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第37話_仮面を脱ぎ捨てて
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星が滲むように瞬く夜空の下、王都リオストの後背に聳える星見塔には、沈黙が満ちていた。
翔は塔の最上層、誰にも気配を読まれぬよう結界を張った空間で、鉄扉の前に立っていた。扉の向こうにいるのは、クリスティーナ。ただ一人。
「……来ると思っていた」
声は、かすかに震えていた。
翔は無言で扉を押し、月光が差し込む室内に足を踏み入れる。
窓際に佇む彼女は、背を向けたまま、銀の仮面を手に持っていた。
この数ヶ月、彼女がずっと纏ってきた“副官”という顔。そして、“素顔”を隠す盾。
「ここが一番、空に近い。皮肉だよね。空の巫王の血を引く私が……一番遠くにいたい場所なのに」
翔は黙って彼女の傍に立ち、風が舞い込む中、そっと言葉を投げる。
「クリス。君は、血のせいでここに立ってるんじゃない。自分の意思で、俺たちと共にここまで来た」
クリスティーナは静かに目を閉じた。
そして、仮面をゆっくりと――落とした。
カラン、と乾いた音が塔の石床に響く。
その頬には、涙の跡が光っていた。
「私は、巫王の娘……だった。
“空白”の儀式に必要な鍵――“宵の紋章”を宿す器として、生まれさせられた存在。
命も感情も、使い捨ての道具だって、あの人は……」
震える声を飲み込みながら、彼女は己の左手首を見せた。
そこに浮かぶ蒼い紋が、淡く脈打つ。
これは、“空転祭”の発動に必要な最終キーだと、先日の報告で判明していた。
翔は言った。
「君の中の“紋章”は、誰かの道具になるためじゃない。
君が未来を選び取るための“扉”になるべきだ。……違うか?」
クリスティーナの肩が微かに揺れた。
「私は……ずっと、感情を見せてはいけないと教えられてきた。
弱さを晒せば、切り捨てられる世界で育った。
けれど……あなたと出会ってから、少しずつ――私は自分で在ることを覚えた」
彼女の視線が、初めて真っ直ぐ翔に向けられる。
瞳の奥に、怯えも後悔もある。それでも――踏み出そうとする光も、確かにあった。
翔は一歩、彼女に近づいた。
そして、鍛冶槌を手にする。
「君のために、鍛えたいものがある」
雷ではない。刃でもない。
それは、“縁を守る誓い”そのもの。
「リンクフォージ、発動――〈縁誓指輪・双環式〉!」
光が翔の掌に集まり、金と銀の双環が編まれていく。
片方はクリスティーナの心を護る指輪、もう一方は翔自身の覚悟を示す対の指輪。
それは、戦いの契りであり、共に進む約束だった。
翔は一つを彼女の指に、もう一つを自らの指にはめた。
「仮面の下にいた君のすべてを、これからも見つめていく。たとえ、どんな未来でも」
その言葉に、クリスティーナの瞳が揺れる。
「……私は、怖いの。過去に縛られて、また誰かを傷つけてしまうかもしれない」
クリスティーナの声が震える。
だがその震えは、弱さではなく、己と向き合おうとする決意の兆し。
翔は応じるように首を横に振った。
「縁は鎖じゃない。絆ってのは、支え合うためにあるんだ。
誰かのために動こうとするその心が、君を変えてる。もう、過去の道具なんかじゃない」
クリスティーナは口を噤んだ。
だがその沈黙は、心の奥で何かを選び取ろうとしている時間だった。
塔の外で、風が強くなる。
空には、流星が尾を引いて駆けていく。
まるで、迷いの先にある道を指し示すかのように。
「この“縁誓指輪”には、誓いの呪文が刻まれてる。
君がそれを望むなら、紋章の力を押さえる封印にもなる。
空転祭の鍵が君にあるなら、その鍵を――封じるのも君自身で選べる」
翔の言葉に、クリスティーナの手がそっと自らの胸に添えられた。
「……選びたい。自分の手で」
その声は、小さくも確かだった。
彼女は、自らの左手に嵌められた指輪を見つめ、そっと息を吸い込む。
「副官クリスティーナとしてじゃない。巫王の血族としてでもない。
私、ただ一人の……“クリスティーナ”として、これからを歩みたい」
その瞬間、塔の天井から降り注ぐ星光が、二人を柔らかく照らした。
翔は、指輪が微かに脈打つのを感じた。
それはまるで、彼女の心とリンクフォージが共鳴し、封印の力を宿した証のようだった。
「これで、君の紋章は……誰のものでもない。“君の選択”で動く。
もし、巫王がその力を奪おうとするなら――俺たち全員で叩き潰す」
翔の言葉に、クリスティーナの目に光が戻る。
それはかつて鉄仮面の裏に隠れていた感情ではなかった。
確かな希望、そして“共にいる”という信頼の光。
「ありがとう、翔。……私、この指輪を、誓いとして抱きしめて生きていく」
塔の上、風が止む。
夜が静かに明け始める――仮面を脱ぎ捨てた、新たな一歩を祝福するように。
