少女勇者、女神の依頼はお断り

弓立歩

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プロローグ

女神降臨

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 三人で戦線を維持するも、多勢に無勢。私たちは少しずつ魔物たちに押されてきました。

 ガァァァ

「ぐっ!」

「いけない! ファイア!!」

 ギャ

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。しかし、左腕はもうだめだな。ここは交代だ。殿しんがりは俺がやろう」

「あんた正気かい? 一人で抑えられる数じゃないぜ!」

「そうです。それに私も、もう逃げる体力もMPもありません」

「すまない。もう少しやれると思ったのだが…」

「この数じゃ無理だぜっと」

 グギャア

「…ここは私が抑えましょう。ふたりとも逃げてください」

 私は改めて覚悟を決める。元より、この体ではこうなることは残った時から分かっていた。

「逃げろったってあんたさっき自分で…」

「魔法使いはMPがなくなったからといって、全く何もできない訳ではないんですよ」

「!」

「それは…」

「そうそう、あなたにこれを渡しておきます。ふたりと会うことがあったら渡してください」

「これは?」

「私の家の家紋が入ったペンダントです。あなたがこの中で一番身軽で体力があるでしょう?」

「いいのか?」

「もちろん! 他人を巻き込みたくはありませんので」

 それに大事な私の思い出がここで失われるのも我慢ならなかった。

「ちっ! 後悔するなよ!」

「全く。では、最後の反撃と行きましょう! 私が手を上にあげたら全力で逃げてください!」

「ああ」

「分かった」

 そして、最後の反撃が始まる。私は残った魔力と生命力の全てを使って最後の魔法を唱える。

「今です! 退避を!!」

「ああ!」

「…」

「ライフ…バースト!」

 ふたりが下がったおかげで私に魔物が殺到する。魔物たちが私に攻撃しようとした瞬間ー―。

 ドォォン

 私を中心に大きな大きな火柱が上がった。

「ああ、これが私の最後の光…。もう少し、成長したカティアを見たかったわね。でも、これで…」

 私が目を閉じようとした時、視界の隅に影が映りこんだ。

「あなた、逃げなかったの?」

「俺は腕にかみつかれる前に腹を食われていてな。あいつからは見えない位置でよかった。今は鼻も効かんし、昼間でないことに感謝だ」

「ふふっ、おかしなところを気になさるのですね。それでは…」

「ああ、さらばだ」

 そうして、その場に残った二人の人間はぼろぼろと崩れていった。



 その少し前。

「お父さん、どっちに行くの?」

「…こっちだ」

 暗い森の中を少しでも前に進んでいく。しかし、夜のとばりも降りた中、木も邪魔でなかなか思うように進むことはできない。そうしていると、後ろから少しずつ魔物が迫ってきた。

