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自覚(紫苑視点)
最近【soar】の勢いが半端なくて、真那や他のメンバーと撮影スタジオでバッタリ会うなんて事も増えて来た。二周年を迎えて、ライブやらコラボ商品やらWEB番組やら多方面に活躍しとるのは知っとるけど、出来ればあんま会いたくないのは奏音が真那に惚れとるから。
シスコンと言われればそれまでやけど、俺にとって奏音はたった一人の大事な妹や。
親の泥沼離婚のせいで今まで離れて暮らしとったけど、俺が東京を拠点にした事でようやく普通に会えるようになったのに、奏音は真那に夢中でその話ばっかしよる。小さい頃はお兄ちゃんお兄ちゃん言うて俺の後ろばっかついて来とったんに…ほんま腹立たしい。
真那と陽向が幼馴染みやって知ったんは、奏音がスタッフの話を盗み聞きしたからや。なんや、絶対ピンでしか撮らん真那が一緒に撮影した子がおって、その子は生まれた時からの幼馴染やから真那も心を許しとって撮れたみたいな話を聞いたらしい。
その頃には真那を本気で好きやった奏音は、顔も知らん幼馴染みに嫉妬心を爆発させた。
俺が陽向がおる高校に転校したんはたまたまやったけど、あの真那が大事にしとるだけあって悪い子やないってのはすぐに分かった。嫌がらせじみた事されて、最初は怒って文句言っとっても時間が経てば普通に接してくる陽向に絆されたんは俺の方や。あの姫さんらが傍におるんも納得出来た。
まさか真那とデキとるとは思わんかったけど。
とにかく、俺は奏音の心を奪った真那の事は憎いけど、陽向に対してはもう普通に友達みたいに思てる。アイツ、絶対人の悪口とか言わんのよな。
そんな陽向と真那が、今結構大変な事になっとるらしい。
俺の、妹のせいで。
「奏音、お前何したん?」
俺が暮らしとる部屋は、セキュリティがしっかりしとる単身者向けのマンションで隣には奏音の部屋がある。お互い二十二時以降は働けへんから、それを見越して部屋まで来たオレは開口一番そう問い掛けた。
風呂上がりか、ルームウェアを着てタオルで髪を拭いとる奏音はキョトンと首を傾げる。
「何が?」
「昨日、港区のスタジオおったんやろ? 真那がブチ切れとったけど、お前が原因やって聞いたで」
「……」
前日、隣のセットで撮影しとった俺は、真那が撮影しとるはずのスタジオが騒がしい事に気付いて覗きに行きギョッとした。
今まで見た事がないくらい感情剥き出しで叫んどる真那がおって、マネージャーらしき人が必死で宥めとったから。
『俺はヒナのところに行く!』
『真那、一旦落ち着け!』
『落ち着ける訳ない! ヒナが泣いてたのに…っ…滅多に泣かないヒナがあの女に泣かされた…!』
『分かってる! お前が陽向くんを心底心配してるのは分かってるから!』
『ヒナ…っ…ヒナ……!』
真那は、陽向の事に関してだけは感情を露わにする。それは何度か陽向をダシに真那へ文句言うた俺がよー知っとるし身にも染みてるんやけど、それでもあそこまで声荒げたり暴れたり言うのはなかったから正直驚いた。
聞けばこうなる前に奏音と会うたらしく、真那が言うてた〝あの女〟が奏音である事は間違いなさそうやって知った。
せやから聞いたのに、奏音はぶすっとした顔を背けると腰まである長い髪を弄り始める。
「奏音。陽向の事泣かしたんやろ?」
「……だって、悔しかったんだもん」
「悔しかった?」
「幼馴染みってだけで真那くんの傍にいて、真那くんに大事にされて…ずるいよ。私だって真那くんが好きなのに」
「何言うたんや」
「真那くんから離れてって言った」
真那が聞いてくれんからって陽向に直接言いに行くとか、命知らずにもほどがある。まぁ、真那が引くほど陽向を大事にしとるんは一部の人しか知らんからしゃーないけど。
