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まだちょっと顔の赤いフィストと一緒に、ベンチに腰掛ける。やや小さめのベンチで2人以上は座れそうにないベンチだ。周りも同じサイズだからこれぐらいなのが街では一般的なんだろう。
「そういえばハンカチありがとうございます。確かにこうして下にひくと汚れませんね。でも、フィストのお洋服は大丈夫ですか?」
「この服は割と普段から着ているし問題ない」
「そうなんですね。あとまだお顔が少し赤いようですけど、ほんとに大丈夫でしょうか?」
「だ、大丈夫だ。そ、そうだ。さっき買ったネックレスだがつけてみないか?」
「いいですね!私も実はつけたくてうずうずしてたんです」
ごそごそとネックレスの入った箱を取りだす。中にはさっき買ったばかりのネックレスが入っていた。
「折角だから、着けてやろう」
フィストがそういうとネックレスをとって首元に手を伸ばす。
「ん、手元が見えないな」
顔と顔がすごく近づいてから横にずれる。
「ち、ちか…」
「もう少しだけ、待ってくれ。どうにもこういうのは苦手でな」
「は、はいぃ」
顔の右横にフィストの顔がある。なんだかそれからいい匂いがする。
スンスン
薬品や香水のような感じでもないし何だろう?
「終わったぞ」
「へっ、はい」
フィストが離れていくと匂いも消えてしまった。
「あっ!」
「ん?どうかしたのか?」
「い、いいえ」
「そうか?カノンこそ今は少し顔が赤いようだが…」
「ええっ!」
ぺたぺたとほっぺを触ったりして、感触を確かめる。
「なんだそれは?触って分かるわけがないだろう。おかしなことをするな。こっちだ」
フィストに手を掴まれてハンカチを落とさないよう掴んでベンチを立つ。
「この噴水なら少しぐらいは鏡の代わりになるだろう」
ベンチの裏にあった噴水を2人してのぞき込む。時々ぐにゃりとゆがむもののそこには、うっすらと頬が赤いフィストと化粧をしていてわかりにくいけど、赤くなった自分の頬が映っている。
「なんで私…この匂い」
さっきと同じ匂いがする。どこからだと思うとそれは手に持っているハンカチからのようだ。
「そっか、この匂いってフィストのなんだ…」
噴水の鏡越しにフィストの顔を見る。私を助けてくれた顔、得意げに研究所の説明をしてくれる顔、一緒にご飯を食べてくれる顔。きっと今は私を心配してくれる顔だ。こんな顔を向けられちゃったら変な気分になってしまう。
「どうだ?赤くなっていただろう?」
「は、はい。そうみたいですね」
それからもたくさん街を案内してもらえた。ちょっとだけ不思議だったのはベンチの広場にはそんなに人がいないのに、商店にはたくさんいたことだ。みんなやっぱり買い物が好きなんだろうな。
「そろそろ、時間だな。カノン、今日は楽しかったか?」
「はい!また来たいです!」
「そうか、ならまた時間があったら来よう」
私たちはそう約束して馬車まで戻って邸に帰る。帰ってくると全員が総出で迎えてくれた。
「「「「おかえりなさいませ」」」」
「はい。カノン、ただいま戻りました!」
そしてその日は楽しかったのだけど…。
「お嬢様、フィスト様と何かありました?」
「どうしてアーニャ?」
「いえ、最近あまり会話もされていないのではないかと…」
「そうなんだけど…目を見てると緊張しちゃって」
「緊張ですか?」
「お嬢様が緊張なんて珍しいですわ」
「そうなんだよね。この前、噴水越しにフィストの顔を見てからなんだか視線を合わせづらいの…」
「このままではよくないですね。あと、きちんと様をつけないとだめです」
「あっ、つい…」
