絆鍛冶師の縁鎚――孤高青年が仲間と紡ぐジョブリンク大戦記

乾為天女

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第3話_最初の“縁武具”――木漏れ日の短剣

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 王都リオストの西、街の喧騒が届かぬ外縁に、放棄された庭園とは別の静かな領域があった。かつて貴族の別邸だったらしいが、現在は領有権が消失し、誰の手にも渡っていない“管理放棄区域”――そこに、異変が発生していた。
 「ツタが門を食ってる……いや、飲み込んでるな」
  葵翔が目を細めて呟いた。目の前の古びた石造の門は、濃緑の蔓に完全に覆われ、元の形さえ判別できないほどだった。
 「依頼文には“庭園内での植物暴走”としかなかったけど、これは明らかに……自然の摂理を超えてるわね」
  咲耶が情報記録板に手を走らせる。風にそよぐ彼女の上衣の隙間から、きちんと折りたたまれた魔術地図がのぞいていた。
  そしてもう一人、今回の依頼同行者がいた。
 「よっし……やるぞ、今日は俺の出番だな!」
  快活な声とともに現れたのは、茶色の短髪に鋭い眼差しをもつ青年――洋平。王都でも名の知れた“前のめりな”冒険者であり、翔や咲耶とは別の隊で活動していたが、今回、王都ギルドの推薦で臨時同行者として任命された。
 「俺、こういう“突破”系の依頼、得意なんだよ。壁でもツタでも、真正面から殴って入ればいいんだからさ!」
  「……典型的な理想主義者」と、咲耶が小さく呟いたが、翔は意外とその言葉には頷かず、むしろ真剣な顔で洋平を見た。
 「理想を前に出せる奴は、強い。俺とは違うタイプだが、……悪くない」
  翔は左手に力を込め、“縁”の糸を呼び出す。すると、彼の視界に、洋平と自分を結ぶ一本の糸が現れる。
 (この縁は……“真正面から進もうとする意志”)
  翔は、打つと決めた。携帯鍛錬炉を地面に据え、金属片をセット。魔導火を点火し、ハンマーを振り上げる。
 「リンクフォージ――開始」
  一打、また一打と響く金属音。縁の糸が振動し、鍛錬台に力が宿る。そして現れたのは、草を払う光を宿した一本の短剣。淡い緑の刃が木漏れ日のように揺らめく。
 「“木漏れ日の短剣”……?」
  咲耶が名をつけたそれは、光の揺らぎで生い茂るツタを弱らせる特性を持っていた。
 「こいつを渡す。お前にしか使えない。俺の“縁”を打ち込んだ武具だからな」
 「おお……まじか! ってか、軽い! そして、手に持ったらツタの気配が……引いた?」
  洋平は歓声を上げるやいなや、門に向かって一直線に走り出した。
  刃が振るわれるたび、ツタが光に晒されて黒く枯れ落ちていく。
 「いいねえ! 理想ってのはな、こういう突破力のことを言うんだ!」
  翔と咲耶も後に続く。
  門の先には、薄暗い庭園が広がっていた。天井を失った温室の残骸、崩れた石像、歪んだ木立――だが奥に見える白い小屋から、何か“呼んでいる”ような感覚が翔に届いていた。
 「……何かが、縁の波を発してる」
 「この揺れ方、ただの自然物じゃない。おそらく“擬似生命体化”した植物種よ。元の庭園で使われていた、魔力循環式の肥料か水系が暴走した結果かも」
  咲耶の考察に、翔が頷いた。
  そして洋平が叫ぶ。
 「来たぞ、正面! ……動いてるぞ、あれ!」
  白い小屋の奥――巨大な植物の塊が、まるで意思を持つかのように蔓を振り回して立ちはだかる。
  この戦いが、翔にとって“縁武具”という新たな戦い方の第一歩となることを、誰もが理解し始めていた――