でも、陽向がそんな言葉で泣くとは思えへん。
「他は? まだ何かしとるよな」
「知らなーい」
「奏音」
「…………離れないなら、真那くんとキスしてる写真をマスコミに流すって言った」
「はぁ!? お前何しとんねん! 脅しやんかそんなん!」
「そうだよ、ちょっとだけ脅すつもりだった。そうすればあの人は真那くんから距離を置いて、私の事見てくれるんじゃないかなって思って」
「よりにもよってお前……」
恐らく陽向は自分のせいでマズイ事になる思たんやろ。それやったら奏音の言う通りにしたらええんやけど、好きやからそんな事したなくて、でも離れんとキス写真がマスコミに持ってかれてまうからどないしよーってぐるんぐるんになってもうたんやろな。
真那のあの取り乱しようやと、陽向が泣いたんもごっつー久し振りって感じやったし。
しかもあの二人、どう考えても誕生日一緒に過ごす予定立ててたっぽかったよな……うわー、最悪や。
「…あの時の真那くん、凄く怖かった……マネージャーさんが止めてくれなかったら私、殴られてたかもしれない…」
思い出したのか、自分の腕を抱えて震える奏音に俺は溜め息を零す。自業自得とはいえ、俺ももっとちゃんと言っとくべきやったんかもしれん。
「お前は陽向に対する真那の気持ちを侮り過ぎやわ。大体、離れへんのは真那の方やねんで?」
「……うん、それは分かった…」
「せやからアイツはやめとけ言うたのに…お前はもう二度と真那に近付くな。あと、写真も消しとけ」
「…………」
可哀想やけど、こればっかりは奏音がやり過ぎや。頭痛なってきた。
陽向、俺と口きいてくれるやろか。兄として一言だけでも謝りたい。
週が明けて月曜日。俺は痛む胃を押さえながら教室まで行き、机に頬杖をついてぼんやりしている陽向を見付けて深く溜め息をついた。
陽向の友達のあの子たちもどうしたらええか分からんみたいで、少しだけ離れた場所から様子を伺っとる。
「陽向、ちょいええか?」
「……あ、日下部。おはよう」
「…はよ。こっち来てくれるか?」
「…うん」
のっそりと立ち上がりとぼとぼとついてくる陽向にほんまいらん事しよってと奏音へ悪態をつきながら、階段横の掃除用具とかが入った扉の前まで行くと陽向に向かって頭を下げた。
「奏音がホンマに申し訳ない事した」
「…日下部が謝る事じゃないだろ」
「でも俺の妹がした事やし、アイツには会いたないやろうからせめて俺だけでも謝らせてくれ」
勝手やとは思う。それでも陽向を傷付けた事には変わらんし、謝ってどないなるんやって言われたらぐうの音も出ん。せやけど落ち込んどる陽向は見たなかった。最近は俺にも笑ってくれるようになったんに、せっかく出来た友達を失くしたない。
「あのさ……写真って、どうなった?」
「それは消させた。ごめんな、怖かったやろ」
「怖かったって言うか……もしあれが出回った時、オレは真那の為に何も出来ないって事に気付いたショックの方がデカかったっていうか…」
「自分がどうなるとかはなかったん?」
「なかった。ただ真那の事が気掛かりで」
ホンマ、どこまでもお互いなんやな、コイツら。
俺も最初は陽向で憂さ晴らししよ思とったからどの口がって感じやけど、どないかしてやりたいなとは思う。
「真那から連絡は?」
「今は電源切ってる」
「家とか来ぃひんの?」
「一昨日はオフだったけど、来なかった」
「そうか……相当頭に血ぃ昇っとったからな。もしかしたら、メンバーとかが落ち着くまで会わされへんと思たんやろか」
「血が昇ってた?」
あの真那がいくら怒り狂ってようと、陽向に対して何かするとは思えへんけど念の為っちゅーのもあるからな。
俺がなんの気なしに言った言葉を反芻した陽向は眉を顰める。
