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本編
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今日もいつものように広場で夕食を取る。しかし、そこへ向かう私たちもハーピーたちの表情も暗い。
折角訪れた平和がまたしても破られたのだ。特に大人たちの表情は暗澹としている。
「あ~、ティアねえちゃんだ。なあ、ひりゅうたおしたときのことおしえて」
「おしえて~」
子供たちの中にも沈んでいる子はいるものの、この子たちは比較的に元気なようだ。
「聞いてどうするの?」
「わたしたちだって魔法が使えるんだから、なにかできないかって」
「じゃあだめね。何かしたいという気持ちは分かるけど、今のままだと戦えないわ。カリンがいいっていうまでは大人しく修行しなさい」
「なんだよ~、ねえちゃんもカリンといっしょのこと言うのか~」
「当たり前でしょ。あなた達が危ない目に遭ったらカリンだってきっと助けようとするわ。それを守る人はいないのよ?」
「…だってさ、折角魔法が使えるようになったのにこれじゃあ何の役にも立たないじゃん」
「カリンとセイラがちょっと違うのよ。私やエミリーだって魔法を使い始めて何年にもなるわ。1年もたってないあなた達が出てきたら代わりに誰かが傷つくわよ」
「せめてなにかできることない?」
「だったら、村でお手伝いをしなさい。後ちゃんと遊んで、魔法の練習もすること」
「そんなんでいいのかよ」
「ええ、あなた達がいつも通り暮らせるから、みんな守ろうとするのよ。いなくなったり傷ついてしまったら、それこそ一大事よ」
「む~」
「ほら、拗ねないの。ちゃんと言いつけを守ったら話してあげるわ」
「ほんと!いついつ!」
「次に来る時にはね。だから、きちんという事を聞いて無茶をしないこと、いいわね?」
「わかった~」
子供たちは何とか納得してくれたようだ。元気にあたりを飛び回っている。今は解体されていない飛竜を触っている子もいる。大きさの違う個体だからか熱心に見ている様だ。
「何とか収まってくれてよかったわ」
「大変だね~ティアは」
「エミリーだって何か言ってくれればよかったのに」
「こういうことはティアの方が向いてるし、子供たちもティアの方が好きみたいだしね」
「そんなことはないと思うけど…」
「何にせよ子供たちが前向きなのはいいことだ。この空気のままじゃ滅入ってしまう」
「それは何とかしないとね。他のことは置いておいてもさ」
「活気がないと変にミスが出るものね。正直、あの子たちに期待するしかないわね」
「それより明日の出発は変更なしだが、準備はできてるか?」
カークスに不意に言われ思い出す。
「そういえば…」
「わたしたち帰ってきてからもバタバタしてて何もやってない?」
「夕飯を食べたら急いで荷造りしましょう」
広場で解散した後も、カリンたちと今後について話し合ったり、セイラちゃんとお母さんに色々話をしたりして小屋に戻っていなかったのだ。
「エミリー、手分けして取りましょう。私は向こうでサラダと飲み物を取ってくるわ」
「じゃあ、肉系のものは任せて!」
私たちはお互いの分の食事をとってきて食べ始める。変にばたばたして目立っているが、結構時間に余裕がないのだ。最近は飛竜は来ないだろうという事でちょっと夜は火を灯していたこともあるが、今日の一件でしばらくはそれもしないという事になってしまったのだ。真っ暗の中あれこれとものを詰め込むとろくなことにならない。珍しく早くに食事を終えた私たちは、何かあったら答えといてとカークスたちに伝言して小屋へと戻った。
「よ~し、じゃあはじめるよ~」
「ええ、一気にやりましょう」
私たちは腕まくりをして、一旦バッグの中を出して持って帰るものをすべて床に並べる。こうしてから重たいものをエミリーと半々で分けつつ詰めていく。そこらへんで見つけた種も一応入れていく。こういった普段人がいないところのものは珍しいものが生えるかもしれないので、取っておいたのだ。
「あとは…エリアの書を入れてこっちは終わりね。エミリーそっちはどう?」
