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第23話_理想家、青銅の都へ立つ
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濃密な蒸気が空を覆い、歯車の唸りが絶え間なく続く――。
ここは〈青銅の都〉ヴァルトライン。金属と魔力が混じるこの都市で、翔たちの旅は再び現実と理想のはざまへと進み出した。
翔と洋平、そしてブライセンの三人は、正午過ぎに都市中央の機関区に到着していた。連合から届いた緊急要請には「制御不能な爆圧事故が続発中、原因不明」とだけ記されていた。
立ち並ぶ鉄の煙突群、揺れる制御塔、騒然とした作業員たち。
圧倒的な機構の奔流に、翔は無意識にハンマーを握り締めていた。
「まるで……世界が金属に呑まれていくようだな」
呟いたのはブライセンだった。
翔は彼の言葉にうなずきながら、隣の洋平へと目を向けた。洋平の目は、どこか遠くを見ていた。
「洋平、どうした?」
「……あの塔の上で、事故が起きてるらしい。俺、行ってくる」
問う暇もなく、洋平は駆け出していた。理想を追い、現場へ飛び込むその姿に、翔はふと笑みを浮かべた。
変わらないな、と。
だが、待っていたのはただの事故ではなかった。
洋平がたどり着いた塔の最上階、そこでは魔道炉のバルブが完全に歪み、黒い煙が渦巻いていた。
「なんだ、これは……?」
洋平が一歩近づいた瞬間、爆音とともに機関部が炸裂する。
咄嗟に魔術障壁を展開するも、爆風の勢いは凄まじく、彼は鉄柱の下へと倒れ込んだ。
地響きが都市中に響き渡る。翔とブライセンもまた異変を察し、猛然と塔へと駆け出していた。
崩れかけた鉄階段を上りながら、翔は自身のスキル〈リンクフォージ〉に意識を集中する。
――感じる、“縁”だ。洋平とこの地の人々の思いが繋がっている。今、鍛えるべきはその信念。
階段の中腹で、翔はブライセンに振り返る。
「ブライセン、君の突進力を貸してくれ。斧を打つための、“衝動”が必要なんだ!」
ブライセンはにやりと笑った。
「信じるぜ、翔。お前の鎚は、まだまだ熱い」
翔はその言葉を胸に、塔の中腹で即席の鍛造台を展開。
〈リンクフォージ〉を発動し、鉄粉と“絆”を束ねて打ち鳴らす。――それは、洋平の理想と技師たちの信頼、そして翔の覚悟を繋ぐ鎚音だった。
数分後。閃光の中から現れたのは、一本の異形の斧――〈圧縮斧スチームバスター〉。
蒸気の奔流を圧縮し、制御不能な噴出を逆流させる設計だった。
翔が手にした斧は、金属の重みと蒸気の奔流を宿した一撃の結晶だった。
ブライセンが肩を貸してくれた瞬間、翔は塔の最上部へと踏み出す。破壊寸前の魔道炉が、凶悪な蒸気を噴き上げていた。
崩れ落ちそうな鉄材の下――そこに洋平の姿があった。腕を庇いながらも、必死に技師たちを逃がそうとしている。だが、彼の声は蒸気にかき消され、誰にも届いていなかった。
「洋平ッ!」
翔の叫びが、奇跡的に届く。
洋平が顔を上げ、翔に微笑みかけた。
「遅かったな。でも……いいタイミングだ」
翔は斧を掲げた。〈圧縮斧スチームバスター〉の機構が、炉の歪みに応じて自動的に回転を始める。
翔はひとつ、深く息を吸い、振り下ろした。
――ズガァァァンッ!!