「ん? ああ、奏音にブチ切れとった。陽向が泣いとるから傍に行かせてくれ言うて、マネージャーさんが必死に止めとったわ」
「……真那が…」
「あー…陽向、奏音が言うた事、気にせんでええよ。っていうても、何言われたんかは分からんのやけど……でも、自分ら別に悪い事しとる訳やないやん。好きになった人が同性やったってだけの話やろ? ほら、今はそういうんも世間的に受け入れられつつあるし、男同士が好きな人わりと多いらしいんやん。せやから案外ファンも歓迎してくれるかもしれんで?」
涙目になった陽向にギョッとして思い付く限りの言葉を並べてみるけど、あんまええ事言えんかった気がする。もっと何か上手な言い方ないかなと視線を彷徨わせていると陽向が小さく笑った。
「日下部は良い奴だな」
「へ?」
「真那の事嫌いなはずなのに、その恋人のオレを慰めてくれて」
「別に俺は、陽向の事は嫌いやないから……」
「そっか。オレも日下部の事、嫌いじゃないよ」
そう言うてはにかんだ顔に思わずドキッとし視線を逸らす。
最初会うた時普通やって言うたけど、陽向の顔立ちは決して悪ない。ただ陽向の周りにおる人らの顔面が良すぎるだけで、一般的に見れば可愛えタイプやろう。特に笑った顔は。
俺は女の子が好きなんやけどなーと頭を掻いていると、目を伏せた陽向は指先を弄りながら小さく話始める。
「この二日間ずっと考えてた。もしオレと真那の関係が世間に出たとしたら、オレはどうしたらいいのか…どうするべきなのか。……真那がオレの事を、足枷だとか邪魔だとか思ってないのは本心では分かってるのに、写真の事を知った時、真那と奏音さんの記事を思い出して背中がヒヤッとした。オレのせいで真那の好きな場所がなくなるかもしれない、【soar】が世間から酷い事を言われるかもしれないって。それだけは絶対に嫌だった」
「……」
「結局オレの覚悟が足りてなかっただけなんだよ。真那はずっと、オレとの事を公表したがってたのに」
仮に真那のしたいように公表出来たとしても、ファンや世間の反応はその時にならんと分からん。でも、真那はそれも踏まえた上で、陽向との事をみんなに教えたいって思とったんやろうな。
「それで、どないするん?」
「オレは真那が好きだから、真那とずっと一緒にいたい。例え認めて貰えなくても、バッシングを食らっても、逃げずに真正面から立ち向かう。それが、オレに出来る精一杯だと思うから」
何やろ、俺も偏見がある訳やないけど、この二人はこうなるのが当たり前言うか…真那も陽向も、お互いの事に関してはホンマに真っ直ぐでちょっと羨ましいわ。
「二人の事、【soar】のメンバーも知っとるんやろ?」
「うん。マネージャーの水島さんも、社長さんも秘書さんも。真那が言っても大丈夫だと思った人には伝えてるみたいだから」
「なんや、めっちゃ味方おるやん。……まぁ俺も、陽向の為やったら動いたるから、何かあったら言うて」
「ありがとう。やっぱり良い奴だな、日下部は」
これは俺の自分勝手なせめてもの罪滅ぼしや。妹可愛さに言わなアカン事言わずにこうなってしもたんやから。
「あ、予鈴」
「真那の事は?」
「今日連絡してみる。会えるかは分かんないけど、二日の間に思った事伝えてみようと思って」
「頑張ってな」
「うん」
朝見た時よりは明るくなった表情にホッとした俺は無意識のうちに手を伸ばし陽向の頭を撫でていた。ハッと気付いてから慌てて離し、その手で口元を覆い顔を逸らす。
「今のは内緒にしといて」
「ははっ。うん、分かった」
声を上げて笑う陽向に何とも言えん感情が湧き上がる。
まさか自分が男に対してこないな気持ちを持つとは思わんかった。まあどう転んでも成就せんから言わんけど、たまに触るくらいは許して欲しい…言うんは我儘やろか。
