアルシエは愛らしい笑顔で私の手ごと腹を撫で、弾んだ声で我が子へと語りかける。その表情は母親そのものだった。
「ルディウス様」
「ん?」
「僕は何人でもいいですよ」
一瞬アルシエの言葉が理解出来なかったが、それが子供の事だと分かり私は拍子抜けした。
まさかアルシエからそんな事を言われるとは。
ただ私も一人っ子にするつもりはなく、最低でも三人は欲しいと思っていた為それには賛成だった。
そもそも、アルシエを前にして、私が我慢など出来るはずがないのだから。
FIN.
ある日の午後、屋敷での仕事を終えアルシエとバルコニーでまったりしていた時、何度か逡巡したあとアルシエがそう聞いてきた。
そういえば、両親の話はした事がないな。
本来なら嫁ぐ際に前当主夫妻への挨拶は必要不可欠だが、それどころか姿さえ一度も見た事ないから気になっていたのだろう。
私はアルシエの髪を撫で表情を緩める。
「両親とも、私が五歳の時に事故で他界している。だが爵位を継ぐには早過ぎる為、私が成長するまでは陛下と王妃陛下が面倒を見てくださったんだ」
「あ、だから兄弟同然」
「元より母と王妃陛下が友人だったからこそだな。本当にお二方には良くしていただいて、頭が上がらないよ」
私よりあとに産まれたクロード殿下と共に学ばせてくれ、叱る時は叱り、何かをやり遂げれば褒めてくれた。
分け隔てなく、父と母のように接してくれたお二方には感謝がつきない。
まぁおかげで、〝公爵家は王族に媚びを売ってる〟だの〝王家は公爵家に忖度してるだの〟、事情も関係値も知らない貴族どもが酒の肴に話していたようだが、ただの僻みにしか聞こえないのはその貴族たちが王家から厄介者として見られているからだろう。
そもそもリトルハイムは代々から筆頭貴族としてその地位を認められてきたのだ。周りからとやかく言われる筋合いはない。
「ルディウス様と王族のご関係って本当に素敵ですね」
「そうだな。だがアルシエは私と違い、その人柄で愛されているぞ」
「え?」
「王族の方々は、君が可愛くて仕方ないようだ」
アンジェラ王女殿下を筆頭に、あの殿下でさえアルシエには甘い。
陛下は関わる機会がなくとも様子を聞いてくるし、王妃陛下は高位貴族の夫人を招いたお茶会ではアルシエ必ずの話題を出すと聞く。
マルグリアでの生活が異常だっただけで、素直で控えめで優しい性格を嫌う者はいないだろう。
アルシエは目を瞬いた後、どこか照れ臭そうな顔をして目を伏せた。
(本当に表情豊かになったな)
今だに怒った顔は見た事ないが、それ以外の感情は自然と出てくるようになった。笑って拗ねて落ち込んで、くるくると変わる表情が可愛くて仕方ない。
私はアルシエを抱き寄せ、柔らかな髪に鼻先を埋めて目を閉じた。
アルシエはいつもひだまりのような、優しいいい匂いがする。
「この際だ、聞きたい事があるなら言ってみろ」
「そうですね⋯」
自然と寄り掛かり考え始めたアルシエは、少ししてそれならと見上げて来た。
「ルディウス様と殿下の、子供の頃のお話が聞きたいです。たくさん遊んだっておっしゃってたので」
「私と殿下の? そうだな⋯」
聞かれて、何から話せばいいかと考える。
私が三つの時に殿下が誕生し、すぐに両親と共にお会いする事なった。すでに陛下の専属護衛である近衛騎士となっていた父からは「将来ルディウスがお守りする方だよ」と言われたが、その時の私は遊び相手になってくれるかもしれないとワクワクしていたくらいで騎士になる事さえ考えてもいなかった。
城への出入りは自由だったが、私が本格的に足を運ぶようになったのは両親が亡くなってからだ。
精神的に参っていた私を救ってくださったのは他でもない殿下で、それ故に今でも私は殿下に忠誠を誓っている。もちろん両陛下も王女殿下も敬愛はしているが、我が身を盾にしてお守りするなら殿下だった。
