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第9話_黒衣の密商会
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夏至の騒乱から十日あまり。
王都リオスト南門の宿場町〈ティグレの踊り場〉は、今宵も荷馬車と行商人たちで賑わいを見せていた。だがその一角――打ち捨てられた織物倉庫の地下には、闇が濃く沈殿していた。
「確認したか、あの“刻印”……紛れもなく千年ぶりの『未明職』だ」
「見せ物じゃない。だが使える。“絆鍛冶師”か――ふん、妙な名だな」
黒衣の男女たちが集い、蝋燭の光に揺れる地図を囲む。
王都とその周辺、そして“刻印の殿堂”の構造が描かれたそれは、正規の地誌ではありえないほど詳細で、明らかに不正な手段で得た情報だった。
「次の“荷”は翔という名の青年。その能力は縁を武具に変える……とギルド筋からも噂が立っている」
「ならば早いうちに手を打て。“縁”など我ら〈虚無教団〉の理念に最も不要なものだ。絆の象徴を潰せば民の幻想も崩れる」
「仕掛けは明晩。護衛の薄い外縁、宿場町にて。“取引”の煙に紛れて拉致しろ」
「了解。――王都に“空転”をもたらす準備は、整いつつある」
一方その頃、翔たちは“絆鍛冶師”としての最初の連携依頼を終え、〈蒼盾ギルド〉の命で宿場町での情報収集任務に赴いていた。
咲耶が帳簿を読みながらぼそりとつぶやく。
「“登録されていない刻印盤の密売”……これはただの市場調査じゃないわね。ギルド側も、明らかに警戒してる」
「刻印盤……普通は王家が管理してるんだろ? それが“外”に流れてるってことか」
「うん。しかも未認可の、それも“改竄刻印”の可能性もある。最悪、人格や記憶を操作するタイプだとしたら……」
翔は無言で鞄の中の“縁鉄片”を撫でた。
仲間の力を具現化したその素材は、時に異常の兆しに反応する――。
「どうする? 静かに探る?」
洋平が、飲み屋の壁に寄りかかりながら問う。
だが翔は、首を横に振る。
「いや、たぶん俺たち、もう“見られてる”」
「……だよな」
その瞬間――隣の路地から、白煙とともに小瓶が投げ込まれた。
シュウッという薬品音とともに、視界が白く染まる。
「伏せろ!」
咲耶の叫びが響くや否や、地面が跳ね、視界が奪われ、耳がきしむ。
だが翔は、頭上を駆ける気配を感じた。
(狙いは、俺――!)
意識の中で、翔は自らの縁の流れを追う。
その中で浮かぶのは、仲間たちの“思い”の断片――
咲耶の静かな闘志。
洋平の、理想に殉じる真っ直ぐな胆力。
琴音の、言葉で人を包む温もり。
知也の、静かな盾のような佇まい。
志保の、前を向かせる優しい手。
そして、ブライセンとクリスティーナ。まだ未熟な縁ではあるが、それでも確かな絆の芽生えが――
翔は、叫ぶ。
「リンクフォージ――展開! 《七縁鎖(セブンバインド)》!」
床に叩きつけた槌から、虹色の光がほとばしる。
その瞬間、空間を“縁”の鎖が走り、煙の中の敵影を“視認”する力が解き放たれた。
そこにいたのは、黒ずくめの仮面の集団。
彼らは特殊な刻印武具を装備し、気配すら偽装していた――
「密売人じゃない、これは……教団か……?」
翔の目に、はっきりとした“敵意”の形が見える。
それは、感情を食いちぎられたかのような異質な断絶だった。
(こいつらは、“縁”を断ち切ること自体が目的だ……!)
