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気付いた(啓介視点)
世間はすっかり夏休みに入った。
あの日、夜の海まで千晃を迎えに行ってから、俺は感じた事のない気持ちをずっと抱いている。というか、ずーっと千晃の顔が頭にあるんだよなぁ。
さっきからピコピコ鳴るスマホを手にして通知を開くけど、友達数人からの遊びの誘いや登録してる店舗のDMばっかりで一番欲しい人のはない。いや、元々返事は期待するなって言われてたし、あの日が珍しかっただけで基本的には来ないのは分かってる。
でも、それでも、昨日送った『都合のいい日ある?』にはせめて返して欲しい。
「千晃とは遊びたいんだけどな⋯」
有り難い事に遊びに行こうって誘ってくれる人はそれなりにいる。やれ海だのやれテーマパークだのやれカラオケだの、嫌いじゃないけど行けるなら千晃と行きたい。
中には二人でなんて女の子からのお誘いもあったけど、正直そういう気分にはなれないんだよね。
二人でいられるなら千晃といたいし。
「⋯って、俺、千晃の事ばっかだ⋯」
どうしてこんなに千晃が気になるのか、自分でも不思議で仕方がない。
あの日だって、自分を大事にする方法が分からないって目を伏せる千晃が泣きそうに見えてあんな事言っちゃったけど、あれだって俺の本心だし。
でも、大事にしてくれる人はいないってどういう意味なんだろう。
「まったくいない訳ないと思うんだけどな⋯」
「啓介ー、ちょっとお願ーい」
「はーい」
腕を組んで考えてたら、今日は仕事が休みの母さんに下から呼ばれ俺は椅子から腰を上げて一階に下りる。
リビングに顔を出すと、キッチンに立っていた母さんが何かを手に近付いてきた。
「このメモに書いてある物を買ってきて欲しいの」
「分かった。行ってくるよ」
「ありがとう」
メモと財布を受け取り、ポケットに突っ込んで玄関に向かう。
あ、スマホ忘れたけど⋯まぁいっか。
玄関を開けた瞬間からムワッと熱気に襲われ一瞬にして汗が浮いた。帰ってくる頃には汗だくになってそうだなと思いながら門を抜け、駅の方にあるスーパーへと向かう。
コンビニは近くにあるけど、さすがに野菜は置いてないからそっちまで足を伸ばさないと。
「あっつー⋯途中で飲み物買お」
水分補給は大事だからね。
二十分かけてスーパーに行き、メモされた物を買って再び暑い中帰路に着く。
これだけ暑い日に入るプールや海は最高に気持ちいいだろうなって思いつつ何気なく視線を移したら、道路向こうにある大きな本屋から千晃が出てくるのが見えた。
眩しいのか手を目の上に翳して日差しを遮り、駅の方へと歩き出す。それを見て、俺は反射的に追い掛けてた。
赤の信号をやきもきしながら待ち、青になった瞬間走って小さな背中まで近付きその腕を掴んだ。
「⋯!?」
「千晃⋯っ」
「⋯⋯戸崎?」
いきなりだったからか勢いよく振り向いた千晃は、相手が俺だと分かると警戒心を解き肩の力を抜いた。最初の頃に比べてかなり気を許してくれてる千晃に嬉しくなる。
腕を離すと向き合ってくれて、俺の手に下げられた袋を見て首を傾げた。
「買い物か?」
「うん、母さんに頼まれて」
「なら早く帰った方がいいんじゃ⋯」
「ちょっとくらい平気だよ」
溶けるような物は買ってないし、多少時間がかかったって問題はない。
ふと気になって目元を隠す前髪を指で避けると、上目遣いに見られて俺の方がビクッとしてしまった。
「あのさ、前から聞きたかったんだけど」
「う、うん」
「何で前髪触んの?」
聞かれてパッと手を離したけど、俺、千晃が気になるほど触ってた?
