人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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番外編

【前編】小旅行

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 今日の天気は雲一つない晴天。暑くも寒くもない丁度いい気温で絶好のお出掛け日和だ。
 そんな天気の良い日にオレと真那は、今日と明日の一泊二日でプチ旅行に行く。ライブ終わりでもないのに二日もオフが貰えたのは、偏に社長である傑さんのおかげだ。

『真那も陽向くんも良く働いてくれてるからご褒美をあげよう。うちがお世話になってる旅館にでも泊まりに行ってゆっくりしておいで』

 って。本当にいい人だよなー、傑さん。
 さすがに旅費を出すって言われた時は全力で遠慮したけど、「ヒナの分も俺が出す」と言って譲らない真那に財布を取り上げられたのは想定外だった。
 真那はほとんど電子マネーかクレカだから、そのどっちも使ってない常にニコニコ現金払いのオレがいた方がいいのに、それならお金を下ろすって銀行まで行っちゃうんだもんな。
 オレが必要な物は全部自分が与えたいってやつの本気が垣間見えた瞬間だった。

 ちなみに移動手段は真那が運転する車だ。
 オレが高校を卒業するくらいに宣言通り無事免許を取得した真那は車を購入し、時間さえあればオレを乗せてドライブに連れてってくれた。短時間だけのデートだけど、真那の忙しさや知名度を考えるとそれだけでも充分嬉しくて…オレ、真那にして貰ってばっかりだな。

「ヒナ、準備出来た?」
「あ、うん。バッチリ。忘れ物ないよな」
「昨日も朝も確認したし大丈夫だよ。じゃあ行こうか」

 一泊分の着替えと、その他必要なものを詰めたボストンバッグを肩に下げて玄関を出るとヒョイっと取り上げられた。軽くなった肩に驚いて真那を見上げたら触れるだけのキスをされて目を瞬く。

「旅館、楽しみだね」
「え、う、うん」

 いくらこの階には志摩さんと風音さんしかいないとはいえ不意打ちでそういう事するのはやめて欲しい。
 オレは玄関を施錠し、真那と一緒にエレベーターに向かう。
 何か忘れてるような……あ、ボストンバッグ!

「真那、オレのカバン…」
「ん? なんの事?」
「ボストンバッグ」

 わざとらしくキョトンとする真那に戸惑いながら肩に掛けられたボストンバッグを指差したら、少しの間のあと手を握られて上がって来たエレベーターに引かれるようにして乗り込んだ。
 一階のボタンを押しオレの顔を覗いてくる。

「今日と明日はヒナをめいいっぱい甘やかすから」
「え?」
「覚悟しておいてね」

 甘やかす? いや、普段から充分なくらい甘やかされてますけど?
 あれ、もしかして今までのって真那にとっては甘やかしの範疇じゃない? いやいや、まさか。あれで甘やかしてないって、誰が聞いても口ポカンだぞ。
 これ以上なんてないだろうと思ってたオレは、家での甘やかしが序の口だった事をこの旅行で思い知るのだった。



 出発して二時間。傑さんがオススメしてくれた旅館に着いたら既に話がいっていたのか、綺麗な女将さんが出て来て自ら部屋へと案内してくれた。
 外観やフロントの雰囲気もそうだけど、廊下から見える庭も綺麗に整えられていて凄く素敵だ。そもそもオレは旅館自体初めて来るから道中もずっとワクワクしてたんだよな。
石楠花しゃくなげの間】と書かれた木札のついた部屋は二人が利用するにしては広くて、オレは一気にテンションが上がった。
 女将さんにお礼を言って窓辺に寄るとある事に気付く。

「真那、露天風呂ついてる!」
「ホントだ。ヒナの身体を他の人に見られなくて済むね」
「誰も見ないから。でも凄い贅沢。傑さんにお礼用意しないとな」
「そうだね、露天風呂付きにしてくれたのは感謝かな」

 人生初の旅館に露天風呂付きの部屋。
 あれ、これ本当にオレ出さなくていいのか? 絶対高いよな?  
 心配になったオレは隣に立つ真那の袖を引き問い掛けた。

「なぁ、やっぱりオレも自分の宿泊費くらい出した方がいいんじゃないか?」
「ヒナは本当に気にしいだね。俺がいいって言ってるんだからいいんだよ?」
「でも、オレ財布さえ持って来てないし」

 取り上げられて真那がどこかに隠しちゃったんだよな。人の財布を隠すなよって言いたいけど、絶対オレには出させないっていう確固たる信念みたいなものがあって口にする気も失せた。
 それでもオレだって働いてる以上は出したいって思うのは我儘なんだろうか。

