絆鍛冶師の縁鎚――孤高青年が仲間と紡ぐジョブリンク大戦記

乾為天女

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第26話_群青の諸国会議

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 深青の帷がかかるシェリダン侯国の議会場。その中央広間には、列島五侯国を代表する旗と、各国から派遣された重鎮たちが肩を並べていた。
  木製の天井梁には海鳥の彫刻、床には波を模した青銀の絨毯。まさに“群青の国々”にふさわしい荘厳な空間である。
 「連合軍の正式編成を、ここで決める……か」
  翔はギルドの正装である濃紺の上衣に袖を通し、円卓に向かう椅子へと歩みを進めた。
  その背に、咲耶の声が届く。
 「準備は整っています。各国の懸念も、事前に整理済みです。……あとは、交渉と、あなたの“縁”の出番です」
  咲耶は紙束を抱えて背後に控えると、もう片方からブライセンが気楽に肩を叩いてきた。
 「心配すんな、翔。おれがドンッと口火切ってやる! まずは拳で挨拶だ、とな!」
 「いや、言葉で頼む……会議だから」
  咲耶が素早く首を横に振る。翔は苦笑を浮かべたまま、全員が着席するのを確認すると、中央円卓の上にひとつの巻物を広げた。
 「――これは、“縁理図スクロール”。私たちが築いてきた絆と、各国の関係を視覚化するために鍛えたものです」
  翔が語ると同時に、巻物の表面に青金の光が走り、透き通る線で地図が浮かび上がる。各侯国、各都市、勢力の名が書かれ、そしてそれらを結ぶように、光の糸が絡み合っていく。
 「これが、今の“リブラグノの縁”です。私たちは、このつながりを元に、対〈虚無教団〉への同盟を結成すべきだと考えています」
  室内の空気が一瞬、張りつめた。
  最初に声を上げたのは、砂漠侯国ザハルの長老だった。
 「ふむ。視覚化という点は面白い。だが、我らが前線に立つ意義がどこにある?」
 「補給線と人員の融通が、海港のシェリダン、工業のヴァルトラインと連携できれば、最短時間で整います」
  咲耶が間髪入れずに補足する。すると、今度はヴァルトラインの技師領主が口を開いた。
 「ならば、我が国の魔導蒸気技術を使えば、運搬時間の短縮が可能だ。だが……こちらの機密を他国にさらけ出す形になる」
  その言葉に、場が再びざわついた。
  だが、そこにブライセンが割って入る。
 「おーい、おっちゃんたち! 今はケチってる場合じゃねえんだよ! あの黒幕野郎どもは、国とか壁とか超えてくる連中だろ? だったら、こっちも壁をぶっ壊して、肩組んで戦うしかねえじゃねえか!」
  その言葉に、一瞬静まり返った会場が、ふっと緊張を解くように笑い声を漏らす。
  翔はその隙を逃さず、手元の鎚を握った。
 「だからこそ、“縁”を鍛えるのです。国境や文化を超えて、私たちは今、同じ敵を前に立っています。――この“連合同盟”を、ここに創りましょう」
  そして、翔の〈リンクフォージ〉が発動する。
  光の糸が巻物の上で絡まり、七つの光柱が立ち上がる。各侯国に対応する象徴が、空中に浮かび上がった。
  ――群青の諸国。その縁を、ひとつに結び合わせる時が来た。


 空中に浮かぶ七つの象徴は、それぞれの国の誇りを象徴していた。
  波の紋章――シェリダン侯国。
  砂の鷹――ザハル侯国。
  歯車の盾――ヴァルトライン機工領。
  赤炎の果実――ミレノア森林同盟。
  氷鎧の獣――北境フェリスタ侯国。
  双剣の月――剣術騎士団の自治領アークブレイド。
  そして中央に浮かぶ、絆の鎚を模した紋章が〈リオスト〉のギルド〈蒼盾〉を表していた。
  それらが光の鎖で結ばれ、静かに揺れる。
 「これは、絆の象徴に過ぎません。だが、これを礎に同盟を誓うことができれば、我々の足並みは揃う。……どうか、諸国の代表として、この“縁”を受け入れていただきたい」
  翔が深く一礼する。
  その後、ひとつ、またひとつと賛同の意が上がった。最初に手を上げたのは、北境フェリスタの女侯。剛毅で知られる彼女は、静かにうなずいた。
 「我らの民は長きにわたり、孤高を貫いてきた。だが……“縁を鍛える”という概念には、古き誓いを想起させられる。受け入れよう」
  続いて、ミレノアの同盟議長が穏やかに口を開いた。
 「自然と人との調和こそ、我らが望むもの。“縁”という言葉には、それがある。協力を惜しまぬ」
  場の空気が変わった。
  残るは、ヴァルトラインとアークブレイドだった。
  沈黙を保っていた技師領の代表が、やがて椅子から立ち上がると、翔の方へと一歩、歩み寄った。
 「蒸気と魔道を混ぜた技術は、過去に裏切りと盗用を受けてきた。……だが、君の鍛えた縁は、透明な鋼のように見える。信じてみよう」
  そして最後に、剣の国の副団長が剣を一度抜いて掲げた。
 「戦場に立つ者として、偽りなき縁が最も強い盾になる。――共に戦うと誓おう」
  拍手が広がる。次第に、議場を包むその響きは連打となり、そして、翔たちの胸に届いた。
  咲耶は無言で書面を整え、各国代表に手渡す。同盟条約――すなわち、群青諸国連合の誕生を意味する契約書である。
  ブライセンはやたら嬉しそうに拍手のリズムに乗って跳ねながら、「これで大手を振って暴れられるな!」と叫んだ。
 「暴れるのは計画に沿って……お願いだから」
  咲耶が頭を抱えるその横で、翔は再び、鎚を取り出す。
 「最後に、皆さんの“縁”を象徴する品を打たせてください。名を、“群青連環の旗槍”といいます」
  天井に届くほどの光柱が立ち上がり、七つの国章が収束していく。その中心に、白銀と群青の螺旋を描いた旗槍が姿を現した。
  槍の先には、光の紋章が――それぞれの“絆”が刻まれていた。
 「この旗を掲げる限り、我々の縁は絶たれません。敵がどれほど強大でも、立ち向かえる」
  翔の声に、全員が立ち上がった。
  これが、群青諸国の始まり――虚無教団に対抗する、かつてない連携の始点となった。
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