一回目とか二回目とかは確かに邪魔じゃないのかなーって触ったりしてたかもだけど、今のは完全に無意識だった。何か、当たり前のように触れていいものだと思ってた気がする。
「いや、あの⋯」
「?」
「⋯⋯意識、してませんでした⋯」
「え、何も考えてなかったって事?」
「はい。ごめんなさい」
どうして千晃がここまで前髪を伸ばしてるかは知らないけど、もしかしたらあんまり触れられたくなかったのかもと思って謝ったら、小さく息を吐く音がして千晃が口元に手を当てた。
分かれたままの前髪から見える目が細められてて、隠れてる口の端が上がってる。
(⋯え、え? 千晃が笑ってる? )
何を話してもほとんど表情の変化がなくて、あっても怪訝そうな顔ばかりだった千晃が控えめにだけど笑ってる。
「はは、何で敬語なんだよ⋯」
眉尻が下がってる、可愛い。
仲良くなって数ヶ月、初めて見る千晃の笑顔に俺は目が釘付けになった。じっと見てたら気付いた千晃がハッとして俯いたけど、その頬がほんのり色付いてるのが分かって心臓がぎゅってなる。
(あー⋯ヤバいかも)
思わず抱き締めたくなって伸ばしそうになった手をグッと握り堪える。
どうして千晃ばかり気になるのか、どうして千晃にばかり会いたくなるのか。ほっとけなくて、傍にいて顔を見ていたいってどうして思うのか、気付いてしまった。
「⋯そろそろ帰った方がいいんじゃないか? お母さん、待ってるだろ?」
「あ⋯うん」
「あ、あと返事、遅くなってごめんな。あとでバイトない日送っとく」
「分かった」
「じゃ、またな」
「うん、また」
すっかりいつもの様子に戻った千晃は、そう言うとあっさり踵を返し歩道の向こうへと歩いて行った。
その背中が人で隠れて見えなくなった頃、知らずに止めていた息を吐く。
「そっか⋯⋯そういう事か⋯」
この世に生を受けて十六年、甘酸っぱい思い出はあれど同性にこんな気持ちを抱いた事はなくて、だからこそ疑問だったんだ。
でもこの感情は確かにそうで、それも今までよりも一番強い想いになってる。
(俺、千晃が好きなんだ⋯)
親愛でも、友愛でもなく、これは紛れもなく恋愛感情だ。
だけど同性だからって嫌悪感は全然なくて、自分がおかしいとも思ってない。同性愛なんて今時珍しくもないし、俺は千晃が好きだって事を知れてむしろ嬉しいから。
まぁ、千晃は有り得ないって思ってるかもしれないけど。
でも、諦めたくはないな。千晃の中で俺が一番になれれば、もしかしたら多少はチャンスあるかもしれないし。
長い事喉に突っかえていた小骨がようやく取れたようでスッキリとした俺は、千晃が歩いて行った方とは反対の道へと足を踏み出した。
まずは遊ぶ約束を取り付けるところから始めないと。
あの日、夜の海まで千晃を迎えに行ってから、俺は感じた事のない気持ちをずっと抱いている。というか、ずーっと千晃の顔が頭にあるんだよなぁ。
さっきからピコピコ鳴るスマホを手にして通知を開くけど、友達数人からの遊びの誘いや登録してる店舗のDMばっかりで一番欲しい人のはない。いや、元々返事は期待するなって言われてたし、あの日が珍しかっただけで基本的には来ないのは分かってる。
でも、それでも、昨日送った『都合のいい日ある?』にはせめて返して欲しい。
「千晃とは遊びたいんだけどな⋯」
有り難い事に遊びに行こうって誘ってくれる人はそれなりにいる。やれ海だのやれテーマパークだのやれカラオケだの、嫌いじゃないけど行けるなら千晃と行きたい。
中には二人でなんて女の子からのお誘いもあったけど、正直そういう気分にはなれないんだよね。
二人でいられるなら千晃といたいし。
「⋯って、俺、千晃の事ばっかだ⋯」
どうしてこんなに千晃が気になるのか、自分でも不思議で仕方がない。
あの日だって、自分を大事にする方法が分からないって目を伏せる千晃が泣きそうに見えてあんな事言っちゃったけど、あれだって俺の本心だし。
でも、大事にしてくれる人はいないってどういう意味なんだろう。
「まったくいない訳ないと思うんだけどな⋯」
「啓介ー、ちょっとお願ーい」
「はーい」
腕を組んで考えてたら、今日は仕事が休みの母さんに下から呼ばれ俺は椅子から腰を上げて一階に下りる。
リビングに顔を出すと、キッチンに立っていた母さんが何かを手に近付いてきた。
「このメモに書いてある物を買ってきて欲しいの」
「分かった。行ってくるよ」
「ありがとう」
メモと財布を受け取り、ポケットに突っ込んで玄関に向かう。
あ、スマホ忘れたけど⋯まぁいっか。