「へっ、あ、んと終わりそうだよ?」
こちらに背中を向けたままエミリーが答える。何か手に持っている様だけど。
「エミリー、本読んでたでしょ?」
「えへへ、つい」
「さっさと入れなさい!」
「待って、もうちょっとだけ。今いいとこなの!」
「じゃあ、これでも挟んでなさい」
そう言って私はバッグからしおりを取りだしてエミリーの本にはさむ。
「ティア、しおりなんか持ってきてたんだ?」
「こっちで作ったのよ。きれいな花を見つけたからね」
「ありがとう、ティア。綺麗な花~、大事に使うね」
「まったく、しょうがないんだから」
本をしまうとエミリーは残りのものを素早くバッグに詰めていき、とりあえず思いつくものはこれですべて入れ終わった。
「あとは、何もない?」
「思いつくものはいれたと思うけど…」
「じゃあ、明日朝にリビング行ってそこで何もなかったらOKだね」
「そういうことにしておきましょう。今日は疲れたわ」
私はだらしなくベットに身を投げ出す。久しぶりに戦ったこともあるけれど、魔力の消費もかなり多かったから疲れているのかもしれない。
「ティア、もう寝る?」
「そうね。そうしようかしら」
「じゃあ……」
エミリーが何か返事をしている様だけどうまく聞き取れない。ベッドに横になったらなんだか眠く…。
「おやすみティア」
最後にそんなエミリーの声だけが聞こえた気がした。
「ん~」
目が覚めて大きく伸びをする。小鳥の声がするという事は日は昇っているのだろうか。時計を見ると6時半ごろだ。
ベッドから起きて改めて体を伸ばす。気持ちがいいからそのままストレッチを始める。
片腕を伸ばして肘で挟んでと次は足元に指をつけてと。
「いたたた」
結構、体が硬いから下までぎりぎり付くぐらいだ。
「もうちょっと普段からした方がいいかしら」
体育測定の時とかは楽々ついている子もいたし、なにかの時に役に立つかもしれないし明日からやろうと思っていると。
「ティア、さっきから何してるの変に体動かして?」
「エミリー、起きてたの?」
「さっき起きたとこだけど、それ何か意味あるの?」
すごく、不審な目で私を見てくる。いやいやこれはれっきとした運動だから。
「これはストレッチといって、激しい運動の前にこうやっているとケガを防いだりできるのよ」
「へ~、そんなの初めて聞いたよ」
「何かの本に載ってたのよ。やり方とかも全部は覚えてないんだけど」
全校生徒の見本とかじゃない限り、いちいち全部は覚えていない。順番通りやればできるとは思うけど、正直なところうろ覚えだ。
「ふ~ん、わたしもちょっとやってみよっと。教えて」
エミリーに促され私は覚えている範囲で簡単なストレッチを行う。
「うえぇ~。これひざの裏が痛いよ~」
「わっ、伸ばしすぎよ。もう少し力抜いて!」
アキレスけんを伸ばすのに、全開で開こうとするエミリーを慌てて止める。ちゃんとこっちを見ながらやらないとだめそうだ。
「エミリー、こっちを見ながらやってみて。間違ったやり方で覚えても意味ないから」
「う、うん」
そうやっていくつかのやり方を教えていく。エミリーは思いのほか楽しかったようで、今後もやる気があるようだ。
「ありがと~、ティア。これ楽しいね」
「え、ええ」
正直、運動の前にやらされてる感が強くて楽しいとか考えることもなかった。
「それよりも、そろそろ朝食を取りましょう。みんなもそろそろ起きてくると思うし」
「そうだね~」
私たちはストレッチを終えると、軽く体を休めてからリビングへと向かう。リビングにはすでにキルドがいた。
「おはようキルド」
「おはようティア、エミリー。食事の用意はもうすぐ終わるからちょっと待ってて」
「ありがと~」
「他の2人は?」
「もう起きてるよ。ちょっと畑の方を見に行ってる」
そう言われてみるとすでに2人の姿はない。収穫はまだ先だし水やりでもしているのだろう。
「キルド食事の用意だが―。ティアとエミリーも起きたのか」
「ええ、畑仕事ご苦労様」
「といっても水やりぐらいだ。後は草をすこし抜いた程度だな」
「しばらくは来れないと思うからきちんとやっていないとな」