咲耶がナイフを投げ、洋平がその刃を弾き返す盾を生み出す。
その連携に、翔は縁の輪郭をさらに強く捉える。
「ならば、断つ力に抗う武器を――鍛える!」
翔の槌が再び振るわれ、地面に“縁”が刻まれる。
虹の七本の光鎖が舞い上がり、空間そのものに封鎖の構造を形成する。
敵は、脱出不能の“結界”に囚われた。
「七縁鎖完成。解除コードは……絆の名。――お前たちには、解けない」
密商たちは狼狽しながらも術式で打破を試みたが、“縁”のない者には、その鎖は見えもしない。
「この世界は、互いに関わり合うことで形を保ってる。お前たちが否定する“絆”こそが、俺たちの強さだ!」
翔の声に応じて、七人の仲間が周囲を固め、決着の槌音が夜空に響く。
「こっちも準備完了! 翔、囲いは任せて!」
咲耶の声に応じて、翔は一歩踏み出す。
すでに煙幕は吹き払われ、現場には七本の“縁の鎖”が淡く光を放ちながら張り巡らされていた。
〈リンクフォージ〉によって具現化されたこの結界は、“翔と仲間の絆”の強さに応じて変化し、自在な拘束力を発揮する。
それは捕縛道具でありながら、同時に“意思の可視化”でもあった。
「なんだこれは……! 術式じゃない、物理でもない……!」
「違う。これは“縁”だ。俺と仲間が信じ合って繋がってる証――お前たちが持たないものだ」
黒衣の仮面の男が前に出た。
マントを翻すと、その胸には刻印が浮かぶ。
(あれは……無刻印!?)
否――正確には“異形刻印”。本来の人間にはあり得ない“加工痕”が、その紋章にはあった。
翔はすぐに気づく。
「お前たち、自分の刻印盤を……書き換えたのか」
「そう。人の価値を生まれながらに決めるなど、愚かな制度だ。我らは刻印を否定し、虚無を選んだ」
「それで、誰かの縁を断ち、奪って、好き勝手に生きるのか? 違うだろ……“自由”ってのは、そういうもんじゃない」
翔の声に、敵の男は薄く笑う。
「ならば証明してみせろ。“縁”などという抽象を、剣よりも、権力よりも、強いものだと――!」
次の瞬間、空間が歪む。
敵の男は、周囲の〈改竄刻印〉を連結させることで、黒い煙のような力を解き放った。
「“虚無紋障壁”か……!」
咲耶が咄嗟に判断する。
だが、その異能も、翔の目には“歪んだ縁の干渉”として映っていた。
「よし……リンクフォージ、応用展開!」
翔の槌が火花を上げ、鎖が再構築される。
七人の仲間との縁をベースに、翔は新たな武具を打ち上げる――
「《七縁鎖(セブンバインド)》第二形態、《結縁杭(ユニオンスパイク)》ッ!」
地面に打ち込まれた杭から、鎖が反転し、敵の結界を内部から封じる形に成長する。
「なっ……! 私の障壁を、逆手に……?」
「“縁”は、繋げば繋ぐほど力になる。歪んだまま一人で力を蓄えても、真っすぐな絆には敵わないんだよ」
同時に洋平が突っ込む。
トラブルを恐れず、理想を掲げて真正面から打って出る彼の気質は、翔にとって最も強靭な縁のひとつだ。
「いくぞ、“木漏れ日の短剣”!」
翔がかつて洋平との縁から鍛えた短剣が、黒衣の男の障壁を切り裂く。
続いて琴音が叫ぶ。
「この場はあたしが盛り上げるから! 全力で叩き込んじゃえ!」
その声が、縁の力に火を灯す。
翔は、仲間たちの想いの輪郭をつかみきった。
「ラスト――仕上げだ!」
七人の名前をそれぞれ小声で唱えながら、翔は七本の鎖を一つに束ねて振り下ろす。
「――リンクフォージ・最終連結、《絆封結の槌(チェインシールハンマー)》!」
その槌音が、宿場町の闇を貫いた。
黒衣の仮面が砕け、男は倒れ伏す。
「……我らは……消えても、空転は止まらぬ……“空白の巫王”が……いずれ……」
「巫王……?」
倒れる男の言葉に、咲耶が目を細める。
