あの校庭の花は、全部知っている。

乾為天女

文字の大きさ
7 / 20

第7章「謎の手紙と体育倉庫の鍵」

しおりを挟む
「この封筒……誰か落とした?」
 朝の登校途中、菜緒が見つけたのは、校庭の端にぽつんと落ちていた一通の古びた茶封筒だった。紙は少し黄ばみ、端がちょっと焼け焦げている。なにより、そこには黒インクで手書きの文字が。
『失われた時は、花に聞け』
「……また花かい!!」
 思わず叫びかけたのを飲み込んだ。
(いや、でも……これ、どこかで……)
 記憶が掘り起こされる。そうだ。あれは図書室で、悠里が持ち出してきた、例のメモ。
『失われた時は、花に聞け』
 完全一致である。
「うわ、これ絶対“つながってる”やつ……!やばいやつ……!でもちょっとテンション上がってきた……!」
 封筒の中をそっと開けてみると、中には一枚の紙と、古びた金属製の鍵がひとつ。
 紙には、なぜか座標のような数字と、学校の見取り図っぽいスケッチ。
「……これ、絶対学校のどっかだよね……」
 すぐに放課後、調査チーム(自称)を召集。

 放課後、屋上。
「いや、なんで会議場所がここ?」
「風が気持ちいいから」
「あと“意味ありげ”な雰囲気出るから」
「今のところ意味は一個もない!」
 菜緒は封筒と中身をみんなに見せながら、慎重に説明を始めた。
「見て。座標っぽい数字と、地図。たぶん、これ“学校内のある場所”を示してるんだと思う」
「そしてこの鍵。どこかの扉を開けるためのやつだよな」
「古いし、たぶん今はもう使われてない部屋……?」
 全員が顔を見合わせる。
「で、どこだと思う?」
 拓毅が一瞬で答えた。
「体育倉庫だな」
「え、早っ!」
「スケッチがこれ。ほら、グラウンドの隅の、旧体育倉庫。いまは使われてないほう」
「そんなとこあったっけ……?」
「ちゃんとある。鍵も形状的に“旧タイプの南京錠”に合うやつだ」
「いや拓毅、情報処理速すぎ!もはや人じゃない!」
「ありがとう、人ではないって言われたのは初めて」
「褒めてないからね!?」

 数時間後――
 夕暮れのグラウンドに集まった一行は、旧体育倉庫の前に立っていた。
「これ、絶対入っちゃダメな雰囲気じゃん……」
「逆に言えば、“だからこそ入るべき”ってことだよ」
「この前から疑問だったけど、お前その“フラグをわざと立てる”スタイルいつ身につけたの?」
「読んでる少年マンガ全部そうだった」
「フィクション脳!!」
 拓毅が鍵を手にして、慎重に錠前に差し込む。
「……」
 カチャ。
「開いた」
「開くのかよ!!」
 ギイィィ……という音と共に開いた扉の向こうは、完全な暗闇だった。
「おーい、懐中電灯ー!」
「ちょっと待って、花の着ぐるみの中にしまってた!」
「なぜそこに!?」
 中に入ると、そこは――
「うわ、ホコリがすご……くしゃみ出そう……へくしっ!!」
「オレのYOで空気清浄できないかな……?」
「無理だよ。むしろYOが埃舞い上げてるよ!」
 旧倉庫は、古いマットや跳び箱、なぜか使い込まれた竹刀や“タイヤ”の山など、体育的に説明のつかない物であふれていた。
「で、どこ調べるの?」
「とりあえず“明らかに物語進みそうな箱”を探そう」
「そういう感覚は正しいの!?」
 しばらく探索を続けていると――
「……あった」
 哲哉が見つけたのは、奥の棚の上にぽつんと置かれた、小さな金属箱。
「これはもう絶対“開けてくれ”って顔してる……!」
「でも、“開けたら鳴き声する系”だったらどうする!?」
「それはもはやペットボトルロケット的なアレだよね」
 慎重に開けると、中には――
「手紙?と……何これ、古いフィルム?」
「これ……“観察記録”みたい」
 フィルムには、ぼんやりとした人影と、花の映像らしきもの。そして、何かの装置のような物体。
「これ……学校内で何か、実験されてた……?」
「“花を観察するための装置”とか?」
「なにその花専用ハイテクカメラ!最新AI搭載です!みたいな……」
「高校でそんな研究予算あるか!!」
「でも、だとしたら……」
 菜緒がそっと手紙を開く。
 中には、手書きの文字で、こう綴られていた。
『この花には、過去が見える。
  だから、見てはいけない記憶も、時々写る。
  鍵は、咲いたときに動く。』
「……え?」
 全員が一瞬固まった。
「動く?」
「何が?」
「鍵が……咲いたときに……?」
「“鍵が咲く”の!?え、鍵って咲くの!?」
「鍵って概念だったの!?」
「なんで急に詩的になるの!?」
 情報は多いようでいて、さっぱり核心が見えてこない。
 でも、一つだけはっきりしていることがあった。
「やっぱ、花だな」
「全部、あの花が中心にあるんだよ」
「じゃあ……この調査、長期戦になるかも」
「おっしゃ!“本格調査チーム”ここに結成だな!!」
「いや、もうチームとして動いてるでしょ」
「でも名前なかったじゃん。チーム名必要でしょ?」
「急に!?今このタイミングで!?」
「“フラワー・オブ・ザ・トゥルース”とかどう?」
「語感が悪い!!」
「“花咲き探偵団”とか?」
「それもうジャンル違くない!?」
「“花咲YO戦隊”とか……」
「それだけは絶対やめろおおお!!」
 笑い声とともに、夕暮れの倉庫をあとにする彼らの背中は、ほんの少しだけ――冒険者っぽくなっていた。