カークスに続いてフォルトも入ってくる。2人とも魔法を使ったようで手もきれいだ。
「さあ、ちょうどみんなの分の朝食ができたから食事にしよう」
キルドが料理を運んできてくれる。私とエミリーも食器を用意して準備が整った。
「「いただきます」」
みんなで食べ始める。食事中は今日の予定の再確認だ。とりあえず飛竜に関しては倒したのではなく、目撃したという事にしておいて生息数の増加を報告する。それをもって元の生息地の方の調査が必要と持ち出し、ギルドから依頼を受けられるようにする、ここまでが今日の目標だ。
「他に何かあるか?」
「といっても、フォルトは鎧の残りとカークスは剣の打ち直し?があるでしょ」
「まあ、そうだが。以前聞いたときは1日あればやれるそうだ。フォルトの鎧はできているだろうし問題ないだろう。お前こそ剣の方はいいのか?」
「そっちも預けてあるから大丈夫だと思うけど、一応確認しておくわ。ギルドの用事が終わったら一緒に行きましょう」
「そうだな。ギルドの日程に合わせてその後の予定を変えるとしよう」
「また、面倒なことになりそうだね」
「それを解決するのが冒険者だろう?」
フォルトにそう言われてキルドもまんざらでもない顔で肩をすくめる。食事が終わるときれいに片づけをして乾燥までしておく。
これで、次に来た時にそのままでも使えるだろう。
「よし、みんな忘れ物はないな?行くぞ!」
みんなカークスの言葉に頷き、小屋を後にする。村の入り口に着いたところで、カリンとセイラちゃんが待っていた。
「あら、2人ともおはよう」
「おはようティア!」
「おはようございます」
「見送りに来てくれたの?」
「そうなの、っていいたいんだけどとりあえず朝の見回り。今日から早速始めたの。とりあえず最初は2人で行動してやり方とかをセイラが覚える形」
「大変だけど頑張ってね」
私は不安そうにしているセイラちゃんの頭を撫でる。
「は、はい。頑張ります」
「でも、危ないと思ったらすぐにカリンを呼ぶんだよ。すぐ来てくれるから」
「そうそう、エミリーの言う通りだからね。」
セイラちゃんは頷くとキリっとした表情になる。この子なら私たちがいなくても大丈夫、そう思わせる顔だ。
「私たちもできるだけ調査をしてみるから、何かわかったら来るわ。それと渡しそびれてしまっていたんだけどこれ」
「これはネックレス?」
「ええ、魔石を使ったものよ。守りの魔法がかけてあるから持ち主に危険がせまったら発動するから。ただし、ずっと使えるものじゃないから注意してね」
そう言って私は持ってきていたネックレスをまとめてカリンに渡す。
「ありがとうティア、みんなも。わたしたちもがんばって村を守って見せるからお願い」
「ええ、それじゃあね」
「ばいば~い」
「ティアおねーさん、みなさんまた~」
セイラちゃんが翼をはためかせている。私たちはしばらくその姿を眺めながら歩いていった。
流石に昨日の今日で飛竜に会うことはなく、森の入り口まではスムーズに進んだ。また、森を進む間も来るときにいたゴブリンのような群れはなく、散発的に襲ってくるだけだった。
「来る時と違って、帰りは特に出てこなかったわね」
「そうだな。あれが全部ではないと思うが、来ないに越したことはない」
「そうそう、早く帰ってお風呂に入りたいよ~」
エミリーが贅沢な愚痴を漏らす。確かに2日ほどは入れていないが、そもそも遠出の時に入れる方がまれなのであって、大変贅沢な悩みなのだ。
「じゃあ、さっさと抜けよう」
キルドの掛け声で私たちは少しだけペースを上げる。森といっても草は背の高いものが少ないので結構歩きやすい。もちろん湿っているので滑りやすくはあるのだが。そうして、1時間半ほど歩くとようやく人の手が入るところまで来た。
「もう少ししたら森を抜けられそうね」
「まあね。人の気配もするしそろそろペースを落とそうか」
そういうと少しだけゆっくり歩き始めたキルドに合わせるように私たちもペースを落とす。しばらくすると他のパーティーの姿が見られた。という事はもう少しで森を抜けるという事だろう。この辺は特に何もないので、薬草などの採集と入り口付近の討伐依頼以外はほとんど人が来ない。