「聞いたことがある。“空転祭”っていう、王都の刻印制度を否定する儀式の噂と……何か繋がってるのかも」
翔は槌を肩に担ぎ直しながら、深く息を吐いた。
「縁は、人を強くする。でもそれは同時に、狙われる理由にもなるんだな」
「でも、私たちは……」
咲耶が言いかけた言葉を、琴音が肩を叩いて引き取る。
「繋がってるでしょ? 縁がある限り、何度でも立ち上がれるって!」
夜風が、騒動の名残をさらっていく。
宿場町の片隅、闇の底に咲いた七色の光は、確かに“絆”という名の希望を照らしていた。
王都リオスト南門の宿場町〈ティグレの踊り場〉は、今宵も荷馬車と行商人たちで賑わいを見せていた。だがその一角――打ち捨てられた織物倉庫の地下には、闇が濃く沈殿していた。
「確認したか、あの“刻印”……紛れもなく千年ぶりの『未明職』だ」
「見せ物じゃない。だが使える。“絆鍛冶師”か――ふん、妙な名だな」
黒衣の男女たちが集い、蝋燭の光に揺れる地図を囲む。
王都とその周辺、そして“刻印の殿堂”の構造が描かれたそれは、正規の地誌ではありえないほど詳細で、明らかに不正な手段で得た情報だった。
「次の“荷”は翔という名の青年。その能力は縁を武具に変える……とギルド筋からも噂が立っている」
「ならば早いうちに手を打て。“縁”など我ら〈虚無教団〉の理念に最も不要なものだ。絆の象徴を潰せば民の幻想も崩れる」
「仕掛けは明晩。護衛の薄い外縁、宿場町にて。“取引”の煙に紛れて拉致しろ」
「了解。――王都に“空転”をもたらす準備は、整いつつある」
一方その頃、翔たちは“絆鍛冶師”としての最初の連携依頼を終え、〈蒼盾ギルド〉の命で宿場町での情報収集任務に赴いていた。
咲耶が帳簿を読みながらぼそりとつぶやく。
「“登録されていない刻印盤の密売”……これはただの市場調査じゃないわね。ギルド側も、明らかに警戒してる」
「刻印盤……普通は王家が管理してるんだろ? それが“外”に流れてるってことか」
「うん。しかも未認可の、それも“改竄刻印”の可能性もある。最悪、人格や記憶を操作するタイプだとしたら……」
翔は無言で鞄の中の“縁鉄片”を撫でた。
仲間の力を具現化したその素材は、時に異常の兆しに反応する――。
「どうする? 静かに探る?」
洋平が、飲み屋の壁に寄りかかりながら問う。
だが翔は、首を横に振る。
「いや、たぶん俺たち、もう“見られてる”」
「……だよな」
その瞬間――隣の路地から、白煙とともに小瓶が投げ込まれた。
シュウッという薬品音とともに、視界が白く染まる。
「伏せろ!」
咲耶の叫びが響くや否や、地面が跳ね、視界が奪われ、耳がきしむ。
だが翔は、頭上を駆ける気配を感じた。
(狙いは、俺――!)
意識の中で、翔は自らの縁の流れを追う。
その中で浮かぶのは、仲間たちの“思い”の断片――
咲耶の静かな闘志。
洋平の、理想に殉じる真っ直ぐな胆力。
琴音の、言葉で人を包む温もり。
知也の、静かな盾のような佇まい。
志保の、前を向かせる優しい手。
そして、ブライセンとクリスティーナ。まだ未熟な縁ではあるが、それでも確かな絆の芽生えが――
翔は、叫ぶ。
「リンクフォージ――展開! 《七縁鎖(セブンバインド)》!」
床に叩きつけた槌から、虹色の光がほとばしる。
その瞬間、空間を“縁”の鎖が走り、煙の中の敵影を“視認”する力が解き放たれた。
そこにいたのは、黒ずくめの仮面の集団。
彼らは特殊な刻印武具を装備し、気配すら偽装していた――
「密売人じゃない、これは……教団か……?」
翔の目に、はっきりとした“敵意”の形が見える。
それは、感情を食いちぎられたかのような異質な断絶だった。
(こいつらは、“縁”を断ち切ること自体が目的だ……!)