 夜。学校の近くのファミレス。
「……というわけで、“鍵が咲く”という謎の情報を手に入れた我々は……」
「まずハンバーグを注文した」
「この唐揚げ、サクサクしててうまっ……」
 ファミレスで打ち合わせ(という名の夕食会)を開いていた調査チーム。妙に豪勢なテーブルには、哲哉、菜緒、栄徳、悠里、苑夏、麗真、華也子、拓毅のいつものメンバーが揃っていた。
「とりあえず、今日わかったこと整理しよっか」
 菜緒がノートを開く。
「はい、“突然届いた封筒に謎の手紙と座標”、それが旧体育倉庫を示していて、中には過去の記録っぽいものと“鍵”。」
「そして、“その鍵は、咲いたときに動く”……という謎ワード」
「ねえ、これ何回読んでも“ポエム”なんだよね」
「鍵が咲いたら、どうなるんだよ……キーケースに花が咲くのかよ……」
「“カギザクラ”みたいな新種植物かも……」
「お前ら、雑学と妄想の使い方が雑すぎる!」
 哲哉が、静かに口を開く。
「でも、“咲く”っていう表現をそのまま使ってるなら、やっぱ“花”と関係あるよな」
「じゃあ、“鍵”っていうのは比喩で、“咲いた瞬間、何かが開く”ってこと……?」
「例えば、異空間へのポータルとか……!」
「中学生の自由研究じゃないんだから!」
「でもさ。花が咲いた“瞬間”をどうやって見る?」
「え?」
「普通、咲いてるのしか見ないでしょ。“咲く瞬間”って、意外と誰も見てない」
「あー……言われてみれば」
「つまり、“その瞬間”に鍵が動くなら、見逃してる可能性高いってこと」
「じゃあ、次の花の“咲く瞬間”を、張り込んで見張るってこと?」
「見張るって……24時間!?交代制!?夜中も!?」
「夜中に花張ってる高校生、めっちゃ不審者だよね……」
「というか、寝よう!?一回寝よう!!」
 全員が頭を抱える中、悠里がふとつぶやいた。
「……監視カメラ、つければよくね?」
「おぉー!」
「めっちゃ現代的解決法!」
「それ、なんなら最初からやるべきだったやつ!」
「でも校内に設置していいのかな……?」
「俺、技術部の先輩に相談してみる!」
「華也子、そういうのいけるの!?」
「うん。“演出の一環”って言えば、わりとなんでも通る」
「演劇部の権力の使い方、完全におかしい」

 数日後――
 花の前に、超小型カメラが設置された。
「“自然観察用”って名目で通った」
「さすが演出部、抜かりがない」
「しかもこのカメラ、動きがあったときだけ録画する高性能!」
「文明すげぇ……!」
 そして、翌朝。
 拓毅がカメラを確認して叫んだ。
「花が、“動いた瞬間”撮れてる!!」
「え!?マジで!?」
 みんながカメラの映像に食いつく。
 映像には、夜中の校庭。風もなく、静まり返ったその中で――
 白い花が、ふわりと膨らみ、ゆっくりと咲いていく様子が映っていた。
 そして――
 その瞬間、花の根元が、かすかに“光った”。
「……これ、なに?」
「“咲いたときに鍵が動く”って、もしかして“場所が開く”ってことかも……?」
「じゃあ、花の下、掘ってみる!?」
「いやいやいや、いきなり“校庭掘る”って不審すぎるから!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて……!」
 そのとき――
「……なにしてんの、君たち」
 背後から、司書の先生(無言で恐いタイプ)が声をかけてきた。
「えーと、えっと……植物観察です!」
「花を掘ろうとしてましたね?」
「観察の一環で!!掘る系の観察で!!」
「花の気持ちに“深く”入ろうとして!!」
「みんな言い訳が雑すぎる!」
 なんとか退場命令は回避したものの、やはり校庭を勝手に掘るのは無理と判明した。
「じゃあどうするよ……」
「待つしかない。あの“光”の意味がわかるまで」
「花がもう一度“咲く瞬間”を見せてくれるまで……」
 そのとき。
「……また、咲く気がする」
 菜緒がぽつりと呟いた。
「どうして?」
「わかんない。……でも、この花、今度は“呼んでる”気がするの」
 全員が花に目を向ける。
 揺れていない。風もない。
 でも――
 花の周囲にだけ、ほんのわずかに、空気が震えているように見えた。
「……やっぱ、来てるぞ。物語が」
「やめろ、締めのセリフっぽいこと言うの!」
「もうこれ、最終回直前みたいになってるじゃん!」
「ていうか、“花の動き”に心揺さぶられる高校生活、想定してなかった!」
「でも、なんか……嫌いじゃないよね」
「うん、わかる。なんか変なのに、ちょっと誇らしい」
 みんなの視線の先で、白い花は今日も静かに、咲いていた。
 まだ“鍵”は動かない。
 でも、確かに花は、次の“言葉”を待っている気がした。
【章終】

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...