怖がりな少年は時計塔の怪物に溺愛される

ミヅハ

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初めての挑戦

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 俺は無事に学年末テストを乗り越え、しかも全教科平均点以上を取れた事を報告しに先輩のクラスに向かってた。
 このテスト結果は俺の両親も腰を抜かすほどこれまでの中で最高得点だから、きっと先輩も驚いてくれるはず。

「ちわーっす、深月郵便です!」
「あれ、深月くん!」
「久し振りー」
「あ、お菓子あるよ。ポケットに入れてあげるね」
「元気だった?」
「元気元気! 理人先輩いる?」

 廊下側にある窓をガラリと開けて声を掛けると、前までお菓子をたくさんくれてた先輩たちがわっと集まってきた。
 頭を撫でられブレザーのポケットにお菓子が詰められる。わー、パンパンだ。

「櫻川なら今トイレ行ってる」
「もうすぐしたら戻って……あ」
「可愛い子発見」

 俺の後ろから伸びた手が窓枠に置かれて挟まれるみたいになった。掛けられた声に気付いて身体ごと振り向くと額にチュってされて目を瞬く。
 教室の前で、中に先輩たちいるのに……理人先輩ってば大胆だ。

「うわぁ……」
「櫻川が甘い……」
「やだやだ、こんな空気耐えられない」
「窓閉めてやってくれ」

 キスされた額を押さえているとさっきまで話してた先輩たちが離れて行くのが分かった。
 理人先輩は「はいはい」って言いながら窓を閉めたあと、俺の手を引いて階段の方へ歩いて行く。俺、テスト結果を報せに来ただけだったんだけど……。
 階段に腰掛けて広げた足の間を差す先輩に頷いて背中を向けて座ればすぐに抱き締められた。

「二週間と、数日ぶりの深月だ」
「テスト貰う日数足すの忘れてた」
「深月はうっかりさんだからね。……久し振りの深月の匂い」

 首筋に先輩の鼻が寄せられてクンクンされる。こういう時、吸血鬼ってより犬っぽく見えるのは、先輩の髪がふわふわしてるせいかな。
 頭を先輩の肩に寄り掛からせてるとカプって噛まれて少しだけ驚いた。

「先輩、飲むなら昼休みじゃないと時間が……」
「分かってるよ。大丈夫、今は飲まないから」
「…っ…待っ、先輩タンマ…! これ見て、テストの結果」
「ん?」

 甘噛みされてたところを強めに吸われて慌てて全教科の点数と合計点、学年で何位かって書かれた細長い紙をヒラヒラさせる。
 先輩は俺が持ってる側とは逆の端を持って紙をピンとすると、マジマジと見て目を見瞠った。

「すごいね、もしかして全部平均点以上?」
「うん! 先輩のご褒美効果すごいよ!」
「深月が頑張ったからだよ。ご褒美の日程決めないとね」

 先輩効果で頑張れたけど、褒められるとやっぱり嬉しい。
 返された紙をポケットにしまった俺は、先輩を振り向いて腰に抱き着いた。

「先輩、俺遊園地行きたい」
「日帰りだからあんまり乗れないかもしれないよ?」
「先輩と行きたいから、乗れなくてもいい」
「そっか。うん、じゃあ遊園地に行こう」
「やった!」

 遊園地なんていつぶりだろう。先輩と指切りして絶対に行こうなって約束した時予鈴が鳴ったから俺は慌てて立ち上がる。
 先輩とまた昼休みにって別れて急いで教室に戻った。

   


 久し振りの先輩との昼休み。みんなにやれやれって顔されながら見送られて、俺は袋を手に空き教室に向かった。これは朝早く起きて、食堂のおばちゃんに教えて貰いながら作ったおにぎりだ。初めて握ったからめちゃくちゃ不格好だけど、気持ちが大事だっておばちゃんに言われたから感謝の念だけはものすごく込めた。
 一応味見はしたぞ。塩気が強いところとないところがあったけど、全部食べればちょうどいい味になるはず。

「先輩、今日はたぶんいいもの持って来た」
「たぶんなんだ。何を持って来たの?」
「俺のお手製おにぎり。あ、ちゃんとラップで包んでから握ってるからな」
「え、深月が作ってくれたの? しかも衛生面まで考えて……」
「初めて作った」
「初めて……」

 袋の中から取り出した丸だか四角だか分からない歪な形をしたおにぎりを出して、先輩がいつもご飯を広げる机に置きながら説明していると、先輩は驚いたような顔をしておにぎりを手に取った。

