自由の宿エルファリア 栄光を求めて

乾為天女

文字の大きさ
32 / 146
【第七話:勝利の代償──洞窟脱出と揺らぐ日常】

シーン1:洞窟の後始末と負傷者の救護

しおりを挟む
 化け物を倒した円形の部屋には、なおも微かな瘴気が残っている。床に描かれた魔方陣は消えかけており、崩れた壁からは岩が崩落する音が響いてくる。余韻が残る不気味な空間で、岡村たちは静かに息を整えていた。
「ここでぐずぐずしてたら、洞窟が崩れちまうかもしれない。早く出よう」と朗雄が促す。腕の傷から血が滲んでいるが、疲れ切った表情の中にも、どこか冷静さを感じさせる声色だ。戦闘の余韻を引きずりながらも、彼の足取りには確かな力が宿っている。
 将臣や岡村、矢野もところどころ擦り傷や打撲が絶えない。基一が一応包帯や薬草を取り出して簡易的な手当てを行いながら、「撤退の順番を決めよう。無理をして崩落に巻き込まれたら元も子もない」と的確に指示を出す。
 孝征は部屋の周囲をざっと見回して、「さっきの魔法実験みたいな道具や瓶が落ちてないか確認しておくよ。後々何かの手がかりになるかもしれないから」と言う。銀次が「じゃあ俺が照明を持つから、一緒に手分けしよう」と提案する。
 ほどなくして、孝征は化け物の残骸付近から奇妙な金属片を見つける。金属板に古代文字が刻まれた断片らしく、魔方陣の一部に似た紋様が刻印されている。
「こりゃまた厄介そうだな……でも、こういうのを持ち帰れば、何が起きてたか多少はわかるかもしれない」と苦笑しながら孝征がポケットに忍ばせる。その動作には、疲労と達成感が入り混じった微妙な表情が浮かんでいた。
 岡村は「何にしても、今は早くここを出て、村の人たちに報告しよう。みんなボロボロだし」と言い、全員が脱出の準備を進める。洞窟を出るまではまだ油断できないが、ひとまず最深部での脅威は去ったようだ。
 将臣は立ち止まり、壁に手をつきながら「俺……ちゃんとできたのかな」と小さく呟いた。その不安げな顔に、銀次が背中を叩いて「何言ってんだ。お前がいたからこそ、ここまで来れたんだろ」と励ます。
「でも……もしまた暴走したらって思うと……」と将臣が言葉を詰まらせると、朗雄が「怖がるのは当然だ。でも、てめぇでやれることをやったんだ。それを誇れよ」と、少し乱暴ながらも優しさを込めた声で言う。
 将臣は俯きながらも、「ありがとう」と小さく呟き、仲間たちの顔を見つめた。その中に確かな信頼を感じ、胸が少しだけ温かくなる。
 基一が再度道順を確認し、「とりあえず、来た道を戻ろう。危険な分岐は避けたほうがいい」と判断する。裕翔が「じゃあ俺が先頭を歩く。残りの罠がないか確認しながら進む」と名乗り出た。
「じゃあ、俺が後衛だ。万が一後ろから追ってくる奴がいたら叩きのめす」と矢野が槍を構える。銀次がその背後を守る形で、全員が慎重に列を組む。
 洞窟を抜け出すまでの道のりは長いが、全員の心には達成感が少しずつ湧き上がっていた。将臣は心の中で「もう、過去の俺とは違う。焦らず、仲間と一緒に進めば、きっと大丈夫だ」と繰り返す。
 崩れかけた洞窟の天井から、砂粒がぱらぱらと落ちてくる音が響く。その度に緊張が走るが、誰一人として立ち止まらない。前へ進むことが、今の彼らにとって一番の選択だからだ。
 洞窟を出たら、村人たちに無事を報告し、仲間たちと無事を喜び合う。そんな平和な時間が待っていると信じて、一歩一歩、確実に前へ進んでいった。
 薄暗い通路を抜け、かすかに外の光が見え始める。「よし、もう少しで出口だ……!」と将臣が声を弾ませ、岡村も「これでようやくまともな空気が吸える!」と笑顔を見せた。
 外の光が広がり始め、無事に脱出できる希望が見えてきた。彼らの歩みには、確かに以前にはなかった自信が滲み出している。シーン1[終]
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...