少女勇者、女神の依頼はお断り

弓立歩

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物語の始まり

番外編 助けられた男

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「俺は夢でも見たのか……」

 バーサーカーベアーを目の前で少女が倒した。それも異常だが、攻撃は物理だけとはいえ、魔法抵抗もそれなりのあの化け物を凍らせるなんて。

「そういや、なんであいつ俺の名前を知っていたんだ?」

 あの時あいつは急に現れた。仲間との会話を聞いているはずがない。

「と、とにかく今は戻らねぇと。あいつらが心配だ」

 バーサーカーベアーからは逃げられたが、それでもまだこの森は危険だ。こっちに気を取られてもたもた逃げてないといいが……。


「だから、捜索隊を!」

「あのねぇ、冒険者一人のために捜索隊なんて無理よ。しかも、行くのはラビリスの森でも奥地の大森林でしょう? いくらおおよその位置が分かるといっても、危険すぎます!」

「そんな! それじゃあ、リーダーは……」

「諦めなさい。そもそも、相手は五mもあるようなバーサーカーベアーでしょ?Bランクパーディーが準備をして挑む相手なのよ。今すぐ出せる捜索隊ならあなたたちと同じCランクよ。どうやって戦うの?」

「それは……」

「とにかく! そんな条件でギルドから依頼は出せないわ。やりたいなら自分たちで出しなさい。受けてくれる人がいればだけど」

「どうしたんだ?」

「エイパーさん!」

「マスター! いえ、この人たちが……」

「なんだ、よく見れば〝アーマー〟のクランか。リーダーはどうしたんだ?」

「それが……」

 私たちは必死に現状を説明する。

「ふむ。しかしな、クラウの言う通り危険すぎる。大体、相手はバーサーカーベアーだろう? お前たちが話を聞いていく気になるか?」

「ですが!」

「あ~、なんとか帰ったぞ……」

「リーダー!」

「オウカさん!」

「おおっ! 今お前の話をしていたところだ。しかし、話が本当ならどうやって逃げてきたんだ?」

「あっ、いや~。それがですね……」

 口をつぐむと、事情を察してくれたのかエイパーさんが奥に行くように指示してくれた。


「それで、どういうことだ? 話を聞けばお前がここにいることはおかしなことだが」

「おっと、エイパーさんが疑うのはもちろんだ。だが、こいつらは嘘はついてねぇ。だけど、俺だってまだ信じられてねぇんだ」

 俺は自分の目の前で起こったことを、クランのみんなとギルドマスターに説明する。

「そんなことが……」

「お前、夢でも見たんじゃないのか?」

「だが、それなら俺がここにいることがおかしいだろ? 俺のクラン全体で見た夢になっちまう」

「そうだな。しかし、突然現れた少女か」

「信じるんですか、マスター。そんなおかしな力を持った少女がいるなんて……」

「まあ、今は何ともだな。他にその少女の特徴は?」

「特徴……えっと、髪は金髪でそういや、耳としっぽがあったな。恐らく獣人の血が混じっているんだろう。あと、なぜか俺の名前を知っていたな」

「獣人で金髪だと!」

「ど、どうしたんですか?」

「い、いや、まさかな。そんなことがあるはずが……」

「何か心当たりがあるのか?」

「悪いがクラン全員に言うことではない。代表2名だけ残ってくれるか?」

「分かった。悪い、ミルカ以外は出てもらえるか?」

「……分かりました」

 皆、気にはなるもののしぶしぶ引き下がってくれる。いいクランを持ったもんだ。


「では、話すぞ。その前に結界を張る。クラウ、魔道具を持って来てくれ」

「はい」

 クラウさんが防音の結界を張る魔道具を持って来て展開する。

「そんなに聞いて欲しくないことなのか?」

「聞いて欲しくないというか、広めたくないことだな。これから言うことは絶対に漏らすな」

「はい」

「クラウもだ」

「分かりました」

「じゃあ、話すぞ。俺はお前の言った少女に心当たりがある」

「本当か?」

「ああ。それにお前も知っている子どもだ」

「俺が?」

