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第4話_場を照らす言霊スピーカー
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王都リオスト南区、冒険者ギルド〈蒼盾〉に隣接する酒場〈銀杯〉は、夕刻になると灯りと声と笑いが溢れ出す、冒険者たちの第二の拠点だった。依頼帰りの武勇談、失敗談、無意味な賭け事、時には小競り合いさえも――すべてが、ここでは“余熱”として歓迎される。
その日、翔たちの依頼完了を祝して、ささやかな打ち上げが開かれていた。
「いやー、あの植物、マジでやばかったよな! 最後の飛びかかり、あれ絶対、花粉爆発か何かだったぞ!」
豪快に笑いながら杯を掲げるのは洋平。隣で咲耶が器用にその勢いを避けつつ、笑みをこぼす。
「……言ってることは正しいけど、少し飛沫が飛んでる。ほどほどにね」
「まあまあ、細かいこと気にすんな! 勝ったんだし、祝おうぜ! な、翔!」
翔はと言えば、静かに麦酒を一口。にこりともせず、しかし明らかに表情は柔らいでいた。
その時、扉が派手に開いた。
「おっ、噂の新入りパーティ、来てんじゃーん!」
そう言って手を振りながら入ってきたのは、胸元のブローチが目を引く少女――琴音だった。艶やかな紫色の髪を揺らし、笑顔全開でこちらへ向かってくる。
「やっほー咲耶! そして……これが、あの翔くんね?」
翔が少しだけ目を細めると、琴音はにっこりと手を差し出した。
「はじめまして! ギルド内通称“銀杯の騒音女”こと、私が琴音でーす!」
「自己紹介に“騒音”って入れるやつ初めて見たわよ……」と咲耶がぼやいた。
「いいのいいの、覚えやすいし! 実際、ここに来ると場が一気に静かにならなくなるって評判なの!」
「それ、評判って言えるのか?」
洋平が呆れ混じりに言いながらも、琴音の隣に席を詰めて座らせる。
だが、騒がしさは長くは続かなかった。
突如、店の奥で“パンッ!”という破裂音が響いたかと思うと――酒棚の裏から、黒煙とともに何かが飛び出してきた。
「げっ、まさかの暴発……!」
店主が叫ぶと同時に、奥の個室から逃げ出してきた二人組の客。そのうち一人が、なにやら銀色の球体のようなものを投げ捨てる。
「魔術道具だ、こいつら密売人!」
咲耶の叫びが響いた瞬間、銀の球体が床を転がり――「ギギィィィィィィィ」という、耳を裂くようなノイズが辺りに満ちた。
店中の人々が頭を抱え、悲鳴をあげる。
翔は苦悶に歪んだ顔をしながら、懐からすぐに鉄片と小型鍛錬炉を取り出す。
「縁を打つ……!」
「待って、これ……“言霊反響呪詛”。人の“声”に反応して増幅するタイプ!」
咲耶がそう叫んだ瞬間、琴音がバンッと椅子に立ち上がった。
「じゃあ、逆にやるよ! “場”の空気、私に任せて!」
彼女は、声を張るでもなく、笑うでもなく、まっすぐに手を胸に当ててこう言った。
「ここにいるみんな! 大丈夫だよ! この声、ちゃんと届いてるから!」
その瞬間、不思議なことが起きた。空気が一瞬澄み、ノイズがほんの少しだけ和らいだのだ。
翔の目に、琴音と場の人々をつなぐ“縁”の糸が、光を帯び始める。
(これは……“声を届ける縁”……)
即座に鉄槌が振り下ろされる。ハンマーと鉄片の接触点が閃光を放ち、“縁”が形をとった。
現れたのは、小さな、拡声用の金属製ホーン――否、それはただの道具ではなかった。
「“言霊スピーカー”」
翔が名を呟き、琴音にそれを投げ渡す。
「これを使え。お前の“声”、誰よりも強い」
「――了解!」
琴音はそれを手に取り、真っ直ぐに口元に添えた。
「うるさいのは、私の担当! アンタらの呪詛なんか、騒ぎのうちに入らないんだからねッ!」
次の瞬間、〈銀杯〉の空間が澄みわたり、反響するはずのノイズが“彼女の声”に上書きされていく。
人々の苦悶の表情が次第に笑みに変わり、密売人たちは逆に耳を塞いでのたうち始めた。
「うるさ……なんだよ……声が響いて……こっちが壊れ――ッ」
「だーかーらー、場を荒らすなら帰ってって言ってるの!」