「おっ、もう抜けるみたいだよ」
キルドの言葉がすると、少しずつ目の前が明るくなっていく。王都への街道が見えてきたのだ。
「こういう森を抜ける瞬間は何度感じでもいいねぇ~」
「ほんとほんと。帰ってきた~って感じするよね」
前の2人はテンションが急に上がってきている様だ。
「まあ、その辺は同意するとして手は抜くなよ?」
「はいはい」
カークスに注意されながらもキルドはすいすいと進んでいく。そして街道を通り、ようやく王都へと戻ってきた。
「ほら、一列に並んでって、皆さん帰られたんですね」
今日の担当はカインのようだ。ちょうどいい。
「カイン、はいこれ」
「これは?」
「出発の時に行ってたでしょう?干し肉だけど」
「覚えててくれたんですね感激です!ちょっと待っててくださいね置いてきますから」
すぐに干し肉の入った包みを奥に置いてきてカリンが戻ってくる。
「いや、いつもすみませんね。皆さんのおかげで食べ物にも話題にも事欠かなくて、結構酒場とかで人気者なんです僕」
「いつかリターンを期待しておくわ。じゃあね」
「はいどうぞ!」
気前よくカインが私たちを通してくれる。いつも愛想よく通してくれているが、あんな感じでも検挙率はかなりのものらしい。見かけによらないという事なんだろう。
門をくぐり、飛竜のこともだが、ゴブリンのことも忘れずに伝えなくてはと思いつつ私たちはギルドへ向かった。
折角訪れた平和がまたしても破られたのだ。特に大人たちの表情は暗澹としている。
「あ~、ティアねえちゃんだ。なあ、ひりゅうたおしたときのことおしえて」
「おしえて~」
子供たちの中にも沈んでいる子はいるものの、この子たちは比較的に元気なようだ。
「聞いてどうするの?」
「わたしたちだって魔法が使えるんだから、なにかできないかって」
「じゃあだめね。何かしたいという気持ちは分かるけど、今のままだと戦えないわ。カリンがいいっていうまでは大人しく修行しなさい」
「なんだよ~、ねえちゃんもカリンといっしょのこと言うのか~」
「当たり前でしょ。あなた達が危ない目に遭ったらカリンだってきっと助けようとするわ。それを守る人はいないのよ?」
「…だってさ、折角魔法が使えるようになったのにこれじゃあ何の役にも立たないじゃん」
「カリンとセイラがちょっと違うのよ。私やエミリーだって魔法を使い始めて何年にもなるわ。1年もたってないあなた達が出てきたら代わりに誰かが傷つくわよ」
「せめてなにかできることない?」
「だったら、村でお手伝いをしなさい。後ちゃんと遊んで、魔法の練習もすること」
「そんなんでいいのかよ」
「ええ、あなた達がいつも通り暮らせるから、みんな守ろうとするのよ。いなくなったり傷ついてしまったら、それこそ一大事よ」
「む~」
「ほら、拗ねないの。ちゃんと言いつけを守ったら話してあげるわ」
「ほんと!いついつ!」
「次に来る時にはね。だから、きちんという事を聞いて無茶をしないこと、いいわね?」
「わかった~」
子供たちは何とか納得してくれたようだ。元気にあたりを飛び回っている。今は解体されていない飛竜を触っている子もいる。大きさの違う個体だからか熱心に見ている様だ。
「何とか収まってくれてよかったわ」
「大変だね~ティアは」
「エミリーだって何か言ってくれればよかったのに」
「こういうことはティアの方が向いてるし、子供たちもティアの方が好きみたいだしね」
「そんなことはないと思うけど…」
「何にせよ子供たちが前向きなのはいいことだ。この空気のままじゃ滅入ってしまう」
「それは何とかしないとね。他のことは置いておいてもさ」
「活気がないと変にミスが出るものね。正直、あの子たちに期待するしかないわね」
「それより明日の出発は変更なしだが、準備はできてるか?」
カークスに不意に言われ思い出す。
「そういえば…」
「わたしたち帰ってきてからもバタバタしてて何もやってない?」
「夕飯を食べたら急いで荷造りしましょう」
広場で解散した後も、カリンたちと今後について話し合ったり、セイラちゃんとお母さんに色々話をしたりして小屋に戻っていなかったのだ。