本鈴が鳴る前に教室に戻るべく、「行くぞ」言うて歩き出した陽向のあとを追いながら自覚早々の失恋に肩を竦めた俺は、自分よりも小さな後ろ姿を見て小さく笑った。
せめて、陽向が愚痴を言える相手になれればええんやけどな。
シスコンと言われればそれまでやけど、俺にとって奏音はたった一人の大事な妹や。
親の泥沼離婚のせいで今まで離れて暮らしとったけど、俺が東京を拠点にした事でようやく普通に会えるようになったのに、奏音は真那に夢中でその話ばっかしよる。小さい頃はお兄ちゃんお兄ちゃん言うて俺の後ろばっかついて来とったんに…ほんま腹立たしい。
真那と陽向が幼馴染みやって知ったんは、奏音がスタッフの話を盗み聞きしたからや。なんや、絶対ピンでしか撮らん真那が一緒に撮影した子がおって、その子は生まれた時からの幼馴染やから真那も心を許しとって撮れたみたいな話を聞いたらしい。
その頃には真那を本気で好きやった奏音は、顔も知らん幼馴染みに嫉妬心を爆発させた。
俺が陽向がおる高校に転校したんはたまたまやったけど、あの真那が大事にしとるだけあって悪い子やないってのはすぐに分かった。嫌がらせじみた事されて、最初は怒って文句言っとっても時間が経てば普通に接してくる陽向に絆されたんは俺の方や。あの姫さんらが傍におるんも納得出来た。
まさか真那とデキとるとは思わんかったけど。
とにかく、俺は奏音の心を奪った真那の事は憎いけど、陽向に対してはもう普通に友達みたいに思てる。アイツ、絶対人の悪口とか言わんのよな。
そんな陽向と真那が、今結構大変な事になっとるらしい。
俺の、妹のせいで。
「奏音、お前何したん?」
俺が暮らしとる部屋は、セキュリティがしっかりしとる単身者向けのマンションで隣には奏音の部屋がある。お互い二十二時以降は働けへんから、それを見越して部屋まで来たオレは開口一番そう問い掛けた。
風呂上がりか、ルームウェアを着てタオルで髪を拭いとる奏音はキョトンと首を傾げる。
「何が?」
「昨日、港区のスタジオおったんやろ? 真那がブチ切れとったけど、お前が原因やって聞いたで」
「……」
前日、隣のセットで撮影しとった俺は、真那が撮影しとるはずのスタジオが騒がしい事に気付いて覗きに行きギョッとした。
今まで見た事がないくらい感情剥き出しで叫んどる真那がおって、マネージャーらしき人が必死で宥めとったから。
『俺はヒナのところに行く!』
『真那、一旦落ち着け!』
『落ち着ける訳ない! ヒナが泣いてたのに…っ…滅多に泣かないヒナがあの女に泣かされた…!』
『分かってる! お前が陽向くんを心底心配してるのは分かってるから!』
『ヒナ…っ…ヒナ……!』
真那は、陽向の事に関してだけは感情を露わにする。それは何度か陽向をダシに真那へ文句言うた俺がよー知っとるし身にも染みてるんやけど、それでもあそこまで声荒げたり暴れたり言うのはなかったから正直驚いた。
聞けばこうなる前に奏音と会うたらしく、真那が言うてた〝あの女〟が奏音である事は間違いなさそうやって知った。
せやから聞いたのに、奏音はぶすっとした顔を背けると腰まである長い髪を弄り始める。
「奏音。陽向の事泣かしたんやろ?」
「……だって、悔しかったんだもん」
「悔しかった?」
「幼馴染みってだけで真那くんの傍にいて、真那くんに大事にされて…ずるいよ。私だって真那くんが好きなのに」
「何言うたんや」
「真那くんから離れてって言った」
真那が聞いてくれんからって陽向に直接言いに行くとか、命知らずにもほどがある。まぁ、真那が引くほど陽向を大事にしとるんは一部の人しか知らんからしゃーないけど。
でも、陽向がそんな言葉で泣くとは思えへん。
「他は? まだ何かしとるよな」
「知らなーい」
「奏音」
「…………離れないなら、真那くんとキスしてる写真をマスコミに流すって言った」
