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騒動とお礼
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レイフォードが町の人たちに囲まれてからしばらくして、噴水の縁に腰掛けハーブティーを飲んでいたルカの元に申し訳なさそうな顔をしたレイフォードが戻って来た。
「すまない、待たせたな」
「もういいのか?」
「一通りは話した。特に大きく変わった事もないから安心したよ」
「そっか、良かったな」
竜族は軒並み背が高い傾向にあるが、その中でも頭一つ分飛び抜けているレイフォードは遠目からでも良く見えた。時折真剣な顔をしていたけど、そこまで深刻な事ではなさそうで安心する。
残り少なかったハーブティーを飲み干したルカは立ち上がると、それをゴミ入れに捨て周りを見た。
捨てた瞬間リックスが「あ」という顔をしていたが気付かなかった事にする。
「レイがみんなと話してる間にここからいろいろ見てたんだけどさ、みーんないい顔してるよな。お店の人もお客さんも、ただ歩いてるだけの人もにこにこして楽しそうで。レイはみんなを笑顔に出来る良い王様だな」
「ルカにそう言って貰えて嬉しいよ。私はまだまだ未熟者だからな、これで良かったのかと思う事も多々あるから」
「少しくらい間違えてもいいんじゃないか? レイはみんなに慕われてるし、もしかしたらその間違いをみんなが直してくれるかもしんないじゃん」
人は誰しも多かれ少なかれ間違いは起こすものだ。それをどうカバー出来るかでその先の事が決まるけど、レイフォードを慕っている人たちがそんな間違いに気付いてスルーするとは思えない。
風で捲れそうになったフードを押さえ歩き出したルカの手をレイフォードが掴んだ。
「⋯ルカは、私が間違えたらどうする?」
いつもハッキリと物を言うレイフォードのどこか不安げな言い方に僅かに目を見瞠ったルカは、その手を握り返して微笑むと引くようにして歩き出す。
「仕方ないから、一緒に答え合わせしてやるよ」
手が掛かるなーなんて言いながら自分の手を引く後ろ姿はとても小さいのに、まるでそれ以上に大きなものに包まれているような気持ちになるのは何故だろう。
レイフォードは引かれるままに動かしていた足を止めると、不思議そうに振り返ったルカへと口を開いた。
「ルカ、私は君が⋯⋯⋯っ」
だが耳に入ってきた〝影〟からの報せで言葉を切ったレイフォードは、リックスへと目配せするとルカの手をそっと離す。少しズレているルカのフードを直し、華奢な肩へと手を置いてルカからは見えない位置に口付けた。
「所用が出来た。すぐに戻るから、ここでリックスと待っていてくれ」
「え? あ、うん。分かった」
「くれぐれも、フードだけは気をつけるように」
「うん」
レイフォードが何故こんなにもルカの顔を隠す事を気にしているのかは分からないが、連れて来て貰った手前文句は言えないから素直に頷いておく。
片手を上げバルドーとアルマと共に人の間を抜けていく広い背中を見送ったルカは、ここで待つならと辺りをぐるりと見回しパン屋を見付けて指を差した。
「リックス、あそこ行ってもいい?」
「もちろんです。欲しい物が御座いましたらお申し付け下さい」
にこやかに頷いてくれるリックスに優しいなぁと思いながら、ルカは焼きたてのパンの匂いが漂ってくる店へと駆け出した。
パン屋でリックスの分も合わせて四個買って貰い、さっきと同じ噴水の側で二人仲良く食べ終えてから三十分。まだレイフォードは戻って来てなくていい加減ルカは暇になってきた。
それでもここで待っていてと言われたから離れる訳にもいかず、リックスと他愛ない話をいていたのだが話題さえなくなってきて正直困ってる。
「お腹もいっぱいだし、喉も渇いてない。⋯ってかリックス、立ちっぱなしで疲れただろ? 座ったら?」
「お気遣い下さりありがとう御座います。ですが私は鍛えているので大丈夫ですよ」
鍛えているにしてもただ立ってるだけは色んな意味で辛いのではと思うけど、リックスがこう返して来る時は絶対に譲らない時だから、ルカはそれ以上は言わずに胡座を掻いた腿の上で両手で頬杖をつく。
見るともなしに道行く人を見ていると少し離れた場所で小さく悲鳴が上がり、すぐに反応したリックスの脇を過ぎて突風が向かってきた。
