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甘える方法
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「今日は本当にありがとうございました!」
「ありがとうございました」
みんなで夕飯まで鷹臣さんにご馳走になった夜、叶くんの家に泊まるという茉梨ちゃんを叶くんの住むマンション前で下ろしたあと、手を振って別れ鷹臣さんの家へと帰る。
ゲームセンターのあとも全部の階や別館も回って茉梨ちゃんはここぞとばかりに買い物してたけど、鷹臣さんも本当にいつの間にっていうくらい荷物が増えててびっくりした。
帰りの車、トランクがパンパンだったし。
あとで知ったんだけど、ほとんど僕の物らしくて⋯もう充分あるのに服とか靴とか小物系とか、収納に入り切らないくらいあってどうしようか悩んでたら、それを見た鷹臣さんが更に大きな棚を買おうかとか言い出したけど必死に止めた。
これ以上はさすがに申し訳なさ過ぎる。
お風呂から上がり、いつものように髪を乾かして貰ったあと、触って貰う時以外はそれぞれの部屋に戻るんだけど、今日は何となく離れがたくてソファの上で膝を抱えて座ってたら隣にいた鷹臣さんがクスリと笑った。
「?」
「何でもないよ。おいで、遥斗」
どうして笑われたのか分からず鷹臣さんの方を向いたら、緩く首が振られて両手を差し出される。戸惑いながらも手を乗せると引かれて膝の上に座らされた。
鷹臣さんの匂いがふわっと舞って、ドキドキしながら視線を上げたら額に唇が触れる。
「甘えたい時は甘えていいんだよ」
「⋯⋯甘えるって、どうしたらいいんですか?」
僕の面倒を見てくれた上の子たちは放任で、合間で様子を見に来てただけだから遊んで貰った記憶がない。下の子たちを見る立場になった時は見てたけど、俯いてばかりの僕は好かれてはいなかったから本当に見てるだけだったし。
だから、甘え方なんて分からない。
目を伏せる僕の頬に触れた鷹臣さんは、こめかみや目元にも口付けて微笑んだ。
「くっつきたい時はこうして膝に乗ってきていいし、抱き締めて欲しい時は服を掴むでもいいよ」
「服を掴む⋯」
「そうだ、難しいなら方法を決めようか」
「方法?」
鷹臣さんはいい事を思い付いたと僕の手を取ると、まずは自分の服の裾を握らせてきた。
「抱き締めて欲しい時はここを掴んで」
そう言いながら次は袖へと持っていく。
「今みたいに膝に座りたくなったらここを掴む」
僕はただ目を瞬いて見てるだけだけど、鷹臣さんは構わずに次には自分の頬へと僕の手を押し当てた。
「キスをしたくなったら指先でもいいからここに触れて」
「キ、ス⋯は、ハードル高い⋯です⋯」
「どうしてもしたくなったらでいいよ。その代わり俺がするから」
「え」
僕の目を見ながら手の平に口付けた鷹臣さんが表情を緩め、ゆっくり近付いてきて唇が触れ合う。咄嗟に目を瞑ったら少し離れてまた触れて、舌は入って来ないけど戯れるみたいなキスでもドキドキしてるせいで息が上がってきた。
「ん⋯」
「遥斗が慎ましい性格をしている事はよく分かっているけど、俺にはどれだけ我儘を言っても嫌いになったりしないから。言いたい事を遠慮しなくてもいい。不安にならなくても大丈夫だよ」
確かに、嫌われたくないから言葉を飲み込むっていうのは無意識でもある⋯と思う。こんな事言ったら怒るかなとか、嫌われるかなって顔色を伺うのは癖だし⋯もしかして鷹臣さん、僕より僕の事分かってる⋯?
