潮風高校“海辺研究会”へようこそ!拍手でつなぐ僕らの青春航路

乾為天女

文字の大きさ
25 / 25

第二十五話「拍手のバトン、未来へ」

しおりを挟む
 三月一日、潮風高校・体育館。
 朝の冷たい空気を破るように、澄んだ校歌の合唱が響いていた。
 卒業式。
 白いガーベラが並ぶ壇上の下、陽太たちは最後の制服に身を包み、静かに着席していた。
 結月のリボンはいつもより丁寧に結ばれ、絢香は少しだけ化粧をしていた。紗織の腕時計は秒単位で正確に動いており、裕之は式次第の紙を折らずに持っていた。
 豊はメディア室で編集した記念映像を、さっき音響係に手渡してきた。
 悠介だけが、目を伏せてつぶやいた。
 「最後くらい、粗くなく、決めたいな……」
 式が進むなか、校長先生の話が終わり、卒業証書授与が始まった。
 名前を呼ばれるたびに、体育館の空気が少しずつ温かくなる。
 そして最後。
 「卒業生代表──三年七組、三好陽太!」
 陽太は、真っすぐ前を見て立ち上がった。
 拍手。
 けれどその拍手は、ただの形式ではなかった。
 ホールの壁に飾られた海辺研究会の横断幕。
 《挑戦を、拍手で祝おう》
 後輩たちが手作りしたその文字の下に、立っているのは新入部員たち。
 セレモニーは、彼らが提案したのだった。
 卒業証書を受け取った陽太が壇上から戻ると、結月がすぐに立ち上がった。
 「それでは、これより──潮風高校“拍手のバトン”セレモニーを始めます!」
 体育館の後方で、後輩たちが一斉に手を叩き始める。
 パチン、パチン。
 やがて拍手は、横へ、前へ、全体へと広がり、まるで波が寄せるように、卒業生たちを包んでいった。
 音の輪が、潮騒のように胸に響く。
 「これは、あなたたちの挑戦に──ありがとうを伝えるための拍手です!」
 後輩の一人がそう叫ぶと、壇上にいた校長先生も、静かに手を叩いた。
 教師たちも続いた。
 そして、保護者席からも、一つ、また一つ。
 拍手が校舎の天井を揺らすほどの音量になったとき、結月が、そっと陽太の腕をつついた。
 「ほら、部長。ちゃんと、届いたよ」
 「……うん。全部、受け取った」
 陽太の目に浮かんだ涙を、もう誰も笑わなかった。
 そして、後輩たちが前に出て、手にしていた小さな白いリボンを、卒業生一人ひとりの胸に結び始めた。
 「これは、私たちの“誓い”です。いつか、また誰かの挑戦を、拍手で祝うって──」
 最後に結ばれたのは、陽太の胸元だった。
 そっと結んだのは、あの時メディア室で豊に話しかけていた後輩だった。
 「僕たち、ちゃんと引き継ぎます」
 陽太は、黙って頷いた。
 こうして、「海辺研究会」は、ただの任意クラブではなくなった。
 理念が文化となり、心から心へ、確かに受け継がれていく。
 卒業式が終わっても、拍手の余韻は、春の風とともに校庭を吹き抜けていた。
(本編・完)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

野良犬ぽちの冒険

KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる? ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。 だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、 気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。 やさしい人もいれば、こわい人もいる。 あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。 それでも、ぽちは 思っている。 ──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。 すこし さみしくて、すこし あたたかい、 のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

処理中です...