どうしてもあの日のことがよぎってついついフィストと呼び捨てにしそうになる。それ以外に研究所でも―――。
「お嬢様!それは!」
「へっ?」
ボン
作成量を増やす調合で凡ミスをしたりしていた。
「珍しいですね。どんなにドジをしても、調合中にミスはなかったのに…」
「何なんだろうね?とりあえず今は『魔力病』の薬を作ることに集中しないと」
「みんな、調子はどうだ?」
「これは侯爵様。もう少しで、ご要望の量が完成します」
「フィストでいい。カノンも頑張ってるんだな」
「は、はい!ちょっとミスしたりしましたけど…」
「そうか。薬品には注意しないといけないものもあるだろう。気を付けてくれ。…ネックレス付けてくれてるんだな」
「ありがとうございます。…ぽろっと出ないように服の中ですけどね」
私は得意げに手を胸のところに入れてネックレスを取りだした。
「そ、そうだな。混ざってしまうと大変だな。じゃあ、これで失礼する」
フィスト様の後姿を見送ってからまた研究に戻る。はぁ~私はどうしてしまったんだろうか。さっきも、もう少しお話しできたはずなのに…。
「な、なあこれってこ…」
ヒュ
「無駄口をたたかずに手を動かすべきです。皆さんも不用意な発言は無しで」
「え、ええそうね。こっそり応援ってことで」
「そうですわ。繊細な乙女心が分からぬ男どもには特にね」
「ん?みんなどうしたの」
「いいえ、他のチームの状況もどうなっているのかと思いまして」
「そうだね。向こうも、王族の方の分は出来たと言っていたし、こっちも負けてられないね」
「そういえば最近、魔法使いを探していると言われてましたが、どうしてでしょうか?うちは薬学研究所ですよね」
「ああそれなんだけど実は…」
「「ええっ~~!!そんなことが」」
みんなびっくりしている。確かにわたしも最初は驚いたんだよね。だからこそあの国で完成するとはあまり思えない。あの日は珍しく疲れもたまっていて、かなり投げやりだったから。
「よく気が付かれましたね。さすがはお嬢様!」
「私たちでは気づけませんでしたわ」
「ですってお嬢様。その時のことを説明します?」
フルフル
アーニャの記憶力なら正確に覚えているだろう。あんな光景を話されるなんて絶対いや。それならまだ、神の啓示を受けたとかの方が…。いやいやこれもダメだ。教会って規律も厳しくて、私じゃ研究なんて続けさせてもらえないよ。
「そんなことはいいから、続きをやろう?」
「そうですね。この薬が早く行き渡るようにしなければ」
その日も少しだけ残って仕事を終えた。こうして3日ほど過ぎた後、夕食にて驚きの報告を受けたのだった。
「明後日に旦那様のご両親がこちらにお見えになります」
「そういえばハンカチありがとうございます。確かにこうして下にひくと汚れませんね。でも、フィストのお洋服は大丈夫ですか?」
「この服は割と普段から着ているし問題ない」
「そうなんですね。あとまだお顔が少し赤いようですけど、ほんとに大丈夫でしょうか?」
「だ、大丈夫だ。そ、そうだ。さっき買ったネックレスだがつけてみないか?」
「いいですね!私も実はつけたくてうずうずしてたんです」
ごそごそとネックレスの入った箱を取りだす。中にはさっき買ったばかりのネックレスが入っていた。
「折角だから、着けてやろう」
フィストがそういうとネックレスをとって首元に手を伸ばす。
「ん、手元が見えないな」
顔と顔がすごく近づいてから横にずれる。
「ち、ちか…」
「もう少しだけ、待ってくれ。どうにもこういうのは苦手でな」
「は、はいぃ」
顔の右横にフィストの顔がある。なんだかそれからいい匂いがする。
スンスン
薬品や香水のような感じでもないし何だろう?