「はぁ!? お前何しとんねん! 脅しやんかそんなん!」
「そうだよ、ちょっとだけ脅すつもりだった。そうすればあの人は真那くんから距離を置いて、私の事見てくれるんじゃないかなって思って」
「よりにもよってお前……」
恐らく陽向は自分のせいでマズイ事になる思たんやろ。それやったら奏音の言う通りにしたらええんやけど、好きやからそんな事したなくて、でも離れんとキス写真がマスコミに持ってかれてまうからどないしよーってぐるんぐるんになってもうたんやろな。
真那のあの取り乱しようやと、陽向が泣いたんもごっつー久し振りって感じやったし。
しかもあの二人、どう考えても誕生日一緒に過ごす予定立ててたっぽかったよな……うわー、最悪や。
「…あの時の真那くん、凄く怖かった……マネージャーさんが止めてくれなかったら私、殴られてたかもしれない…」
思い出したのか、自分の腕を抱えて震える奏音に俺は溜め息を零す。自業自得とはいえ、俺ももっとちゃんと言っとくべきやったんかもしれん。
「お前は陽向に対する真那の気持ちを侮り過ぎやわ。大体、離れへんのは真那の方やねんで?」
「……うん、それは分かった…」
「せやからアイツはやめとけ言うたのに…お前はもう二度と真那に近付くな。あと、写真も消しとけ」
「…………」
可哀想やけど、こればっかりは奏音がやり過ぎや。頭痛なってきた。
陽向、俺と口きいてくれるやろか。兄として一言だけでも謝りたい。
週が明けて月曜日。俺は痛む胃を押さえながら教室まで行き、机に頬杖をついてぼんやりしている陽向を見付けて深く溜め息をついた。
陽向の友達のあの子たちもどうしたらええか分からんみたいで、少しだけ離れた場所から様子を伺っとる。
「陽向、ちょいええか?」
「……あ、日下部。おはよう」
「…はよ。こっち来てくれるか?」
「…うん」
のっそりと立ち上がりとぼとぼとついてくる陽向にほんまいらん事しよってと奏音へ悪態をつきながら、階段横の掃除用具とかが入った扉の前まで行くと陽向に向かって頭を下げた。
「奏音がホンマに申し訳ない事した」
「…日下部が謝る事じゃないだろ」
「でも俺の妹がした事やし、アイツには会いたないやろうからせめて俺だけでも謝らせてくれ」
勝手やとは思う。それでも陽向を傷付けた事には変わらんし、謝ってどないなるんやって言われたらぐうの音も出ん。せやけど落ち込んどる陽向は見たなかった。最近は俺にも笑ってくれるようになったんに、せっかく出来た友達を失くしたない。
「あのさ……写真って、どうなった?」
「それは消させた。ごめんな、怖かったやろ」
「怖かったって言うか……もしあれが出回った時、オレは真那の為に何も出来ないって事に気付いたショックの方がデカかったっていうか…」
「自分がどうなるとかはなかったん?」
「なかった。ただ真那の事が気掛かりで」
ホンマ、どこまでもお互いなんやな、コイツら。
俺も最初は陽向で憂さ晴らししよ思とったからどの口がって感じやけど、どないかしてやりたいなとは思う。
「真那から連絡は?」
「今は電源切ってる」
「家とか来ぃひんの?」
「一昨日はオフだったけど、来なかった」
「そうか……相当頭に血ぃ昇っとったからな。もしかしたら、メンバーとかが落ち着くまで会わされへんと思たんやろか」
「血が昇ってた?」
あの真那がいくら怒り狂ってようと、陽向に対して何かするとは思えへんけど念の為っちゅーのもあるからな。
俺がなんの気なしに言った言葉を反芻した陽向は眉を顰める。
「ん? ああ、奏音にブチ切れとった。陽向が泣いとるから傍に行かせてくれ言うて、マネージャーさんが必死に止めとったわ」
「……真那が…」
