あの校庭の花は、全部知っている。

乾為天女

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第14章「それぞれの想い」

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 昼休み、いつもの屋上。
 風は穏やか。空は青い。チュロスは売れ残っている。
「なんかさー……最近、“内面”を見つめ直す時間、必要なんじゃないかって思うんだよね」
「どうした!?急に哲学的!?」
「いや、異世界行って帰ってきた高校生として、なんかそういうモード来るかなって……!」
「やだー!“俺たち、ちょっと変わっちまったかも”感出してるーー!!」
 でも確かに、みんな“ちょっとずつ”変わっていた。
 ちょっとだけ、真面目に。
 そして、ちょっとだけ、ズレていた。

【哲哉の場合】
「……最近さ、俺、団長ってなんだったのか分からなくなってきた」
「お前は真面目か!!」
「いや違うの!ほら、応援団長から始まって、異世界リーダーみたいになって、責任感というか、“引っ張らなきゃ”みたいなの、妙に育ってて……」
「……でもさ、冷静に考えて、俺、団長決まったの、くじ引きじゃん?」
「うわーーー原点見失ってたーーー!!」
「気づいたら“俺が皆を導く!”みたいな気持ちに酔っててごめん!」
「そのまま“俺が花だ!”くらい言い出す勢いだったよな」
「さすがにそこまではいってないよ!?多分!」

【菜緒の場合】
「私ね、ずっと“なんとなく”で動いてた気がする」
「ほら、最初も、“花がしゃべってる気がする”とか、直感ばっかりで」
「で、気づいたら“精霊の声が聞こえるヒロイン枠”みたいになってて……」
「いやもうそれ、公式設定だからね?学校非公式だけど公式」
「でもさ、本当は全然わかってなかったの。“誰の記憶”とか“なぜ花が咲くのか”とか、雰囲気で“わかったふう”してただけで」
「え、じゃあ今までの“静かに目を細める”演技、全部ハッタリだったの!?」
「うん……8割は“眠かっただけ”」
「嘘でしょ!!!?信じてたのに!!!」

【栄徳の場合】
「俺は……YOしか言ってなかったなって」
「知ってる!!!!」
「でもさ、俺、本当はもっと“ちゃんと喋れる男”になりたかったんだよ」
「だったらまず“YO言わない練習”から始めよ?」
「いや違うの!“YO”には全部詰まってるから!」
「なにが!?情報ゼロじゃん!」
「例えば、“YO”のあとに“気づいたんだ”って続けたら、“何かに気づいた感”出るでしょ?」
「いやもう詐欺じゃん!!」

【悠里の場合】
「オレ、ずっと副主役って感じで生きてきた気がするんだよね……」
「また始まったこの人の副主役論!」
「でもさ、主役って責任重いし、ヒロインとかとフラグ立てなきゃだし、辛くない?」
「お前の主役像どうなってんの!?少女漫画に引っ張られてない!?」
「だから、オレは“主役の隣でやたら盛り上げてくれる友達”くらいがちょうどいい」
「いやリアルにそのポジで助かってるけども!!」

【拓毅の場合】
「俺……このメンバーにいると、自分が人間なのか怪しくなるときある」
「急になに言ってるの!?不安になるやつ!!」
「いやだって、冷静に考えて、記録係っていうか、もう“情報処理AI”みたいになってない?」
「それで言うと最近、喋るたびに“ピコッ”てSE聞こえる気がする」
「それは錯覚だ」
「言い切った!?めちゃくちゃ言い切った!!」

【麗真の場合】
「私は、もっと花の気持ちを知りたいと思ってる」
「うん、それはいつも言ってるね」
「着ぐるみの中に入ってから、花と一体になれた気がしてる」
「やっぱそこは着ぐるみ関係あんのかよ!!」
「でも、中に入ると見える景色が違うのよ。“花は、ずっと見てる”ってのが分かる」
「今、ちょっとだけ共感しそうになった自分が悔しい!!」

【華也子の場合】
「……みんな、めっちゃ語ってるけど……」
「私、フェスの装飾進行表が間に合ってない」
「うわ、急にリアル!!」
「異世界行こうが帰ろうが、締切は待ってくれないのよ……!」
「一番強いのは、現実だった!!!」