手を握ったり解いたりしながら右に左に視線を彷徨わせてしばらく悩んだ僕は、鷹臣さんの言葉に応えたくて口を開いた。
「⋯あ、の⋯じゃあ一つだけ⋯」
「うん、何?」
「⋯⋯今日、一緒に寝たい、です⋯」
起きたら鷹臣さんがいる状況は思いの外幸せで、今は傍にいたいって思ってるからそう言えば、鷹臣さんは僅かに目を見瞠ったあと蕩けるような笑顔を浮かべた。
それから僕の髪に唇を寄せると頷いてくれる。
「むしろそれを言いたいのは俺の方だよ。触れる日だけじゃなく、毎日でも一緒に寝たいと思ってる」
「ま、毎日⋯」
「毎日、寝ても覚めても遥斗が隣にいるなんて、俺にとって幸せ以外の何物でもないよ」
同じ事を思ってくれてる鷹臣さんにポカンとし、じわじわと嬉しさが広がって僕は堪らない気持ちになった。
真っ直ぐに想いを伝えてくれるから心臓に悪い人でもあるんだけど、それ以上に僕の心を温かくしてくれる人だなぁ。
「寝室、一つにしようか」
「⋯⋯はい」
「寝てる間にいろいろ触ったらごめんね」
「え?」
いろいろと言われ鷹臣さんのベッドで鷹臣さんにされている事を思い出した僕は顔が赤くなる。そういえばあれも自分からねだったんだっけ⋯今思えば凄く大胆だった。
あれ以降は鷹臣さんが聞いてくれてるけど、何だか自分がすごくはしたない事をしたと感じてしまう。
恋人なら、当たり前の事なのに。
「遥斗」
「はい?」
「ちなみに、今日は触ってもいいのかな」
熱を持つ頬をむにむにと摘まれながら優しく問われ、まさに今考えていた事だったからさっと顔を逸らし鷹臣さんの肩に押し当てる。
本当は聞かなくても触れてくれていいのにとは思ってるけど、鷹臣さんの優しさなんだよね。
「いいなら、俺の手を握って」
「⋯⋯」
「ありがとう」
手が上げられそれを横目で見た僕はぎゅっと握る。
反対の手で頭を撫でられたあと僕を抱いたまま立ち上がった鷹臣さんは、テーブルの上のコップを片付けるとリビングの電気を消して寝室へと歩き出した。
というか、鷹臣さんって力持ちだよね。いつも普通に僕を抱き上げるけど、身長差があるとはいえ重いんじゃないかな。
「ペンギン持って行く?」
「⋯鷹臣さんがいるから⋯」
「遥斗は本当に可愛いね」
今のどこに可愛い要素があったんだろう。
目を瞬く僕にふっと笑った鷹臣さんは、ベッドに僕を下ろすと頬に口付けてきた。それからゆっくりと倒されて覆い被さってくる。
どこから見てもカッコいい顔が近付いてきて、心臓が耳に響くくらいドキドキしているのを感じながら僕は目を閉じた。
もっとちゃんと自分に自信が持てるように頑張ろう。
鷹臣さんばっかりに任せないように。
「ありがとうございました」
みんなで夕飯まで鷹臣さんにご馳走になった夜、叶くんの家に泊まるという茉梨ちゃんを叶くんの住むマンション前で下ろしたあと、手を振って別れ鷹臣さんの家へと帰る。
ゲームセンターのあとも全部の階や別館も回って茉梨ちゃんはここぞとばかりに買い物してたけど、鷹臣さんも本当にいつの間にっていうくらい荷物が増えててびっくりした。
帰りの車、トランクがパンパンだったし。
あとで知ったんだけど、ほとんど僕の物らしくて⋯もう充分あるのに服とか靴とか小物系とか、収納に入り切らないくらいあってどうしようか悩んでたら、それを見た鷹臣さんが更に大きな棚を買おうかとか言い出したけど必死に止めた。
これ以上はさすがに申し訳なさ過ぎる。
お風呂から上がり、いつものように髪を乾かして貰ったあと、触って貰う時以外はそれぞれの部屋に戻るんだけど、今日は何となく離れがたくてソファの上で膝を抱えて座ってたら隣にいた鷹臣さんがクスリと笑った。
「?」
「何でもないよ。おいで、遥斗」
どうして笑われたのか分からず鷹臣さんの方を向いたら、緩く首が振られて両手を差し出される。戸惑いながらも手を乗せると引かれて膝の上に座らされた。
鷹臣さんの匂いがふわっと舞って、ドキドキしながら視線を上げたら額に唇が触れる。
「甘えたい時は甘えていいんだよ」
「⋯⋯甘えるって、どうしたらいいんですか?」
僕の面倒を見てくれた上の子たちは放任で、合間で様子を見に来てただけだから遊んで貰った記憶がない。下の子たちを見る立場になった時は見てたけど、俯いてばかりの僕は好かれてはいなかったから本当に見てるだけだったし。