玄関を開けた瞬間からムワッと熱気に襲われ一瞬にして汗が浮いた。帰ってくる頃には汗だくになってそうだなと思いながら門を抜け、駅の方にあるスーパーへと向かう。
コンビニは近くにあるけど、さすがに野菜は置いてないからそっちまで足を伸ばさないと。
「あっつー⋯途中で飲み物買お」
水分補給は大事だからね。
二十分かけてスーパーに行き、メモされた物を買って再び暑い中帰路に着く。
これだけ暑い日に入るプールや海は最高に気持ちいいだろうなって思いつつ何気なく視線を移したら、道路向こうにある大きな本屋から千晃が出てくるのが見えた。
眩しいのか手を目の上に翳して日差しを遮り、駅の方へと歩き出す。それを見て、俺は反射的に追い掛けてた。
赤の信号をやきもきしながら待ち、青になった瞬間走って小さな背中まで近付きその腕を掴んだ。
「⋯!?」
「千晃⋯っ」
「⋯⋯戸崎?」
いきなりだったからか勢いよく振り向いた千晃は、相手が俺だと分かると警戒心を解き肩の力を抜いた。最初の頃に比べてかなり気を許してくれてる千晃に嬉しくなる。
腕を離すと向き合ってくれて、俺の手に下げられた袋を見て首を傾げた。
「買い物か?」
「うん、母さんに頼まれて」
「なら早く帰った方がいいんじゃ⋯」
「ちょっとくらい平気だよ」
溶けるような物は買ってないし、多少時間がかかったって問題はない。
ふと気になって目元を隠す前髪を指で避けると、上目遣いに見られて俺の方がビクッとしてしまった。
「あのさ、前から聞きたかったんだけど」
「う、うん」
「何で前髪触んの?」
聞かれてパッと手を離したけど、俺、千晃が気になるほど触ってた?
一回目とか二回目とかは確かに邪魔じゃないのかなーって触ったりしてたかもだけど、今のは完全に無意識だった。何か、当たり前のように触れていいものだと思ってた気がする。
「いや、あの⋯」
「?」
「⋯⋯意識、してませんでした⋯」
「え、何も考えてなかったって事?」
「はい。ごめんなさい」
どうして千晃がここまで前髪を伸ばしてるかは知らないけど、もしかしたらあんまり触れられたくなかったのかもと思って謝ったら、小さく息を吐く音がして千晃が口元に手を当てた。
分かれたままの前髪から見える目が細められてて、隠れてる口の端が上がってる。
(⋯え、え? 千晃が笑ってる? )
何を話してもほとんど表情の変化がなくて、あっても怪訝そうな顔ばかりだった千晃が控えめにだけど笑ってる。
「はは、何で敬語なんだよ⋯」
眉尻が下がってる、可愛い。
仲良くなって数ヶ月、初めて見る千晃の笑顔に俺は目が釘付けになった。じっと見てたら気付いた千晃がハッとして俯いたけど、その頬がほんのり色付いてるのが分かって心臓がぎゅってなる。
(あー⋯ヤバいかも)
思わず抱き締めたくなって伸ばしそうになった手をグッと握り堪える。
どうして千晃ばかり気になるのか、どうして千晃にばかり会いたくなるのか。ほっとけなくて、傍にいて顔を見ていたいってどうして思うのか、気付いてしまった。
「⋯そろそろ帰った方がいいんじゃないか? お母さん、待ってるだろ?」
「あ⋯うん」
「あ、あと返事、遅くなってごめんな。あとでバイトない日送っとく」
「分かった」
「じゃ、またな」
「うん、また」
すっかりいつもの様子に戻った千晃は、そう言うとあっさり踵を返し歩道の向こうへと歩いて行った。
その背中が人で隠れて見えなくなった頃、知らずに止めていた息を吐く。
「そっか⋯⋯そういう事か⋯」
この世に生を受けて十六年、甘酸っぱい思い出はあれど同性にこんな気持ちを抱いた事はなくて、だからこそ疑問だったんだ。
でもこの感情は確かにそうで、それも今までよりも一番強い想いになってる。
(俺、千晃が好きなんだ⋯)
親愛でも、友愛でもなく、これは紛れもなく恋愛感情だ。
だけど同性だからって嫌悪感は全然なくて、自分がおかしいとも思ってない。同性愛なんて今時珍しくもないし、俺は千晃が好きだって事を知れてむしろ嬉しいから。
まぁ、千晃は有り得ないって思ってるかもしれないけど。
でも、諦めたくはないな。千晃の中で俺が一番になれれば、もしかしたら多少はチャンスあるかもしれないし。
長い事喉に突っかえていた小骨がようやく取れたようでスッキリとした俺は、千晃が歩いて行った方とは反対の道へと足を踏み出した。
まずは遊ぶ約束を取り付けるところから始めないと。
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