 みんながそれぞれの“思い込み”と“勘違い”と“自意識”と戦っていた屋上。
 だがその中に、確かに一つの共通点があった。
 ――それぞれ、少しずつ、“誰かのことを思っている”。
 帰ってきた場所で。
 チュロスの香りが漂う空の下で。
 花は、今日も、何も言わないけれど――
  きっと、また誰かの“気づきを”見つめている。

 屋上の風が、気持ちよく吹いている。
 ……ように思えたが。
「というわけで、俺、やっぱ“異世界系応援団”として生きていこうと思う」
「いきなり未来決めんな!?しかもジャンル曖昧!」
「え、なにそれ。異世界で応援しながら戦うの?」
「そう。“さあ立ち上がれ!我らが勇者ぁぁあ!”みたいな感じで叫ぶ!」
「それ、もう演劇部なのよ!!」
「むしろ最後はチュロス投げて回復するよ!」
「武器なの!?アイテムなの!?チュロスの汎用性なに!?」

 別の場所では、菜緒が真剣な顔で、ノートに何かを書き込んでいた。
「……“花語翻訳辞典”作ってるの?」
「うん、“ふわっと揺れた”は“YES”、
  “しゅんってなった”は“気まずい”、
  “無風なのにぐるぐる揺れた”は“話しかけないで”って意味だと思って」
「それ、完全に人間の情緒を花に投影してるよね!?」
「あと“葉っぱが光ったとき”は“チュロス食べたい”サインってことにした」
「そんな腹減り精霊いないから!!」

 悠里はというと、やたら真剣な顔で窓の外を見つめていた。
「……俺、やっと気づいたかもしれない」
「なにに?」
「“副主役”って、舞台袖でタイミング間違えるとめっちゃ目立つんだよ」
「うん、まあそうだね」
「だから俺、もう“主役にならない副主役”じゃなくて、“主役より目立つ副主役”を目指すわ」
「それ、最終的に主役食うやつだよ!?ラスボス副キャラの道まっしぐらだよ!?」
「俺の“YO”で観客の心を持ってくスタイル!」
「持ってかないで!!セリフの途中で“YO”ぶっこまないで!!」

 そして、華也子は体育館の横で、照明案のラフを描いていた。
「ここで、LEDフラワーが“共鳴してる感じ”出すのがポイントね……」
「共鳴ってどうやって?」
「葉っぱをラップのビートに合わせて点滅させるの」
「いや花の役者つら!!“YOに合わせて花が反応”って!オーディション地獄!!」
「あと、ラストは花が“めっちゃ泣いてる風”に青点滅して、そこにチュロスが舞い降りるの」
「涙のあとにチュロス!?感情の連結どこ!?!」

 その頃――
 図書室では拓毅が、一人静かにペンを走らせていた。
「記録は正しく残さなきゃな……“混乱の中でも笑っていた”って、記録しよう」
 彼は真面目な顔のまま、ニヤけたメンバーのスケッチを描いていた。
「……でもこれ誰に向けて残してんの?」
「未来の俺と……もしまた花が誰かを呼ぶなら、その人へ」
「めっちゃカッコつけてるけど、背景に“チュロスの油染み”広がってるよ?」
「それもまた、俺たちの“歴史”なんだよ」
「カッコいいこと言ったのに説得力ゼロ!!」

 放課後。
 みんなで校庭の花を見に行った。
 花は、静かに咲いていた。
 変わらずそこにあるだけのようで、少しだけ、嬉しそうにも見えた。
「ねえ……私たち、変わったかな」
 菜緒の問いに、哲哉が答える。
「変わったよ。たぶん、良い意味で」
「うん、チュロスの扱いとか、YOの許容範囲とか」
「そこ“変わっちゃダメな部分”だったかもしれないけどね!!」
 でも誰も、“このバカみたいな日々”が嫌いじゃなかった。
 自分だけの思い。
 誰かへの思い。
 すべてが、笑って語れる“記憶”になっていく。
 そして今日も花は、少しだけ揺れていた。
 たぶん、笑ってたんだと思う。
 無風なのに、ぐるぐると。
【章終】

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