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第10話_王都騒乱、刻印典礼の影
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王都リオスト。夏の終わりを告げる鐘の音が、静かな朝を揺らした。
今日は年に一度、刻印刷新の儀が執り行われる日。
王宮の中庭は、黄金の天幕と花々の香りに包まれ、民や貴族たちの期待で熱気を帯びていた。
――そしてその中心、貴族席の陰に、葵翔たちは配置されていた。
「……ものものしいね、警備。やっぱり“虚無教団”の余波があるのかな」
咲耶が資料を畳みつつ、小声で翔に問う。
翔は頷き、ギルドから正式に派遣された護衛任務の腕章を確かめた。
「教団の残党が刻印制度そのものを狙ってるなら、今日が本命かもしれない。俺たちの力も、見せる場になる」
王族の列が登壇する中、鐘が三度鳴った。
刻印殿から搬送された“紋章盤”が舞台中央へ運ばれると、荘厳な音楽とともに刷新の儀が始まる――はずだった。
だが。
――空気が、変わった。
突如、結界が軋みを上げ、舞台後方から闇がにじむ。
「結界が破られた! 異常波動、反応あり! 護衛隊、展開!」
警備騎士の号令が響く中、舞台の背後――石壁をすり抜けるように、黒衣の者たちが姿を現した。
「来たか、虚無教団……!」
翔はすぐに仲間の位置を確認する。
咲耶は観客誘導に回り、琴音は民衆の混乱を鎮めに走った。知也は後衛から結界の補強を開始し、志保は負傷者の応急処置に動く。
洋平は最前線に立ち、敵の進行を押し止めていた。
翔の心に“縁の光”が灯る。仲間それぞれとの絆が、自然と集束を始める。
「リンクフォージ、起動――全縁共鳴モード」
槌が振るわれ、絆が音を立てて形を成す。
「《縁鎖の大鎚(エンリンククラッシャー)》――!」
巨大な鎚が舞台前に打ち下ろされ、光の壁が展開する。
襲撃者たちはその輝きに阻まれ、足を止める。
「なに……この結界、ただの魔術障壁じゃない……!」
「これは“想い”だよ。俺たちが守りたいって強く願った、縁の結晶だ!」
混乱する襲撃者の中で、中央に立つ女の姿が目を引いた。
白銀の仮面をかぶり、黒い羽衣をまとったその女は、静かに手をかざす。
「刻印とは、欺瞞。縁とは、束縛。――空転祭の前触れに、貴様らの鎖など、無意味だ」
「空転祭……!」
咲耶が息を呑み、翔が槌を構え直す。
その時――
仮面の女が、指先で結界の一部を切り裂いた。まるで布を裂くように、空間が歪む。
同時に、中庭に異変が起こる。
観客たちの一部が急に動きを止め、虚ろな瞳で立ち尽くした。
「幻術だ……! この場全体に“記憶干渉”が発生してる!」
知也の声が届き、志保が叫ぶ。
「翔くん、縁で意識を繋いで! このままじゃ皆、取り込まれる!」
「わかった――全縁リンク、《縁環結界(ユナイトサークル)》!」
翔が鎚を振るい、仲間七人との縁を束ねて輪にする。
その光が人々の意識を繋ぎ、幻術の霧を吹き飛ばしていく。
「“空白の巫王”の力を前にして……絆で抗うとは。愚かだな」
仮面の女が、冷たい声で言い残し、霧の中に消えた。
残された襲撃者たちは撤退し、騒動は収束へと向かっていった。
祭壇の結界が徐々に光を失い、倒れた“紋章盤”の破片が静かに転がる。
刻印刷新の儀は未遂に終わり、王都の空気には不安と沈痛が広がっていた。
王宮の衛兵が場を封鎖し、民衆の避難と調査が始まる中、翔たちは臨時指揮所へ呼び出されていた。
「葵翔殿。あなたが展開した結界により、多くの民の意識が保たれました。感謝を申し上げます」
