後宮日和は、旬の野菜と木漏れ日の彼

乾為天女

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第11話 王宮監査と消えた帳簿

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 陽苑の朝は、いつもより少しだけ耳がざわついていた。

 「ねえ、聞いた?」「聞いた聞いた。今日、来るんでしょ」「誰が」「あの、数字の人たちが」

 廊下のあちこちで、ひそひそ声が飛び交う。洗濯場から戻る女官も、配膳室へ向かう女官も、みんななんとなく歩幅がそろわない。

 「……数字の人?」

 菜園から戻ってきた晴矢は、桶を抱えたまま首をかしげた。荷台から土付きの根菜を下ろす手が、つい止まる。

 「王宮の監査官だよ」

 背後から、涼しい声がした。事務室から出てきた敏貴が、帳簿を数冊胸に抱えて廊下を歩いてくる。

 「一年に一度、王宮全体のお金の使い方を確かめに来る人。台所も菜園も、もちろん陽苑も、その目からは逃げられない」

 「逃げるつもりはないですけど」

 「そう言える料理人は、貴重だね」

 敏貴は薄く笑い、胸の帳簿を抱え直した。

 「心配しなくていいように、ここ数年の支出と収入は全部整理してある。菜園の維持費も、試食会のおかげで『必要な投資』として説明できるはずだ」

 そう言いながらも、その表情にはほんのわずかな緊張が混じっていた。

 (十年計画の途中で、余計な横槍は入ってほしくないからね)