「あー…陽向、奏音が言うた事、気にせんでええよ。っていうても、何言われたんかは分からんのやけど……でも、自分ら別に悪い事しとる訳やないやん。好きになった人が同性やったってだけの話やろ? ほら、今はそういうんも世間的に受け入れられつつあるし、男同士が好きな人わりと多いらしいんやん。せやから案外ファンも歓迎してくれるかもしれんで?」
涙目になった陽向にギョッとして思い付く限りの言葉を並べてみるけど、あんまええ事言えんかった気がする。もっと何か上手な言い方ないかなと視線を彷徨わせていると陽向が小さく笑った。
「日下部は良い奴だな」
「へ?」
「真那の事嫌いなはずなのに、その恋人のオレを慰めてくれて」
「別に俺は、陽向の事は嫌いやないから……」
「そっか。オレも日下部の事、嫌いじゃないよ」
そう言うてはにかんだ顔に思わずドキッとし視線を逸らす。
最初会うた時普通やって言うたけど、陽向の顔立ちは決して悪ない。ただ陽向の周りにおる人らの顔面が良すぎるだけで、一般的に見れば可愛えタイプやろう。特に笑った顔は。
俺は女の子が好きなんやけどなーと頭を掻いていると、目を伏せた陽向は指先を弄りながら小さく話始める。
「この二日間ずっと考えてた。もしオレと真那の関係が世間に出たとしたら、オレはどうしたらいいのか…どうするべきなのか。……真那がオレの事を、足枷だとか邪魔だとか思ってないのは本心では分かってるのに、写真の事を知った時、真那と奏音さんの記事を思い出して背中がヒヤッとした。オレのせいで真那の好きな場所がなくなるかもしれない、【soar】が世間から酷い事を言われるかもしれないって。それだけは絶対に嫌だった」
「……」
「結局オレの覚悟が足りてなかっただけなんだよ。真那はずっと、オレとの事を公表したがってたのに」
仮に真那のしたいように公表出来たとしても、ファンや世間の反応はその時にならんと分からん。でも、真那はそれも踏まえた上で、陽向との事をみんなに教えたいって思とったんやろうな。
「それで、どないするん?」
「オレは真那が好きだから、真那とずっと一緒にいたい。例え認めて貰えなくても、バッシングを食らっても、逃げずに真正面から立ち向かう。それが、オレに出来る精一杯だと思うから」
何やろ、俺も偏見がある訳やないけど、この二人はこうなるのが当たり前言うか…真那も陽向も、お互いの事に関してはホンマに真っ直ぐでちょっと羨ましいわ。
「二人の事、【soar】のメンバーも知っとるんやろ?」
「うん。マネージャーの水島さんも、社長さんも秘書さんも。真那が言っても大丈夫だと思った人には伝えてるみたいだから」
「なんや、めっちゃ味方おるやん。……まぁ俺も、陽向の為やったら動いたるから、何かあったら言うて」
「ありがとう。やっぱり良い奴だな、日下部は」
これは俺の自分勝手なせめてもの罪滅ぼしや。妹可愛さに言わなアカン事言わずにこうなってしもたんやから。
「あ、予鈴」
「真那の事は?」
「今日連絡してみる。会えるかは分かんないけど、二日の間に思った事伝えてみようと思って」
「頑張ってな」
「うん」
朝見た時よりは明るくなった表情にホッとした俺は無意識のうちに手を伸ばし陽向の頭を撫でていた。ハッと気付いてから慌てて離し、その手で口元を覆い顔を逸らす。
「今のは内緒にしといて」
「ははっ。うん、分かった」
声を上げて笑う陽向に何とも言えん感情が湧き上がる。
まさか自分が男に対してこないな気持ちを持つとは思わんかった。まあどう転んでも成就せんから言わんけど、たまに触るくらいは許して欲しい…言うんは我儘やろか。
本鈴が鳴る前に教室に戻るべく、「行くぞ」言うて歩き出した陽向のあとを追いながら自覚早々の失恋に肩を竦めた俺は、自分よりも小さな後ろ姿を見て小さく笑った。
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