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第29話_真夜中の理想宣言
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砂漠国ザハルの戦場は、昼と夜とでまるで別の顔を見せる。
焼けつくような陽光に支配されていた大地は、夜になると冷気が這い、すべての熱と音を吸い取っていくかのように静まり返る。
そんな深夜、連合軍の天幕の屋上で、洋平とクリスティーナは肩を並べて座っていた。下では兵たちが仮眠を取り、巡回の衛兵だけが低い声を交わしている。空には月がくっきりと浮かび、砂の粒を銀色に照らしていた。
洋平は剣を膝に置いたまま、長いため息をついた。
「明日の奇襲、成功すると思う?」
クリスティーナは少し間を置き、視線を月に向けたまま答える。
「可能性は五分以下。それでも、やるのでしょう?」
「やるさ。俺が言い出したんだしな」
砂漠国の前線基地を制圧した直後、教団の本営が山岳地帯の黒曜峰にあるという報が届いた。問題は、その要塞が千の刻印罠と魂鋳炉によって守られていることだった。正攻法ではまず突破できない。
「翔が武器を打ち直してくれてなかったら、今頃自信なんかボロボロだったと思う」
洋平は、翔がくれた“信念灯”を手に取った。手のひらほどの小型ランタンは、まだ火を入れていないのに、どこか温もりを感じさせる。
「あなたの信念に共鳴して生まれた武器、でしょう? なら、それはあなた自身の証です」
クリスティーナの声にはいつもの無機質な硬さがなかった。どこか、やわらかさが混じっている。
洋平は小さく笑った。
「そうだといいけどな。でも……」
彼は目を細め、遠くの黒曜峰を見やった。
「理想を言えば、誰も死なずに終わらせたいんだ。それってやっぱ、甘いか?」
「甘いでしょう」
即答だった。しかし続いた言葉は意外にも――
「でも、甘さこそが人を救うとも思います」
洋平は驚いたようにクリスティーナを見た。
彼女は夜気を吸い込みながら言葉を続ける。
「私は、ずっと“最適解”だけを選んできました。感情を捨て、命令に従い、リスクを最小にする。そうでなければ生き残れなかったから」
「……」
「でも、あなたたちと出会って、それだけでは“守れないもの”があると知った」
クリスティーナの両手が、膝の上でわずかに震えていた。
洋平は何も言わずに、信念灯の火を灯した。ぽうっと、あたたかな光が周囲を照らす。
「なら、俺たちの理想、預けてもいいかな?」
クリスティーナは静かにうなずいた。
「ええ。……守りましょう、その理想」
その瞬間、翔のスキル〈リンクフォージ〉が微かに反応した。天幕の下から翔が顔を出す。
「今の、すごく強い“縁”だった。……よし、できそうだ」
翔が鍛造台に向かうと、手には素材がすでに集められていた。精霊銀、黒曜砂、そして信念灯の火。
翔がハンマーを振るうたびに、炎が軋み、光が縒り合っていく。
「“信念灯”の力を中核に、二人の理想を束ねる……」
数十回の打撃ののち、翔は鍛造台から一本の槍を引き上げた。
柄は砂色、刃は淡い青白い光を放っている。柄にはクリスティーナの紋章、刃には洋平の座右の銘「一歩ずつ、理想へ」が刻まれていた。
「“理想の槍《ドクトゥルム・スピア》”だ」
二人は無言でそれを受け取る。洋平が軽く構え、クリスティーナが背を預けるように立った。
「明日が、俺たちの勝負だな」
「ええ。そして、未来への誓いの日でもある」
信念灯の火は風に揺れることなく、空を見上げていた。
焼けつくような陽光に支配されていた大地は、夜になると冷気が這い、すべての熱と音を吸い取っていくかのように静まり返る。
そんな深夜、連合軍の天幕の屋上で、洋平とクリスティーナは肩を並べて座っていた。下では兵たちが仮眠を取り、巡回の衛兵だけが低い声を交わしている。空には月がくっきりと浮かび、砂の粒を銀色に照らしていた。
洋平は剣を膝に置いたまま、長いため息をついた。
「明日の奇襲、成功すると思う?」
クリスティーナは少し間を置き、視線を月に向けたまま答える。
「可能性は五分以下。それでも、やるのでしょう?」
「やるさ。俺が言い出したんだしな」
砂漠国の前線基地を制圧した直後、教団の本営が山岳地帯の黒曜峰にあるという報が届いた。問題は、その要塞が千の刻印罠と魂鋳炉によって守られていることだった。正攻法ではまず突破できない。
「翔が武器を打ち直してくれてなかったら、今頃自信なんかボロボロだったと思う」
洋平は、翔がくれた“信念灯”を手に取った。手のひらほどの小型ランタンは、まだ火を入れていないのに、どこか温もりを感じさせる。
「あなたの信念に共鳴して生まれた武器、でしょう? なら、それはあなた自身の証です」
クリスティーナの声にはいつもの無機質な硬さがなかった。どこか、やわらかさが混じっている。
洋平は小さく笑った。
「そうだといいけどな。でも……」
彼は目を細め、遠くの黒曜峰を見やった。
「理想を言えば、誰も死なずに終わらせたいんだ。それってやっぱ、甘いか?」
「甘いでしょう」
即答だった。しかし続いた言葉は意外にも――
「でも、甘さこそが人を救うとも思います」
洋平は驚いたようにクリスティーナを見た。
彼女は夜気を吸い込みながら言葉を続ける。
「私は、ずっと“最適解”だけを選んできました。感情を捨て、命令に従い、リスクを最小にする。そうでなければ生き残れなかったから」
「……」
「でも、あなたたちと出会って、それだけでは“守れないもの”があると知った」
クリスティーナの両手が、膝の上でわずかに震えていた。
洋平は何も言わずに、信念灯の火を灯した。ぽうっと、あたたかな光が周囲を照らす。
「なら、俺たちの理想、預けてもいいかな?」
クリスティーナは静かにうなずいた。
「ええ。……守りましょう、その理想」
その瞬間、翔のスキル〈リンクフォージ〉が微かに反応した。天幕の下から翔が顔を出す。
「今の、すごく強い“縁”だった。……よし、できそうだ」
翔が鍛造台に向かうと、手には素材がすでに集められていた。精霊銀、黒曜砂、そして信念灯の火。
翔がハンマーを振るうたびに、炎が軋み、光が縒り合っていく。
「“信念灯”の力を中核に、二人の理想を束ねる……」
数十回の打撃ののち、翔は鍛造台から一本の槍を引き上げた。
柄は砂色、刃は淡い青白い光を放っている。柄にはクリスティーナの紋章、刃には洋平の座右の銘「一歩ずつ、理想へ」が刻まれていた。
「“理想の槍《ドクトゥルム・スピア》”だ」
二人は無言でそれを受け取る。洋平が軽く構え、クリスティーナが背を預けるように立った。
「明日が、俺たちの勝負だな」
「ええ。そして、未来への誓いの日でもある」
信念灯の火は風に揺れることなく、空を見上げていた。
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