 敏貴は心の中でつぶやき、事務室へと急いだ。

     ◇

 午前の陽が高くなった頃、陽苑の広間に、見慣れない衣をまとった男が現れた。

 灰色の衣に、無駄のない所作。腰には算木の入った袋がぶら下がっている。年の頃は三十代の半ばだろうか。目つきは鋭いが、どこか疲れが滲んでいた。

 「王宮会計所より参りました、監査官の宗成と申します」

 深く一礼するその姿を、景衣が静かに受け止める。

 「后妃さまのご命により、陽苑の支出状況をご説明いたします。どうぞ、こちらへ」

 広間の一角には、簡素な卓と椅子が用意されていた。卓の上には、敏貴がまとめた帳簿が綺麗に積まれている。

 「こちらが、陽苑の事務を担当している敏貴です」

 「はじめまして。数字のほうは、できるだけ見やすく並べておきました」

 敏貴が静かに頭を下げる。宗成は頷き、帳簿を一冊手に取った。

 「噂は聞いております。後宮の中でも、陽苑は『工夫で支出を抑えている場所』だとか」

 「噂が先に歩くのは、料理だけでいいのですが」

 敏貴は苦笑し、宗成の向かいに座った。

 「とはいえ、王宮全体の支出は増える一方です。后妃さまにも、例外ではないことをご理解いただかねばなりません」

 宗成は淡々と言い、帳簿をめくり始めた。紙の擦れる音だけが広間に響く。

 外側では、晴矢とみう、奈津海、愛祈がそっと様子をうかがっていた。

 「なんだか、胃が痛くなる光景ですね」

 みうがささやくと、愛祈が腕を組んだままうなずく。

 「数字で詰められるのは、斬られるより怖いこともある」

 「物騒な比喩やめて」

 奈津海はそう言いつつも、視線を帳簿から離せなかった。

     ◇

 しばらくの沈黙の後、宗成が一冊の帳簿を閉じ、次の束に手を伸ばした。

 「菜園の維持費について、詳しい帳簿があると伺っていますが」

 「はい。この一年分をまとめたものが――」

 敏貴は、横に置いてあったはずの束に手を伸ばし、指先を空振りさせた。

 「……あれ?」

 そこにあるはずの帳簿が、一冊だけ見当たらない。菜園の維持費を細かく記録した、あの分厚い一冊が。

 「どうかしましたか」

 「いえ、その……ここに、もう一冊……」

 敏貴は、卓の上と足元を素早く見回した。宗成の眉がわずかに寄る。

 「まさか、帳簿を紛失なさったわけではないですよね」

 「昨夜の時点では、確かにここに」

 言いながら、自分で自分の言葉に真っ先に冷や汗が出る。敏貴は一度深呼吸し、景衣に視線を送った。

 「失礼ですが、少し時間をいただいても?」

 「……わかりました」

 景衣が頷く。宗成は腕を組み、卓の上に残っている帳簿をぱらぱらとめくった。

 「現時点で見える数字だけでも、菜園の維持費は他の部署に比べて高い印象を受けます。詳しい帳簿が出てこないとなると、余計に疑念が残りますね」

 「高いように見えるのは、保存食や土の入れ替えの費用を先に計上しているからです。長い目で見れば、支出はむしろ抑えられて――」

 「それを証明するための帳簿が、いま手元にない」

 宗成の言葉は冷静だったが、その冷静さがかえって広間の空気を固くする。

 「一度、陽苑全体の節約を検討させていただく必要があるかもしれません」

 その一言に、外で聞いていた四人の喉が同時に鳴った。

 (節約って、具体的に何を)

 晴矢は、菜園の端で育つ野菜たちの姿を思い浮かべる。土を休ませる期間を削れと言われたら、今の味は守れないかもしれない。

 (洗濯場だって、洗剤代を減らせと言われたら)

 奈津海は、洗い残しの匂いを想像して顔をしかめた。

 (数字ひとつで、せっかく広がり始めた陽苑の評判が変わってしまうかも)

 みうは、試食会での笑顔を思い出し、胸がきゅっとなった。

 そのとき、敏貴が卓から立ち上がった。

 「帳簿は必ず見つけます。少し時間をください」

 宗成は黙ってうなずいた。

 「昼までに見つからなければ、その前提で話を進めましょう」

     ◇

 帳簿探しは、陽苑全体を巻き込んだ小さな騒ぎになった。

 「厨房の棚は見た?」「見た。鍋の影にもない」「配膳室の戸棚は?」「器の間も全部確認しました」

 晴矢は菜園の小屋をひっくり返し、みうは配膳室の引き出しを一つ一つ開けていく。愛祈は廊下の見回りをしながら、人目につきにくい棚の上や柱の陰をのぞき込んだ。

 「まさか、廊下に落ちてはいないだろうが……」

 「こんな分厚いものが落ちてたら、さすがに気づきますよ」

 そんなやりとりをしながらも、誰も口に出さない不安がじわじわと広がる。

 (もし、本当に見つからなかったら)

 最悪の想像が、奈津海の頭の中でいつものように膨らんでいく。

 (菜園の予算が削られて、洗濯場の水も減らされて、陽苑の灯りだって少なくなって――)

 「奈津海」

 思考の渦を、呼びかける声が断ち切った。振り向くと、景衣が静かな目でこちらを見ている。

 「洗濯場の棚は、もう見た?」

 「今から見に行くところです」

 「お願い。陽苑の布や札を保管している場所にも、念のため目を通しておいて」

 「わかりました」

 奈津海は走り出した。洗濯場の棚、物置の箱、布団の隙間。どこを見ても、帳簿はない。

 (こんな大きなもの、そう簡単に隠れるはずないのに)

 最後にたどり着いたのは、自分の部屋だった。

 狭い部屋の中には、洗濯用の道具と、着替えの入った小さな箱、それに最近増えた一冊の帳面がある。「ありがとうの練習帳」。昨夜も、灯りを落とす前に一行だけ書き足したところだ。

 「まさかね」

 そうつぶやきながらも、奈津海は棚の上に積んである布をどかした。その瞬間、重いものが一冊、布の陰から滑り落ちる。

 「きゃっ」

 慌てて手を伸ばし、間一髪で受け止める。腕にずしりと重さが伝わった。

 「……うそでしょ」

 表紙には、見覚えのありすぎる字が並んでいた。

 『菜園維持費詳細 今年度分』

 奈津海は、その場にへたり込みそうになるのを必死でこらえた。

 (なんで、ここに……?)