その頃、塔の下階では咲耶が控えていた。
「……ふたりとも、やっと向き合えたのね」
そっと手帳を閉じ、東の空を仰ぐ彼女の顔にもまた、微かな安堵の笑みが浮かんでいた。
翔は塔の最上層、誰にも気配を読まれぬよう結界を張った空間で、鉄扉の前に立っていた。扉の向こうにいるのは、クリスティーナ。ただ一人。
「……来ると思っていた」
声は、かすかに震えていた。
翔は無言で扉を押し、月光が差し込む室内に足を踏み入れる。
窓際に佇む彼女は、背を向けたまま、銀の仮面を手に持っていた。
この数ヶ月、彼女がずっと纏ってきた“副官”という顔。そして、“素顔”を隠す盾。
「ここが一番、空に近い。皮肉だよね。空の巫王の血を引く私が……一番遠くにいたい場所なのに」
翔は黙って彼女の傍に立ち、風が舞い込む中、そっと言葉を投げる。
「クリス。君は、血のせいでここに立ってるんじゃない。自分の意思で、俺たちと共にここまで来た」
クリスティーナは静かに目を閉じた。
そして、仮面をゆっくりと――落とした。
カラン、と乾いた音が塔の石床に響く。
その頬には、涙の跡が光っていた。
「私は、巫王の娘……だった。
“空白”の儀式に必要な鍵――“宵の紋章”を宿す器として、生まれさせられた存在。
命も感情も、使い捨ての道具だって、あの人は……」
震える声を飲み込みながら、彼女は己の左手首を見せた。
そこに浮かぶ蒼い紋が、淡く脈打つ。
これは、“空転祭”の発動に必要な最終キーだと、先日の報告で判明していた。
翔は言った。
「君の中の“紋章”は、誰かの道具になるためじゃない。
君が未来を選び取るための“扉”になるべきだ。……違うか?」
クリスティーナの肩が微かに揺れた。
「私は……ずっと、感情を見せてはいけないと教えられてきた。
弱さを晒せば、切り捨てられる世界で育った。
けれど……あなたと出会ってから、少しずつ――私は自分で在ることを覚えた」
彼女の視線が、初めて真っ直ぐ翔に向けられる。
瞳の奥に、怯えも後悔もある。それでも――踏み出そうとする光も、確かにあった。
翔は一歩、彼女に近づいた。
そして、鍛冶槌を手にする。
「君のために、鍛えたいものがある」
雷ではない。刃でもない。
それは、“縁を守る誓い”そのもの。
「リンクフォージ、発動――〈縁誓指輪・双環式〉!」
光が翔の掌に集まり、金と銀の双環が編まれていく。
片方はクリスティーナの心を護る指輪、もう一方は翔自身の覚悟を示す対の指輪。
それは、戦いの契りであり、共に進む約束だった。
翔は一つを彼女の指に、もう一つを自らの指にはめた。
「仮面の下にいた君のすべてを、これからも見つめていく。たとえ、どんな未来でも」
その言葉に、クリスティーナの瞳が揺れる。
「……私は、怖いの。過去に縛られて、また誰かを傷つけてしまうかもしれない」
クリスティーナの声が震える。
だがその震えは、弱さではなく、己と向き合おうとする決意の兆し。
翔は応じるように首を横に振った。
「縁は鎖じゃない。絆ってのは、支え合うためにあるんだ。
誰かのために動こうとするその心が、君を変えてる。もう、過去の道具なんかじゃない」
クリスティーナは口を噤んだ。
だがその沈黙は、心の奥で何かを選び取ろうとしている時間だった。
塔の外で、風が強くなる。
空には、流星が尾を引いて駆けていく。
まるで、迷いの先にある道を指し示すかのように。
「この“縁誓指輪”には、誓いの呪文が刻まれてる。
君がそれを望むなら、紋章の力を押さえる封印にもなる。
空転祭の鍵が君にあるなら、その鍵を――封じるのも君自身で選べる」
翔の言葉に、クリスティーナの手がそっと自らの胸に添えられた。
「……選びたい。自分の手で」
その声は、小さくも確かだった。
彼女は、自らの左手に嵌められた指輪を見つめ、そっと息を吸い込む。
「副官クリスティーナとしてじゃない。巫王の血族としてでもない。
私、ただ一人の……“クリスティーナ”として、これからを歩みたい」
その瞬間、塔の天井から降り注ぐ星光が、二人を柔らかく照らした。
翔は、指輪が微かに脈打つのを感じた。
それはまるで、彼女の心とリンクフォージが共鳴し、封印の力を宿した証のようだった。
「これで、君の紋章は……誰のものでもない。“君の選択”で動く。
もし、巫王がその力を奪おうとするなら――俺たち全員で叩き潰す」
翔の言葉に、クリスティーナの目に光が戻る。
それはかつて鉄仮面の裏に隠れていた感情ではなかった。
確かな希望、そして“共にいる”という信頼の光。
「ありがとう、翔。……私、この指輪を、誓いとして抱きしめて生きていく」
塔の上、風が止む。
夜が静かに明け始める――仮面を脱ぎ捨てた、新たな一歩を祝福するように。
その頃、塔の下階では咲耶が控えていた。
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