怖がりな少年は時計塔の怪物に溺愛される

ミヅハ

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バラしてみる?(理人視点)

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 昨夜、深月と心だけでなく身体も結ばれた俺は非常に活力に満ちていた。
 交わるという行為は、力が弱くなった現代の吸血鬼にとっては番う事と同義で、深月は俺の伴侶になったも同然だ。
 別れ際は平気そうだったけど、身体の方は大丈夫だろうか。

「……あ、父さん?」

 早朝、朝の点呼が始まる前、俺は普段は使わないスマホで実家に電話を掛けていた。
 卒業した後で構わないだろうと後回しにしていた番の事と俺の周りで起きている事、その原因を取り除くために必要な事を頼むために、久しぶりに父親と話している。

「そう、話しておきたい事があって……俺、番を見付けたんだ」

 電話の向こうで父が驚いている。それもそうだ、現代社会に於いて異質な存在である俺たちが、唯一とも呼べる番と出会える確率は本家が健在だった頃よりもだいぶ低くなっている。
 おまけに見付けられたとしても受け入れて貰える保証はないから、今では見付けない方がいいとも言われていた。
 だけど俺は、俺だけの唯一を見付けられて、更に受け入れて貰えたからかなり幸運だったと言える。

「その子が卒業したら連れて行く。……それで、羽々音がこの学校に来た話は聞いてる? …………そう、一応知らせてはいたんだ。羽々音が俺をどう思ってるかも聞いた?」

 言いにくそうに言葉を濁す父親には苦笑するしかない。
 俺が羽々音を〝そういう目〟で見ていない事を知っているくせに、俺の相手になればと黙認したんだろう。
 確かに深月と出会わなければ妥協はしていたかもしれないけど。

「羽々音は俺の番を傷付けて泣かせたから、弓塚に今すぐ引き取りにくるよう連絡して。……出来れば三日以内。じゃないと俺、羽々音の記憶を消しちゃうかもれないよ」

 正直、羽々音には腹が立っている。
 深月を泣かせた事だけはどうしても許せないでいるから、本当なら今すぐにでも記憶を消してしまいたいほどだった。

「末端の弓塚だって番の重要性は理解してるでしょ。……それとも、分家の俺たちを敵に回して灰になりたいのかな」

 それならそれで構わない。その場合は容赦なく潰させて貰うけど、羽々音の記憶だけはすべて消す。
 父親は俺の声音に本気だと思ったのか、慌てたように今すぐに弓塚に連絡を取る事を約束してくれた。
 それから適当に話をして通話を終えると、スマホの電源を落とす。

 この学校は、寮部屋内でのスマホ使用は可能だが学校への持ち込みは禁止となっていて、恐らく持っている子は少ない。電話は借りられるし掛かってもくるから、必要性を感じない生徒が多いんだろう。
 俺の場合は話の内容が聞かれては困るものが多いから持ってるけど……深月は残念ながら持っていなかった。
 持っていたら、こっそり連絡も取れたんだけどね。

「……あれ、櫻川早起きだな。おはよう」
「おはよう。早くに目が覚めちゃって」
「そっか」

 同室の子が欠伸をしながら洗面所へ向かうため部屋から出て行く。
 それを見送り再びベッドに寝転がると、昨夜の深月の事を思い出して微笑んだ。

 どうしようもないくらい可愛かった。
 普段の深月も可愛いけど、全身真っ赤にしながら俺を受け入れて甘えた声を上げるあの子は幼いのに煽情的で、あまり気持ちに余裕を持てなかった気がする。
 今度こそはちゃんとベッドの上で抱いてあげたい。

「櫻川、点呼始まる」
「ん、分かった」

 戻ってきた同室の子に呼ばれ俺はベッドから降りると、鈴の音が聞こえた気がしてチラリと窓の外を見て笑い部屋から出た。





 HRが始まる前、教室に向かう羽々音の腕を引き空き教室へと向かった。さっさと話を終わらせてしまいたいし、昼休みには深月が来るからこの時間しかチャンスはない。

「理人くん、どうしたの? こんなとこに連れて来て……あ、もしかして僕のこと……」

 何を考えているのか分かっているけど、俺は敢えて無視して羽々音に問い掛けた。

「羽々音は、俺が吸血鬼だって知ってるんだよね」
「うん、知ってる。でも怖くないよ、理人くんだもん」
「昨日、深月が俺とはもう別れるって言ってたって教えてくれたけど、本当はそうしないと俺の事をバラすって脅してたんだね」
「え? ……それは……」
「全部知ってるから、嘘も誤魔化しも効かないよ」