 昨夜の記憶を必死でたどる。試食会の片付けを終えた後、洗濯場に戻って、王妃付きの衣の数を確認して。そのとき、敏貴が帳簿を抱えて通りかかった。

 『洗濯場の水道管の費用、ここに載ってるから、気になるなら見ておいていいよ』

 軽くそう言われて受け取ったのを、思い出した。

 (ああ、そうだ。あのあと部屋に戻って、少しだけ読んで……途中で眠って……)

 棚に置いたつもりの帳簿が、布の陰に落ちたのだろう。最悪の想像が、現実として姿を現した瞬間だった。

 「……やった」

 喉の奥から、情けない声が漏れる。

 (よりによって、こういう日に)

 心臓が早鐘を打つ。頭の中で「最悪」の文字が真っ赤に点滅し始める。

 (私のせいで、陽苑全体が節約を言い渡されたらどうするの)

 次の瞬間、別の声が胸の中で浮かび上がった。

 (『最悪を全部ひとりで抱えることが、誰かを守ることにはならない』)

 みうの笑顔と、「ありがとうの練習帳」に書いた言葉が思い出される。

 『王妃付きの衣を一緒に探してくれた人たちへ。あの時、ひとりで最悪を抱え込まなくて済んでよかった。ありがとう』

 「……今度も、同じだ」

 奈津海は、強く息を吐いた。帳簿を抱きしめるようにして立ち上がる。

 「逃げたくないなら、自分で持っていくしかないでしょ」

     ◇

 広間では、宗成が他の帳簿を読み終え、静かに茶を口に運んでいた。敏貴と景衣は、控えめな距離を保ったまま立っている。

 「菜園に関しては、やはり支出が――」

 「見つかりました!」

 勢いよく扉が開き、奈津海が飛び込んできた。息は上がり、頬は赤い。腕には、あの分厚い帳簿。

 「こら、走らない」

 景衣の叱責が飛ぶが、その声には安堵が混じっていた。

 「申し訳ありません。帳簿、私の部屋の棚の裏に落ちていました」

 奈津海は、宗成の前まで進み出て、深く頭を下げた。

 「昨夜、敏貴さんから『見てもいい』と言われて受け取り、そのまま自分の部屋で読み始めて……眠ってしまいました。そのときに落としたのだと思います」

 宗成の目が、静かに細くなる。

 「あなたは?」

 「陽苑の洗濯場を任されている奈津海と申します。……帳簿を勝手に持ち出したこと、そして今朝まで気づかなかったこと。すべて、私の責任です」

 広間の空気が、ぴんと張り詰める。敏貴が口を開きかけたが、奈津海がそれより早く続けた。

 「でも、どうしても知りたかったんです。洗濯場で使っている水と布と洗剤が、陽苑全体の中でどんな位置にあるのか。『最悪』を避けたいなら、数字から目を逸らしちゃいけないって、最近ようやく思えるようになったから」