咲耶がナイフを投げ、洋平がその刃を弾き返す盾を生み出す。
その連携に、翔は縁の輪郭をさらに強く捉える。
「ならば、断つ力に抗う武器を――鍛える!」
翔の槌が再び振るわれ、地面に“縁”が刻まれる。
虹の七本の光鎖が舞い上がり、空間そのものに封鎖の構造を形成する。
敵は、脱出不能の“結界”に囚われた。
「七縁鎖完成。解除コードは……絆の名。――お前たちには、解けない」
密商たちは狼狽しながらも術式で打破を試みたが、“縁”のない者には、その鎖は見えもしない。
「この世界は、互いに関わり合うことで形を保ってる。お前たちが否定する“絆”こそが、俺たちの強さだ!」
翔の声に応じて、七人の仲間が周囲を固め、決着の槌音が夜空に響く。
「こっちも準備完了! 翔、囲いは任せて!」
咲耶の声に応じて、翔は一歩踏み出す。
すでに煙幕は吹き払われ、現場には七本の“縁の鎖”が淡く光を放ちながら張り巡らされていた。
〈リンクフォージ〉によって具現化されたこの結界は、“翔と仲間の絆”の強さに応じて変化し、自在な拘束力を発揮する。
それは捕縛道具でありながら、同時に“意思の可視化”でもあった。
「なんだこれは……! 術式じゃない、物理でもない……!」
「違う。これは“縁”だ。俺と仲間が信じ合って繋がってる証――お前たちが持たないものだ」
黒衣の仮面の男が前に出た。
マントを翻すと、その胸には刻印が浮かぶ。
(あれは……無刻印!?)
否――正確には“異形刻印”。本来の人間にはあり得ない“加工痕”が、その紋章にはあった。
翔はすぐに気づく。
「お前たち、自分の刻印盤を……書き換えたのか」
「そう。人の価値を生まれながらに決めるなど、愚かな制度だ。我らは刻印を否定し、虚無を選んだ」
「それで、誰かの縁を断ち、奪って、好き勝手に生きるのか? 違うだろ……“自由”ってのは、そういうもんじゃない」
翔の声に、敵の男は薄く笑う。
「ならば証明してみせろ。“縁”などという抽象を、剣よりも、権力よりも、強いものだと――!」
次の瞬間、空間が歪む。
敵の男は、周囲の〈改竄刻印〉を連結させることで、黒い煙のような力を解き放った。
「“虚無紋障壁”か……!」
咲耶が咄嗟に判断する。
だが、その異能も、翔の目には“歪んだ縁の干渉”として映っていた。
「よし……リンクフォージ、応用展開!」
翔の槌が火花を上げ、鎖が再構築される。
七人の仲間との縁をベースに、翔は新たな武具を打ち上げる――
「《七縁鎖(セブンバインド)》第二形態、《結縁杭(ユニオンスパイク)》ッ!」
地面に打ち込まれた杭から、鎖が反転し、敵の結界を内部から封じる形に成長する。
「なっ……! 私の障壁を、逆手に……?」
「“縁”は、繋げば繋ぐほど力になる。歪んだまま一人で力を蓄えても、真っすぐな絆には敵わないんだよ」
同時に洋平が突っ込む。
トラブルを恐れず、理想を掲げて真正面から打って出る彼の気質は、翔にとって最も強靭な縁のひとつだ。
「いくぞ、“木漏れ日の短剣”!」
翔がかつて洋平との縁から鍛えた短剣が、黒衣の男の障壁を切り裂く。
続いて琴音が叫ぶ。
「この場はあたしが盛り上げるから! 全力で叩き込んじゃえ!」
その声が、縁の力に火を灯す。
翔は、仲間たちの想いの輪郭をつかみきった。
「ラスト――仕上げだ!」
七人の名前をそれぞれ小声で唱えながら、翔は七本の鎖を一つに束ねて振り下ろす。
「――リンクフォージ・最終連結、《絆封結の槌(チェインシールハンマー)》!」
その槌音が、宿場町の闇を貫いた。
黒衣の仮面が砕け、男は倒れ伏す。
「……我らは……消えても、空転は止まらぬ……“空白の巫王”が……いずれ……」
「巫王……?」
倒れる男の言葉に、咲耶が目を細める。
「聞いたことがある。“空転祭”っていう、王都の刻印制度を否定する儀式の噂と……何か繋がってるのかも」
翔は槌を肩に担ぎ直しながら、深く息を吐いた。
「縁は、人を強くする。でもそれは同時に、狙われる理由にもなるんだな」
「でも、私たちは……」
咲耶が言いかけた言葉を、琴音が肩を叩いて引き取る。
「繋がってるでしょ? 縁がある限り、何度でも立ち上がれるって!」
夜風が、騒動の名残をさらっていく。
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