 深月に何かあった時、姿を消して傍にいるコウがその出来事や、深月が言われた事をすべて教えてくれる。
 だから、羽々音が深月に対して放った言葉は一字一句俺の頭の中にあった。深月の素直さと優しさを利用してずいぶんとひどい事を言ってくれたものだ。
 深月のせいで何かが起こるなんて、絶対に有り得ないのに。
 どう答えようか悩んでいるのだろう、羽々音は青褪めた顔で視線をウロウロさせている。

「……バラしていいよ?」
「……え?」
「遠慮しないで、俺が吸血鬼だってみんなに言ってみなよ」
「な、何で……」
「深月は気付かなかったけど、転校して来たばかりの羽々音と、二年ここにいる俺と、みんなはどっちを信じるのかなって」
「……!」

 上辺だけの付き合いをして来たとはいえ、それなりに学校生活は上手く過ごせているはずだ。友人もいるし、成績も授業態度も悪くない。ただ噂が一人歩きしているせいで、節操のない怪しい薬を使う奴だと思われているのは問題だけど、羽々音が俺を吸血鬼なんだと声高に叫んだとしても悪くて半信半疑だろう。
 過ごして来た年月が違うんだ、何言ってるんだと言われるのがオチだろう。

「俺はバラされても問題ないんだよ。深月がいるならそれでいい」
「……どうして……何で、そんなにアイツがいいの?」
「深月だから、かな」
「…………」
「俺にとってはあの子が唯一なだけで、深月以外なら誰が相手でも一緒なんだよ。だから羽々音にだって、少しも気持ちはない」

 番という事を抜きにしても、俺は深月に惹かれていただろう。それくらい俺は深月が好きで、心底大切なんだ。
 羽々音は愕然としていたけど、俺の言葉が本気だと分かったからか俯いて踵を返し空き教室から出て行った。
 これに懲りて、もう深月を虐めるような事はしないで欲しいんだけど。
 俺は溜め息をつき、羽々音より少し時間を空けてから教室へと戻った。




 昼休み。眉尻を下げながら扉を開けて入って来た深月は、俺の顔を見るなり「弓塚になんて言ったんだ?」って聞いてきた。
 一先ず向かい合わせで膝に乗せ髪に頬擦りして抱き締めると、深月も背中に腕を回してくる。

「バラしてもいいよって言ったんだよ」
「え?」
「どうせ誰も信じないから」
「そ、そんなの分かんないじゃん。信じる人いたらどうすんだよ」
「どうしようか」
「先輩ノンキ過ぎだろ……」

 ノンキというか、そんな非現実的な事を信じる人はいないって思ってるだけだったりする。深月ほど素直じゃない限りは「俺って実は吸血鬼なんだ」って言ってもギャグで済ませるだろうし。
 それほど俺たちの存在は眉唾ものなのだから。

「どのみち羽々音は、あと三日もすればご両親が連れ帰るよ」
「え?」
「だから心配しないで。深月は変わらずここに来てくれればいいから」
「……うん」

 まだ納得はいっていないながらも頷く深月の頭を撫で、保冷バッグから今日のお昼とお菓子を取り出す。
 最近の深月は、食欲はあるけど以前ほどお菓子を食べなくなった気がしていて、俺は少しだけ心配だった。
 お菓子よりも好きと言って貰えた手前嬉しくはあるけど、食べている深月を見るのが好きな俺としては少し残念だったりする。

「今日のお菓子は、初めて深月にあげたチョコだよ」
「わ、懐かしい! これすっごい美味かったやつ!」
「これね、実はホワイトチョコもあってどっちも持って来たんだけど、深月はもちろん両方食べるよね」
「食べる!」

 それでも相変わらずチョコには目がない深月に俺の頬が緩む。
 チョコと深月の唾液が混ざると、一体どれだけ甘くなるんだろうか。
 そんな事を考えながら深月に気付かれないよう舌舐りをした俺は、さっそくホワイトチョコを開けて半分に割ってから深月の口に押し込む。
 キョトンとする深月の下唇を人差し指で撫でると、もごもごしている小さな唇に口付けて舌を差し込んだ。

 あまりの甘さに深月の息が限界になるまで味わってしまった俺は、酸欠で涙目の深月から力ない「バカ」を貰って微笑んだのだった。
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