銀の鎧を纏った王国軍副将が深く頭を下げる。
だが、翔は納得していなかった。
「逃したあの仮面の女……“空白の巫王”と名乗りました。刻印制度そのものを標的にしているのなら、また来るはずです」
咲耶が頷く。
「記録によれば“空転祭”は古代にも一度試みられた禁忌儀式。刻印盤の根源に干渉し、あらゆるジョブの概念を消去するという……」
「それって……“全てのスキルを無に帰す”ってこと?」
琴音が呟き、空気が重くなる。
「絆鍛冶師のスキルも、例外じゃない」
翔は静かに告げた。
それがただの職業的危機ではない。――絆そのものが、否定されるという意味だった。
知也が壁際に立ちながら、静かに口を開く。
「リンクフォージが“縁”を力に変える以上、狙われるのは必然……だな。けれど、今日の対応でひとつ分かった」
「なに?」
志保が問いかけると、知也は壁に浮かぶ痕跡――霧のように残る魔痕を指差した。
「この術式、王都だけじゃない。全国各地に散っている同調刻印と繋がってる。つまり、教団の拠点は分散型ネットワークだ」
「……じゃあ、王都を狙ったのは陽動って可能性もある?」
洋平が声を上げた。
「可能性どころか、ほぼ確実だな」
翔が頷き、ハンマーを構える。
「次に備えよう。全員の縁が、また試される。リンクフォージは、そのときにこそ真価を発揮するはずだから」
場に静かな決意が走る。
そして――
その夜。
翔はひとり、鍛錬場に立っていた。
静かに息を吸い、〈リンクフォージ〉を起動する。
今日の戦いで重なった“全縁”の記憶が、脈打つ光となって槌に宿る。
「……俺は、“絆”を信じる。だから、叩く。砕けるなら、何度でも……」
――ガァン。
鍛錬場に、力強い音が響く。
打ち出されたのは、新たな試作品――
《縁鎖の羅針盤(リンクコンパス)》。
その針は、仲間たちの想いを示すように、静かに南東を指していた。
「次は……海だな」
翔は静かに呟き、明日への一歩を踏み出した。
今日は年に一度、刻印刷新の儀が執り行われる日。
王宮の中庭は、黄金の天幕と花々の香りに包まれ、民や貴族たちの期待で熱気を帯びていた。
――そしてその中心、貴族席の陰に、葵翔たちは配置されていた。
「……ものものしいね、警備。やっぱり“虚無教団”の余波があるのかな」
咲耶が資料を畳みつつ、小声で翔に問う。
翔は頷き、ギルドから正式に派遣された護衛任務の腕章を確かめた。
「教団の残党が刻印制度そのものを狙ってるなら、今日が本命かもしれない。俺たちの力も、見せる場になる」
王族の列が登壇する中、鐘が三度鳴った。
刻印殿から搬送された“紋章盤”が舞台中央へ運ばれると、荘厳な音楽とともに刷新の儀が始まる――はずだった。
だが。
――空気が、変わった。
突如、結界が軋みを上げ、舞台後方から闇がにじむ。
「結界が破られた! 異常波動、反応あり! 護衛隊、展開!」
警備騎士の号令が響く中、舞台の背後――石壁をすり抜けるように、黒衣の者たちが姿を現した。
「来たか、虚無教団……!」
翔はすぐに仲間の位置を確認する。
咲耶は観客誘導に回り、琴音は民衆の混乱を鎮めに走った。知也は後衛から結界の補強を開始し、志保は負傷者の応急処置に動く。
洋平は最前線に立ち、敵の進行を押し止めていた。
翔の心に“縁の光”が灯る。仲間それぞれとの絆が、自然と集束を始める。
「リンクフォージ、起動――全縁共鳴モード」
槌が振るわれ、絆が音を立てて形を成す。
「《縁鎖の大鎚(エンリンククラッシャー)》――!」
巨大な鎚が舞台前に打ち下ろされ、光の壁が展開する。