 庭園の最奥、白い小屋の前に鎮座するそれは、異様な存在だった。
  半ば溶け崩れた温室の残骸を取り込み、植物とも獣とも判別のつかない形を成すその“塊”は、複数の蔓と太い幹を軸にしながら、明らかにこちらを“見ていた”。
 「擬似魔性植物体……いや、これはもう“魔獣化”一歩手前ね」
  咲耶が静かに呟く。だが声には怯えがない。戦場を読む冷静さがあった。
 「なら、斬って突破するのみだな」
  洋平がにやりと笑い、翔が打ち出した“木漏れ日の短剣”を構え直す。
  刹那、蔓が猛スピードで襲いかかった。
 「来るぞ、右斜め!」
  咲耶の予測通り、空気を裂いて襲う一撃を、洋平が短剣で迎え撃つ。
  緑の光が刃から放たれ、接触した蔓を一瞬で枯らす。
 「効いてるぞ、翔! こいつ、たぶん“光”に弱い!」
 「ああ、木漏れ日の刃は“縁”で生まれた。お前の“まっすぐ突き進む理想”と俺の“確かめたいという意志”の結晶だ。抜かずに貫ける武器だ」
 「うるせえ、カッコよすぎるぞ、こら!」
  叫びながら、洋平が突進。翔はその背に光を集め、“縁”の補助術式を展開した。
  微細な“縁の糸”が洋平の足元に浮かび、着地を補正。踏み込みのブレを抑える。
 「跳ぶ!」
  洋平が叫び、蔓の上を蹴って跳躍。真上から魔性植物体の中心へ、一直線に短剣を突き刺した。
  断末魔のような軋みとともに、魔性の樹体が黒く染まり、崩れていく。
  枯れた根がぱらぱらと落ち、静寂が戻った。
  翔と咲耶が駆け寄ると、洋平は地面に腰を下ろして息を吐いていた。
  短剣は刃先こそ摩耗していたが、まだ力を宿していた。
 「……なんか、すげぇもん作ったな、翔。これ、マジで“縁”の力なのか?」
 「ああ。お前が“まっすぐ進もうとした”から、斬れた。俺の力は、誰かの“意志”なしには、形にならない」
  翔が静かに言うと、洋平は満足そうに笑った。
 「……気に入ったぜ。そのジョブ。俺みたいな変人にピッタリじゃねえか」
 「変人、というか、猪突猛進よね。……でも、今日の成果は本物」
  咲耶が記録板に報告をまとめながら、ちらと翔を見る。
 「この“縁武具”が正式に機能することが証明された。あとは……用途の幅を試していければ、王都での立ち位置も安定する」
  翔は頷き、再び短剣を手に取る。
  刃の緑光は、もう消えかけていた。だが、その柄には、確かに“洋平との縁”が刻まれていた。
 「一本目の“縁武具”だ。忘れない」
 「おいおい、いきなり記念品扱いかよ。俺、次も使わせろよな」
 「使えるならな」
  ふたりのやり取りに、咲耶が苦笑する。
  そのとき、魔性植物の中心から、ひとつの光の欠片が落ちた。
  魔力反応を帯びた“種子”。
 「これは……魔力反応残ってる。翔、これ、次の“素材”になるかもしれないわ」
 「縁の中に、残留記憶があれば……試す価値はあるな」
  翔はその種子を拾い上げ、そっと懐へしまった。
  縁を鍛えるということは、決して過去に縛られることではない。
  誰かの思いを“未来へ繋ぐ”。その可能性こそ、彼のジョブ〈絆鍛冶師〉の本質だった。
  その夜、ギルド〈蒼盾〉の依頼報告板に一枚の報告書が貼り出される。
 《依頼完了:庭園植物暴走鎮圧/討伐完了・副次魔性反応沈静済》
 《特記:新規ジョブ“絆鍛冶師”による縁武具“木漏れ日の短剣”が確認され、対象への特効効果を発揮》
 《推薦:Dランク昇格審査対象》
  静かに、それでいて確かに――
  葵翔の名が、ギルドの壁に刻まれていく。
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