「エミリー、手分けして取りましょう。私は向こうでサラダと飲み物を取ってくるわ」
「じゃあ、肉系のものは任せて!」
私たちはお互いの分の食事をとってきて食べ始める。変にばたばたして目立っているが、結構時間に余裕がないのだ。最近は飛竜は来ないだろうという事でちょっと夜は火を灯していたこともあるが、今日の一件でしばらくはそれもしないという事になってしまったのだ。真っ暗の中あれこれとものを詰め込むとろくなことにならない。珍しく早くに食事を終えた私たちは、何かあったら答えといてとカークスたちに伝言して小屋へと戻った。
「よ~し、じゃあはじめるよ~」
「ええ、一気にやりましょう」
私たちは腕まくりをして、一旦バッグの中を出して持って帰るものをすべて床に並べる。こうしてから重たいものをエミリーと半々で分けつつ詰めていく。そこらへんで見つけた種も一応入れていく。こういった普段人がいないところのものは珍しいものが生えるかもしれないので、取っておいたのだ。
「あとは…エリアの書を入れてこっちは終わりね。エミリーそっちはどう?」
「へっ、あ、んと終わりそうだよ?」
こちらに背中を向けたままエミリーが答える。何か手に持っている様だけど。
「エミリー、本読んでたでしょ?」
「えへへ、つい」
「さっさと入れなさい!」
「待って、もうちょっとだけ。今いいとこなの!」
「じゃあ、これでも挟んでなさい」
そう言って私はバッグからしおりを取りだしてエミリーの本にはさむ。
「ティア、しおりなんか持ってきてたんだ?」
「こっちで作ったのよ。きれいな花を見つけたからね」
「ありがとう、ティア。綺麗な花~、大事に使うね」
「まったく、しょうがないんだから」
本をしまうとエミリーは残りのものを素早くバッグに詰めていき、とりあえず思いつくものはこれですべて入れ終わった。
「あとは、何もない?」
「思いつくものはいれたと思うけど…」
「じゃあ、明日朝にリビング行ってそこで何もなかったらOKだね」
「そういうことにしておきましょう。今日は疲れたわ」
私はだらしなくベットに身を投げ出す。久しぶりに戦ったこともあるけれど、魔力の消費もかなり多かったから疲れているのかもしれない。
「ティア、もう寝る?」
「そうね。そうしようかしら」
「じゃあ……」
エミリーが何か返事をしている様だけどうまく聞き取れない。ベッドに横になったらなんだか眠く…。
「おやすみティア」
最後にそんなエミリーの声だけが聞こえた気がした。
「ん~」
目が覚めて大きく伸びをする。小鳥の声がするという事は日は昇っているのだろうか。時計を見ると6時半ごろだ。
ベッドから起きて改めて体を伸ばす。気持ちがいいからそのままストレッチを始める。
片腕を伸ばして肘で挟んでと次は足元に指をつけてと。
「いたたた」
結構、体が硬いから下までぎりぎり付くぐらいだ。
「もうちょっと普段からした方がいいかしら」
体育測定の時とかは楽々ついている子もいたし、なにかの時に役に立つかもしれないし明日からやろうと思っていると。
「ティア、さっきから何してるの変に体動かして?」
「エミリー、起きてたの?」
「さっき起きたとこだけど、それ何か意味あるの?」
すごく、不審な目で私を見てくる。いやいやこれはれっきとした運動だから。
「これはストレッチといって、激しい運動の前にこうやっているとケガを防いだりできるのよ」
「へ~、そんなの初めて聞いたよ」
「何かの本に載ってたのよ。やり方とかも全部は覚えてないんだけど」
全校生徒の見本とかじゃない限り、いちいち全部は覚えていない。順番通りやればできるとは思うけど、正直なところうろ覚えだ。
「ふ~ん、わたしもちょっとやってみよっと。教えて」
エミリーに促され私は覚えている範囲で簡単なストレッチを行う。
「うえぇ~。これひざの裏が痛いよ~」
「わっ、伸ばしすぎよ。もう少し力抜いて!」
アキレスけんを伸ばすのに、全開で開こうとするエミリーを慌てて止める。ちゃんとこっちを見ながらやらないとだめそうだ。
「エミリー、こっちを見ながらやってみて。間違ったやり方で覚えても意味ないから」
「う、うん」