「ちぃ! 抜けてきた奴か、早い」

 ズバッ

 お父さんが剣を一閃すると、たちまち追ってきた魔物が倒される。

「すごい! つよ~い」

「ああ、もちろんだ。絶対に町まで送るからな」

「うん!」

 そして、十分ほど経ったころだった。

 ドォォン

「な、なにっ!?」

「大きな火柱が…セシリア!」

「えっ、あれお母さんがやってるの? お母さん、すごかったんだね」

「ああ、お母さんはすごい人だ。あの炎を忘れないようにな」

「うんっ!」

 その時のわたしはその言葉の意味を知らぬまま、再び森を駆けていった。


「ふっ、はっ!」

 あれから一度だけ勢いは衰えたが、その後は魔物の勢いが増した。やはりさっきの火柱は…。

「お父さん、次は?」

「次はだな…くっ! オーガか、こんなタイミングで!」

 今の剣は騎士団を去る時の記念品だ。この剣でなければ簡単な相手だが…。

「持つか? いや、持たせる! カティア、そこを右だ!」

「うん」

 カティアを先に進ませ、自分は剣に気を送る。

「はぁぁぁぁ…練気剣!」

 錬気剣は気を剣に送り込み、切れ味を増すスキルだ。これなら、いくらオーガの堅い皮膚でも。

「せやっ!」

 俺の一撃はオーガの堅い皮膚を斬り割く。

「ふんっ、まだ俺の技術もさび付いていなかったか。さあ、こい!」

 それからも俺は魔物に追いつかれるたび、立ち止まって斬っていった。


 ギィン

「ちっ! とうとう折れたか…。カティア、ここから先はお前に任せる。自分の正しいと思う道を進め」

「お父さんは?」

「折れたとはいえ、まだ半分近く刀身が残っている。これだけあればまだまだ魔物は倒せるからな」

「そ、そんな…お母さんだけじゃなく、お父さんまで…やだよぅ」

 もう私も理解していた。あの火柱のあとから魔物たちが押し寄せるようになったこと。それの意味することを。

「泣くな。今お前をここに残したら、母さんに怒られるだろ? さあ、いけ!」

「う、うう…うわぁぁ~~~~」

 私は後ろを見ずにまっすぐに走った。走って走って、気が付くと洞窟の前にぽつんと立っていた。

「こ、ここなら、お父さんも見つけてくれるよね?」

 そう思って私はその洞窟の中に隠れることにした。


「さて、お前らの相手は俺だ。なに、この程度の長さがあれば十分だ。先に死にたい奴はどいつだ?」

 ヴヴ

 最初は俺の気に当てられてひるんでいた魔物だったが、やはり一人ということが勇気づけたのだろう。どんどん数を頼みにやってくる。

「はっ! いい覚悟だ。ここを通れると思うなよ!!」

 そう、俺はまだまだ死ぬわけにはいかない。カティアの無事を確認するまでは…。




 それから長い時間が経った。気が付くと辺りは明るくなっており、夜が明けたみたいだ。

「朝になっちゃった…」

 私は危険だとはわかりつつも洞窟から顔を出す。森の一部ではまだ火の手が上がっている。

「あっちは…」

 反対側を見る。多分だけど馬車が通ってきた方向だ。家の方だ。そっちも所々で煙が上がっていた。

「魔物、向こうにまで行ったんだ。みんな、大丈夫かな?」

 とりあえず、私はお父さんがやってくるまで待つことにした。

「明日になれば来てくれるよね。お父さん強かったし」

 そしてその日はほとんどを洞窟の中で過ごした。


 翌日…。

「お父さん、こないなぁ…」

 そうつぶやきつつも自分でもわかっていた。あれだけの数の魔物。それも、時間を追うごとに多くの魔物がやってきていたのだ。きっともうみんなは…。

「う、うう、うわぁぁぁぁぁ~~~!!」

 私は泣いた。お父さんと離れる時よりもずっと。魔物に見つかるとかどうでもよかった。悲しくて悔しくて辛くて、そうすることでしか今の感情を表現する術単語すべが分からなかったのだ。


『…勇者よ。勇者カティアよ、聞こえますか?』

 その時、私の頭に声が響いた。

「だ、だれ?」

『私は女神…』

「女神アーディシュラ」

 ぱぁぁぁと目の前が輝き、そこに現れたのは一人の美しい女性だった。

「め、女神様…?」

「そうです。あなたのその嘆きに応え、私はやってきました。さあ、あなたに私の加護を授けましょう!」

 女神さまはそういうと光の玉を作り出し、私の体にその光の玉を移して、こう続けた。

「そして、あなたのようなものを出さぬため、この大地に平和をもたらすために闇を倒す旅に出るのです…」

「は?いやです」

 私は女神さまの言葉だというのに、思わずそう言ってしまった。

「今なんと?」

「なんで、なんで今になってなんですか! 私はあんなに…あんなにお母さんやお父さんを助けたいと思ったのに!」

「そ、それは、神もほら万能ではないというか、真に力を欲することがないと出てこられないというか…」

「わ、私がお母さんたちに、みんなに死んでほしかったっていうんですか!!」

「いえ、そういうことでは…」

「私はあなたに用はありませんし、あなたの言うことも聞きません。帰ってください!」

「待ちなさい! この世界には邪神の魔の手が迫っているんです!」

「なら、もっと早く…三日だけでも早く目覚めさせてくれれば!」

「神は簡単には地上に出られないのです」

「じゃあ、なんで今は出てきてるんですか! もう、帰って!!」

 両親の喪失に心が沈んでしまっていた私は、これ以上話を聞くこともせず女神さまから手に入れた力で洞窟にこもった。



 そして、ラビリス森林の大火災及び、魔物の異常発生と呼ばれる事件から四年の月日が流れた…。


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