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第十五話「静かなSOP、後輩に残す書類の山」
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九月二日、文化祭前日。
夕暮れの光が窓のカーテン越しに差し込む中、潮風高校・文化祭準備室の一角にある、海辺研究会の作業スペースでは、紙の山が積み重なっていた。
その中心で、黙々とファイルに目を通しているのは、豊だった。
口数はほとんどない。だが、彼の指は一切止まらない。
照明の下で書類をめくる音と、キーボードを打つリズムが、静かなBGMのように空間を満たしていた。
「……豊、これ、前年度の分? それとも申請前の下書き?」
結月が声をかけると、豊は軽くうなずき、書類の右上を指差した。
「緑の付箋は下書き。青は確認済み。黄色は要対応」
「なるほど……わかりやすい」
思わず感嘆の声を漏らすと、彼は小さく「ルールは可視化」とだけつぶやいた。
彼がいま整理しているのは、海辺研究会が発足して以来のすべての活動記録と運営ノウハウだった。
市民科学コンテストの応募書類、合宿時の班分け表、観測許可の連絡履歴、資材発注書、出欠表、実施報告書、スライドの下書き、改善メモ――その数、軽く100枚を超えていた。
そのすべてに、彼はルールを決めて分類し、所定のフォルダに格納していく。
結月が、ふと視線を机の奥に向けた。
壁に、一枚のA4コピー用紙が貼ってある。
そこには、手書きの太い文字で、こう書かれていた。
《静かなSOP(Standard Operating Procedure)》
《※静かでも、回るように。誰がいても、回せるように》
彼の“声なき意志”がそこにあった。
「……豊、もしかして、これ全部、後輩に引き継ぐつもり?」
彼は再びうなずき、数秒の沈黙のあと、言った。
「“成果”は、今年限り。“仕組み”は、未来につながる」
それは彼の哲学だった。
そのとき、準備室に裕之がふらっと入ってきた。
「……プロジェクター、接続テスト、終わった。展示ブース、準備OK」
「ありがとう。記録のフォルダに追加しとく」
豊は即座にファイルを開いて、テスト結果の記録欄に書き込んだ。
「……すごい。ミスが、起きる気がしない」
裕之がぽつりとつぶやいた。
「ミスは、起きる。だから、残す。記録も、手順も」
豊はキーボードをたたく手を止めずにそう返す。
その姿は、まるで“無音の司令塔”だった。
日が暮れ、教室にはぽつぽつと帰る生徒の気配がし始める中、豊は最後に一つのUSBメモリに書類データをまとめた。
その表面に、小さく手書きでラベルが貼られている。
《海辺研_次代へ》
そして、付箋が一枚。
《何かあれば、この中に答えはある。なければ、足してくれ》
彼はそのUSBを、後輩の机の上に、静かに置いた。
音はなかった。
でも確かに、バトンが渡された音が、そこにはあった。
夕暮れの光が窓のカーテン越しに差し込む中、潮風高校・文化祭準備室の一角にある、海辺研究会の作業スペースでは、紙の山が積み重なっていた。
その中心で、黙々とファイルに目を通しているのは、豊だった。
口数はほとんどない。だが、彼の指は一切止まらない。
照明の下で書類をめくる音と、キーボードを打つリズムが、静かなBGMのように空間を満たしていた。
「……豊、これ、前年度の分? それとも申請前の下書き?」
結月が声をかけると、豊は軽くうなずき、書類の右上を指差した。
「緑の付箋は下書き。青は確認済み。黄色は要対応」
「なるほど……わかりやすい」
思わず感嘆の声を漏らすと、彼は小さく「ルールは可視化」とだけつぶやいた。
彼がいま整理しているのは、海辺研究会が発足して以来のすべての活動記録と運営ノウハウだった。
市民科学コンテストの応募書類、合宿時の班分け表、観測許可の連絡履歴、資材発注書、出欠表、実施報告書、スライドの下書き、改善メモ――その数、軽く100枚を超えていた。
そのすべてに、彼はルールを決めて分類し、所定のフォルダに格納していく。
結月が、ふと視線を机の奥に向けた。
壁に、一枚のA4コピー用紙が貼ってある。
そこには、手書きの太い文字で、こう書かれていた。
《静かなSOP(Standard Operating Procedure)》
《※静かでも、回るように。誰がいても、回せるように》
彼の“声なき意志”がそこにあった。
「……豊、もしかして、これ全部、後輩に引き継ぐつもり?」
彼は再びうなずき、数秒の沈黙のあと、言った。
「“成果”は、今年限り。“仕組み”は、未来につながる」
それは彼の哲学だった。
そのとき、準備室に裕之がふらっと入ってきた。
「……プロジェクター、接続テスト、終わった。展示ブース、準備OK」
「ありがとう。記録のフォルダに追加しとく」
豊は即座にファイルを開いて、テスト結果の記録欄に書き込んだ。
「……すごい。ミスが、起きる気がしない」
裕之がぽつりとつぶやいた。
「ミスは、起きる。だから、残す。記録も、手順も」
豊はキーボードをたたく手を止めずにそう返す。
その姿は、まるで“無音の司令塔”だった。
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その表面に、小さく手書きでラベルが貼られている。
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音はなかった。
でも確かに、バトンが渡された音が、そこにはあった。
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