少女勇者、女神の依頼はお断り

弓立歩

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プロローグ

別離と女神

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「どこだ!? 多いのか?」

「ん、なんだ?」

「何か騒がしいわね」

 テントに戻り、寝ようとしたところで声が聞こえてきた。どうやら護衛の人のようだ。

「何かあったか?」

「あ、いや、どうやら前に魔物がいるようだ。すぐに追い払ってくる」

「そうか、頼む」

「あなた、なんだったの?」

「この先で魔物が出たらしい、念のためカティアを起こしてくれ」

「でも、この辺は安全よ?」

「一応だ。ほら、剣を持ちたがってただろ? もしかしたらこれで持つ気もなくなるかもしれんぞ?」

「しょうがないわね」

 乗せられているとはわかりつつも、カティアに危険なことはしてほしくないので優しく起こす。


「ん…どうしたの?」

「ごめんねカティア。魔物が出たみたいなの。危なくはないんだけど、お父さんが起きてなさいって」

「わかった~」

 ねむくてまぶたをこすりながら体を起こす。

 ピコピコ フリフリ

 うん、みみとしっぽの調子はばっちりだ。

「魔物どこ~」

「ここには来ないわよ。それより、お出かけ用の服を着て靴も履いておきなさいね」

「は~い」

 眠いのを我慢しつつ用意をする。


「あなた、様子はどう?」

「妙だ。護衛の冒険者たちが帰ってこない。御者!」

「はい」

「どうなっている? 道を戻った方がいいんじゃないか?」

 この辺の魔物相手に戻ってくるのが遅すぎる。

「すぐ戻ってきますよ。馬車の中にいる人を起こしたくないんでね。もう少しお待ちください」

「しかしだな…」

「だっ、駄目だ!」

「ご、護衛の…どうでしたか?」

「奴らいくらでも湧いてきやがる! もう保たない、早く逃げろ!」

「な、なんですと! こうしちゃいられん!」

 御者はすぐに乗客を起こそうと大声を出す。しかし、それがいけなかった。驚いた馬は手綱を引くものがいないまま、真っ直ぐ街道を魔物のいる方向へと進んで行く。

「あ、ああ…馬車が…」

「くそっ! 今からじゃ追いつけん。おい!」

「はいっ!」

「こうなったらやむを得ない。テントに残った客を起こしてすぐに逃げるぞ!」

「で、ですがまだ護衛が……」

「逆だ。護衛が持ちこたえている今しかない! さぁ!」

「わかりました」

 御者がテントの人間に声をかけているのを見てため息を吐く。今いる客の中で戦えそうなのは一人だけだ。それもあっちもどこかのお嬢様の護衛だろう。うまく話が進めばいいが。