轟音とともに、炉の圧力が逆流。封じられた蒸気は安全弁を経て流れ出し、暴走は止まった。塔内に立ちこめていた黒煙も、ゆっくりと晴れていく。
技師たちが呆然と見守る中、翔は洋平に手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「……ああ。だけど……思ってたより、俺の“理想”って、簡単に折れるな」
洋平は苦笑しながら立ち上がる。負傷こそしていたが、命に別状はなかった。
だが、彼の目はどこか悔しげに揺れていた。
塔の下では、都市長官が待ち構えていた。翔たちが降りてくるやいなや、敬礼とともに声を張り上げる。
「助かりました! このままでは、都市全体が蒸気爆発で消し飛ぶところでした……!」
「事故じゃなかったんですよね?」翔が問いかける。
長官は苦渋の表情を浮かべる。
「ええ。教団の残党が“機械呪詛”を仕込んでいたようです。あの炉だけでなく、都市内の他の機関区にも……」
洋平の目に再び光が戻る。
「だったら、全部止めてやるさ。翔、俺はまだ終わらない」
彼の手が、翔の肩を強く叩く。その温度は、熱い蒸気と、折れない“理想”の再燃だった。
騒動の終息後、ヴァルトライン中央区にある『機工連盟ホール』に翔たちは案内された。被害の報告と、技術者たちの復旧計画を共有するためだ。
会場には、疲労と安堵が入り混じった顔ぶれが集っていた。傷だらけの技師たちの中に、ひときわ熱い視線を送る男がいる。
洋平だった。
彼はホールの中心に立ち、マイクの代わりに巨大な歯車製の声増幅筒を掲げて言った。
「俺たちが今日、守りきったもの。それは“命”だけじゃない。“希望”と“技術”だ!」
技師たちは息を飲む。翔たちは一歩引いて、彼の背中を見守った。
「確かに、教団の仕掛けた呪詛は恐ろしい。でもそれに屈して、手を止めたら終わりなんだ。俺たちが次に進むためには、“壊された夢”を拾い集めるしかない!」
言葉の端々に、蒸気都市で働く者たちへの敬意が込められていた。それは、蒸気の音よりも熱く、鋼よりも真っ直ぐに、技師たちの胸に届いた。
一人、また一人と、拳を握る音が響き始める。
「立ち上がろう。再起のために。俺は、君たちの未来を信じる!」
会場に喝采が広がった。歯車のように噛み合いながら、技師たちの心がひとつになっていくのを翔は感じた。
咲耶が、低く呟く。
「……あれが、彼の“理想”の力、なのね」
翔は頷いた。
「ああ。でも、ひとりじゃ届かなかったと思う。あの斧も、仲間がいたから打てたんだ」
彼の視線は、自らの腰に収まった〈スチームバスター〉へと向く。
この街の“縁”が、自分たちに託してくれたもの。その重みを、翔は確かに感じていた。
その夜、ヴァルトラインは久々に蒸気の吹き上がらない静寂を迎えた。だが、翌朝にはもう、煙突から白い煙が空へと昇っていた。
未来は動き始めていた。止まることなく、前へ――。
ここは〈青銅の都〉ヴァルトライン。金属と魔力が混じるこの都市で、翔たちの旅は再び現実と理想のはざまへと進み出した。
翔と洋平、そしてブライセンの三人は、正午過ぎに都市中央の機関区に到着していた。連合から届いた緊急要請には「制御不能な爆圧事故が続発中、原因不明」とだけ記されていた。
立ち並ぶ鉄の煙突群、揺れる制御塔、騒然とした作業員たち。
圧倒的な機構の奔流に、翔は無意識にハンマーを握り締めていた。
「まるで……世界が金属に呑まれていくようだな」
呟いたのはブライセンだった。
翔は彼の言葉にうなずきながら、隣の洋平へと目を向けた。洋平の目は、どこか遠くを見ていた。
「洋平、どうした?」
「……あの塔の上で、事故が起きてるらしい。俺、行ってくる」
問う暇もなく、洋平は駆け出していた。理想を追い、現場へ飛び込むその姿に、翔はふと笑みを浮かべた。
変わらないな、と。
だが、待っていたのはただの事故ではなかった。
洋平がたどり着いた塔の最上階、そこでは魔道炉のバルブが完全に歪み、黒い煙が渦巻いていた。
「なんだ、これは……?」
洋平が一歩近づいた瞬間、爆音とともに機関部が炸裂する。
咄嗟に魔術障壁を展開するも、爆風の勢いは凄まじく、彼は鉄柱の下へと倒れ込んだ。
地響きが都市中に響き渡る。翔とブライセンもまた異変を察し、猛然と塔へと駆け出していた。
崩れかけた鉄階段を上りながら、翔は自身のスキル〈リンクフォージ〉に意識を集中する。