「覚えていないか? あのラビリス大森林で起きた火災と魔物の発生を」

「ああ、四年前のことだな。覚えてるぜ、あの日はこのヘリオスの町にも魔物が到達したからな」

「私も覚えてます。夜中に町中がパニックでしたし」

「そうだな。この町や先の村のやつは忘れもしないだろうよ。そして、その日を境に見なくなった一家がいただろう?」

「見なくなった一家? そんなのいたか?」

「これが俺が話したくない理由だ。言えばお前らも気づいちまう。果物屋だよ」

「果物屋……あのおっさんの店か!」

「そうだ」

「で、でも、あの人たちって実家に帰ったんでしょ? 私、その少し前にカティアちゃんと話したわ」

 ミルカもそのカティアとは顔見知りだ。果物屋の看板娘でよく話していた。

「ああ、出発の日がその日なんだよ」

「じゃ、じゃあ……」

「あの日、魔物が発生したところにいた定期馬車にあの一家は乗っていたんだ。この町まで押し寄せる数だ。誰も助からない……そう思われていた」

「思われていた?」

「奇跡的に重傷は負っていたが、一人だけ生き残ったやつがいた。そいつの話からこのことも分かったんだが、その時、現場にいたやつは必死に一人の少女をかばって逃げていたんだ」

「そ、それがあの少女……」

「ああ、カティアって少女の遺体だけは現場から見つからなかった。痕跡もな。ただ、調査隊が出たのも町が襲われて、復旧後の二週間後だ。痕跡がなくとも変じゃない」

「そんな!? カティアちゃんが」

「ま、待て! それじゃあ、今日出会った少女がカティアなのか?」

「さっきも言ったが、少女の遺体や身に付けていたものは何一つ見つからなかった。あいつの父親の剣の切れ端は見つかったのにだ」

「お、おっさんの?」

「あいつは元騎士でな。俺も昔、一度だけ同じ戦場に立ったことがある。すごい太刀筋でな、アイアンゴーレムですらぶった切る腕の持ち主だ」

「そんなことができたの、あの人⁉」

「そういや、ガキどもがいくら頑張っても、あそこからは盗めてなかったな。やけに動きがいいと思ったら騎士だったのか」

「ただ、持ち出していた剣がな。騎士を退団する時に支給されるなまくらだった。戦ってる最中に折れたようだ。それでも、死んだと思われる場所には無数の魔物の死骸があったんだ。あいつがそれだけ本気を出してその場で魔物を倒す理由はたった一つだ」

「それじゃあ、オウカが見た少女がカティアちゃん?」

「しかし、あのラビリス大森林で生き抜けるか? あいつは当時、七歳ぐらいだったろ?」

「そうだ。我々も調査隊も最終的にはその結論に達した。しかしな、時々森で襲われると不思議な少女が助けてくれるという噂が商人たちにあるんだ。しかも、倒した魔物の素材と塩などの調味料を交換してほしいという」

「あの森の魔物の素材を調味料と!? レートを知らなさすぎるぜ」

「そうだろう? だからこそ、彼女があの森で生きているのだという可能性につながるんだ。あの場所の魔物の価値を知らずにたかが調味料と交換だ。しかも、魔物から助けた商人相手だぞ?」

「確かにそんな相手ならいくらでも吹っ掛けられますね。でも、そんな噂はこっちに入ってきてませんよ?」

「その少女が最後に毎回言うんだと、このことは人には話さないでくれってな。そして、噂の少女はみんな金髪なんだ」

「それじゃあ、本当に?」

「事実はわからん。しかし、オウカのことを知っているのなら可能性は高まったということだな。彼女の家族にも伝えるべきか……」

「家族?」

「ああ、あの一家が定期馬車に乗ったのも離れたところにいる家族に会うためだった。そこから捜索願が出ているのだ。まあ、これ以上はお前たちには話せんがな」

「あいつがカティアっていうなら俺たちだって知らない訳じゃない。今度会ったら連れてくる!」

「おいおい、また森に入るのか。今日の幸運を大事にしろよ」

「分かっている。明日からまた修行だ」

「オウカ、それじゃあ!」

「ああ、本人か確かめるまでは〝アーマー〟はあの森を目指すぞ!」

 こうして、俺たちの彼女を探すための日々が始まった。

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