「全く……」

「あなた、状況は?」

「最悪だな。すぐにここを離れる。カティアは?」

「今、用意させてます」

「とんでもない里帰りだ」

 せめてあと一日ずれていれば……そう思わずにいられなくなり、空を睨む。

「あっ、あの……」

「起こしたか?じゃあ、説明してすぐに逃げるぞ」

「どこへ?」

「戻るしかないだろう!」

 この非常時にもう少しうまく動けないのかと、つい怒鳴ってしまう。それぐらい今は時間が惜しいんだ。

「ひっ、はいっ!」

「あんたは?」

 俺は戻ってきた護衛に声をかけた。

「このまま護衛につく」

「すまん」

 仲間の元に戻りたいだろうに。だが、逃げるための戦力は是が非でも欲しい。今、彼に戻られるだけでそれこそ命取りだ。


「お父さ~ん、起きたよ~」

「おお~、カティア起きたか。ちょっと今忙しくてな。元気か?」

「うんっ! ちょっとねむいけど、元気!」

「よ~し、いい子だ」

 そう言ってお父さんは頭をなでてくれる。大きくて安心できる手だ。

「カティア、いいか良く聞け。今、こっちに魔物がやってきている。このままじゃ、みんな襲われるから逃げるぞ」

「どこに逃げるの?」

「馬車で来た道を走って戻るんだ。出来るな?」

「うんっ!」

「よしっ、行くぞ!」

 その場に残っていたわたしたちは、お父さんの声を合図に来た道に向かって走り出した。


「あとどれくらいかかるか?」

「馬車で2時間だからな。俺達が歩きだったはいえ、1時間半はかかるだろう」

「くそっ!」

「あなた、落ち着いて」

「ああ、解っている。だが…」

 十分ほど進むと、後ろから唸り声が聞こえてきた。どうやら魔物が追いついて来たみたい。

「まだ1時間はある。スピードを抑えているとはいえ、早い」

 カァアアー

「空か!? しまった。街道から行く姿を見られていたのか……」

「ど、どうするんだ!? もう追い付かれるぞ」

「…誰かが残るしかない。ここで時間を稼ぐんだ」

「そ、そんな!」

「なら俺が残ろう。この先どうなるか分からんが、俺が残れば乗客に対して平等ではあるだろう」

 ここまで付いてきた護衛の人が残ると言い出した。大丈夫なのかな?

「いいのか?」

「だが、一人ではすぐに突破される。もうひとりかふたり欲しい」

「なら……」

「それなら私が残りましょう」

「セシリア!?」

 お父さんが口を開きかけた時、お母さんがそう言った。

「何を言っているんだ!」

「でも、元々私は体も強くないし、これ以上は走れないもの。それに私なら足止めが出来ると思うの。あなたなら分かるでしょう?」

「確かにそうだが……」

「時間がないわ! さぁ、早く!」

「……解った」

「俺も残ろう。ナイフと格闘術だけだが、奥さんだけ残して逃げられん」

「シュナイダー!」

「頑張って逃げて下さい」

 各々の考えがあり、その場には三人が残ることになった。

「お母さん……」

「ごめんなさい、カティア。もっと、あなたの成長を見ていたかったのだけど」

 ぎゅっとわたしを強く抱きしめてくれたあと、お母さんはわたしから離れた。

「強く生きてね! さようなら」

「お母さん! まって…待ってるからね!」

 耳と尻尾をピンと立てながらわたしは強く、心から願った。それにお母さんは微笑んでくれた。

「さあ行くぞ。もう、時間がない」

「シュナイダー……」

「私はここで精一杯頑張ります。ケイト様も元気で」

「……ええ、ええ!」

「走るぞ!」

 お母さんたちを置いて再びわたしたちは走っていく。しかし、さっき空にいた鳥の魔物はまだ追いかけてきていた。

「ちぃ! こうなったら二手に別れるしかないな」

「ま、まさか森の中を……」

「上から見張られてるんだ。しょうがないだろう」

「では、私とこちらの御者さんは左手側で」

「いいのか? そっちは…」

「かわいいお嬢さんを差し置いてはなりません。それに、こういうのは運もあることです」

「すまん! 行くぞカティア!」

「はいっ!」

「わ、私も…」

「往生際が悪いですね。あなたはこっちです。最後が見知らぬ男と一緒になる私の身にもなってくださいな」

 こうして、女性と御者さんとも別れ、わたしとお父さんはふたりだけで森を進んでいった。



「さぁて、こいつらをどうしたもんか…」

「護衛の方は魔法を使えますか?」

「サッパリだ。おっさんは?」

「私もだ」

「では、私が援護しますから、巻き込まれないでくださいよ」

「ちなみに属性は?」

「火です。ただ、本格的に使うのは学生以来ですけど」

「学生以来だなんて、全くどこのお嬢さんなんだか。杖があればもう少し時間が稼げたのにな」

「ありますよ?」

「へ?」

 私は太もものスリットから短い棒を取り出すと、それを伸ばす。先端には小さいながらも立派な魔石が鎮座していた。

「よくそんなところにお持ちで」

「旅は何があるか分かりませんから」

「あ~、全くだ! いよいよ来たか。先制を頼む」

「了解ですわ。そちらの方も注意して下さいね」

「承知した」

「では……ファイアウォール!」

 私は炎の壁を作り出し、街道を進む魔物たちに押し当てる。

 ガァァァ

 ウォォォ

「分かってたけど、やな臭いだなっと!」

 ザシュ

「この臭いを感じられるうちが華だな。ふんっ!」

 ギググ

「なんとしても、時間をここで稼がないと……でも、横を抜けていく魔物まで手が回らないわね。あなた、信じてるわよ」

 こうして三人の最後の夜が始まった。



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