「わ⋯っ」
「ルカ様!」
そのまま風は吹き抜けていったが、ルカのフードが外れてしまい整った顔が露わになる。一瞬にして周りがざわつき出したが、本人は舞い上げられた砂が目に入った痛みで気付かなくてリックスは慌ててフードを被せ直した。
涙の浮いた目を擦ろうとするルカの手を止め、自身のハンカチを濡らして持たせたものの人が集まり始めて眉を顰める。
「うー⋯いったぁ⋯」
「ルカ様、ここを離れた方がいいと思いますので⋯失礼致します」
「え、でも⋯うわっ」
「陛下には〝影〟が報告に行って下さいます。私のやるべき事はルカ様をお守りする事ですので、少しだけ我慢して下さいね」
リックスに渡されたハンカチを目に当ててたらいきなり抱き上げられてルカは声を上げる。何も見れない状態でどこかへ連れて行かれて困惑してると、ようやく砂が流れ出て目が開けられるようになったのだが、全く見知らぬ場所だった事には驚いた。
人もまばらな場所で下ろされキョロキョロしてると、リックスが確かめるように何度もフードを直す。
「申し訳御座いません、フードが外れてしまいました」
「え? リックスのせいじゃないのに何で謝るんだよ。ってか、フードが外れるくらいは別に⋯⋯」
「ルカ様は、もう少しご自分のご容姿を自覚されるべきです」
「ん?」
キョトンとするルカにリックスはこれは駄目だと苦笑する。自覚どころか根本的な部分が備わってなくて、どれだけ賛辞を贈ってもルカは怪訝そうな顔をするだけだろう。
「陛下が戻られるまで此方でお待ちしましょう」
「そういえばさっき〝影〟がどうのって⋯」
「ああ、それは⋯」
「おや、騎士様。ちょうどいいところに。道を教えては貰えんかね」
ルカになら話しても大丈夫だろうと〝影〟についての説明をしようとした時、杖をついた腰の曲がった老婆に声をかけられたリックスはそちらへと顔を向けた。どうやら帰り道が分からなくなってしまったらしい。
老婆の問いに答えるリックスを見ながら空を見上げたルカは、おかしな二人組がゆっくりと背後から近付いている事には気付かなかった。
唐突に口を塞がれ目を見瞠る。
「⋯⋯!?」
「へへ、掴まえたぜぇ⋯」
「!! ルカ様⋯っ」
「コイツは高く売れるだろうさ⋯⋯うわぁ!」
驚いている間に太い腕に抱き込まれ、大した抵抗も出来ないまま連れて行かれそうになる。下卑た物言いと声にゾッと身を震わせたら気付いたリックスが声を上げすぐに腰の剣を抜いたのだが、それとほぼ同時に二人組が吹き飛び辺りがシーンとなった。
引っ張っていた力がなくなり尻餅をついたルカへと駆け寄ったリックスはその光景に呆然とする。
「精霊⋯?」
「え?」
二人組はふよふよと浮いていて青褪めた顔でしきりに視線をうろつかせているが、何がどうなっているのか分からないルカは混乱している。
目を瞬いて見ていたら、二人組はぐるぐると回転したあと遠心力により勢い良く彼方へ飛んで行ってしまった。
リックスに支えて貰い立ち上がっていると遠くの方からバタバタと足音が近付いて来る事に気付く。
「ルカ!」
「レイ」
人もまばらだったとはいえ騒ぎになれば集まってくるもので、その間から姿を現したレイフォードが焦ったようにルカの傍まできて頬を挟んできた。
その肩越しに、バルドーとアルマが町の人たちへ散るよう声をかけているのが見える。
「無事か?」
「あー、うん。良く分かんないけど何ともない」
「そうか⋯良かった」
「心配掛けてごめん」
「いや、ルカが無事だったならそれでいい」
あからさまにホッとするレイフォードに申し訳なさで眉尻を下げたルカは、またもやフードが外れている事に気付いて慌てて手を伸ばす。だがそれをレイフォードに止められた上に抱き上げられると困惑してしまい、助けを求めるようリックスを見たけど彼は頷くだけだった。
「とりあえず、するべき事は終わったから今日は戻ろう」
「さっきの者たちはどうされますか?」
「今〝影〟たちが追っている。見付かり次第城に連行してくるだろう」
「えっと⋯」
攫われそうになったし、山ほど聞きたい事があるのだがどれから聞けばいいか分からず言葉を零したら、レイフォードは安心させるように笑い額をルカの頭へと当ててきた。
「説明してやりたいがもう少し待ってくれ。まずは状況を把握したい」
「うん、分かった」
実際ルカもいろいろこんがらがってるからその方がいいかもしれない。
