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本編
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しおりを挟む「おお、みなさん来られましたか。事情はカリンから聞いています。また飛竜と出会われたとか」
「はい。幸いこちらには気づいておらず、不意を突いて倒すことができました」
「サーリやカリンを守っていただきありがとうございます」
「いえ、運よくキルドやエミリーとも一緒だったもので…」
「それにしてもこちら側に来るとは思いませんでした。成体が倒されたにもかかわらずこの短期間で来るとは」
「それに関してはこちらでも注意しているところです。一先ずは飛竜の胃を調べようかと」
「胃をですか?」
「胃の内容物を調べれば、飛竜がどのような状態でここまで来たのかが分かるはずです」
「…確かに。では現場にはカリンと他に2名ほど供を連れましょう」
「助かります。こちらはカークスと私とティアの3名が同行します」
「皆さん一緒ではないのですか?」
「近隣に来たとあれば村の人も心配でしょう。万が一、他の飛竜が近くに来たことを考えると全員で行くのは危険だと思うので」
「それは助かります。カリン、ティア殿たちと一緒に現場に向かってくれ。その間に村のものにはわしから話しておく」
「わかりました。ティア、行こう」
「ええ」
カリンと一緒に長老の家を出る。出たところで2人のハーピーが待っていた。この人たちが長老の言っていた供の人なのだろう。簡単に挨拶を済ませ、私たちは現場に向かう準備をする。
「ティア、気を付けてね!」
「エミリーこそキルドの言うことをちゃんと聞くのよ」
エミリー、キルドと別れ再び森へと入っていく。森の中では重苦しい空気が蔓延する。
「しかし、ここまで飛竜が来るとは…」
「カリンたちが倒してくれてよかったよ」
「まあね。でも、こんな近くにくるなんてどうしてだろう?」
「調べてみないと分からないけど、あんまりよいことではなさそうね」
今日はすでに魔法も使ってしまっているので、できるだけ力を温存して現場に向かう。到着するとそこはまだ戦いが終わった後のままだった。
「これが飛竜か。解体の時にも見たが、やはり大きいな」
「成体よりは小さいけどおそらく巣立ちはしているのでしょうね」
飛竜は私の魔法により中央部のみ損傷が激しい。ちょうどそこのところをカークスが剣で切り開いていく。
「やはり、硬いうろこだな。骨が折れる」
「がんばってカークス。他に切れる人いないから」
実際、爪や槍ではあまりに時間がかかりすぎるし、ここはカークスに任せるほかない。5分程度かかって胃のところまで切り進める。
「ここらへんか。フォルト確認してくれ!」
「ああ、これのようだな。カリンたちも一緒に確認をしたいから近くに来てくれ」
そういうとカリンたちは飛竜に近くに集まる。私もどんな状態か確認するために近くによる。
「じゃあ、開くぞ!」
フォルトが腰の短剣を使って飛竜の胃を切り開く。中から出てきたのはここでとった木の実とわずかな肉のみだ。
「なんだこれ?」
「ああ、この大きい胃袋にこれだけか」
「ねえティア、この木の実って」
「たぶん、今さっき食べたものでしょうね。となるとこの飛竜はほぼ何も食べられない状態でここに来たという事ね」
「食糧事情が良くないのだろう。この前、私たちに成体の飛竜が敗れ縄張りの拡大が止まった。えさを求めようとしても他の飛竜の縄張りには手が出せない。飢えに苦しんだ挙句、こちら側に来ざるを得ないという事か」
「やはり、相当数の飛竜がこちらに移動してきた影響だな。渓谷は植物も少なく、この森の周辺以外は余り生物もいない。主の周辺をうろついてでも食料を求めたという事だな」
「だったら、またこいつらが来るというのか…」
「残念ながら、主に直接会う山間から川のところはともかく、少し南の村周辺には来るかもしれないわ」
「何とかして追い払うことってできないの?」
「元の場所に帰らせるか、渓谷の村側の飛竜を倒して縄張りを開けない限り、難しいだろう」
「どっちにしろ難しい問題ね」
「だが、数が不明なところに飛び込むよりも飛竜がこちらに来た原因を取り除く方がまだましかもな」
「そちらの方が強いという事がなければな」
「私たちはどうすれば…」
「ひとまずは長老様に報告するとして、この周辺に来るときはカリンとセイラを連れてくるしかないわね。残念だけど」
「セイラを?」
「カリン、みんなに言ってないの?」
「あ~、そういえばまだちゃんと言ってないや。セイラは魔法が得意なのはみんな知ってると思うけど、この前、ティアたちから魔法を強力にする道具をもらったから頼りになると思うよ」
「しかし、何もまだ小さいセイラでなくとも…」
「それが、セイラにしかうまく扱えないみたいで、私たちにも使いずらいの」
「…そうなのか」
「だから、セイラには危険な目にあわせて申し訳ないけど、この周辺に来るときは来てもらった方がいいわ」
「わかった。長老様にも我らからも言っておこう」
「それで、こいつはどうする?」
「ここに放置していて、他の飛竜が来ても厄介だし村に運ぼう」
「分かったわ、カリン運びたいからみんなに持つところ指定して」
「分かった。カークスはしっぽの方で、フォルトが首。わたしたちは足としたから押し上げるのをするよ」
「了解。じゃあ、カークスとフォルトには魔法掛けるわね」
私は、2人に翼の魔法を使うとそれぞれ配置につく。
「じゃあ、今からカリンと2人で風の魔法で持ち上げるから、飛竜の体が浮いたらみんなで持ってね」
「了解~」
カリンの返事とともに私たちは魔法で飛竜の体を浮かす。浮いたことろをみんなが各部を支える。支えたことを確認した私は重量軽減のための魔法を使用して持ち運べるまで軽くする。