「俺が食べていいの?」
「先輩のために作って来たんだから、食べてくれないと困る」
「すごく嬉しいよ。ありがとう、深月」

 こんな不細工なおにぎりなのに、先輩は本当に嬉しそうに笑って俺を抱き締める。こんなに喜んでくれるならもっと早く挑戦すれば良かった。 

「あのさ、綺麗じゃないし味もあるところとないところがあって…美味しくないかも」
「深月が俺のために一生懸命作ってくれたんだから、美味しくない訳ないんだよ」
「……」
「食べてもいい?」
「うん」

 う、なんかすごい緊張して来た。自分が作った(握った)物を食べて貰うのってこんなにドキドキするんだな。
 先輩はラップを剥がすとガブッと勢い良くかぶりついた。……先輩めっちゃもぐもぐしてる。ちなみに中には何も入ってない、本当にシンプルな塩おにぎりにしたんだけど……飲み込んだ先輩はにこっと笑うと俺の頭を撫でて来た。

「すごく美味しい。塩加減も握り加減もちょうどいいし、深月はおにぎり作るの上手だね」
「本当に? 無理してないか?」
「本当に。無理してるように見える?」

 ……見えない。さすがの俺でも下手だなって思うけど、先輩がそう言ってくれるのは嬉しくて俺は照れ笑いを浮かべる。

「ありがとう、先輩」
「俺の方こそありがとう。今日のご飯もうこれだけでいいかも」
「え、ちゃんと食堂でも食べなきゃダメだぞ」
「嬉しすぎて他は食べられないよ」

 そ、そんなに?
 先輩の大袈裟なくらいの言葉に何だか逆に申し訳なくなってしまう。おにぎりだけじゃ栄養偏るんじゃないか?
 背の高い先輩ならなおさら……せめて食堂利用の時間が同じならちゃんと食べるまで見張れたのに。人数の関係で学年別だから、先輩と一緒に食べられるのって本当に昼だけなんだよな。

「先輩」
「何、深月」
「おにぎり食べてくれるの嬉しいけど、やっぱり心配だから野菜も食べて欲しい」

 俺のせいで先輩が栄養失調になったら嫌だし、ずっと健康でいて欲しいからそういう意味も込めて言うと、先輩は目を瞬いたあとふわって笑ったんだけど……なんかキラキラが飛んだ気がした。

「分かった。深月がそう言うならちゃんと食べるよ」
「う、うん」
「俺の深月は優しいね」
「先輩には元気でいてもらわないと困る」
「困るの?」
「二学期のどっかで先輩、休んだ日あっただろ? あの時俺すごい寂しくて、お昼ご飯も夜ご飯も美味しいって感じなかった」

 あの時はクラスのみんながうるさかったから無理やり食べたけど、今まで美味しいって思ってた物の味がしなくなるなんて初めてだった。
 別にみんなと食べるのが嫌なんじゃないぞ。ただそれでもやっぱり先輩と食べたい気持ちが強いってだけで。

「それに、先輩に会えないとモヤモヤする」
「そっか。じゃあ俺は、深月がいつも通り元気に楽しく笑っていられるように、身体にいいものたくさん食べて健康でいなくちゃね」
「俺もおにぎりもっと上手に握れるよう頑張るな」
「充分上手だけど、深月のおにぎりが食べられるのは嬉しいから、楽しみにしてるよ」

 本当なら、おにぎりは三角の形してるからな。せめて三角に出来るくらいには上達したい。
 食堂のおばちゃんは、料理は何回も挑戦すれば絶対上手になるって言ってたから、いつかはちゃんとしたご飯も作れるようになりたいな。

「目指せ、五つ星シェフ!」
「ずいぶんハードル上げたね。頑張ってね」
「任せとけ!」

 人間何でもやれば出来るんだ。
 俺は頭の中でたくさんの料理を先輩に振る舞っている自分を想像してニヤニヤする。母さんが、男は胃袋で掴むのよって恋愛ドラマが流れてるテレビに向かって言ってたからな。

「先輩の胃袋ゲットする」
「それだと意味が変わっちゃうよ、深月。それに」
「?」
「俺の胃袋は、深月の美味しさでとっくに掴まれてるよ」
「……へ」

 うわ、先輩またエッチぃ顔で笑ってる。
 俺、血も飲んで貰ったし、食べて貰ったもんな。先輩が言う俺の美味しさって、そういう事だろ?

「顔真っ赤。ホント、可愛いね」

 先輩の甘い声で、顔どころか全身熱くなった気がした俺は、話題を変えるために保冷バッグからお昼ご飯とお菓子を取り出すと、クリームパンを掴んで先輩に見せた。

「これ食べる」
「うん、召し上がれ」
「ひぇ…っ」

 その手が握られたと思ったら、先輩が人差し指を口に入れて吸いながら離すから、俺はもうクリームパンどころじゃなくなってしまった。
 こういう時の先輩、ホントに色っぽい。

 俺は恥ずかしさでプルプル震えながら先輩を見上げたあと、赤い顔を隠すために先輩に抱き着いた。
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