頷いたルカの頭を労るように撫でたレイフォードは、もう一度「本当に無事で良かった」と言って優しく目を細めた。
城へと戻り、ハルマンへ一言告げてからルカの部屋まで行く道すがら、レイフォードは大人しく身を預けてくれるルカにずっと暖かい気持ちになっていた。
最初は怪我をしていたからだったが、今では何気なく抱き上げても怪訝そうな顔はするものの抵抗もなくて、腕に感じるこの重みがとても心地良い。
「それじゃあルカ、またあとで」
「うん⋯⋯あ、忘れてた」
「?」
部屋の前で降ろしリックスにあとを任せて立ち去ろうとした時、ふいにルカがそう声を上げて袖を引いてきた。
振り向き首を傾げていると手招きされ、少し前に見たなと思いつつ腰を屈めたら頬に柔らかな唇が触れる。
「最後はアレだったけど、色んな物食べたり見た事ない物見れたりしてめちゃくちゃ楽しかった。連れて行ってくれてありがとう」
「それは良かった」
頬へのキスは本当なら手紙をくれた時だけのつもりだったのだが、ルカが何の疑いもなくしてくれるからつい止める事もせず受け入れていた。これがただのお礼だとしても、ルカから触れてくれるのは素直に嬉しい。
だが、その喜びを噛み締めているレイフォードの目にとんでもない光景が飛び込んできた。
「リックス、ちょっと屈んで」
「? はい」
「ずっと傍にいてくれてありがとう」
言われて不思議そうな顔で屈んだリックスの頬に、そう言って微笑んだルカが口付ける。
された瞬間リックスは青褪め勢い良く姿勢を正したがもう遅い。目の前にいる主君から絶対零度の冷たさを感じて額に汗が滲んだ。
「じゃ、またあとで」
だが、この空気の元凶であるルカは何も気付かないのか、笑顔で手を振ると部屋へと入って行った為リックスはいよいよピンチになってしまった。
「リックス」
「は、はい⋯っ」
「今すぐ顔を洗って来い」
「はい!」
滅多に聞かない低い声に上擦った声で返事をしたリックスは、指示されるままに駆け出しホッと胸を撫で下ろす。
どうやらまだ命は繋げられたらしい。
(ルカ様からの手招きには気を付けないといけないな)
純粋にお礼の気持ちからだから断るのは気が引けるが、そのルカを守る為にも自分の命はなくてはならない。
溜め息をついたリックスは、冷たい水で顔を洗いながら二度とレイフォードを怒らせない為にもそう心に決めたのだった。
「すまない、待たせたな」
「もういいのか?」
「一通りは話した。特に大きく変わった事もないから安心したよ」
「そっか、良かったな」
竜族は軒並み背が高い傾向にあるが、その中でも頭一つ分飛び抜けているレイフォードは遠目からでも良く見えた。時折真剣な顔をしていたけど、そこまで深刻な事ではなさそうで安心する。
残り少なかったハーブティーを飲み干したルカは立ち上がると、それをゴミ入れに捨て周りを見た。
捨てた瞬間リックスが「あ」という顔をしていたが気付かなかった事にする。
「レイがみんなと話してる間にここからいろいろ見てたんだけどさ、みーんないい顔してるよな。お店の人もお客さんも、ただ歩いてるだけの人もにこにこして楽しそうで。レイはみんなを笑顔に出来る良い王様だな」
「ルカにそう言って貰えて嬉しいよ。私はまだまだ未熟者だからな、これで良かったのかと思う事も多々あるから」
「少しくらい間違えてもいいんじゃないか? レイはみんなに慕われてるし、もしかしたらその間違いをみんなが直してくれるかもしんないじゃん」
人は誰しも多かれ少なかれ間違いは起こすものだ。それをどうカバー出来るかでその先の事が決まるけど、レイフォードを慕っている人たちがそんな間違いに気付いてスルーするとは思えない。
風で捲れそうになったフードを押さえ歩き出したルカの手をレイフォードが掴んだ。
「⋯ルカは、私が間違えたらどうする?」
いつもハッキリと物を言うレイフォードのどこか不安げな言い方に僅かに目を見瞠ったルカは、その手を握り返して微笑むと引くようにして歩き出す。
「仕方ないから、一緒に答え合わせしてやるよ」
手が掛かるなーなんて言いながら自分の手を引く後ろ姿はとても小さいのに、まるでそれ以上に大きなものに包まれているような気持ちになるのは何故だろう。
レイフォードは引かれるままに動かしていた足を止めると、不思議そうに振り返ったルカへと口を開いた。
「ルカ、私は君が⋯⋯⋯っ」