「みんな、動かせる?」
「…ああ、大丈夫だ」
カークスが実際にみんなに合図を送って、移動させて見せた。
「じゃあ、そのまま村までお願いね。私も後ろからついていくから」
風の魔法で浮いた私はそのまま飛竜を運ぶみんなの後ろについていく。以前に運んだ時と違って、人数が少ない為に慎重に運ぶ。村に飛んで戻るときの倍以上の時間がかかったが、ようやく運ぶことができた。運んできた飛竜は広場の奥側に置かれ、広場にはすでに村人たちが集まっていた。
「ほんとに飛竜だわ」
「長老様の言った通り、森の奥で見つかったのね」
「今度からどうするのかしら?」
口々に不安な声が聞こえてくる。前に飛竜を見たときは、これでひとまず安心できるという事だったが、今回はその上で現れた脅威だという事が見て取れる。
「やっぱり動揺しているな」
「無理もないわよ。この前まで村から出ることも難しかったんだから」
私たちも小声で話していると、長老が飛竜のもとまでやってきてひとまず倒すことができて脅威は去ったことを、改めて告げる。その後は少し待っているようにと村人に言い聞かせ、私たちのところへとやってきた。
「すみませんな、皆動揺しておりまして」
「無理もないでしょう。この前までの脅威が再び現れてしまっては」
「そうですな。しかし、聞いた通りなかなかの大きさのものですな。して、どうでしたか?」
「結論から言って、飛竜の胃にはわずかな食料しかなかった。十分なエサがない為にここまで来たという見方だ」
「…それではまた来るという事ですかな?」
「可能性としては高いだろう。この土地にやってきた飛竜そのものを何とかするしかない」
「元居た場所にでも帰ってくれればよいのですが」
「こちらでもその方法が一番良いとは考えているんです。しかし、その間はこのようなことも起こるかもしれません」
「撃退するといっても、この村にはそこまでの力はありませんし…」
「長老様、それなんだけど…」
カリンがセイラの件について改めて長老に話をする。長老には魔光玉の件の時にセイラのことも話してあるので意図を察したようだ。
「しかしそれは危険なのでは?」
「確かにそうでしょう。ですが、この村の中で幼体といえど、抑えることができるのが今はカリンとセイラしかいないんです。彼女には無理をさせてしまいますが、そうでもしなければ守ることは難しいでしょう」
「何とも情けない話ですな。カリンに続いてセイラに頼ることになろうとは」
長老は力なく返事をする。他に手がないという事は分かっているのだろうが、守るべき子供たちに守られる現状に歯がゆいのだろう。
「話は分かりました。村のものにも説明するとします」
長老は私たちから離れると、再び村人に向き直り、状況の説明と今後の方針を改めて行う。予想通りカリンに対してはある程度の理解が得られたものの、セイラの件については一定の反発が上がる。親からしたら今回がセイラの番というだけで、今後すぐに第2、第3と呼ばれる可能性があることも起因しているからだろう。
「皆の危惧しているところはわしも理解しておる。セイラの親にも申し訳ないと思う。しかし、この村の戦力はまだまだ少ない。今はどうか耐えて欲しい」
村人に対して、これ以上の譲歩は村を危険にさらすと改めて説明し、長老は頭を下げる。村を守るものとして一切を取り仕切ってきた長老に頭を下げられては村人たちも受け入れざるを得ない。セイラの親も言いたいことはあるだろうけれど、頭を下げて何も言わないでいる。
「セイラお前大丈夫か?」
「あぶないよ」
子供たちもセイラのことを心配している。当然ながらやめておいた方がいいという声も聞こえる。
「ううん。みんなにお世話になってるし、お母さんを助けてくれたティアさんみたいになれるよう頑張るよ」
どうやらセイラちゃんの方は問題ないようだ。一切、話ができる状況ではなかったためこれ自体はありがたいのだが。
「無理しないか心配ね。カリン、頼むわよ」
「うん!きちんと見るから」
何とかまとまりを見せたところで今日のところは一時解散となり、持ってきた飛竜は後日解体することとなった。
みんなが帰る中、セイラちゃんとその親は長老の家に行き、今後の生活について話し合うとのことだ。
「大変なことになっちゃったね」
「そうね。でも、これは村全体で切り抜けないといけないことだから」
所詮私たちはこの村に滞在することはあっても、居住するわけではない。常日頃からどうするかは村で考えないといけないことだ。
「なんにせよ。騒ぎが収まって良かったんじゃない?」
「そうね。キルドの言う通りかもね」
去ったと思った脅威が再び現れて、パニックにでもなったら大変だった。すぐには気持ちも切り替えられないだろうけど、治まったのは長老の徳なのだろう。
「出発とかはどうするの?」
「予定通りに進める。こっちの問題に干渉しすぎてもいかんしな」
「カークスの言う通りね。それに、この問題を解決するためにも一旦、王都に戻って情報を集めないとね」
「ちゃんと金になるようにしろよ」
「分かってるわよ。ギルドには私から話をしてみるわ」
長老たちにも話した通り、今の現状でこの谷から飛竜を追い出すのは難しい。となればここに来た原因を取り除くしかないだろう。関わってしまった以上は何とかしてあげたい。ただし、冒険者としてきちんとした依頼によってだ。
王都のギルドに調査依頼を出してもらえば、みんなとしても正規に依頼を受ける形になり冒険者としても面目が立つ。どのような経緯であれ、無給の仕事はしてはいけないのが鉄則だ。私たちの対価は命なのだから。
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