――感じる、“縁”だ。洋平とこの地の人々の思いが繋がっている。今、鍛えるべきはその信念。
階段の中腹で、翔はブライセンに振り返る。
「ブライセン、君の突進力を貸してくれ。斧を打つための、“衝動”が必要なんだ!」
ブライセンはにやりと笑った。
「信じるぜ、翔。お前の鎚は、まだまだ熱い」
翔はその言葉を胸に、塔の中腹で即席の鍛造台を展開。
〈リンクフォージ〉を発動し、鉄粉と“絆”を束ねて打ち鳴らす。――それは、洋平の理想と技師たちの信頼、そして翔の覚悟を繋ぐ鎚音だった。
数分後。閃光の中から現れたのは、一本の異形の斧――〈圧縮斧スチームバスター〉。
蒸気の奔流を圧縮し、制御不能な噴出を逆流させる設計だった。
翔が手にした斧は、金属の重みと蒸気の奔流を宿した一撃の結晶だった。
ブライセンが肩を貸してくれた瞬間、翔は塔の最上部へと踏み出す。破壊寸前の魔道炉が、凶悪な蒸気を噴き上げていた。
崩れ落ちそうな鉄材の下――そこに洋平の姿があった。腕を庇いながらも、必死に技師たちを逃がそうとしている。だが、彼の声は蒸気にかき消され、誰にも届いていなかった。
「洋平ッ!」
翔の叫びが、奇跡的に届く。
洋平が顔を上げ、翔に微笑みかけた。
「遅かったな。でも……いいタイミングだ」
翔は斧を掲げた。〈圧縮斧スチームバスター〉の機構が、炉の歪みに応じて自動的に回転を始める。
翔はひとつ、深く息を吸い、振り下ろした。
――ズガァァァンッ!!
轟音とともに、炉の圧力が逆流。封じられた蒸気は安全弁を経て流れ出し、暴走は止まった。塔内に立ちこめていた黒煙も、ゆっくりと晴れていく。
技師たちが呆然と見守る中、翔は洋平に手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「……ああ。だけど……思ってたより、俺の“理想”って、簡単に折れるな」
洋平は苦笑しながら立ち上がる。負傷こそしていたが、命に別状はなかった。
だが、彼の目はどこか悔しげに揺れていた。
塔の下では、都市長官が待ち構えていた。翔たちが降りてくるやいなや、敬礼とともに声を張り上げる。
「助かりました! このままでは、都市全体が蒸気爆発で消し飛ぶところでした……!」
「事故じゃなかったんですよね?」翔が問いかける。
長官は苦渋の表情を浮かべる。
「ええ。教団の残党が“機械呪詛”を仕込んでいたようです。あの炉だけでなく、都市内の他の機関区にも……」
洋平の目に再び光が戻る。
「だったら、全部止めてやるさ。翔、俺はまだ終わらない」
彼の手が、翔の肩を強く叩く。その温度は、熱い蒸気と、折れない“理想”の再燃だった。
騒動の終息後、ヴァルトライン中央区にある『機工連盟ホール』に翔たちは案内された。被害の報告と、技術者たちの復旧計画を共有するためだ。
会場には、疲労と安堵が入り混じった顔ぶれが集っていた。傷だらけの技師たちの中に、ひときわ熱い視線を送る男がいる。
洋平だった。
彼はホールの中心に立ち、マイクの代わりに巨大な歯車製の声増幅筒を掲げて言った。
「俺たちが今日、守りきったもの。それは“命”だけじゃない。“希望”と“技術”だ!」
技師たちは息を飲む。翔たちは一歩引いて、彼の背中を見守った。
「確かに、教団の仕掛けた呪詛は恐ろしい。でもそれに屈して、手を止めたら終わりなんだ。俺たちが次に進むためには、“壊された夢”を拾い集めるしかない!」
言葉の端々に、蒸気都市で働く者たちへの敬意が込められていた。それは、蒸気の音よりも熱く、鋼よりも真っ直ぐに、技師たちの胸に届いた。
一人、また一人と、拳を握る音が響き始める。
「立ち上がろう。再起のために。俺は、君たちの未来を信じる!」
会場に喝采が広がった。歯車のように噛み合いながら、技師たちの心がひとつになっていくのを翔は感じた。
咲耶が、低く呟く。
「……あれが、彼の“理想”の力、なのね」
翔は頷いた。
「ああ。でも、ひとりじゃ届かなかったと思う。あの斧も、仲間がいたから打てたんだ」
彼の視線は、自らの腰に収まった〈スチームバスター〉へと向く。
この街の“縁”が、自分たちに託してくれたもの。その重みを、翔は確かに感じていた。
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