 宗成は、じっと奈津海を見つめた。

 「最悪?」

 「はい。私はいつも、何かを任されるたびに、一番ひどい結果を先に想像してしまいます。衣が乾かずに王妃さまが風邪をひくとか、誰かが濡れた床で滑って怪我をするとか」

 奈津海は、自嘲気味に笑った。

 「だからこそ、数字で『ここまでは大丈夫』って、ちゃんと知っておきたかったんです。……言い訳にしか聞こえないかもしれませんが」

 宗成は、しばらく黙っていた。やがて、ため息ともつかない息をひとつ吐き、帳簿を受け取る。

 「帳簿を勝手に動かしたことは、褒められたものではありません」

 「はい」

 「しかし、その理由が『自分の仕事をきちんと知りたいから』というのなら、まったく理解できないわけでもない」

 宗成の言葉に、奈津海は思わず顔を上げた。

 「宮中には、自分の出した帳簿を自分で読んだことのない役人もいますからね」

 皮肉とも本音ともつかない一言に、敏貴の口元がわずかに緩む。

 「帳簿の保管方法は、今後改めたほうがよいでしょう。貸し出すときは記録を残すとか」

 「はい。徹底します」

 敏貴が真剣な顔でうなずいた。

 「では、改めて拝見しましょうか。菜園の維持費が、『高いだけ』なのか、『先を見据えた支出』なのか」

 宗成は帳簿を開き、指で行を追い始めた。土の入れ替えの費用。保存食の仕込みに必要な塩や壺。菜園と陽苑の間を行き来する荷車の修繕費。

 「……なるほど」

 数ページ読み進めたところで、宗成の表情が少しだけ柔らいだ。

 「単に贅沢をしているわけではないようですね。むしろ、王宮の他の台所にも見習ってほしい点がある」

 「そう言っていただけると、十年計画の紙も救われます」

 敏貴が、ほっとしたように笑った。

 「十年計画?」

 「陽苑と菜園の支出と収入を、十年先まで見通すための紙です。今日の支出が、十年後の安心にどう繋がるかを書き込んでいまして」

 「……興味深い」

 宗成は、初めて心からの興味をにじませた声を出した。

 「監査官としてではなく、ひとりの役人として。その紙も、あとで見せていただけますか」

 「喜んで」

     ◇

 監査が終わった頃には、広間の空気は朝よりずっと軽くなっていた。

 「陽苑の支出は、現状維持で構いません。ただし、帳簿の管理だけは、今後さらなる工夫をお願いします」

 宗成がそう告げると、景衣は深く一礼した。

 「ご指摘、肝に銘じます」

 廊下に出てきた宗成は、小さく伸びをした。そこへ、みうが湯呑を盆にのせて近づいてくる。

 「長いお時間、お疲れさまでした。菜園の香草を入れたお茶です」

 「ありがとうございます」

 宗成は湯呑を受け取り、一口含んだ。肩の力が少し抜ける。

 「……噂通りですね」

 「噂?」

 「陽苑のものは、身体も気持ちも軽くすると」

 宗成は、そう言ってわずかに笑った。

 「帳簿の数字ばかり見ていると、たまに忘れてしまうんです。数字の向こうに、こうして働いている人たちがいるということを」

 奈津海が、その言葉を聞いて小さく息を呑んだ。

 「……あの」

 「何でしょう」

 「先ほどは、失礼しました。私の不注意で、監査のお時間を無駄にしてしまって」

 奈津海が頭を下げると、宗成は首を振った。

 「時間は無駄ではありませんでしたよ。帳簿を探す間に、陽苑のあちこちを見て回れましたから」

 その目には、菜園の土、洗濯場の水、厨房の湯気が映っている。

 「数字は大事です。しかし、数字だけでは測れないものもある。……それを、改めて思い出せた気がします」

 そう言って、宗成は歩き出した。背筋は伸び、さっきまでよりも少しだけ軽い足取りだ。

     ◇

 夕方、洗濯場の隅で、奈津海は「ありがとうの練習帳」を開いていた。

 「きょうくらいは、二行書いてもいいか」

 そうつぶやきながら、筆を走らせる。

 『帳簿を貸してくれた敏貴さんへ。数字から目を逸らさない勇気を少しだけ分けてもらえた気がしました。ありがとう』
 『帳簿を探すのを手伝ってくれたみんなへ。最悪をひとりで抱えなくていいと、また教えてくれてありがとう』

 書き終えたとき、胸の奥に残っていたざらつきが、少しだけ丸くなっていた。

 顔を上げると、夕焼けに染まった布たちが風に揺れている。陽苑の屋根の向こうには、王宮の塔が見えた。

 (数字の向こうにも、私たちの一日がある)

 そんな当たり前のことを、ようやく自分の言葉として握れた気がする。

 その夜、事務室では、敏貴が十年計画の紙の隅に小さく書き足していた。

 『帳簿は、人を責めるためだけでなく、人を守るためにも使える』

 その一行は、誰にも見られることのないまま、静かに紙の上に残った。
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