金属のホーンが最後の一撃のように炸裂し、残留していた呪詛波が四散した。
密売人たちが床に崩れ落ちると同時に、店内に残っていたノイズは完全に消え去った。代わりに――
「……うお、耳が……治った?」
「頭の重さが消えた……」
「何だ今の……誰の“声”だったんだ?」
そんな声が次々とあがり、空気が緩んでいく。酒場〈銀杯〉に、いつものざわめきが少しずつ戻っていた。
琴音はスピーカーをゆっくりと下ろし、深く息を吐く。そして静かに笑った。
「……ふぅ、うるさいって言われても、こういう時くらい、役に立たなきゃね」
翔はそんな彼女の隣に立ち、手の中に残る“縁の余熱”を感じていた。
「……確かに、お前の“声”は、場を救った」
「えへへ、それって……褒めてる?」
「ああ。あれがなければ、呪詛は消せなかった。あの道具は、“届けたい気持ち”でしか鍛えられない」
琴音が少し照れくさそうに肩を竦めると、咲耶が店主と一緒に奥から戻ってきた。
「呪詛道具は回収済み。密売人もギルドに引き渡して処理されるわ。……こっちはこっちで、また資料が増えそう」
翔は小さく頷き、鍛錬炉を片付けながら一言だけ呟く。
「“縁”が場を救った。俺の力も……少しずつ意味を持ち始めた」
咲耶はその言葉にうなずきつつ、ふと翔の肩の隙間から琴音の姿を見て、少しだけ意地悪な笑みを浮かべる。
「でも一番意味を持たせたのは、琴音の“声”だったわね。翔の鍛えた“言霊スピーカー”とぴったり合ってた。……あの騒がしさも、才能ね」
「そ、そこまで言うー!? でもまあ……誉められたと思っておく!」
そんな冗談めいたやりとりの中、騒動の名残を洗い流すように、店主が一杯の酒を持って現れた。
「これは“感謝の一杯”だ。お代はいらねぇ。何より……店を、空気ごと守ってくれてありがとうよ」
翔はそれを黙って受け取り、一口。
「……悪くない」
静かな言葉だったが、酒場の誰もがその一言の“重み”を感じていた。
夜が更けるころ、店の掲示板に新たな一枚が貼られた。
《事後報告:呪詛装置暴発事件、迅速対応により被害なし》
《使用道具:言霊スピーカー(製作者・絆鍛冶師 葵翔)》
《推薦者:銀杯店主、及びギルド情報士・琴音》
その名は、小さな一枚の紙に、確かに刻まれていた。
“場を繋ぐ”という意味で。
“声を形にする”という力で。
葵翔のジョブ――絆鍛冶師〈リンクスミス〉がまた一歩、王都に認められていく。
その日、翔たちの依頼完了を祝して、ささやかな打ち上げが開かれていた。
「いやー、あの植物、マジでやばかったよな! 最後の飛びかかり、あれ絶対、花粉爆発か何かだったぞ!」
豪快に笑いながら杯を掲げるのは洋平。隣で咲耶が器用にその勢いを避けつつ、笑みをこぼす。
「……言ってることは正しいけど、少し飛沫が飛んでる。ほどほどにね」
「まあまあ、細かいこと気にすんな! 勝ったんだし、祝おうぜ! な、翔!」
翔はと言えば、静かに麦酒を一口。にこりともせず、しかし明らかに表情は柔らいでいた。
その時、扉が派手に開いた。
「おっ、噂の新入りパーティ、来てんじゃーん!」
そう言って手を振りながら入ってきたのは、胸元のブローチが目を引く少女――琴音だった。艶やかな紫色の髪を揺らし、笑顔全開でこちらへ向かってくる。
「やっほー咲耶! そして……これが、あの翔くんね?」
翔が少しだけ目を細めると、琴音はにっこりと手を差し出した。
「はじめまして! ギルド内通称“銀杯の騒音女”こと、私が琴音でーす!」
「自己紹介に“騒音”って入れるやつ初めて見たわよ……」と咲耶がぼやいた。
「いいのいいの、覚えやすいし! 実際、ここに来ると場が一気に静かにならなくなるって評判なの!」
「それ、評判って言えるのか?」
洋平が呆れ混じりに言いながらも、琴音の隣に席を詰めて座らせる。
だが、騒がしさは長くは続かなかった。
突如、店の奥で“パンッ!”という破裂音が響いたかと思うと――酒棚の裏から、黒煙とともに何かが飛び出してきた。
「げっ、まさかの暴発……!」
店主が叫ぶと同時に、奥の個室から逃げ出してきた二人組の客。そのうち一人が、なにやら銀色の球体のようなものを投げ捨てる。
「魔術道具だ、こいつら密売人!」