「……そんなに気になる?」
「気になる。真那の気持ちは嬉しいけど、これだと何かヒモみたいだし」
「俺はそれ、大歓迎なんだけどな」
「やだよ。オレは真那と対等でいたいんだ」
「そっか」

 肩を抱かれ額に唇が押し当てられる。そのまま目蓋、頬に移動して唇に来るのかなと思ってたら耳にキスされ肩が跳ねた。

「真那…」
「ん?」 
「…っ…」

 分かってるくせに、真那はわざとらしく聞き返して耳に軽く歯を立てて甘噛みしてくる。耳孔に舌が差し込まれると堪らず真那の肩を押せば珍しくすぐに離れた。

「そ、外行くって、言っただろ…っ」
「しゅんとしてるヒナが可愛くて。ヒナ、どうしてもって言うなら、今日は俺のしたいようにさせてくれる?」
「え?」
「俺のする事、嫌とか駄目とか言わないで欲しいなって」
「……ちなみにそれはどういう状況で?」
「どういう状況でも」

 にっこりとオレにしか見せない笑顔を見せる真那に嫌な予感がしながらも、それを本人が望むならと躊躇いがちに頷いたらいい子って褒めるみたいに頭を撫でてきた。
 鼻先にキスされて肩に真那の手が置かれるとくるりと回れ右させられ扉の方へ押される。

「じゃあ外に行こうか。欲しいものあったら遠慮なく言ってね」
「う、うん」

 なんか、真那が一気にご機嫌になった気がするんだけど…まぁいいか。この旅行はどっちかというといつも忙しくしてる真那に楽しんで貰いたいし。
 スマホ以外持って行くものがないオレは、トイレに行くために真那に一言告げて先に部屋から出た。



 お土産物屋が並ぶ通りがランウェイみたいになってる。
 オレは真那に手を引かれて歩いてるんだけど、道を開けるみたいに両端に寄った人たちが老若男女問わず頬を染めてて…いや、気持ちは分かるよ。顔面国宝級とも言われる王子様フェイスが悠々と闊歩してんだもんな。
 芸能人がいるってザワつくのも、真那だってファンの子たちがソワソワするのも仕方ない。

「ヒナ、あそこ。お団子売ってるよ」
「みたらし団子食べたい」
「じゃあ買おう」

 テレビや雑誌では無を貫く真那が微笑んでる事にファンが歓喜の悲鳴を上げるのももう慣れた。
 真那が支払いをしてくれてる間、オレの手は真那の服を掴む。これも今日お願いされた事だ。初めての場所だから、どこかに少しでも触れてないと心配らしい。真隣にいるんだけどな。

「はい」
「ありがとう。うわぁ、美味しそう」

 いかにも手作りって感じのみたらし団子に興奮する。店から外れいただきますって被りつくとカシャッて聞こえたから口に入れたまま見ると、真那がカメラを構えてにっこりしてた。
 あれ、カメラなんていつの間に?

「志摩さんに借りた。これでヒナの写真たくさん撮ってアルバムを作って貰おうと思って」
「んん? んー、ん!」
「さすがに何言ってるか分からないよ、ヒナ」

 く、団子一個が意外に大きめでなかなか飲み込めない。必死に咀嚼してどうにか口の中を空にしてカメラを指差すとまた撮られた。

「オレばっか撮ったって仕方ないだろ?」
アルバムを作るからいいんだよ?」
「何でだ」
「ヒナの写真、中学からは入学式とか行事の分しかないでしょ? 俺が忙しかったせいもあるけど、こうやって楽しそうにしてるヒナを残さないと」
「だったらやっぱり真那との写真も欲しいんだけど。二人で楽しんでる写真の方が絶対いい」

 みたらし団子は器に戻して一時お預けにし、真那の手からカメラを取り上げるとレンズを真那に向けてシャッターを切る。少し呆けてたけどさすがの写真映りだ。

「ほら、王子様が撮れた」

 にっと笑ってカメラを返し、再びお団子を食べようと串を持とうとした手が掴まれ真那の顔がアップになった。
 一拍置いて周りから悲鳴が上がる。

「今のは反則」
「…な…な、何を…」
「俺だけの愛しいお姫様。貴方が望むならどんな願いも叶えて差し上げます」
「……!」

 そう言って掴んだオレの手の甲に口付けて微笑み…き、キザだ。
 周りにいた女の子たちが真那の王子様オーラに当てられてバタバタと倒れてる。大丈夫か? 事件にならないか、これ。

「さ、移動しようか」
「……」

 ザワザワしている周りなんて気にする素振りは一切なく、にこやかにオレの肩を抱いて歩き出す真那に頷き今度こそお団子の串を握る。
 さっきの王子様モード、あとで写真撮らせて貰おうかな。
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