冷凍庫の奥には“夢”がある〜中学生が『働く』で気づいた、見えない価値と未来のバトン〜

乾為天女

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第十六話:職業調べは「自分調べ」

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 冬休みが明けた1月初旬。1年A組に新しい課題が出された。
  それは、総合学習の一環としての──「職業調べレポート」。
「将来なりたい職業、または関心のある仕事について、自分で調べてレポートにまとめること。
  “仕事内容”“働く人の声”“必要なスキル”“やりがい”“課題点”──それぞれ明記するように」
 担任の説明に、教室中から一斉にうめき声が上がった。
「えー、またかよー!」「なんでまた“将来の夢”とか聞くの? わかんないし!」
 雅也も苦笑しながら頬をかいた。
  たしかに“夢”というには、現実の「おしごと」は泥くさくて、生々しいものばかりだった。
「なあ恵美、“書ける?”こういうの」
「うーん……私、“夢”って言われると困るタイプ。
  でも、“調べるうちに興味が出るかも”って思ってる」
「じゃあ、俺たちの経験、使えるかもしれないな。
  工場、清掃、ボランティア──どれも、世の中にある“ちゃんとした仕事”だったし」
 その言葉に、華がぽつりと加える。
「むしろ、“ああいう仕事”こそ、調べないと見えてこないかも。
  “有名な職業”より、“見えないけど必要なもの”を選んでみたら?」
 
  その日の放課後。雅也は、図書館の隅で「職業ガイドブック」を読みながら、あるページで手を止めた。
【産業廃棄物処理業】
 ──「街の裏側で、あたりまえを守る仕事」
(これ……まさに、俺が体験した“あの現場”だ)
 ページの片隅には、インタビュー記事が載っていた。
  「ごみを処理するって、終わりじゃなくて“次を始めること”。
  それを知ってる人間が、社会の土台を作ってるんです」



 雅也は、その記事を読んだまま、ノートにメモを走らせた。
 ──「ごみ処理」は、“あとの仕事”ではなく“次の仕事”を支えるもの。
  ──社会は“使った人”と“片づける人”の両方で成り立つ。
  ──“見えない仕事”があるから、“見える生活”がある。
「……これ、“未来の夢”って言ってもいいかもしれない」
 ぽつりと呟いたそのとき、優花が声をかけた。
「珍しいね。あんたが“将来”って言葉、肯定的に使うなんて」
「はは……まぁ、俺もちょっと変わってきたのかもな」
 
  そしてレポート提出日。
 教室の後ろに“自由発表コーナー”が設けられた。希望者が自分の職業調べを掲示し、コメントも添える。
 その中で、ひときわ目を引いたのが雅也のレポートだった。
【産業廃棄物処理業──街の静かなヒーロー】
──この仕事は、“見られないこと”が前提です。
 ──でも、“見えない誰か”の手があるから、僕たちは安心して毎日を過ごせる。
 ──目立たない、でも、誰にも欠かせない。そんな仕事が“誇り”だと思います。
「すごいね、“かっこいい仕事”だけじゃなくて、“かっこよく見えない仕事”も選べるのって」
 そう話しかけてきたのは、同じクラスの内気な男子だった。
「……俺、目立つの苦手だけど、誰かの役に立ちたいって思ってたから、
  “こういうのでもいいんだ”って思えた。ありがとう」
「うん、そっちこそ、ありがとう」
 雅也は照れくさそうに笑った。
 
  放課後、昇降口で待っていた恵美が一言。
「“職業調べ”って、自分調べだったのかもね」
「……あぁ。自分が“どんな誰かになりたいか”を探す作業だったんだな」
 二人の言葉が重なった瞬間、
  “おしごと”が、“未来の地図”に静かに書き込まれていく音がした。

(第十六話 了)

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