咲耶の叫びが響いた瞬間、銀の球体が床を転がり――「ギギィィィィィィィ」という、耳を裂くようなノイズが辺りに満ちた。
店中の人々が頭を抱え、悲鳴をあげる。
翔は苦悶に歪んだ顔をしながら、懐からすぐに鉄片と小型鍛錬炉を取り出す。
「縁を打つ……!」
「待って、これ……“言霊反響呪詛”。人の“声”に反応して増幅するタイプ!」
咲耶がそう叫んだ瞬間、琴音がバンッと椅子に立ち上がった。
「じゃあ、逆にやるよ! “場”の空気、私に任せて!」
彼女は、声を張るでもなく、笑うでもなく、まっすぐに手を胸に当ててこう言った。
「ここにいるみんな! 大丈夫だよ! この声、ちゃんと届いてるから!」
その瞬間、不思議なことが起きた。空気が一瞬澄み、ノイズがほんの少しだけ和らいだのだ。
翔の目に、琴音と場の人々をつなぐ“縁”の糸が、光を帯び始める。
(これは……“声を届ける縁”……)
即座に鉄槌が振り下ろされる。ハンマーと鉄片の接触点が閃光を放ち、“縁”が形をとった。
現れたのは、小さな、拡声用の金属製ホーン――否、それはただの道具ではなかった。
「“言霊スピーカー”」
翔が名を呟き、琴音にそれを投げ渡す。
「これを使え。お前の“声”、誰よりも強い」
「――了解!」
琴音はそれを手に取り、真っ直ぐに口元に添えた。
「うるさいのは、私の担当! アンタらの呪詛なんか、騒ぎのうちに入らないんだからねッ!」
次の瞬間、〈銀杯〉の空間が澄みわたり、反響するはずのノイズが“彼女の声”に上書きされていく。
人々の苦悶の表情が次第に笑みに変わり、密売人たちは逆に耳を塞いでのたうち始めた。
「うるさ……なんだよ……声が響いて……こっちが壊れ――ッ」
「だーかーらー、場を荒らすなら帰ってって言ってるの!」
金属のホーンが最後の一撃のように炸裂し、残留していた呪詛波が四散した。
密売人たちが床に崩れ落ちると同時に、店内に残っていたノイズは完全に消え去った。代わりに――
「……うお、耳が……治った?」
「頭の重さが消えた……」
「何だ今の……誰の“声”だったんだ?」
そんな声が次々とあがり、空気が緩んでいく。酒場〈銀杯〉に、いつものざわめきが少しずつ戻っていた。
琴音はスピーカーをゆっくりと下ろし、深く息を吐く。そして静かに笑った。
「……ふぅ、うるさいって言われても、こういう時くらい、役に立たなきゃね」
翔はそんな彼女の隣に立ち、手の中に残る“縁の余熱”を感じていた。
「……確かに、お前の“声”は、場を救った」
「えへへ、それって……褒めてる?」
「ああ。あれがなければ、呪詛は消せなかった。あの道具は、“届けたい気持ち”でしか鍛えられない」
琴音が少し照れくさそうに肩を竦めると、咲耶が店主と一緒に奥から戻ってきた。
「呪詛道具は回収済み。密売人もギルドに引き渡して処理されるわ。……こっちはこっちで、また資料が増えそう」
翔は小さく頷き、鍛錬炉を片付けながら一言だけ呟く。
「“縁”が場を救った。俺の力も……少しずつ意味を持ち始めた」
咲耶はその言葉にうなずきつつ、ふと翔の肩の隙間から琴音の姿を見て、少しだけ意地悪な笑みを浮かべる。
「でも一番意味を持たせたのは、琴音の“声”だったわね。翔の鍛えた“言霊スピーカー”とぴったり合ってた。……あの騒がしさも、才能ね」
「そ、そこまで言うー!? でもまあ……誉められたと思っておく!」
そんな冗談めいたやりとりの中、騒動の名残を洗い流すように、店主が一杯の酒を持って現れた。
「これは“感謝の一杯”だ。お代はいらねぇ。何より……店を、空気ごと守ってくれてありがとうよ」
翔はそれを黙って受け取り、一口。
「……悪くない」
静かな言葉だったが、酒場の誰もがその一言の“重み”を感じていた。
夜が更けるころ、店の掲示板に新たな一枚が貼られた。
《事後報告:呪詛装置暴発事件、迅速対応により被害なし》
《使用道具:言霊スピーカー(製作者・絆鍛冶師 葵翔)》
《推薦者:銀杯店主、及びギルド情報士・琴音》
その名は、小さな一枚の紙に、確かに刻まれていた。
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