そうやっていくつかのやり方を教えていく。エミリーは思いのほか楽しかったようで、今後もやる気があるようだ。
「ありがと~、ティア。これ楽しいね」
「え、ええ」
正直、運動の前にやらされてる感が強くて楽しいとか考えることもなかった。
「それよりも、そろそろ朝食を取りましょう。みんなもそろそろ起きてくると思うし」
「そうだね~」
私たちはストレッチを終えると、軽く体を休めてからリビングへと向かう。リビングにはすでにキルドがいた。
「おはようキルド」
「おはようティア、エミリー。食事の用意はもうすぐ終わるからちょっと待ってて」
「ありがと~」
「他の2人は?」
「もう起きてるよ。ちょっと畑の方を見に行ってる」
そう言われてみるとすでに2人の姿はない。収穫はまだ先だし水やりでもしているのだろう。
「キルド食事の用意だが―。ティアとエミリーも起きたのか」
「ええ、畑仕事ご苦労様」
「といっても水やりぐらいだ。後は草をすこし抜いた程度だな」
「しばらくは来れないと思うからきちんとやっていないとな」
カークスに続いてフォルトも入ってくる。2人とも魔法を使ったようで手もきれいだ。
「さあ、ちょうどみんなの分の朝食ができたから食事にしよう」
キルドが料理を運んできてくれる。私とエミリーも食器を用意して準備が整った。
「「いただきます」」
みんなで食べ始める。食事中は今日の予定の再確認だ。とりあえず飛竜に関しては倒したのではなく、目撃したという事にしておいて生息数の増加を報告する。それをもって元の生息地の方の調査が必要と持ち出し、ギルドから依頼を受けられるようにする、ここまでが今日の目標だ。
「他に何かあるか?」
「といっても、フォルトは鎧の残りとカークスは剣の打ち直し?があるでしょ」
「まあ、そうだが。以前聞いたときは1日あればやれるそうだ。フォルトの鎧はできているだろうし問題ないだろう。お前こそ剣の方はいいのか?」
「そっちも預けてあるから大丈夫だと思うけど、一応確認しておくわ。ギルドの用事が終わったら一緒に行きましょう」
「そうだな。ギルドの日程に合わせてその後の予定を変えるとしよう」
「また、面倒なことになりそうだね」
「それを解決するのが冒険者だろう?」
フォルトにそう言われてキルドもまんざらでもない顔で肩をすくめる。食事が終わるときれいに片づけをして乾燥までしておく。
これで、次に来た時にそのままでも使えるだろう。
「よし、みんな忘れ物はないな?行くぞ!」
みんなカークスの言葉に頷き、小屋を後にする。村の入り口に着いたところで、カリンとセイラちゃんが待っていた。
「あら、2人ともおはよう」
「おはようティア!」
「おはようございます」
「見送りに来てくれたの?」
「そうなの、っていいたいんだけどとりあえず朝の見回り。今日から早速始めたの。とりあえず最初は2人で行動してやり方とかをセイラが覚える形」
「大変だけど頑張ってね」
私は不安そうにしているセイラちゃんの頭を撫でる。
「は、はい。頑張ります」
「でも、危ないと思ったらすぐにカリンを呼ぶんだよ。すぐ来てくれるから」
「そうそう、エミリーの言う通りだからね。」
セイラちゃんは頷くとキリっとした表情になる。この子なら私たちがいなくても大丈夫、そう思わせる顔だ。
「私たちもできるだけ調査をしてみるから、何かわかったら来るわ。それと渡しそびれてしまっていたんだけどこれ」
「これはネックレス?」
「ええ、魔石を使ったものよ。守りの魔法がかけてあるから持ち主に危険がせまったら発動するから。ただし、ずっと使えるものじゃないから注意してね」
そう言って私は持ってきていたネックレスをまとめてカリンに渡す。
「ありがとうティア、みんなも。わたしたちもがんばって村を守って見せるからお願い」
「ええ、それじゃあね」
「ばいば~い」
「ティアおねーさん、みなさんまた~」
セイラちゃんが翼をはためかせている。私たちはしばらくその姿を眺めながら歩いていった。
流石に昨日の今日で飛竜に会うことはなく、森の入り口まではスムーズに進んだ。また、森を進む間も来るときにいたゴブリンのような群れはなく、散発的に襲ってくるだけだった。