だから、甘え方なんて分からない。
目を伏せる僕の頬に触れた鷹臣さんは、こめかみや目元にも口付けて微笑んだ。
「くっつきたい時はこうして膝に乗ってきていいし、抱き締めて欲しい時は服を掴むでもいいよ」
「服を掴む⋯」
「そうだ、難しいなら方法を決めようか」
「方法?」
鷹臣さんはいい事を思い付いたと僕の手を取ると、まずは自分の服の裾を握らせてきた。
「抱き締めて欲しい時はここを掴んで」
そう言いながら次は袖へと持っていく。
「今みたいに膝に座りたくなったらここを掴む」
僕はただ目を瞬いて見てるだけだけど、鷹臣さんは構わずに次には自分の頬へと僕の手を押し当てた。
「キスをしたくなったら指先でもいいからここに触れて」
「キ、ス⋯は、ハードル高い⋯です⋯」
「どうしてもしたくなったらでいいよ。その代わり俺がするから」
「え」
僕の目を見ながら手の平に口付けた鷹臣さんが表情を緩め、ゆっくり近付いてきて唇が触れ合う。咄嗟に目を瞑ったら少し離れてまた触れて、舌は入って来ないけど戯れるみたいなキスでもドキドキしてるせいで息が上がってきた。
「ん⋯」
「遥斗が慎ましい性格をしている事はよく分かっているけど、俺にはどれだけ我儘を言っても嫌いになったりしないから。言いたい事を遠慮しなくてもいい。不安にならなくても大丈夫だよ」
確かに、嫌われたくないから言葉を飲み込むっていうのは無意識でもある⋯と思う。こんな事言ったら怒るかなとか、嫌われるかなって顔色を伺うのは癖だし⋯もしかして鷹臣さん、僕より僕の事分かってる⋯?
手を握ったり解いたりしながら右に左に視線を彷徨わせてしばらく悩んだ僕は、鷹臣さんの言葉に応えたくて口を開いた。
「⋯あ、の⋯じゃあ一つだけ⋯」
「うん、何?」
「⋯⋯今日、一緒に寝たい、です⋯」
起きたら鷹臣さんがいる状況は思いの外幸せで、今は傍にいたいって思ってるからそう言えば、鷹臣さんは僅かに目を見瞠ったあと蕩けるような笑顔を浮かべた。
それから僕の髪に唇を寄せると頷いてくれる。
「むしろそれを言いたいのは俺の方だよ。触れる日だけじゃなく、毎日でも一緒に寝たいと思ってる」
「ま、毎日⋯」
「毎日、寝ても覚めても遥斗が隣にいるなんて、俺にとって幸せ以外の何物でもないよ」
同じ事を思ってくれてる鷹臣さんにポカンとし、じわじわと嬉しさが広がって僕は堪らない気持ちになった。
真っ直ぐに想いを伝えてくれるから心臓に悪い人でもあるんだけど、それ以上に僕の心を温かくしてくれる人だなぁ。
「寝室、一つにしようか」
「⋯⋯はい」
「寝てる間にいろいろ触ったらごめんね」
「え?」
いろいろと言われ鷹臣さんのベッドで鷹臣さんにされている事を思い出した僕は顔が赤くなる。そういえばあれも自分からねだったんだっけ⋯今思えば凄く大胆だった。
あれ以降は鷹臣さんが聞いてくれてるけど、何だか自分がすごくはしたない事をしたと感じてしまう。
恋人なら、当たり前の事なのに。
「遥斗」
「はい?」
「ちなみに、今日は触ってもいいのかな」
熱を持つ頬をむにむにと摘まれながら優しく問われ、まさに今考えていた事だったからさっと顔を逸らし鷹臣さんの肩に押し当てる。
本当は聞かなくても触れてくれていいのにとは思ってるけど、鷹臣さんの優しさなんだよね。
「いいなら、俺の手を握って」
「⋯⋯」
「ありがとう」
手が上げられそれを横目で見た僕はぎゅっと握る。
反対の手で頭を撫でられたあと僕を抱いたまま立ち上がった鷹臣さんは、テーブルの上のコップを片付けるとリビングの電気を消して寝室へと歩き出した。
というか、鷹臣さんって力持ちだよね。いつも普通に僕を抱き上げるけど、身長差があるとはいえ重いんじゃないかな。
「ペンギン持って行く?」
「⋯鷹臣さんがいるから⋯」
「遥斗は本当に可愛いね」
今のどこに可愛い要素があったんだろう。
目を瞬く僕にふっと笑った鷹臣さんは、ベッドに僕を下ろすと頬に口付けてきた。それからゆっくりと倒されて覆い被さってくる。
どこから見てもカッコいい顔が近付いてきて、心臓が耳に響くくらいドキドキしているのを感じながら僕は目を閉じた。
もっとちゃんと自分に自信が持てるように頑張ろう。
鷹臣さんばっかりに任せないように。
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