だが耳に入ってきた〝影〟からの報せで言葉を切ったレイフォードは、リックスへと目配せするとルカの手をそっと離す。少しズレているルカのフードを直し、華奢な肩へと手を置いてルカからは見えない位置に口付けた。
「所用が出来た。すぐに戻るから、ここでリックスと待っていてくれ」
「え? あ、うん。分かった」
「くれぐれも、フードだけは気をつけるように」
「うん」
レイフォードが何故こんなにもルカの顔を隠す事を気にしているのかは分からないが、連れて来て貰った手前文句は言えないから素直に頷いておく。
片手を上げバルドーとアルマと共に人の間を抜けていく広い背中を見送ったルカは、ここで待つならと辺りをぐるりと見回しパン屋を見付けて指を差した。
「リックス、あそこ行ってもいい?」
「もちろんです。欲しい物が御座いましたらお申し付け下さい」
にこやかに頷いてくれるリックスに優しいなぁと思いながら、ルカは焼きたてのパンの匂いが漂ってくる店へと駆け出した。
パン屋でリックスの分も合わせて四個買って貰い、さっきと同じ噴水の側で二人仲良く食べ終えてから三十分。まだレイフォードは戻って来てなくていい加減ルカは暇になってきた。
それでもここで待っていてと言われたから離れる訳にもいかず、リックスと他愛ない話をいていたのだが話題さえなくなってきて正直困ってる。
「お腹もいっぱいだし、喉も渇いてない。⋯ってかリックス、立ちっぱなしで疲れただろ? 座ったら?」
「お気遣い下さりありがとう御座います。ですが私は鍛えているので大丈夫ですよ」
鍛えているにしてもただ立ってるだけは色んな意味で辛いのではと思うけど、リックスがこう返して来る時は絶対に譲らない時だから、ルカはそれ以上は言わずに胡座を掻いた腿の上で両手で頬杖をつく。
見るともなしに道行く人を見ていると少し離れた場所で小さく悲鳴が上がり、すぐに反応したリックスの脇を過ぎて突風が向かってきた。
「わ⋯っ」
「ルカ様!」
そのまま風は吹き抜けていったが、ルカのフードが外れてしまい整った顔が露わになる。一瞬にして周りがざわつき出したが、本人は舞い上げられた砂が目に入った痛みで気付かなくてリックスは慌ててフードを被せ直した。
涙の浮いた目を擦ろうとするルカの手を止め、自身のハンカチを濡らして持たせたものの人が集まり始めて眉を顰める。
「うー⋯いったぁ⋯」
「ルカ様、ここを離れた方がいいと思いますので⋯失礼致します」
「え、でも⋯うわっ」
「陛下には〝影〟が報告に行って下さいます。私のやるべき事はルカ様をお守りする事ですので、少しだけ我慢して下さいね」
リックスに渡されたハンカチを目に当ててたらいきなり抱き上げられてルカは声を上げる。何も見れない状態でどこかへ連れて行かれて困惑してると、ようやく砂が流れ出て目が開けられるようになったのだが、全く見知らぬ場所だった事には驚いた。
人もまばらな場所で下ろされキョロキョロしてると、リックスが確かめるように何度もフードを直す。
「申し訳御座いません、フードが外れてしまいました」
「え? リックスのせいじゃないのに何で謝るんだよ。ってか、フードが外れるくらいは別に⋯⋯」
「ルカ様は、もう少しご自分のご容姿を自覚されるべきです」
「ん?」
キョトンとするルカにリックスはこれは駄目だと苦笑する。自覚どころか根本的な部分が備わってなくて、どれだけ賛辞を贈ってもルカは怪訝そうな顔をするだけだろう。
「陛下が戻られるまで此方でお待ちしましょう」
「そういえばさっき〝影〟がどうのって⋯」
「ああ、それは⋯」
「おや、騎士様。ちょうどいいところに。道を教えては貰えんかね」
ルカになら話しても大丈夫だろうと〝影〟についての説明をしようとした時、杖をついた腰の曲がった老婆に声をかけられたリックスはそちらへと顔を向けた。どうやら帰り道が分からなくなってしまったらしい。
老婆の問いに答えるリックスを見ながら空を見上げたルカは、おかしな二人組がゆっくりと背後から近付いている事には気付かなかった。
唐突に口を塞がれ目を見瞠る。
「⋯⋯!?」
「へへ、掴まえたぜぇ⋯」
「!! ルカ様⋯っ」
「コイツは高く売れるだろうさ⋯⋯うわぁ!」
驚いている間に太い腕に抱き込まれ、大した抵抗も出来ないまま連れて行かれそうになる。下卑た物言いと声にゾッと身を震わせたら気付いたリックスが声を上げすぐに腰の剣を抜いたのだが、それとほぼ同時に二人組が吹き飛び辺りがシーンとなった。