「終わったぞ」
「へっ、はい」
フィストが離れていくと匂いも消えてしまった。
「あっ!」
「ん?どうかしたのか?」
「い、いいえ」
「そうか?カノンこそ今は少し顔が赤いようだが…」
「ええっ!」
ぺたぺたとほっぺを触ったりして、感触を確かめる。
「なんだそれは?触って分かるわけがないだろう。おかしなことをするな。こっちだ」
フィストに手を掴まれてハンカチを落とさないよう掴んでベンチを立つ。
「この噴水なら少しぐらいは鏡の代わりになるだろう」
ベンチの裏にあった噴水を2人してのぞき込む。時々ぐにゃりとゆがむもののそこには、うっすらと頬が赤いフィストと化粧をしていてわかりにくいけど、赤くなった自分の頬が映っている。
「なんで私…この匂い」
さっきと同じ匂いがする。どこからだと思うとそれは手に持っているハンカチからのようだ。
「そっか、この匂いってフィストのなんだ…」
噴水の鏡越しにフィストの顔を見る。私を助けてくれた顔、得意げに研究所の説明をしてくれる顔、一緒にご飯を食べてくれる顔。きっと今は私を心配してくれる顔だ。こんな顔を向けられちゃったら変な気分になってしまう。
「どうだ?赤くなっていただろう?」
「は、はい。そうみたいですね」
それからもたくさん街を案内してもらえた。ちょっとだけ不思議だったのはベンチの広場にはそんなに人がいないのに、商店にはたくさんいたことだ。みんなやっぱり買い物が好きなんだろうな。
「そろそろ、時間だな。カノン、今日は楽しかったか?」
「はい!また来たいです!」
「そうか、ならまた時間があったら来よう」
私たちはそう約束して馬車まで戻って邸に帰る。帰ってくると全員が総出で迎えてくれた。
「「「「おかえりなさいませ」」」」
「はい。カノン、ただいま戻りました!」
そしてその日は楽しかったのだけど…。
「お嬢様、フィスト様と何かありました?」
「どうしてアーニャ?」
「いえ、最近あまり会話もされていないのではないかと…」
「そうなんだけど…目を見てると緊張しちゃって」
「緊張ですか?」
「お嬢様が緊張なんて珍しいですわ」
「そうなんだよね。この前、噴水越しにフィストの顔を見てからなんだか視線を合わせづらいの…」
「このままではよくないですね。あと、きちんと様をつけないとだめです」
「あっ、つい…」
どうしてもあの日のことがよぎってついついフィストと呼び捨てにしそうになる。それ以外に研究所でも―――。
「お嬢様!それは!」
「へっ?」
ボン
作成量を増やす調合で凡ミスをしたりしていた。
「珍しいですね。どんなにドジをしても、調合中にミスはなかったのに…」
「何なんだろうね?とりあえず今は『魔力病』の薬を作ることに集中しないと」
「みんな、調子はどうだ?」
「これは侯爵様。もう少しで、ご要望の量が完成します」
「フィストでいい。カノンも頑張ってるんだな」
「は、はい!ちょっとミスしたりしましたけど…」
「そうか。薬品には注意しないといけないものもあるだろう。気を付けてくれ。…ネックレス付けてくれてるんだな」
「ありがとうございます。…ぽろっと出ないように服の中ですけどね」
私は得意げに手を胸のところに入れてネックレスを取りだした。
「そ、そうだな。混ざってしまうと大変だな。じゃあ、これで失礼する」
フィスト様の後姿を見送ってからまた研究に戻る。はぁ~私はどうしてしまったんだろうか。さっきも、もう少しお話しできたはずなのに…。
「な、なあこれってこ…」
ヒュ
「無駄口をたたかずに手を動かすべきです。皆さんも不用意な発言は無しで」
「え、ええそうね。こっそり応援ってことで」
「そうですわ。繊細な乙女心が分からぬ男どもには特にね」
「ん?みんなどうしたの」
「いいえ、他のチームの状況もどうなっているのかと思いまして」
「そうだね。向こうも、王族の方の分は出来たと言っていたし、こっちも負けてられないね」
「そういえば最近、魔法使いを探していると言われてましたが、どうしてでしょうか?うちは薬学研究所ですよね」
「ああそれなんだけど実は…」
「「ええっ~~!!そんなことが」」
みんなびっくりしている。確かにわたしも最初は驚いたんだよね。だからこそあの国で完成するとはあまり思えない。あの日は珍しく疲れもたまっていて、かなり投げやりだったから。
「よく気が付かれましたね。さすがはお嬢様!」
「私たちでは気づけませんでしたわ」
「ですってお嬢様。その時のことを説明します?」
フルフル
アーニャの記憶力なら正確に覚えているだろう。あんな光景を話されるなんて絶対いや。それならまだ、神の啓示を受けたとかの方が…。いやいやこれもダメだ。教会って規律も厳しくて、私じゃ研究なんて続けさせてもらえないよ。
「そんなことはいいから、続きをやろう?」
「そうですね。この薬が早く行き渡るようにしなければ」
その日も少しだけ残って仕事を終えた。こうして3日ほど過ぎた後、夕食にて驚きの報告を受けたのだった。
「明後日に旦那様のご両親がこちらにお見えになります」
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