襲撃者たちはその輝きに阻まれ、足を止める。
「なに……この結界、ただの魔術障壁じゃない……!」
「これは“想い”だよ。俺たちが守りたいって強く願った、縁の結晶だ!」
混乱する襲撃者の中で、中央に立つ女の姿が目を引いた。
白銀の仮面をかぶり、黒い羽衣をまとったその女は、静かに手をかざす。
「刻印とは、欺瞞。縁とは、束縛。――空転祭の前触れに、貴様らの鎖など、無意味だ」
「空転祭……!」
咲耶が息を呑み、翔が槌を構え直す。
その時――
仮面の女が、指先で結界の一部を切り裂いた。まるで布を裂くように、空間が歪む。
同時に、中庭に異変が起こる。
観客たちの一部が急に動きを止め、虚ろな瞳で立ち尽くした。
「幻術だ……! この場全体に“記憶干渉”が発生してる!」
知也の声が届き、志保が叫ぶ。
「翔くん、縁で意識を繋いで! このままじゃ皆、取り込まれる!」
「わかった――全縁リンク、《縁環結界(ユナイトサークル)》!」
翔が鎚を振るい、仲間七人との縁を束ねて輪にする。
その光が人々の意識を繋ぎ、幻術の霧を吹き飛ばしていく。
「“空白の巫王”の力を前にして……絆で抗うとは。愚かだな」
仮面の女が、冷たい声で言い残し、霧の中に消えた。
残された襲撃者たちは撤退し、騒動は収束へと向かっていった。
祭壇の結界が徐々に光を失い、倒れた“紋章盤”の破片が静かに転がる。
刻印刷新の儀は未遂に終わり、王都の空気には不安と沈痛が広がっていた。
王宮の衛兵が場を封鎖し、民衆の避難と調査が始まる中、翔たちは臨時指揮所へ呼び出されていた。
「葵翔殿。あなたが展開した結界により、多くの民の意識が保たれました。感謝を申し上げます」
銀の鎧を纏った王国軍副将が深く頭を下げる。
だが、翔は納得していなかった。
「逃したあの仮面の女……“空白の巫王”と名乗りました。刻印制度そのものを標的にしているのなら、また来るはずです」
咲耶が頷く。
「記録によれば“空転祭”は古代にも一度試みられた禁忌儀式。刻印盤の根源に干渉し、あらゆるジョブの概念を消去するという……」
「それって……“全てのスキルを無に帰す”ってこと?」
琴音が呟き、空気が重くなる。
「絆鍛冶師のスキルも、例外じゃない」
翔は静かに告げた。
それがただの職業的危機ではない。――絆そのものが、否定されるという意味だった。
知也が壁際に立ちながら、静かに口を開く。
「リンクフォージが“縁”を力に変える以上、狙われるのは必然……だな。けれど、今日の対応でひとつ分かった」
「なに?」
志保が問いかけると、知也は壁に浮かぶ痕跡――霧のように残る魔痕を指差した。
「この術式、王都だけじゃない。全国各地に散っている同調刻印と繋がってる。つまり、教団の拠点は分散型ネットワークだ」
「……じゃあ、王都を狙ったのは陽動って可能性もある?」
洋平が声を上げた。
「可能性どころか、ほぼ確実だな」
翔が頷き、ハンマーを構える。
「次に備えよう。全員の縁が、また試される。リンクフォージは、そのときにこそ真価を発揮するはずだから」
場に静かな決意が走る。
そして――
その夜。
翔はひとり、鍛錬場に立っていた。
静かに息を吸い、〈リンクフォージ〉を起動する。
今日の戦いで重なった“全縁”の記憶が、脈打つ光となって槌に宿る。
「……俺は、“絆”を信じる。だから、叩く。砕けるなら、何度でも……」
――ガァン。
鍛錬場に、力強い音が響く。
打ち出されたのは、新たな試作品――
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