引っ張っていた力がなくなり尻餅をついたルカへと駆け寄ったリックスはその光景に呆然とする。
「精霊⋯?」
「え?」
二人組はふよふよと浮いていて青褪めた顔でしきりに視線をうろつかせているが、何がどうなっているのか分からないルカは混乱している。
目を瞬いて見ていたら、二人組はぐるぐると回転したあと遠心力により勢い良く彼方へ飛んで行ってしまった。
リックスに支えて貰い立ち上がっていると遠くの方からバタバタと足音が近付いて来る事に気付く。
「ルカ!」
「レイ」
人もまばらだったとはいえ騒ぎになれば集まってくるもので、その間から姿を現したレイフォードが焦ったようにルカの傍まできて頬を挟んできた。
その肩越しに、バルドーとアルマが町の人たちへ散るよう声をかけているのが見える。
「無事か?」
「あー、うん。良く分かんないけど何ともない」
「そうか⋯良かった」
「心配掛けてごめん」
「いや、ルカが無事だったならそれでいい」
あからさまにホッとするレイフォードに申し訳なさで眉尻を下げたルカは、またもやフードが外れている事に気付いて慌てて手を伸ばす。だがそれをレイフォードに止められた上に抱き上げられると困惑してしまい、助けを求めるようリックスを見たけど彼は頷くだけだった。
「とりあえず、するべき事は終わったから今日は戻ろう」
「さっきの者たちはどうされますか?」
「今〝影〟たちが追っている。見付かり次第城に連行してくるだろう」
「えっと⋯」
攫われそうになったし、山ほど聞きたい事があるのだがどれから聞けばいいか分からず言葉を零したら、レイフォードは安心させるように笑い額をルカの頭へと当ててきた。
「説明してやりたいがもう少し待ってくれ。まずは状況を把握したい」
「うん、分かった」
実際ルカもいろいろこんがらがってるからその方がいいかもしれない。
頷いたルカの頭を労るように撫でたレイフォードは、もう一度「本当に無事で良かった」と言って優しく目を細めた。
城へと戻り、ハルマンへ一言告げてからルカの部屋まで行く道すがら、レイフォードは大人しく身を預けてくれるルカにずっと暖かい気持ちになっていた。
最初は怪我をしていたからだったが、今では何気なく抱き上げても怪訝そうな顔はするものの抵抗もなくて、腕に感じるこの重みがとても心地良い。
「それじゃあルカ、またあとで」
「うん⋯⋯あ、忘れてた」
「?」
部屋の前で降ろしリックスにあとを任せて立ち去ろうとした時、ふいにルカがそう声を上げて袖を引いてきた。
振り向き首を傾げていると手招きされ、少し前に見たなと思いつつ腰を屈めたら頬に柔らかな唇が触れる。
「最後はアレだったけど、色んな物食べたり見た事ない物見れたりしてめちゃくちゃ楽しかった。連れて行ってくれてありがとう」
「それは良かった」
頬へのキスは本当なら手紙をくれた時だけのつもりだったのだが、ルカが何の疑いもなくしてくれるからつい止める事もせず受け入れていた。これがただのお礼だとしても、ルカから触れてくれるのは素直に嬉しい。
だが、その喜びを噛み締めているレイフォードの目にとんでもない光景が飛び込んできた。
「リックス、ちょっと屈んで」
「? はい」
「ずっと傍にいてくれてありがとう」
言われて不思議そうな顔で屈んだリックスの頬に、そう言って微笑んだルカが口付ける。
された瞬間リックスは青褪め勢い良く姿勢を正したがもう遅い。目の前にいる主君から絶対零度の冷たさを感じて額に汗が滲んだ。
「じゃ、またあとで」
だが、この空気の元凶であるルカは何も気付かないのか、笑顔で手を振ると部屋へと入って行った為リックスはいよいよピンチになってしまった。
「リックス」
「は、はい⋯っ」
「今すぐ顔を洗って来い」
「はい!」
滅多に聞かない低い声に上擦った声で返事をしたリックスは、指示されるままに駆け出しホッと胸を撫で下ろす。
どうやらまだ命は繋げられたらしい。
(ルカ様からの手招きには気を付けないといけないな)
純粋にお礼の気持ちからだから断るのは気が引けるが、そのルカを守る為にも自分の命はなくてはならない。
溜め息をついたリックスは、冷たい水で顔を洗いながら二度とレイフォードを怒らせない為にもそう心に決めたのだった。
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