隠した想いのその先に

ミヅハ

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積み上がっていく気持ち

 表面上は友達、個人的内情は好きな人と初めてのプールに来た俺は、現在浮き輪に身を預けて波に煽られていた。

「えーっと⋯千晃?」
「⋯ん?」
「寝たら沈むよ?」
「んー⋯波の揺れって眠気を誘うな⋯」
「寝不足?」
「戸崎と出掛けんの楽しみで⋯⋯⋯っ、いや、友達とは初めてだからって意味で⋯!」

 人工で波を起こすプールに浮いてるからほどよい感じで揺られて、まるでゆりかごに包まれてるような感覚にウトウトしてたら、押し流されないように押さえてくれてる戸崎が少しだけフードを摘み上げた。
 実際寝不足ではあったから寝ぼけ眼でその理由を口にしたんだけど、途中で気付いて言い直したら戸崎がふっと笑い浮き輪に肘をつく。

「俺も、千晃と遊びに行くの楽しみにしてたよ」
「⋯⋯そ、ですか⋯」

 そんな嬉しそうな顔で言わないで欲しい。
 都合よく受け取ってしまいそうで、フードを目深にした俺は浮き輪の中で戸崎に背を向けると岸に向かって軽く足を動かした。
 ここ、浮き輪で浮いてるからってのもあるけど俺の足は届かなくて、戸崎は普通に立ってるから歩いて押してくれる。

「休憩する?」
「ちょっと腹減った」
「じゃあ買って来るから、影になってるところで休んでて」
「いや、いい。俺が買いに行く」

 浮き輪の時もそうだし飲み物も戸崎は買って来てくれてて、しかもお金さえ受け取ってくれないからさすがに食べ物くらいは俺が出さないと割に合わない。
 浅瀬を歩きながら浮き輪を頭から抜き、戸崎に渡してそう言えばなおも「俺が買う」って食い下がってくる。溜め息をつき、戸崎の手首を掴んで日陰まで連れて行った俺は、腰に左手を当て右手で地面を指差した。

「おすわり」
「そんな犬みたいな⋯」
「いいか、動くなよ。ついて来たら二度とお前と遊びに行かないからな」
「⋯⋯はい」

〝二度と〟は厳しいかと思いつつも、戸崎は素直に頷いて浮き輪を椅子代わりにして腰を下ろした。それに満足した俺は、水着のポケットからお金の入った防水ケースを引っ張り出し売店に向かう。
 何がいいか聞くの忘れたけど、まぁ何でもいいだろ。
 順番が来て、店員さんに唐揚げとポテトとフランクフルトを頼んで支払い、両手で抱えて戸崎のところに向かってたら、しゃがんだ女の子と向かい合って話してる姿が遠目に見えた。
 またナンパされてんのか。一人にすると声かけられまくりだな、あいつ。
 ⋯でも、が普通の光景だよな。

 (可愛い子じゃん⋯)

 さっきの水着美女二人の時は困ってたのにあの子とは楽しそうに話してる。元から明るくて人懐こくて、誰とでもすぐに仲良くなれるんだから当然か。
 でもだからこそそこに割って入るのも躊躇われて立ち止まってたら、戸崎が気付いて手招きしてきた。
 困惑して足を踏み出せずにいると今度は名前を呼ばれ、仕方なく傍までいき女の子に軽く会釈すると隣に座るよう戸崎に促される。何なんだと思いつつ腰を下ろした瞬間、戸崎の手が肩に回され抱き寄せられた。

「!?」
「この通り、俺たち今デート中だから」
「は⋯?」
「そうだったんだ、分かったぁ。彼氏さんもごめんねぇ。ばいばーい」
「バイバーイ」

 彼氏じゃない! って言おうとしたんだけど、戸崎の剥き出しの肩とか胸元とかが物凄く近くて色んな感情が渦巻き言葉が出ない。
 しかも女の子はあっさり納得してあっさり帰ってったし。
 顔が熱い、絶対赤くなってる。フード被ってて良かった。

「女の子って積極的だね」
「⋯⋯⋯」
「千晃?」
「⋯ポテトが落ちそう」
「あ、預かるよ」

 肩から手が離れ、俺の手からポテトだけじゃなく全部引き抜かれる。抱かれてた肩も熱いけど、戸崎に悟られないよう違う事を考えて熱を冷ましていく。

「千晃はどれ食べる?」
「戸崎が先に選んで」
「そう? ならポテト貰うね」
「じゃあ唐揚げは半分こな」
「ありがとう」

 さり気なさを装って膝を抱えて座り直し、俯いたままフランクフルトを食べ始めるけどぶっちゃけ味とか分からないくらいにはまだドキドキしてて、いかに自分が恋愛下手かを思い知らされる。
 二年前は一応初カレではあるものの恋人らしい事は一つもしなかったし、あれがあってから人との接触はなるべく避けてたから経験値なんてないも等しいしな。
 だからこそ、こいつの遠慮のない行動がダイレクトにヒットする。
 さっきの言葉だって、ナンパを断る為の冗談だって分かってても嬉しくなるし。

 (難儀だな⋯)

 諦める事も出来なければ成就させる事も出来ないなんて⋯情けないな、俺。


 また一通りプールに入りそろそろ帰るかとなったのは食べ終わってから二時間ほどしてからだった。
 各々でシャワーを浴び、着替えてから施設を抜け帰路に着く。

「千晃、楽しかった?」
「まあまあだな」
「そっかぁ⋯」

 素直に頷くのは癪で、揶揄うつもりで答えると戸崎はあからさまに肩を落とす。素直な反応に思わず口元が緩むのを感じながら「嘘だよ」って言えば勢い良く顔が上がった。

「楽しかった」
「ほんとに?」
「ホント。連れて来てくれてありがとな」
「どういたしまして」

 今度は嬉しそうに笑うんだからどうしようもない。
 駅に向かう為にはバスに乗らないといけないからバス停のベンチに腰を下ろしたら、隣に座った戸崎がスマホを出して操作し始める。
 友達からメッセージでも来てたのかと思って時刻表へと目を移した俺の眼前に、何かのサイトが開かれたスマホの画面が現れた。
 ⋯⋯プラネタリウム?

「千晃、来週の金曜日バイトないってなってたよね。ここに行かない?」
「確かにないけど⋯え? 友達とは遊ばないのか?」
「千晃といる方が楽しいからね」
「⋯⋯⋯」

 なんっでこいつは、こんな期待させるような事をサラッと言うんだ。この人たらしめ、危うく違う意味で取るところだったわ。

「バイトない日は課題進める日にしてるから」
「じゃあ一緒にしようよ」
「一人の方が集中出来る」
「それもそっか⋯」

 そんな短いスパンで戸崎と出掛けてたら心臓が持たない。
 せっかく誘ってくれたのに申し訳ないと思いつつ断れば、戸崎は暫く考えたあとスマホをしまってふわりと微笑んだ。

「なら息抜きしたくなったら連絡して。飛んでくから」
「⋯はぁ⋯」
「何で溜め息?」
「何でだろうな」
「ええ⋯?」

 俺を甘やかすように戸崎の口から発せられる真っ直ぐな言葉がどんどん身体に染み込んでいく。
 こんなの、どうやって抗えっていうんだ。
 望みがないのに、表に出せない想いばかりが募っていく。
 いっそ告げてしまった方が楽なのかもしれないなんて、そんな度胸、俺にはないくせにな。
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