ただ子供の頃はそういった考えがあるはずもなく、私と殿下は城の中や敷地内、周辺にある野山を駆け回ったりして毎日を過ごしていた。
「ルディウス、今日は薬草を探しに行くよ!」
「クロード様、王妃様に呼ばれていませんでしたか?」
「どうせお説教だからいいよ」
「お城の壁に落書きするからですよ」
「あんなに真っ白だったら、落書きもしたくなるでしょ」
「⋯⋯⋯」
今でこそ次期国王としてその辣腕ぶりを遺憾なく発揮している殿下だが、子供時分はこのようにたいそう悪戯っ子で、仕立てたばかりの衣装で木に登ったり飾太刀を振り回したりして、使用人を困らせたり王妃陛下に叱られたりしていた。
本当にあの頃はやんちゃをしていたというか⋯今思い返しても、王妃陛下には申し訳なさしかない。
「ルディウスはどんな子が好き?」
「どんな⋯優しい子、でしょうか」
「勝手に決められた婚約って、相手は嫌じゃないのかな」
「私からは何とも⋯」
殿下が十歳の時にフローラ王女殿下との婚姻が決まったのだが、王女は当時三歳で、殿下はあまりの幼さに可哀想だと零したそうだ。それでも国の為と言われるとどうにも出来ず、せめて幸せにしてあげたいと隣国へ足を運んで仲を深め、生涯フローラ王女殿下のみを傍に置くとお決めになったらしい。まぁ、これはあとから聞いた事だが。
だが最近の殿下を見ていると、最初こそそれだけだった気持ちが変化しているように思う。真っ直ぐな想いを素直に向けられて、フローラ王女殿下を愛しいと思い始めたのではないかと。
それはアルシエの願いでもあったから、私としても喜ばしい事だった。
自国の君主が奥方と仲睦まじければ、国民にとってもこの国にとってもいい事しかないからな。
そこまで話して一旦区切りを入れ、紅茶に口を付けた私にアルシエが楽しそうにクスリと笑った。
「ルディウス様も殿下も、今では想像出来ないくらい元気なお子だったんですね」
「子供なんてそんなものだ」
「その頃のルディウス様に会ってみたかったなぁ」
「勘弁してくれ。君に泥に塗れた姿など見られたくない」
愛する者の前ではいつだって格好よくいたいという男心なのだが、アルシエには分からないのかクスクスと笑っている。
それに釣られるように笑い、頬を撫でればその手がアルシエの腹へと当てられた。
ここには私とアルシエの子がいて、すでに胎動を感じられるほどに成長している。
「この子も、ルディウス様のように元気に育って欲しいですね」
「元気なのはいいが、あまりアルシエに負担がかかるのは良くないな」
「僕、一緒に走り回りますよ」
「子供の体力は無尽蔵だぞ。⋯ああそうだ、あとは落書き用の壁を用意しないといけないかもな」
「楽しそう。好きにお絵描き出来るなんて、嬉しいね」
大きな病気もなく育ってくれる事は親の本願でもあるが、やはり私としてはアルシエが大変な思いをしないかが心配だった。
だがアルシエは愛らしい笑顔で私の手ごと腹を撫で、弾んだ声で我が子へと語りかける。その表情は母親そのものだった。
「ルディウス様」
「ん?」
「僕は何人でもいいですよ」
一瞬アルシエの言葉が理解出来なかったが、それが子供の事だと分かり私は拍子抜けした。
まさかアルシエからそんな事を言われるとは。
ただ私も一人っ子にするつもりはなく、最低でも三人は欲しいと思っていた為それには賛成だった。
そもそも、アルシエを前にして、私が我慢など出来るはずがないのだから。
FIN.
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三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。