あの校庭の花は、全部知っている。

乾為天女

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第13章「戻れなくなった午後」

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 放課後。
「……あれ?」
 栄徳が、空を見上げて言った。
「なんか、空の色、ずっと変じゃね?」
 教室の窓の外。夕焼け色に染まったままの空が、ずっと“止まったまま”になっていた。
「いや、夕方ってこんなに“長かった”っけ?」
「んー……今日は地球がちょっとのんびり回ってるとか?」
「地軸の問題じゃねーよ!」
 時計を見ると、確かに時間は進んでいる。
 けれど、空も、風も、音も――なぜか、世界の“流れ”が止まっているように感じた。
「ねえ……もしかして……まだ“完全には戻ってきてない”んじゃ……?」
「えっ!?」
「え、じゃあなに? 今いるこの世界、まだ“記憶の中”!?」
「うそでしょ!?じゃあ俺たち、帰ったと思って“もう一回夢見てる”ってこと!?」
「夢の中でフェス準備とか地獄じゃん!!」
「うわー!目覚めたらチュロスの粉混ぜからやり直しパターンだこれー!」
 パニックとまではいかないが、焦りと微妙な絶望感が、じわじわと教室を満たしていく。
 そんな中、いちばん冷静だったのは――拓毅。
「落ち着け。こういうのは、情報が命だ」
 彼はすでにノートPCを立ち上げ、謎のシミュレーションを走らせている。
「よし。今この教室にいる俺たち全員、“花の記憶リンク”が残ってる可能性がある。つまり――」
「――また、境界開いてるってこと!?」
「わああああ!!!やめてええええ!!!」
「帰ったと思ったら“おかわり異世界”とかいらないのよ!」
「これ絶対“長居しすぎた客はループ地獄に招待”みたいなパターンじゃん!!」
「花ァ!俺らもう満腹だよ!チュロス的にも記憶的にも!」
「むしろ出過ぎた記憶を吐き出したいレベル!!」
 だがその時――
 校庭の花が、また、ふわりと揺れた。
 風もないのに。
 しかも、今回は明らかに花びらが一枚……消えた。
「消えたあああああ!?!?」
「い、今、見た!?花、痩せたよね!?一枚減ったよね!?!」
「枯れてんの!?エネルギー使いすぎてダイエットしてるの!?」
「それとも、“残りの花びらがタイマー的な役割”とか!?やばい、ゲームで見たことあるやつだ!」
「えっ、あと3枚しか残ってない!?そんな“ライフ制”!?怖ッ!」
 一同の動揺をよそに、淡々とノートを読み続ける拓毅。
「……たぶんだけど、花の“記憶容量”が不安定になってる。さっきみたいに大量の記憶を放出したから、“戻すためのエネルギー”がギリギリなんだ」
「要するに……“帰りの分のガソリン足りません”ってこと?」
「うっわ!レンタカーの返却ミスったパターンだ!」
「しかもこれ、レギュラーじゃなくて“想い燃料”とかいう曖昧なやつ!!」
「詰め方わかんねぇよ!どうやって想い詰めんだよ!」
 そのとき、ふと静かになった空気の中、菜緒がつぶやいた。
「……もしかして、“帰りたい”って気持ちが、足りないのかも」
「えっ?」
「ほら、みんな、ちょっと“異世界慣れ”しちゃってたでしょ?戻ってきたのも、なんとなく楽しかったけど……本当に“帰りたい”って心から思ってたかなって」
「う……た、たしかに……!」
「異世界テンションでふざけまくってたかも……」
「YOとか叫んでる場合じゃなかったのかも……!」
「いやそこは別にいつも通りだったろ!?」
「お前がそれ言う!?!?」
 でも、花の前に立った菜緒の姿は、どこか静かだった。
「もう一回、“帰りたい”って、ちゃんと伝えようよ」
「……うん」
 全員が、花の前に集まった。
「帰りたい。ちゃんと、戻りたい。フェスの準備もあるし」
「……やり残したチュロスの在庫調整もあるし……」
「お前、それが理由なのかよ……!」
「でもまあ……やっぱ、現実に帰らなきゃな。戻って、“思い出”にしないと」
 花は、ただ静かに揺れていた。
 やがて――
 空が、ゆっくりと染まっていく。
 赤から、オレンジへ。
 そして、静かに――青に。
「……動いた」
「時間が、戻った……」
「うおおおおお!!俺たち、世界に帰ってきたぁぁああ!!」
「校庭のベンチがあるぅううう!!チュロスの生地がふやけてるぅううう!!」
「そこ戻る必要あった!?なんで戻って最初にそれチェックするの!?」
 全員がわちゃわちゃと喜びの舞(謎)を披露している中、拓毅が小声で呟いた。
「……でも、“記憶の花”の残り、あと少しだな」
「つまり、次に何か起きたら――」
「それが、“最後”かもしれない」
 その言葉に、ちょっとだけ空気がピリッとする。
 だが次の瞬間。
「じゃあ!最後に花が咲いたら、オレ、プロポーズするって決めてた!」
「お前、誰に!?」
「世界に!!!」
「規模がでかすぎて返事返せないわ!!」
 花はその日、何も言わずに、夕焼けの中でそっと揺れていた。
 風は――少しだけ、あった。
【章終】
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