「来る時と違って、帰りは特に出てこなかったわね」
「そうだな。あれが全部ではないと思うが、来ないに越したことはない」
「そうそう、早く帰ってお風呂に入りたいよ~」
エミリーが贅沢な愚痴を漏らす。確かに2日ほどは入れていないが、そもそも遠出の時に入れる方がまれなのであって、大変贅沢な悩みなのだ。
「じゃあ、さっさと抜けよう」
キルドの掛け声で私たちは少しだけペースを上げる。森といっても草は背の高いものが少ないので結構歩きやすい。もちろん湿っているので滑りやすくはあるのだが。そうして、1時間半ほど歩くとようやく人の手が入るところまで来た。
「もう少ししたら森を抜けられそうね」
「まあね。人の気配もするしそろそろペースを落とそうか」
そういうと少しだけゆっくり歩き始めたキルドに合わせるように私たちもペースを落とす。しばらくすると他のパーティーの姿が見られた。という事はもう少しで森を抜けるという事だろう。この辺は特に何もないので、薬草などの採集と入り口付近の討伐依頼以外はほとんど人が来ない。
「おっ、もう抜けるみたいだよ」
キルドの言葉がすると、少しずつ目の前が明るくなっていく。王都への街道が見えてきたのだ。
「こういう森を抜ける瞬間は何度感じでもいいねぇ~」
「ほんとほんと。帰ってきた~って感じするよね」
前の2人はテンションが急に上がってきている様だ。
「まあ、その辺は同意するとして手は抜くなよ?」
「はいはい」
カークスに注意されながらもキルドはすいすいと進んでいく。そして街道を通り、ようやく王都へと戻ってきた。
「ほら、一列に並んでって、皆さん帰られたんですね」
今日の担当はカインのようだ。ちょうどいい。
「カイン、はいこれ」
「これは?」
「出発の時に行ってたでしょう?干し肉だけど」
「覚えててくれたんですね感激です!ちょっと待っててくださいね置いてきますから」
すぐに干し肉の入った包みを奥に置いてきてカリンが戻ってくる。
「いや、いつもすみませんね。皆さんのおかげで食べ物にも話題にも事欠かなくて、結構酒場とかで人気者なんです僕」
「いつかリターンを期待しておくわ。じゃあね」
「はいどうぞ!」
気前よくカインが私たちを通してくれる。いつも愛想よく通してくれているが、あんな感じでも検挙率はかなりのものらしい。見かけによらないという事なんだろう。
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学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜
束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。
そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。
だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。
マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。
全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。
それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。
マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。
自由だ。
魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。
マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。
これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。
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